世論調査の分析で、ネット上の興味深い論考が目に止まりました。日本テレビの世論調査の結果を対象に、内閣支持率、不支持率を巡って、支持の理由、不支持の理由の経緯をたどってみたところ、「安倍晋三首相の人柄が信頼できない」との回答が2017年を境に急増し、過去最高の水準に達しているとの内容です。
不支持の理由の選択肢に「首相の人柄が信頼できない」を挙げている調査はほかにもあります。わたしも試みに、NHKの世論調査結果で、詳細を閲覧できることし1月から7月の計7回の調査で、安倍内閣の支持率、不支持率、不支持の理由のうち「首相の人柄が信頼できない」を挙げた人の割合、不支持の理由で2番目に多い「政策に期待が持てない」を挙げた人の割合を一覧表にしてみました。次の通りです。単位は%です。
1月 | 2月 | 3月 | 4月 | 5月 | 6月 | 7月 | |
支持率 | 45.7 | 46.4 | 43.8 | 37.7 | 37.8 | 37.8 | 44.1 |
不支持率 | 37.0 | 34.3 | 38.1 | 44.5 | 43.5 | 43.5 | 38.8 |
人柄信頼できない | 38.7 | 35.0 | 40.2 | 45.5 | 47.1 | 54.0 | 50.8 |
政策に期待持てず | 32.0 | 34.3 | 33.3 | 25.8 | 24.9 | 19.8 | 22.6 |
不支持の理由の中で「人柄が信頼できない」が占める割合は、多少のでこぼこはあるものの増加傾向にあって6月、7月は過半数に達しています。2番目に多い「政策に期待が持てない」との差も、2月はほとんど変わりなかったのが6月、7月には倍以上に差が開きました。
続いて、不支持率とその理由に「人柄が信頼できない」を挙げた人の割合を掛け合わせてみました。調査の回答者のうち、どれぐらいの人が「安倍首相の人柄が信用できない」と明白に意思表示したかが分かります。以下の通りです。
1月 | 2月 | 3月 | 4月 | 5月 | 6月 | 7月 |
14.3 | 12.0 | 15.3 | 20.2 | 20.5 | 23.5 | 19.7 |
7月は少し割り込んだとはいえ、4月以降おおむね2割の人が、6月は4分の1近くの人が「安倍首相の人柄が信頼できない」と明白に意思表示しています。この数字は控え目なものと言うべきで、実際には、安倍内閣を支持している人であっても、例えば自民党の政権だから(公明党も参加している政権だから)支持しているのであって、安倍首相の人柄は信頼できないという人もいる可能性があります。
ここで思うのは安倍内閣の支持率の高さの理由です。「安倍1強」と言われる理由でもあるのですが、「ほかに代わりがいない」「ほかに適当な人がいない」ということがよく挙げられます。確かに、世論調査の中には内閣を支持する理由としてそうした選択肢を入れているケースがあり、回答に占める割合も高いので、ついそういう評価をしてしまいがちです。その選択肢を選ぶ人が多いこと自体は間違いではありませんが、問題もあります。マスメディアが調査結果を報じる時に、あまりに「ほかに代わりがいない」を強調すると、事実としてそうであると受け取られる恐れがあるということです。実は、このブログの以前の記事に関連して、ほかに適当な人がいないために支持率が落ちない、という見方をSNS上で書いたところ、社会調査に詳しい方から「『ほかにいない』のではなく『ほかにいないと思い込まされている』のです」とご指摘をいただき、それでわたし自身、問題点に気付いた次第です。
ほかに首相にふさわしい人がいないと考えている人が多いとしても、同時に、「安倍首相の人柄が信頼できない」と考えている人が増えている、ということもマスメディアが合わせて報じるとしたらどうでしょうか。日本の政治の先行きに、今とは少し違った風景が見え始めるかもしれないと思うのですが。