ニュース・ワーカー2

組織ジャーナリズムに身を置き40年余

一人の記者、一つの新聞社の問題と捉えると「報道統制の発想」が見えなくなる~参政党「記者会見」の発言封じの何が問題か

 臨時国会が8月1日に開会しました。7月の参院選で14人を当選させ、所属国会議員が18人になった参政党は同日午後に「記者会見」を開きました。わたしは動画で視聴しました。
 7月22日の会見を排除された神奈川新聞の石橋学記者はこの日は参加。しかし、石橋記者の選挙取材を巡って、神谷宗幣代表の主張の事実関係の誤りを石橋記者が質問し始めたところで、参政党スタッフが「ルール」を理由に質問を制止。事実関係をすり合わせ共有するという「前提」を欠いたまま、その後も神谷代表が、石橋記者の取材を「選挙妨害」とみなす主張を展開しました。
 実質的な「排除」と考えるほかありません。排除する側の言葉遣いは丁寧で、顔には笑みを浮かべていても、こうやれば特定の記者の質問や発言は封じ込むことができる、という実例を目にしました。
 このブログで既に触れてきたことですが、参政党の「憲法草案」には、国家による「報道統制」の志向が色濃くうかがえます。石橋記者に対する「排除」を、石橋記者個人ないしは神奈川新聞と参政党の間の個別の問題だととらえてしまうと、参政党の「報道統制の発想」が見えなくなります。報道界全体の問題、組織ジャーナリズムのありようの根幹にかかわる問題ととらえるべきです。
※7月22日の石橋記者の「排除」については以下の過去記事もご参照ください

news-worker.hatenablog.com

news-worker.hatenablog.com

※8月1日の会見の様子は以下の参政党の公式チャンネルの動画で視聴できます。神奈川新聞の石橋記者と神谷代表のやりとりは14分45秒あたりから19分30秒くらいまでです。
https://www.youtube.com/watch?v=dM0sJCLjh08

 参政党スタッフが「ルール」をたてに介入し、石橋記者に「1人1問」「ルールに従っていただかないと…お話を聞けないということになるんですが」と質問を遮ったことについては、前段の事情があります。神奈川新聞が7月31日に詳しく報じています。

▽「参政党、会見許可制を導入 記者選別に識者『公党としてあり得ない』」 ※有料記事

 https://www.kanaloco.jp/limited/node/1195226
www.kanaloco.jp

 極右政党の参政党が記者会見に事前登録制を導入し、党の承諾を得なければ出席できないようにしたことが31日、分かった。他の政党は導入しておらず、記者を事前に選別し、排除しようとする参政党の狙いが透けて見える。有識者は「有権者に対する説明責任がある公党としてあり得ない」と批判する。
 (中略)
 会見には党がお知らせを送った記者が参加できるとし、受け取っていない場合は党の公式ウェブの問い合わせページに連絡し、登録申請手続きをした上で、承諾を受けた記者のみ参加できるとした。
 また会見などでは▽主催者の指示に従う▽従わなかった場合や主催者が進行の妨げになると判断した場合は退室、退場してもらう-とのルールを設け、参加する記者は「承諾いただいた事とさせていただきます」と一方的に通告した。

 8月1日の会見では参政党側から、今後の広報対応として「メディア登録」の説明があり、登録への呼びかけがありました。登録して記者会見に出席する記者は、参政党側の判断次第で質問、発言を封じられ、退出もさせられる、ということになるのだろうと理解していますが、動画で見る限り、口頭でその説明はありませんでした。通知の文面に書いてある、ということなのでしょうか。
 また会見の最後では、神谷代表が参院選期間中に偏向報道の被害を受けたと主張しました。しかし、石橋記者の質問を遮ったように、個々の事実をすり合わせ、共有しようとの姿勢がないままでは、一方的な主張だと考えざるを得ません。

 石橋記者の取材活動と石橋記者に対する“発言封じ”のことに戻ると、参院選の神奈川選挙区で参政党がどのような選挙運動を展開していたかということを、事実として踏まえる必要があります。
 神奈川選挙区では、参政党の初鹿野裕樹候補(当選し現在は参院議員)が街頭で、事実に反した「外国人優遇」を口にし、抗議の市民のことは「非国民」と呼びました。SNSでは、南京大虐殺を否定する投稿もありました。神谷代表がアエラデジタルのインタビューで「ポンコツ」と呼んだ人物です。その神谷代表も選挙期間中には「『反日』の日本人と戦っている」と発言していました。参院議員である神谷代表は、国会議員として全国民を代表するはずの立場です。
※参考過去記事

news-worker.hatenablog.com

 7月22日の石橋記者に対する露骨な「排除」について、参政党は7月24日に見解を公表し、石橋記者について「7月20日に投開票された第27回参議院選挙の選挙期間中、『しばき隊』と呼ばれる団体と行動を共にし、本党の街頭演説で大声による誹謗中傷などの妨害行為に関与していたことが確認されています」と主張していました。これに対し神奈川新聞社は7月25日の抗議声明の中で「『しばき隊』という団体は存在せず、人々を『暴力的な集団』とみなして攻撃するための『ネットスラング』です。公党が市民に対して使うことに強い違和感を覚えます」と、事実誤認を指摘しています。
 参政党は8月1日の会見では、これらの事実関係、事実誤認への見解を示すどころか、一方的に決めた「ルール」を理由に事実誤認を問う質問さえ許さないまま、石橋記者の取材を「妨害行為」と批判しました。あまつさえ「報道倫理」をかざすことは、ごく控えめに考えても、フェアではありません。

www.kanaloco.jp

 7月22日に参政党が石橋記者を露骨に排除したことを巡っては、琉球新報や沖縄タイムス、東京新聞、朝日新聞、共同通信、TBSなどが報じました。新聞労連は抗議の特別決議を採択しています。
 ことは「報道の自由」ひいては「表現の自由」と「知る権利」の根本にかかわる問題です。参政党が国家による「報道統制」の志向を盛り込んだ「憲法草案」を公表していることは軽視できません。
 「沈黙」のまま8月を迎えた日本新聞協会も見解を示すべき時期ではないかと思います。戦前、戦時中の言論統制が何をもたらしたか。ことしは敗戦80年の節目です。その時期に、今まさに、新聞記者が不当な攻撃を受けています。
▽参考 日本新聞協会「記者等への不当な攻撃に対する声明」(2025年6月5日)
https://www.pressnet.or.jp/statement/report/250605_15903.html

www.pressnet.or.jp

 以下は8月1日の参政党の記者会見のもようを伝える神奈川新聞の記事。筆者は石橋学記者です。有料記事ですが、最後の部分を引用します。

 そして本音が口をついた。

 「ああいうことが続けば法律を作って規制をかけていかないといけないということにもなる」

 神谷氏のこの発言にファシズムの襲来をみて、慄然(りつぜん)とする。今こそ全力で言わねばならない。「偏っていますが、何か」

 参政党、記者排除を正当化 市民抗議の規制も言及 ファシズムの本質あらわ 時代の正体 極右政党に抗う | カナロコ by 神奈川新聞

 参政党の「憲法草案」には、「第四章 国まもり」の中に以下の条文があります。国家による「報道統制」の志向が明らかです。

(情報及び防諜)
第十六条 国は、海外情報も含め、広く国民に多様な情報を知らせる義務を負う。
2 報道機関は、偏ることなく、国の政策につき、公正に報道する義務を負う
3 報道及び情報通信に関わる業務は、国営または自国の資本で行わなければならない
4 国は、外国による諜報活動を防ぐ機関を設置し、必要な措置を講じる
5 公務員は、職務上知り得た情報を漏洩してはならない

「参政党、いいんじゃないか」と考えている人は、ぜひ、参政党の「憲法草案」と日本国憲法を読み比べてみてください。

▼日本国憲法 ※衆議院ホームページ
https://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_annai.nsf/html/statics/shiryo/dl-constitution.htm

▼参政党の「憲法草案」
https://sanseito.jp/new_japanese_constitution/