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組織ジャーナリズムに身を置き40年余

君が代も定数削減も押し切った大阪維新の会〜橋下氏「新しい地方議会」

 前々回と前回のエントリーで触れた「大阪維新の会大阪府議団が議案提出したいわゆる「君が代起立条例」(大阪府の施設における国旗の掲揚及び教職員による国歌の斉唱に関する条例)は3日夜、府議会本会議で採決が行われ、単独過半数を占める維新の会などの賛成で可決、成立しました。府議会は続いて、これも維新の会が提案した府議定数を109から88に、一気に2221削減する条例改正案を4日未明に可決。維新の会側は公明、自民、民主、共産の既成政党各会派の反対を押し切り、3日までの議会会期を延長して採決に持ち込みました。
 大阪発行の新聞各紙は4日付朝刊と4日夕刊で、この府議会の動きを大きく報道しました。特に3日深夜以降の動きは、公明の議員が会期延長阻止のため議場入り口を封鎖しようとするなど混乱したことや、午前2時40分ごろからの採決では、公明、自民、民主の議員は欠席し、議場でも“空白”が目立ったことなどを各紙とも詳しく伝えています。
 君が代起立条例は、最高裁が起立斉唱の職務命令を「合憲」とする判断を示したばかりでもあり、条例の必要性には異論が絶えません。そもそも維新の会の統一地方選の公約にもありませんでした。府議定数削減をめぐっては、一票の格差が拡大するとの指摘もあります。毎日新聞によると、民主の府議会副議長は「維新の『数の横暴』に我慢できなかった」として議長に辞任を届け出ました。一方で、維新の会を率いる橋下徹大阪府知事は「形骸化していない議会の姿。これだけ激しくぶつかり合って一つの結論を出したのは新しい地方議会のスタートだ」と自賛したと伝えられています。
 4日付朝刊と4日夕刊の各紙の主な見出しを書き留めておきます。この府議会は、統一地方選で維新の会が単独過半数を獲得して初めての定例会でした。いきなりここまでの強硬姿勢を貫くとは、との正直な驚きが新聞各紙の見出しにもにじみ出ていると感じます。
他地域の方も、大阪のマスメディアの報道ぶりをいくらかなりとも感じ取ることができるのではないでしょうか。

▽4日付朝刊
【朝日】
1面:本記トップ4段「君が代起立条例 成立」「大阪府議会 全国初、教員に義務」
   解説「橋下氏、教育で政治主導狙う」
社会面「維新 押し切り可決」「知事『第一歩だ』自民『数の横暴』」
【毎日】
1面:本記トップ5段「君が代起立条例 成立」「全国初 教員に義務」
   解説「維新 内部議論すら不十分」
社会面「困惑する教育現場」「『当然』『行き過ぎ』街の声」
【読売】
1面:本記トップ4段「君が代起立条例 成立」「大阪府 教職員に義務化」
   解説「運用や処分 十分な議論を」
社会面「数の力 あっさり成立」「『教育改革総仕上げ』」
【産経】
1面:本記3段「国家起立条例が成立」「橋下知事『大きな転換点』」
社会面「現場教員賛否」「反対なら政治的な場で主張を/思想統制」「『先生が座ったまま…嫌な思い』」
【日経】
社会面:本記5段「維新、包囲網を突破」「君が代起立条例 成立」
    サイド「他会派、反発相次ぐ」
※参考
【京都】1面:本記4段▽社会面「学校が混乱する」「橋下知事は強気 戸惑う教員」
【神戸】1面:本記3段▽社会面「現場と擦れ違い鮮明」「『多数派の暴力』本会議場批判の声」「『兵庫は必要なし』県内反応」

▽4日夕刊
【朝日】
1面:本記トップ4段「定数21減 維新案成立」「大阪府議会 主要4会派欠席」
社会面「数の力『4年間怖い』」「維新VS他会派、深い溝」
【毎日】
1面:本記トップ5段「大阪府議『21』削減 可決」「維新 未明に強行採決
社会面「強行『不毛府議会』」「4会派、維新と亀裂」
【読売】
1面:本記トップ4段「大阪府議定数21減 成立」「88議席に 維新が強行採決
   解説「首長と一体化 議会形骸化の懸念」
社会面「審議ゼロ 未明の可決」「維新『先送りしない』」「既成政党『強権的だ』」
【産経】
1面:本記トップ4段「大阪府議『109』から『88』」「未明、定数削減条例を可決」
   サイド「維新『数の力』勢いと危うさ」
社会面「『結論ありき』『議決権放棄だ』」「4会派欠席 未明のドタバタ劇」
【日経】
1面:本記3段「大阪府議定数2割減 可決」
社会面「未明の議会、大荒れ」「維新、公自民欠席で採決」

 橋下知事は秋の大阪市長選に合わせて知事を辞職し、知事選とのダブル選挙に持ち込む可能性を公言しています。記者会見のほかツイッターなどでの発言を見ても、維新の会の強硬姿勢への批判に対しては、選挙で有権者の判断を仰げばいいという趣旨の発言を繰り返しています。確かに、わたしたちの社会のルールはそうなっています。そしてこの「数の論理」に裏打ちされた強硬姿勢は、橋下氏が自賛するように「新しさ」でもあるのでしょう。ではその新しい地方政治の状況を、マスメディアは社会にどう伝えるのか。大きな課題を突き付けられていると受け止めています。

※追記(2011年6月6日22時35分)
 憲法学者水島朝穂さん(早稲田大教授)がご自身のサイトの中の「今週の直言」で、「『君が代起立条例』と最高裁判決」と題して、東京都の元教員への君が代斉唱の職務命令を合憲とした5月30日の最高裁判決と、大阪の君が代起立条例とを取り上げています(6日アップ)。
http://www.asaho.com/jpn/coverright.html#chokugen
 かなり長い論考ですが、最高裁判決に付いている3人の裁判官の長大な補足意見をていねいに解説し、それとの比較で大阪の条例に考察を加えています。
 読みながら、弁護士でもある橋下氏の憲法観に、あらためて興味がわいてきました。