ニュース・ワーカー2

組織ジャーナリズムに身を置き40年余

再び「ジャーナリズムを担うのはだれか」

 明治学院社会学部での非常勤講師は今週末10日の授業で全14コマを終えます。前回(3日)と次回で「新しいジャーナリズムへ」と題して、新聞を中心にこれからのマスメディアとそこで働く記者のありようについて、さらにはマスメディアの専有ではない多様なジャーナリズムのありようについて、わたしなりに考えていることをまとめたいと思っています。
 前回の授業では新聞業界の現状を振り返りました。日本の新聞は産業としてみれば、発行部数の低迷・低下と広告媒体としての地位低下の一方で、インターネットを軸としたデジタル部門は収益モデルをなかなか見出せず、あまり明るい展望はありません。企業経営の側面から見れば、新聞社各社は生き残りをかけて電子部門の課金化などの新規策を打ち出していますが、一方では印刷部門での全国紙とブロック紙・地方紙との提携などの合理化策も目に付くようになっています。収益を確保しがたいのであれば支出も抑制するのは企業経営の発想としては当然のことでしょう。
 今後の展開でわたしが注目しているのは、新聞業界全体の潮流として、さらに合理化が大規模な人員削減に踏み込むかどうかです。米国のように新聞社がバタバタと倒れていくようなことはなかなか起こらないにしても、新聞社が収入規模に合わせて経営を縮小していくことは、これもまた企業経営の発想として当然のことです。朝日新聞社早期退職がネットでも話題になりましたが、日本でも新聞記者の失業や転職が相当の規模で起こりうるのではないか、ということです。
 以前のエントリーでも触れましたが、日本の新聞記者は、基本的には新聞社が自社で養成した記者職の会社員です。仮に失業や転職となったときに、新聞記者としてのキャリアを生かそうとしジャーナリズムを指向するなら、ここで「新聞記者は新聞社を離れてジャーナリスト足りえるか」という問題が顕在化します。これまでも新聞社を退社してフリーランスのジャーナリストに転じた人たちもいますが、ほとんどは基本的に個人の意思であり、また新聞社の社員の地位を離れてもジャーナリスト足りうるスキルを備えてもいたのだと思います。今後、起こりうる新聞記者の失業・転職はそのようなケースとは異なって、新聞業界の構造的な要因によるものです。新聞社が養成した新聞記者の持つスキルは、見方を変えれば新聞発行や新聞社の事業遂行に最適化されたスキルでしかありません。
※参考過去エントリー
 「新聞記者とジャーナリストの間」2010年6月28日
 http://d.hatena.ne.jp/news-worker/20100628/1277658345
 一方で、インターネットとソーシャルメディアの普及によってだれもが情報発信できる社会となり、既存のマスメディアとは異なった非営利やノン・ノンプロフェッショナルの立場からのジャーナリズム活動が登場しています。また、こうした社会環境の中でマスメディアとそこで働く企業内記者の取材と報道が可視化されるようにもなりました。もはや、ジャーナリズムは既存マスメディアの専有物ではありません。昨年の政権交代を機に浮上した記者会見の開放問題に関連するエントリーでも指摘しましたが、今問われつつあるのは「ジャーナリズムを担うのはだれか」なのだと思います。
※参考過去エントリー
 「『ジャーナリズムを担うのは誰か』〜Journalism6月号に寄稿しました」2010年6月11日
 http://d.hatena.ne.jp/news-worker/20100611/1276189471
 以上のような状況の中で、マスメディアで働くわたし自身が関心を持っているのは、マスメディアは自らの外にいるジャーナリズムの新しい担い手とどう連携していくのか、そのためにマスメディアの中で働く企業内記者はどんなスキルを身に付けなければならないのか、ということです。ジャーナリズムの担い手はノンプロフェッショナルの個人であるとNPOなどの非営利団体であるとを問いません。大学の研究グループなどによるジャーナリズム活動もあるでしょう。
 企業内記者のスキルを考えることは、新聞記者が新聞社を離れてジャーナリストとして働く際に必要なスキルを考えることにもかかわってくると思います。仮に大規模な人員削減が新聞業界の動かしがたい潮流になっていくのだとすれば、元新聞記者が生活を維持できる働き方をどうやって見出していくのかは、今後の大きな課題です。米国ではブログをベースにした非営利のジャーナリスト集団が登場し、その中の一つであるプロパブリカの調査報道がピュリツァー賞を受賞したことが話題になりました。プロのジャーナリストが生計を立てられるようなジャーナリズムのNPO化を可能にするには何が必要か、といった点にもわたし自身、関心が強まっています。
 前回の授業では、これまでの授業で話してきたことを踏まえて、学生たちに質問や感想などをメモで挙げてもらいました。それらも反映させて、最後の授業が締めくくりとしてうまく着地できるように、あと数日、準備を進めたいと思います。