在京紙は野党4党の共通政策合意をどう報じていたか~自民党総裁選とに大きな差 衆院選報道振り返り③

 少し時間がたちましたが、衆院選でマスメディアがどのような報道を展開したか、振り返りの続きです。
 今回の衆院選は、「市民連合」(正式名称「安保法制の廃止と立憲主義の回復を求める市民連合」)を仲立ちに、立憲民主党、共産党、社民党、れいわ新選組の4党が共通政策に合意し、小選挙区での候補者一本化を進めたことに大きな意義があったとわたしは考えています。
 その共通政策は以下で見ることができます。
 https://shiminrengo.com/archives/4336

shiminrengo.com

  例えば、もっとも生活に密接だと思われる「3 格差と貧困を是正する」の項目では、以下の3点が並んでいます。

・最低賃金の引き上げや非正規雇用・フリーランスの処遇改善により、ワーキングプアをなくす。
・誰もが人間らしい生活を送れるよう、住宅、教育、医療、保育、介護について公的支援を拡充し、子育て世代や若者への社会的投資の充実を図る。
・所得、法人、資産の税制、および社会保険料負担を見直し、消費税減税を行い、富裕層の負担を強化するなど公平な税制を実現し、また低所得層や中間層への再分配を強化する。

 岸田文雄首相(自民党総裁)が「新しい資本主義」を掲げながら、その内実がよく分からないことに比べれば、相当程度、具体性を持った政策が並んでいると言っていいと思います。また、岸田首相が総裁選で「分配」を強調しながら、その後どんどん後退し、代わりに「成長」が前面に出てきて、安倍・菅政治のアベノミクスとの違いも定かではなくなってきていることと対比すれば、新自由主義からの転換の色彩も明確です。
 さらに「5 ジェンダー視点に基づいた自由で公平な社会の実現」の項では、おそらく自民党主導の政権では実現が見通せない選択的夫婦別姓制度やLGBT平等法を成立させることを掲げています。順番が前後しますが「1 憲法に基づく政治の回復」でも、以下の4点が列挙されており、岸田政権との違いは鮮明です。

・安保法制、特定秘密保護法、共謀罪法などの法律の違憲部分を廃止し、コロナ禍に乗じた憲法改悪に反対する。
・平和憲法の精神に基づき、総合的な安全保障の手段を追求し、アジアにおける平和の創出のためにあらゆる外交努力を行う。
・核兵器禁止条約の批准をめざし、まずは締約国会議へのオブザーバー参加に向け努力する。
・地元合意もなく、環境を破壊する沖縄辺野古での新基地建設を中止する。

 この共通政策には、これまでの安倍・菅政治の時代とはまったく異なる社会像が明確に描かれています。岸田政権がどのような社会を目指しているのか、よく分からないことだらけなのですが、少なくとも自民党の政権公約と比べても違いが明確な、大きな世界観を提示しています。政権交代のための政策面での対抗軸を、市民グループが仲立ちして野党4党がまとめることができたものと、わたしはとらえています。そして、小選挙区制度が本来は2大政党制の下で機能することが想定されていることを考えれば、自民党に対抗する大きな塊の政治勢力が、共通政策を結節点に形成されることには、大きな意義があると思います。
 では、この4党の共闘、共通政策の意義はどこまで日本の社会、有権者の間に知られていたのでしょうか。衆院選の期間を通じてマスメディアが行った世論調査でも、野党共闘を評価するかどうかの質問はあっても、野党共闘の内容、とりわけ小選挙区の候補者調整だけでなく、共通政策に合意していることや、その合意の内容を知っているかどうかなどの質問は見当たりませんでした。アプローチの一つとして、マスメディアのうち東京発行の新聞各紙が、この4党の共通政策合意をどのように報じたかを、あらためて振り返ってみます。
 市民連合と野党4党が共通政策に合意したのは9月8日でした。その翌日、9日付の朝刊紙面で各紙がこのニュースをどう扱ったか、掲載面と見出しの大きさ、主な見出しは以下の通りです。

・朝日新聞:3面(総合)3段「野党4党 共通政策に合意」/4面「野党候補一本化焦点に」・視点「『選挙互助会』にとどまるな」
・毎日新聞:5面(総合)3段「衆院選へ4野党が政策」
・読売新聞:4面(政治)3段「4野党 衆院選へ政策協定」
・日経新聞:4面(政治・外交)3段「野党4党、共通政策合意」
・産経新聞:4面(総合)3段「4野党 共通政策を締結」/「候補一本化急ぎ妥協」
・東京新聞:1面トップ・ヨコ1段「共通政策 自公と対立軸」

 1面トップの東京新聞以外は、よくて総合面、そうでなければ政治面です。一方でこの時期は、9月17日告示の自民党総裁選に向けて、岸田文雄氏ら各候補の出馬の動きが盛んに報じられていました。9月8日は高市早苗氏が出馬表明の記者会見を開いており、朝日、読売、日経、産経の4紙が1面で報じています。毎日新聞も2面に掲載しており、市民連合と野党4党の共通政策のニュースよりも重要度、優先度が高い扱いです。
 ちなみに、自民党総裁選について、9月8日付から告示日当日の17日付朝刊までの9日間の朝刊(13日付は休刊日のため発行なし)を対象に、関連記事を1面に掲載した回数を挙げると、以下の通りです。
 ・朝日新聞7回 うち1面トップ2回
 ・毎日新聞4回 うち1面トップ1回
 ・読売新聞9回 うち1面トップ2回
 ・日経新聞8回 1面トップゼロ
 ・産経新聞9回 うち1面トップ3回
 ・東京新聞1回 1面トップ1回

 つまり、連日、在京紙が自民党総裁選を大ニュースとして報じていたさなかに、野党4党の共通政策のことは、東京新聞以外は、新聞を1面から2、3回、ページをめくらなければ分からない場所にしか載っていなかったということです。朝日新聞は複数のページに渡ってサイド記事や解説も掲載していますが、他紙はあっさりした本記のみ。ふだんから政治面にも丹念に目を通している読者でなければ、目に止まっていない可能性があります。紙の新聞でこの程度の扱いですので、ネット上ではさらに露出が少なかったはずです。
 
 ※参考過去記事 https://news-worker.hatenablog.com/entry/2021/09/19/115830
「自民党劇場の人気投票」の伝え方と課題~有権者の政権選択を見据えた報道が必要

news-worker.hatenablog.com

 野党4党の選挙協力を巡っては、仮に立憲民主党が政権を握った場合に、連立にせよ閣外協力にせよ、共産党が政権運営に加わるのかどうかばかりに注目が集まった印象がありました。共産党が加わった政権でいいのかと、反共産党キャンペーンとしか言いようのない言説が、盛んに繰り広げられていました。自民党の甘利明幹事長はその代表例です。立憲民主党の支持母体とされる連合の会長までもが、共産党との共闘を激しく批判しました。あたかも、政権交代よりも立憲民主党が共産党と手を切ることを優先させているようにすら感じられました。印象論ですが、報道もまた、そうした言説はよく取り上げていたように感じます。
 紙の新聞は発行部数が急減し、購読者も高齢化して久しいのですが、それでも政治報道の分野では、例えば世論調査の内閣支持率などはまだまだ政治的指標としての有効性が高く、新聞の政治報道が直接的、間接的に社会に及ぼす影響は決して小さくはありません。仮に東京発行の新聞各紙が、野党4党が政策面で合意を形成したことと、その意義を、自民党総裁選と同等程度の大きさで継続して報じていたなら、4党の選挙協力の意味合いももっと社会に伝わっていたのではないかと感じます。
 衆院選では289の小選挙区のうち、野党4党が候補を一本化した選挙区は214ありました。うち自民党候補に勝った選挙区が62、敗北したものの惜敗率(自民党候補の得票との比率)が90%以上だった選挙区が33ありました。仮定の話ではあるのですが、野党4党の共通政策がもっと社会で認識されていたなら、この33の選挙区の結果も変わっていた可能性があるのではないでしょうか。
 各紙とも、野党4党の共通政策を意図的に、ことさらに小さく扱おうとしたわけではないのかもしれません。また、自民党の総裁選は実質的に次期首相を選ぶことであり、いきおい、大きな扱いになるのも無理はない面はあります。しかし、自民党総裁選に近接して衆院選が行われることは事前に分かっていました。有権者の投票の判断に資するための情報を提供するという意味では、東京新聞はともかくとして、在京紙各紙の報道が過不足なかったと言えるかどうか、わたしには疑問があります。