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「維新完敗」「初の敗北」の衝撃〜堺市長選の在阪各紙の報道

 大阪府堺市長選が9月29日に行われました。橋下徹大阪市長率いる大阪維新の会の新人候補、西林克敏氏と、反維新の各党が相乗りする形になった現職竹山修身氏の一騎打ちは、竹山氏19万8431票に対し西林氏14万569票で、竹山氏が大差と言っていい票差をつけて再選を果たしました。投票率は50・69%で、前回の43・93を上回りました。
 昨年12月の衆院選で躍進した日本維新の会がことしの参院選ではふるわず(それでも大阪選挙区は維新候補がトップ当選でしたが)、橋下氏の従軍慰安婦発言もあって退潮傾向が指摘されている中での、地元大阪での政令指定都市選として注目されていました。翌30日付朝刊では、大阪発行の全国紙各紙の中では朝日、毎日、読売、産経が1面トップで報じました。この4紙の見出しを3本ずつ並べてみます。維新の敗北をそろって主見出しにし、現職再選は脇見出しです。

朝日「堺市長選 維新敗北」「橋下氏 影響力に陰り」「竹山氏が再選 都構想に打撃」
毎日「堺市長選 維新敗れる」「反都構想 竹山氏再選」「橋下代表は辞任否定」
読売「大阪維新 初の敗北」「『都構想反来』堺市長再選」「竹山氏快勝」
産経「堺市長選 維新完敗」「『反都構想』竹山氏が再選」「橋下代表 辞任を否定」

 この4紙に加え、日経新聞、関西の有力な地方紙である京都新聞神戸新聞がこの選挙結果をどのように報じたか、主な記事の見出しを書き留めておきます。
 この数年、橋下氏と維新の会は大阪の選挙で向かうところ敵なしでした。また、選挙で示された高い支持が、橋下氏の強気の政治姿勢の最大の支えでした。それだけに、堺市長選の敗北の衝撃のは大きさは、新聞各紙の記事の見出しからもうかがえるのではないかと思います。橋下氏自身が堺入りして選挙戦の陣頭に立ち、また橋下氏と維新の最大の政策である「大阪都構想」が争点化していただけに、橋下氏と維新にとっては深刻な事態であることも各紙は指摘しています。
 各紙が敗因をそれぞれに分析する中で、出口調査の結果などから共通して指摘しているのは、無党派層を維新の候補が取り込めなかったことです。橋下氏と維新は、既成政党や行政を徹底的に批判して改革を訴えることで、橋下氏の個性的なキャラクターも相まって支持を広げてきました。それが通じなくなってきたようです。
 大阪の政治・行政の今後については、各紙とも大阪都構想は実現へのハードルが高くなったと伝えています。加えて個人的に注目しているのは、高い支持を背景に橋下氏が進めてきたもろもろの「改革」の手法の、強圧的とすら言えるような姿勢に変化が表れるのかどうかです。例えば橋下氏は、学校行事での国歌斉唱を規律して行うよう教職員に義務付けることを条例化しました。憲法違反との批判に対しては「内心の自由の問題ではなく、公務員の規律の問題だ」と主張。この条例制定は、自身の市長選の公約にもありませんでした。選挙で示された高い支持を背景にした、あたかも有権者から白紙委任を受けたかのような振る舞いだと、わたしは感じていました。堺市長選での敗北が、こうした橋下氏の強気の姿勢に変化をもたらすのかどうか、注視していこうと思います。
 なお、橋下氏は29日の記者会見に、朝日新聞の記者、カメラマンの出席を認めませんでした。維新の会の政策広告の掲載を朝日新聞社が拒否したためと、理由を説明したとのことです。朝日新聞の紙面では、橋下氏の記者会見の写真は時事通信のクレジット。記事も、記者会見での橋下氏の発言などは伝聞のスタイルでした。報道内容への不満から企業などが広告の出稿をやめるケースは過去にも例はあります。政治家や政党がやはり報道内容への不満からメディアの取材を拒否したこともありますが、今回のように広告の不掲載を理由にした取材拒否は前例が思いつかず、極めて珍しいのではないかと思います。メディアの報道の機能と広告媒体としての機能の関係をどう考えるべきか、今回の取材拒否は2つの機能を意図的に混同することにならないか。推移を注視しようと思います。

※9月30日付朝刊:朝日、毎日、読売、産経、日経は大阪本社発行の最終版紙面

【朝日】
1面トップ本記「堺市長選 維新敗北」「橋下氏 影響力に陰り」「竹山氏が再選 都構想に打撃」写真・記者会見(時事通信
1面「野党再編 主導権弱まる」
1面解説「目玉政策『夢』より中身を」
2面「維新 揺らぐ看板」「『選挙不敗』とぎれる」「後手に回った橋下氏」
2面「野党 再編へ ずれる思惑」「政権 連携 引き続き模索」
社会面トップ「反都構想 維新のむ」「西林氏、響いた出遅れ」
社会面「争点化裏目 市民に不安」=連載企画「神話崩壊」上
社会面「無党派層69%竹山氏に」「本社出口調査分析」
社会面「維新の会 本社取材を拒否」「一部の広告掲載見合わせ巡り」

【毎日】
1面トップ本記「堺市長選 維新敗れる」「反都構想 竹山氏再選」「橋下代表は辞任否定」写真・選挙事務所
1面「丁寧な説明と対話を」=社会部長・砂間裕之
2面「『原点』都構想にノー」「大阪府・市再編にも影」
3面「橋下維新 本拠で苦戦」「党勢失速 追い打ち」「自民幹部『維新は終わり』」
3面「無党派層へ浸透陰り 出口調査
社会面トップ「維新 遠のく民意」「橋下氏 攻め迷い」「『堺市民に大きな誤解』」
社会面「都構想に『×』『○』『?』 投票した市民」
社会面「市民冷静に判断」フリープロデューサー木村政雄氏の話/「問題解決難しく」大阪大大学院の北村亘教授の話
社会面「朝日新聞記者の会見出席を拒否 橋下代表」
第2社会面「『堺はひとつ』沸く」「竹山さん『都構想参加毛頭ない』」
社説「堺市長再選 橋下構想に厳しい審判」

【読売】
1面トップ本記「大阪維新 初の敗北」「『都構想反来』堺市長再選」「竹山氏快勝」写真・竹山氏の万歳
1面「ふわっとした民意 離れた」=連載企画「変調」上、写真・橋下氏会見
1面「橋下・松井氏は『続投』」
2面「地元も退潮 維新に衝撃」「野党再編 影響も」
2面「無党派7割 現職支持 出口調査
社会面トップ「維新不敗 崩れた」「橋下代表『自分の責任』」
社会面「経済安定 変革の期待薄らぐ」
社会面「安倍政権が転換点」川上和久・明治学院大教授
第2社会面「都構想 大ピンチ」「大阪市 区割り難航も」
第2社会面「『堺はひとつ』実る 竹山さん」
第2社会面「『都』のメリット伝わらず」(竹山さんに入れました)「行動力 期待した」(西林さんに入れました)
第2社会面「朝日新聞の取材 橋下代表が拒否 広告掲載中止され」

【産経】
1面トップ「堺市長選 維新完敗」「『反都構想』竹山氏が再選」「橋下代表 辞任を否定」写真・選挙事務所
1面「守勢に弱さ 常勝神話崩壊」
3面「維新の野党再編失速」「橋下氏 求心力低下は不可避」
3面「配慮裏目 首相、政権運営に影」
3面「無党派層6割 現職支持」「本社出口調査 維新離れ顕著」
社会面トップ「維新『堺で終わるのか』」「『開票0%』の屈辱」
社会面「橋下氏、朝日の取材拒否」

【日経】
1面「維新、大阪で敗北」「堺市長に竹山氏再選」写真なし
2面「橋下氏、求心力に陰り」「共同代表辞任は否定」
社会面トップ「都構想に『ノー』」「橋下氏『陣頭指揮誤った』」
社会面「竹山氏『堺を守った』」
社会面「大阪市住民投票に逆風も」/「都構想に有権者『分かりにくい』」
社会面「朝日の会見出席 橋下氏が拒否 政党広告不掲載に反発」

【京都】
1面準トップ「反『都構想』竹山氏 再選」「維新新人退ける」写真なし
1面解説「『橋下改革』に不信募る」
3面「維新の看板 はや色あせ」「結党3年半、清新さ失う」「無党派層離れ深刻」
3面「都構想協議 見直し必至」
3面「無党派の6割 竹山氏に投票」
社会面「橋下氏『辞めない』」「悔しさにじます」
社会面「朝日記者の会見出席拒否」

【神戸】
1面トップ「堺市長選 維新敗れる」「都構想反対の現職再選」「橋下代表 辞任は否定」写真・記者会見
1面解説「『改革』への不信反映」
2面「本丸の都構想 頓挫」「頼みの公明 距離置く」「『15年実現』困難に」
2面「無党派層が維新離れ」「橋下氏手腕は6割評価」(出口調査
2面「市長職に専念すべき 与党」「国政でも大きな打撃 野党」
社会面トップ「常勝大阪 面影なし」「橋下氏『責任感じる』」「代表進退『何で辞めないと』」
社会面「特定候補推薦に慎重」「兵庫総支部代表が疑問視」(神戸市長選)
社会面「朝日新聞取材 橋下氏が拒否 敗北会見」
第2社会面「『堺で始まり堺で終わる』」「雪辱の自民府連関係者」