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25年前に日米が合意したのは「辺野古移設」ではなかった(沖縄タイムス社説)~岸田政権、松野官房長官も「唯一の解決策」強調 ※追記 「新基地見直し聞き流すな」(琉球新報社説)

 松野博一官房長官が11月6日、沖縄県で玉城デニー知事と会談しました。同県宜野湾市の米軍普天間飛行場の移設に伴う名護市辺野古の新基地建設について、玉城知事が「直ちに中断し、問題解決に向け国と県の協議の場を設けてほしい」と求めたのに対し、松野官房長官は「辺野古移設が唯一の解決策」と従来の政府方針を繰り返したとのことです。
 ※琉球新報「松野官房長官『辺野古移設が唯一の解決策』強調 玉城知事と初会談 軽石対策に支援へ」=2021年11月7日
 https://ryukyushimpo.jp/news/entry-1419754.html

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 岸田文雄政権発足から1カ月余り。衆院選で自公与党が大勝した後ということもあって、岸田政権としては辺野古新基地建設を推し進める方針を見直すつもりはないということでしょうか。松野官房長官は玉城知事との会談に先立ち、名護市の渡具知武豊市長、宜野湾市の松川正則市長らとも面談したほか、宜野湾市では普天間飛行場周辺の自治会長らと「車座集会」を開いたとのことです。岸田首相が自賛する「聞く力」を官房長官もアピールしたつもりなのかもしれません。
 しかし、辺野古の埋め立て予定海域には軟弱地盤があり、早期の完成は見込めません。そのような状況でほかの選択肢を探ることもないままで、「辺野古移設が唯一の解決策」としか言わないのは、住民の生命と安全に責任を負う政府として、あまりに無責任です。
 沖縄タイムスは7日付の社説で「そもそも25年前の1996年、日米両首脳が合意したのは『普天間飛行場の5~7年以内の全面返還』である。『辺野古移設』ではなかった」と指摘しています。目的は普天間飛行場の閉鎖と返還なのに、さながら今は辺野古移設が自己目的化しているかのようです。
 沖縄タイムスの社説はまた、辺野古の軟弱地盤改良のため、埋め立て工期が大幅に延び、普天間の返還は早くても2030年代半ばにずれ込むこと、計画自体が破たんしていることを挙げ、以下のように指摘しています。

 第2次安倍政権以降、辺野古問題を仕切ってきた菅義偉前首相と和泉洋人前首相補佐官が官邸を去った。この間、目立ったのは有無を言わさぬ強権的な手法である。
 岸田文雄首相は総裁選で「求められるのは、自分のやりたいことを強引に押し付ける政治ではない」と語っていた。松野氏も「対話による信頼を地元と築きたい」と話す。
 新しい首相と基地負担軽減担当相の下で国がなすべきは従来の姿勢の踏襲ではない。
 知事が要請したように、工事をいったん止め、話し合いの場を設け、打開の道を探ることである。

 ※沖縄タイムス「社説[知事・官房長官会談]協議の場設け打開策を」=2021年11月7日

https://www.okinawatimes.co.jp/articles/-/859431 

www.okinawatimes.co.jp

 普天間移設と辺野古新基地建設を巡る「今」を凝縮したような社説です。岸田首相がこのまま「辺野古移設が唯一の解決策」としか言わないようなら、沖縄の住民の自己決定権を認めようとしなかった、沖縄に一貫して差別的に対した安倍・菅政権と何も変わりません。わたしを含めて、その岸田政権を合法的に成立させ、衆院選で圧倒的な信任を与えた主権者が、沖縄に対する差別の責任を免れ得ないことも、安倍・菅政権の当時と変わりません。

【追記】2021年11月9日21時45分
 琉球新報も11月9日付の社説で、松野官房長官と玉城知事の会談を取り上げました。安倍・菅政権は沖縄の住民の自己決定権を認めないばかりか、沖縄社会の分断策を進めました。岸田政権も同じことを繰り返すのでしょうか。

 ※琉球新報「社説 知事・官房長官会談 新基地見直し聞き流すな」=2021年11月9日
 https://ryukyushimpo.jp/editorial/entry-1420526.html

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 岸田文雄首相は、自身の政治信条を「聞く力」であると強調してきた。ならば、協議の場を求める知事の声を「聞き入れる」のか「聞き流す」のか、岸田政権の本質が問われている。
 (中略)
 沖縄社会の分断は第2次安倍政権から顕著になっている。2013年12月、安倍政権は仲井真弘多知事(当時)から辺野古埋め立ての承認を得る際、沖縄関係予算について「毎年3千億円台確保する」と閣議決定した。辺野古新基地建設に反対する翁長県政が誕生した15年度以降は一転して予算の減額傾向が続く。県を通さず国が市町村や民間に直接交付できる特定事業推進費の創設も分断策の一つと懸念されている。
 今回の衆院選の小選挙区で新基地建設が進む3区は、建設容認の自民党候補が当選した。この結果をもって、建設が受け入れられたと判断するのは早計である。なぜなら今回の選挙で新基地建設の是非は最大の争点にならなかったからだ。
 これまでの選挙で新基地建設容認の自民党候補が落選すると、政権側は「選挙の争点は(基地問題)一つではない」と解釈し、新基地建設を強行してきた。あいまいさを払拭するため、19年に新基地建設の是非に絞って県民投票が実施された。投票者の7割が「反対」の明確な意思を示した。