ニュース・ワーカー2

組織ジャーナリズムに身を置き40年余

後世の歴史家の評価に耐えうる記事を~新人記者の皆さんへ(その5=完)

 新聞社や通信社の新人記者の皆さんに伝えたいことを、4回にわたって書いてきました。5回目の今回で、ひとまず区切りとします。

 ▽「ニュースは歴史の第一稿」
 「ニュースは歴史の第一稿」という言葉があります。 “a first rough draft of history”です。ワシントンポストのフィリップ・レスリー・グラハム社主が1963年4月、ロンドンで「ニューズウィーク」の特派員に行ったスピーチの中で用いて、知られるようになったとされます。
 ※ウイキペディア「フィル・グラハム」
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%95%E3%82%A3%E3%83%AB%E3%83%BB%E3%82%B0%E3%83%A9%E3%83%8F%E3%83%A0
 皆さんがこれから書いていく記事は、同時代の人たちに対しては、社会で何が起きているか、社会がどうなっているのかを知るための情報です。しかし、皆さんの記事が持つ役割はそれだけではありません。後世の歴史家にとっては、その時代の社会の実相を知ることができる貴重な史料になります。
 「後世の歴史家の評価に耐えうる記事を書く」。このことを忘れずにいてほしいと思います。

 ▽新聞は未来で読者が待っているメディア
 「ニュースは歴史の第一稿」に関連して、もう一つ。
 新聞の発行部数が減り続けているのは事実です。「習慣のメディア」と呼ばれることもあるように、新聞を購読していない家庭で育った人が、大人になれば新聞を購読するか、楽観はできません。率直に言って、発行部数が増加に転じることは期待できません。もはや新聞は、歴史的な使命を終えつつあるのでしょうか。
 わたしは、新聞には重要な役割が残っていると考えています。アーカイブ、歴史史料としての役割です。
 新聞社が毎日発行する紙面は、マイクロフィルムに収められ国会図書館に保存されています。印刷物、紙媒体であるから可能な保存方法です。仮に紙の新聞がなくなってしまったとしたら、デジタル空間に存在する膨大な情報の一部でしかないニュースコンテンツを、何十年たっても同じようにアーカイブとして活用することは可能でしょうか。どこかでだれかが、そうした技術の開発に取り組んでいるのかもしれませんが、著作権一つとってもさまざまな議論が必要になりそうです。
 今は、新聞社がデジタル展開でどう収益モデルを作るかが関心の中心で、その先のアーカイブ化のことまではほとんど話題にすらなっていないようです。しかし「ニュースは歴史の第一稿」です。デジタル空間の膨大な情報から、フェイクニュースを排除しつつ、ニュースコンテンツをどういう形で公共財として後世に残していくかは重要な課題だと思います。
 新聞が発行されている限り、紙面はそのまま後世への歴史史料として残ります。だから、新人記者の皆さんも、まずは新聞に掲載する記事をきちんと書けるようになってほしいと思います。デジタル向けの記事には、新聞とは異なった書き方のものもあります。そうした記事を手掛けるのは、新聞の記事の書き方に習熟した後でも遅くはありません。新聞は「未来で読者が待つメディア」でもあるのです。

 ▽新聞を支えるすべての人にリスペクトを
 記者が取材して書いた記事が新聞に載り、読者の手元に届くまでには、たくさんの人の手を経ています。
 記事はまず出稿部のデスクが点検します。OKが出ると記事は出稿部を離れて、紙面のレイアウトを決める整理部に渡ります。校閲の担当者が用字用語のほか事実関係に誤りがないかをチェック。紙面の担当者が記事を読み込み、一目で内容が分かるように、見出しを考えます。
 通信社の場合も、記事は出稿部デスク、整理部と複数のチェックを経て新聞社に配信されます。新聞社では、どの記事を使うかを決め、整理部が自社の記事と一緒に紙面に組んでいきます。
 新聞社は、新聞が読者の手に届く時間から逆算し、配送や印刷に必要な時間を考慮して、「降版時間」を決めています。その時間になると、整理部が組み上げた紙面の「版」は制作工程に降ろされます。よほどのことがない限り、もう記事の修正や差し替えはできません。印刷工場で印刷された新聞はトラックで販売店に運ばれ、購読者の元へ戸別に、一軒一軒配達されます。雨の日も雪の日も、一日として欠かせません。
 「○○新聞」という題号は、それぞれの新聞の信用のシンボルです。その信用は記者の取材や記事だけで成り立っているのではありません。販売や広告などの仕事も含めて、何十年もの間、新聞をつくり社会に送り届ける仕事を支えてきた多くの人の努力で、信用は培われてきました。同じ題号のもとで働くこれらの人たちへのリスペクトを忘れてはいけません。今後、どれだけ新聞のデジタル展開が進もうとも、そのことは変わりはありません。

※参考過去記事

news-worker.hatenablog.com

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