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組織ジャーナリズムに身を置き40年余

「戦後80年の夏のメッセージ」若い世代の皆さんへ~歴史の教訓を学び、生かすのは今を生きる者の務め

 昨年に続き、今年も4月から7月まで成城大学で非常勤講師を務めました。担当したのは文芸学部マスコミ学科の「マスコミ特殊講義」。主眼は文章の書き方、「文章作法」です。通年ではなく前期のみですので、実質的には3カ月間の指導でしたが、昨年同様、文章力がぐんと伸びた履修生がいて、充足感とともに全授業を終えることができました。
 成城大学の前にも2年間、東京近郊の別の大学で「文章作法」の講師を担当していました。昨年の今ごろは、成城大学での1年目の授業を終えて以下のようなことを書いていました。
※参考過去記事

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 今、計4年間の経験を通じて実感しているのは「『教える』は『学ぶ』に通じる」ということです。自分で文章を書くことと、他の人に文章の書き方を伝えることとは、まったく異なります。今年、学生たちとのやり取りを通じて、「伝わる文章」「分かりやすい文章」を書く要諦として、わたし自身が改めて気付いたことがいくつかあります。
 一つは「自分の『当たり前』は、他の人もそうだとは限らない」。独りよがりの文章表現では、伝えたいことが伝わらない、ということです。
 もう一つは「自分の『軸』を持つ」。社会性を持った文章を書こうとするなら、社会で何が起きているかを知ることはもちろん、その出来事を自分はどうとらえるか、自身の考えを表現しなければなりません。そのために、まずは自分で調べる、そして自分で考える。だれかの受け売りではない、自分の「軸」を持とう、ということです。
 必ずしも独創的な考えである必要はありません。一つの出来事に対して、社会にはどんな意見があるのかを調べ、その中で自分はどの意見に近いか、共感するかを突き詰めて考えてみる。それも「軸」を持つということだと思います。

 今期の最後の授業では、「戦後80年の夏のメッセージ」と題して、授業の「総括」を話しました。ことしは1945年8月に日本が無条件降伏を受け入れ、第二次世界大戦が終結して80年です。8月は関連の報道も増えます。あの戦争に対する自分の「軸」を持つことは、社会の一員としてどう社会と向き合うかにつながります。
 推奨したことの一つは、今も残る「戦争の現場」に立ってみよう、ということです。東京都内や近郊にも、今に戦争の痕跡を残す場所はいくつもあります。足を運び、そこに立ってみて何を思うか、ぜひ自分で確かめてほしいと話しました。
※わたしが訪ねた「戦争の現場」は、このブログのカテゴリー「戦争史跡」をご参照ください

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 この夏にぜひ読んでほしい本も紹介しました。第二次大戦の戦没学徒兵の遺稿集「きけわだつみのこえ」(岩波文庫版)です。
 大戦末期、日本軍は航空機や潜航艇で自爆する特攻作戦を繰り返しました。最初の出撃を命じたとされる海軍の大西瀧治郎中将自身が「統帥の外道」、つまり、まともな作戦ではないことを認めていました。生還を期すことができない作戦を取るしかないのなら、一刻も早く停戦、講和に動くべきでした。
 特攻の戦死者には、勉学を断念させられて出征した学徒兵が数多く含まれています。中でも慶応大経済学部出身の上原良司が出撃前夜に書いた「所感」は、今を生きる若い世代にぜひ知ってほしい、読んでほしいと思い紹介しました。
 上原は、イタリアでムッソリーニのファシズムに反対した歴史哲学者ベネデット・クローチェに熱中していたとされます。「所感」ではクローチェに触れながら、「自由の勝利は明白な事」「権力主義の国家は一時的に隆盛であろうとも必ずや最後には敗れる事は明白な事実」として、イタリア、ドイツの敗北を挙げ、以下のように記しています。

 真理の普遍さは今、現実によって証明されつつ、過去において歴史が示したごとく、未来永久に自由の偉大さを証明して行くと思われます。自己の信念の正しかった事、この事はあるいは祖国にとって恐るべき事であるかも知れませんが吾人にとっては嬉しい限りです。

 特攻隊のパイロットは一器械に過ぎない、との友人の言葉を紹介しながらつづられた以下の言葉は、まさに「遺言」です。

 一器械である吾人は何もいう権利もありませんが、ただ願わくば愛する日本を偉大ならしめられん事を、国民の方々にお願いするのみです。

 そして、結び近くによく知られた一節があります。

 明日は自由主義者が一人この世から去って行きます。彼の後姿は淋しいですが、心中満足で一杯です。

 自由にものを言うことができなかったあの当時に、最後まで理性と知性と合理的思考を失わず、思うところを率直につづった内容に、今も読むたびに胸が詰まり、涙を抑えられません。授業で声に出して読み上げることは到底無理だと思い、スライドを用意しました。学生たちは真剣に読んでくれました。

 もう1冊、水木しげるさんの漫画「総員玉砕せよ」も紹介しました。「実話を超える真実」との評があります。 

 戦争を直接知る世代が少なくなり、戦争体験の風化と、それに伴う課題として「継承」の必要性が指摘されるようになっています。そんな中で、戦前回帰を志向する政治勢力が支持を増し、7月の参院選では、歴史上の事実を公然と否定する言説が街頭で声高に叫ばれました。特攻隊を美化したポスターには「次は私たちの番だ」と勇ましい文言が踊ります。
 戦争そのものを追体験することはできません。しかし、戦争の「歴史の現場」に足を運ぶ、残されたものを読む、そして想像力を働かせることは可能です。
 歴史と虚心に向き合い、今を生きる者の務めとして教訓を学び取り、生かしていってほしい-。先行世代の一人として、これからの社会を担う若い世代へ託す思いを込め、最後の授業を終えました。

※参考過去記事

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