ニュース・ワーカー2

組織ジャーナリズムに身を置き40年余

国葬「国論を二分」の表現は「印象操作」のおそれ

 いつも参考にしているツイッター・アカウントの「三春充希(はる)⭐未来社会プロジェクト」さん(@miraisyakai)が、安倍元首相の国葬について、世論調査の集計をもとに「国論二分といえたのは7月中の一時期だけで、その後、世論は一方的に反対へと傾いていった」と指摘しています。
 https://twitter.com/miraisyakai/status/1572153593259786241

 なるほど、と思って、手元でまとめているマスメディア各社の世論調査の推移を改めて眺めてみました。新たに気づいた点は以下の通りです。

  • 国葬に肯定的な意見が過半数に達していたのは、7月の産経新聞・FNNの調査ただ1回きり。「よかった」「どちらかといえばよかった」が計50.1%。9月の調査では「賛成」25%(時事通信)、「賛成」27%(毎日新聞・社会調査センター)など、3割を切る結果も。
  • 過半数に達しないまでも肯定的評価が否定的評価を上回っていた、との観点で見ても、7月のNHK調査(「評価する」49%、「評価しない」38%)、8月の読売新聞調査(「評価する」49%、「評価しない」46%)の2回しかない。

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 マスメディアの報道では「国論二分」という表現は避けるべきでしょう。報道に接した人が、実態以上に肯定的評価が多いと受け止めてしまう可能性があります。いわゆる「印象操作」のおそれがあります。

増え続ける「国葬反対」、下がり続ける岸田内閣支持率~自民党支持率も下落

 この週末、9月17、18両日に実施された世論調査の結果が報じられています。岸田文雄内閣の支持率は下落し続け、毎日新聞・社会調査研究センターの調査(以下「毎日新聞調査」)では29%と3割を割り込みました。共同通信の調査では40.2%ですが、8月の前回調査から13.9ポイントも急落。不支持と逆転しました。日経新聞・テレビ東京の調査(以下「日経新聞調査」)でも43%と、8月調査から14ポイント低下です。不支持は49%です。
 安倍晋三元首相の国葬に対しては、共同通信調査、毎日新聞調査、日経新聞調査では否定的な回答が6割に上っています。対して肯定的な回答は共同通信調査では4割弱。毎日新聞調査では3割を切りました。1週間後に国葬当日を控え、「反対多数」から「反対が圧倒」へと、さらに民意は変わりつつあるように感じます。
 旧統一教会と自民党との関係についても、各調査とも軒並み、自民党の対応に厳しい評価が出ています。
 岸田内閣への支持が下がり続けている要因は国葬の強行とその理由の説明不足、旧統一教会と自民党との関係にあることは明らかです。しかし岸田首相は信頼回復に必要な手を打たないまま、さらに下がり続ける、という光景が続いています。内閣支持率はどこまで下がるのでしょうか。信を失った政権が、極端な軍事費増、原発の新増設・建て替えなど、民意を二分するような政策を強行することは極めて危険だと感じます。
 調査によっては、自民党の支持率にも変化が見られます。日経新聞調査では、8月調査の46%から9ポイント下がり37%、毎日新聞調査では8月調査の29%から6ポイント下がり23%でした。現在の自民党で、ただちに次の総理総裁に交代する可能性はありません。仮説ですが、岸田政権への不信にとどまらず、安倍政権以来の自民党政治に疑問を持ち始めている人たちが増えているのかもしれません。かと言って、野党が政権交代の受け皿足りうる状況でもありません。支持政党がない「無党派層」が増えることになります。そうなると、無党派層にアピールすることを狙った極論が横行することになるのではないか。そんな危惧も感じ始めています。

 以下に、この週末に実施された世論調査のうち、目にとまったものから一部の項目を書きとめておきます。
▼共同通信
 ・内閣支持率
  「支持」 40.2%(前回調査比13.9ポイント減)
  「不支持」46.5%
 ・安倍元首相の国葬
  「賛成」「どちらかといえば賛成」計38.5%
  「反対」「どちらかといえば反対」計60.8%
 ・旧統一教会との関係に対する自民党の対応
  「十分だ」   16.1%
  「十分ではない」80.1%

▼毎日新聞・社会調査研究センター
 ・内閣支持率
  「支持」 29%(前回調査比7ポイント減)
  「不支持」64%(同10ポイント増)
 ・安倍元首相の国葬
  「賛成」27%(前回調査比3ポイント減)
  「反対」62%(前回調査比9ポイント増)
 ・旧統一教会との関係に対する自民党の調査
  「十分だ」 14%
  「不十分だ」76%

▼日経新聞・テレビ東京
 ・内閣支持率
  「支持」 43%(前回調査比14ポイント減)
  「不支持」49%
 ・安倍元首相の国葬
  「反対」60%

▼ANN=テレビ朝日系列
 ・内閣支持率
  「支持」 36.3%
  「不支持」40.9%
 ・安倍元首相の国葬
  「賛成」30%
  「反対」54%

※「安倍元首相『国葬』世論の推移」を更新しました。7月以降の世論調査で賛否がどう推移したかの記録です。 

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【追記】2022年9月19日14時20分

 産経新聞・FNNの世論調査(17、18日実施)の結果も報じられました。やはり岸田内閣の支持は不支持と逆転です。安倍元首相の国葬は、おおむね「反対」が「賛成」の倍です。

▼産経新聞・FNN=フジテレビ系列
 ・内閣支持率
  「支持」 42.3%(前回調査比12.0ポイント減)
  「不支持」50.0%(前回調査比9.7ポイント増)
 ・安倍元首相の国葬
  「賛成」31.5%
  「反対」62.3%

日本政府に重なるキャラウェイ「沖縄の自治は神話」発言~玉城知事大差で再選の意味 ※改題しました

 沖縄の日本復帰から50年のことし、沖縄県知事選の投開票が9月11日に行われ、玉城デニー氏が再選されました。この選挙結果が持つ意味は、玉城氏が訴えた米軍普天間飛行場の辺野古移設反対が、今も変わらない沖縄の民意として示されたことにとどまらないと感じます。辺野古移設に協力的かどうかで、国の予算配分を恣意的に操作するような日本政府に対する異議の申し立てです。思い起こすのは、米統治下の1963年3月、沖縄の最高権力者だったキャラウェイ高等弁務官が、自治権拡大の要求が高まっている中で言い放った「沖縄の自治は神話である」との言葉です。復帰から50年たって、今は口にせずとも日本政府が同じ姿勢で沖縄に臨んでいるかのような状況は、本土に住む主権者の一人として申し訳ない気持ちであり、恥ずかしい限りです。
 選挙から早くも1週間が過ぎましたが、記録の意味も兼ねて、思うところを書きとめておきます。

 選挙は立憲民主、共産などが推す現職の玉城氏と、自民、公明が推す前宜野湾市長の佐喜真淳氏、元衆院議員の下地幹郎氏の3人の争いでした。投票率は57.92%。得票は玉城氏33万9767票、佐喜真氏27万4844票、下地氏5万3677票。佐喜真氏と下地氏の得票を合わせても玉城氏に届かず、大差と言っていい結果でした。
 普天間飛行場の名護市・辺野古への移設を巡って、玉城氏は「反対」を前面に掲げたのに対し、佐喜真氏は「容認」を明言していました。だから、辺野古移設と辺野古への新基地建設の是非は、この知事選で明確な争点でした。そして玉城氏の勝利によって、沖縄県民の「反対」の民意が明らかになったと言うべきです。新基地建設を強行する第2次安倍政権以降、知事選で「移設反対」の民意が示されたのは、故翁長雄志氏が初当選した2014年選挙から3回連続になります。辺野古移設の是非に絞った2019年の県民投票でも「反対」は7割に上っており、沖縄県民の意思は一貫してゆるぎがない、と言うべきでしょう。
 敗れた佐喜真氏は辺野古移設容認とともに、日本政府との協調を掲げていました。コロナ禍もあって社会が疲弊している中で、地元の経済を最優先に考えるなら、日本政府が厳しい姿勢で臨んでくることが明らかな玉城氏ではなく、佐喜真氏を選ぶことも可能だったはずです。それでも沖縄の民意は玉城氏を選択しました。
 この選挙結果について、地元紙の沖縄タイムスは3回に渡って社説で取り上げています。単に、辺野古移設、辺野古への新基地建設への反対にとどまらず、沖縄の民意を日本政府が一向に尊重しようとせず、国の沖縄関係予算を恣意的に操作し、いつまでもアメとムチで接し続けようとしていることへの異議の意思表示でもあることが分かります。
 それぞれの社説の一部を引用します。

【沖縄タイムス社説】
①9月12日付「[県知事に玉城氏再選]辺野古見直し協議せよ」
 https://www.okinawatimes.co.jp/articles/-/1022884

 在任中に急逝した翁長雄志氏も今回の3候補も、実は県内の分断が進むことを懸念し、対立の政治を終わらせたいと望んだ。
 選挙戦で明らかになったのは、政府の強引な政策とかたくなな姿勢が沖縄内部に分断を持ち込んだという事実だ。
 国の沖縄関係予算は、翁長・玉城両氏に対する自民党の感情を反映し、露骨に操作され、来年度の概算要求も選挙を意識して減額された。
 下地氏が「国の予算に頼らず沖縄は自らの魅力で元気になる」と訴えたことが新鮮に響き、佐喜真氏の主張する政府とのパイプ論が古くさく感じられたのは確かだ。

②9月13日付「[復帰50年の知事選]政府不信が浮き彫りに」
 https://www.okinawatimes.co.jp/articles/-/1023454

 共同通信社の出口調査では、投票で重視した政策は「経済の活性化」が最も多く「基地問題」を上回った。その中で玉城氏の再選が支持された現実は重い。
 新基地建設問題が浮上して以来、振興予算での揺さぶりは露骨になった。来年度予算の概算要求で沖縄関係予算は、前年度から200億円減額された。新基地建設に反対する玉城県政へのけん制であることは間違いない。
 今年3~4月、県内の有権者に実施した世論調査でも、政府の姿勢を冷ややかに見る県民の姿が浮き彫りになった。
 基地受け入れに協力するかどうかで自治体に交付金を出すか、出さないかを決める国の手法を「適切でない」と回答した人は半数を超えた。
 米軍基地問題で、国が沖縄の意見をどの程度聞いていると思うかとの質問には「聞いていない」と「あまり」「まったく」を合わせて74%が疑問視している。
 今回の知事選の結果は、こうした政府対応への県民の不満の表れと見るべきだ。

③9月15日付「[知事選後の沖縄施策]負担軽減へ本気度示せ」
 https://www.okinawatimes.co.jp/articles/-/1024762

 政府によくよく考えてもらいたいのは知事選で示された「民意の重さ」である。
 再選を果たした玉城デニー知事の支持層に1期目のような高揚感はない。辺野古の新基地建設を巡って、これからも政府と県の対立が続くとみているからだ。
 これからもいばらの道が続くと知りながら、多くの県民が玉城知事に票を投じ大差で当選させた、その意味は重い。
 (中略)
 戦争を体験した自民党重鎮の中には、山中氏(注:山中貞則氏)に限らず、贖罪(しょくざい)意識から沖縄の「苦難の歴史」に向き合う姿勢が見られた。
 政治家の世代交代が進み、その間に沖縄の格差是正が進んだこともあって、自民党の中に「沖縄を甘やかすな」との声が出始めた。
 「安倍・菅政権」の時に新基地建設問題を巡る国と県の対立が浮上し、一括交付金の減額など基地と振興をリンクさせた沖縄施策が公然と打ち出されるようになった。
 会談で玉城知事は2023年度の沖縄関係予算を巡り、一括交付金の増額などを要望した。これに政府がどう対応するか注視したい。

 自民党の中にある「沖縄を甘やかすな」との声。その声を許している責任は、突き詰めて言えば日本本土に住む日本国の主権者にあります。本土のマスメディアにも少なからず当事者性があります。長く全国メディアの一角で組織ジャーナリズムを仕事にしてきた一人として、そのことにあらためて恥じ入るばかりです。
 知事選の結果に対しては、琉球新報も12日付の社説で取り上げています。辺野古移設に反対の民意が確認されたことを指摘したうえで、やはり、国の沖縄関係予算のありように触れています。

【琉球新報社説】
※9月12日付「玉城氏が知事再選 『辺野古』断念が民意だ」
 https://ryukyushimpo.jp/editorial/entry-1581977.html

 今回は、沖縄振興特別措置法や、県が使途を決められる一括交付金など現行の沖縄振興策の是非に加え、国への予算計上を内閣府が一本化する一括計上方式の在り方も争点となった。
 玉城氏は沖縄振興について現行制度の維持を求めた。一括交付金は「『不利性』解消、振興推進で有効に機能した」と評価し「『不利性』の解消は不十分」として継続を求めた。一括計上方式も「ビジョン計画の各種施策を総合的・計画的に推進するための制度」として必要性を強調した。
 しかし、50年前に定めた沖縄振興の枠組みを、今後も踏襲することで、沖縄は自立できるのだろうか。あらかじめ基地問題の解決を排除した沖縄振興計画、他県と異なる一括計上方式による県の予算編成が、自立の気構えと県の政策立案能力を弱体化させたのではないか。
 今回の知事選で、国に頼らず県自ら独自の制度を立案・実施するなど裁量拡大を重視する主張があったことに注目したい。玉城氏は沖縄の真の自立に向けた県政運営を目指してほしい。
 とりわけ経済政策は重要だ。コロナの収束後を見据え、沖縄観光の再生や企業の「稼ぐ力」を強化する取り組みを進めてもらいたい。

 今回の知事選の結果を、本土メディアのうち新聞各紙は9月12日夕刊と13日付朝刊で報じました。11日が休刊日に当たっており、12日付の朝刊は発行がありませんでした。

 東京発行の6紙(朝日、毎日、読売、日経、産経、東京)の報じぶりを13日付朝刊で比較すると、朝日、毎日、東京は1面トップだったのに対し、読売、産経はともに1面の3番手辺りの扱いでした。ニュースバリューの判断がはっきりと分かれました(日経は2面でした)。このニュースバリューの判断の違いは、そのまま「日本政府と沖縄の民意」の関係をどうとらえるかの違いでもあるように感じます。各紙の本記と社説の見出しを書きとめておきます。

■本記
・朝日新聞「辺野古反対 玉城氏再選/沖縄知事選」
・毎日新聞「沖縄知事 玉城氏再選/辺野古『反対』3連勝」
・読売新聞「辺野古反対 玉城氏再選/沖縄知事選 政府は早期移設方針」
・日経新聞「政府の安保戦略に影響/『移設反対』台湾有事の備え懸念/沖縄知事に玉城氏再選」
・産経新聞「沖縄知事 玉城氏再選/辺野古反対、自公系破る」
・東京新聞「辺野古ノー 民意鮮明/沖縄知事に玉城氏再選/容認明言の佐喜真氏破る/政府『唯一の解決策』変えず」

■社説 ※各紙サイトの無料域で読めます
・朝日新聞「沖縄県知事選 県民の意思は明らかだ」
  https://digital.asahi.com/articles/DA3S15414044.html
・毎日新聞「玉城沖縄知事が再選 国は『アメとムチ』脱却を」
  https://mainichi.jp/articles/20220913/ddm/005/070/091000c
・読売新聞「沖縄県知事再選 不毛な対立を国と続けるのか」
  https://www.yomiuri.co.jp/editorial/20220912-OYT1T50229/
・日経新聞「安保論議へ沖縄の民意は重い」
  https://www.nikkei.com/article/DGXZQODK126120S2A910C2000000/
・産経新聞「沖縄知事の再選 国と協力して県政運営を」
  https://www.sankei.com/article/20220913-XX3XMBSG3NLGNOPPNCERXWSVQE/
・東京新聞(中日新聞)「辺野古『反対』 民意と誠実に向き合え」
  https://www.tokyo-np.co.jp/article/201781

 選挙結果の意味をどうとらえているか、違いは社説に顕著です。
 目を引くのは読売新聞の「不毛な対立を国と続けるのか」の見出しです。地方選挙の結果に対する論評の見出しとして、私の目には極めて異様、奇異に映ります。
 一部を引用します。

 移設計画は依然、迷走が続いている。2018年末に始まった沿岸部の埋め立て工事で、これまでに予定海域の約3割が陸地化されたが、改良が必要な軟弱地盤の区域は手つかずのままだ。
 防衛省は20年、軟弱地盤の改良工事のため設計変更を県に申請したが、玉城氏は不承認とした。県の判断を覆す国土交通相の指示に対し、県が提訴し、またしても法廷闘争となっている。
 住宅や学校に囲まれた普天間飛行場は、「世界で最も危険な米軍基地」とまで言われている。
 玉城氏は、どう普天間の危険性を除去するつもりなのか、現実的な打開策を示すべきだ。

 普天間飛行場の移設が進まないのは、玉城知事のせいだと言わんばかりと感じます。しかも、普天間飛行場の危険性除去の方策を示すように玉城氏に求めていますが、それは日本政府の責任を沖縄の民意に転嫁するかのような論法です。
 さらに読売社説は以下のように続きます。

 沖縄振興予算は、13年の政府と県の約束の期限が切れ、今年度は3000億円を下回った。県経済界からは失望の声が上がっている。県民所得は全国最低水準から抜け出せていない。コロナ禍で観光産業が受けた打撃も大きい。
 県政を率いる立場にありながら、移設問題に固執するだけでは、住民生活の向上は望めない。交通網を含めた社会資本整備や、ITなど競争力の高い産業の育成を通じ、成長を図ることが重要だ。
 知事は政府と協力し、県の将来展望を明確に示す責任がある。

 「住民生活の向上」を大義名分に、玉城知事に対し、選挙で得た民意の信任に背き、国策に協力するよう求めています。選挙で示された民意を尊重する姿勢は感じられません。果たして他地域の日本本土の知事選で、地域の民意を正面から否定するに等しい論説を書けるものでしょうか。強硬方針を取る安倍晋三元首相以来の政権と同化した視線を感じます。そこにあるのは、「沖縄の自治は神話」と言い放ったキャラウェイ高等弁務官と同じ思考のありようだとも思います。

 産経新聞の社説は、やはり辺野古移設推進の主張です。選挙で示された地域の民意をどう読み解くか、言及していません。見出しは読売新聞と比べれば穏当かもしれません。本文の一部を書きとめておきます。

 玉城氏は「(米軍普天間飛行場の名護市辺野古への移設)反対の民意で当選させてもらったのは紛れもない事実だ」と述べ、引き続き移設に反対していく考えを示した。
 だが、米軍基地をどこに設けるかという判断は、国の専権事項である安全保障政策に属する。知事にも知事選にも、その権能は与えられていない。
 松野博一官房長官は12日の記者会見で「日米同盟の抑止力の維持と、普天間飛行場の危険性の除去を考え合わせたとき、辺野古移設が唯一の解決策だ」と述べ、移設工事を進める方針を強調した。
 政府の方針は妥当だ。普天間基地周辺に暮らす県民の安全と、中国などの脅威から沖縄を含む日本を守り抜くために、辺野古移設が求められている。
 玉城氏は移設をめぐる国との対立路線を転換すべきである。国と与党は移設の意義を丁寧に説明する必要がある。

 以下に、東京発行の各紙が13日付朝刊で選挙結果をどう報じたか、主な記事の見出しと扱いを書きとめておきます。

【朝日新聞】
▽1面
トップ「辺野古反対 玉城氏再選/沖縄知事選」
「底流 募る本土不信」木村司・那覇総局長
▽2面
時時刻刻「移設ノー 知事選3連勝/限られる策 背水の玉城氏/軟弱地盤で応酬 国連・米に訴え」「旧統一教会 自民に逆風/『辺野古が唯一』政府なお強硬」「無党派層62% 玉城氏に/最重視『経済』41% 『基地』34%を上回る 出口調査」
「名護市議選は与党系過半数/宜野湾市長 自公系再選」
▽第2社会面
「沖縄の思い 基地以外も/貧困や教育・自民に不信感・コロナ禍からの再生」
「保革対立は終わった」大阪教育大・櫻澤誠准教授
▽社説
「沖縄県知事選 県民の意思は明らかだ」

【毎日新聞】
▽1面
トップ「沖縄知事 玉城氏再選/辺野古『反対』3連勝」/「宜野湾市長選は移設容認派再選」
▽3面
クローズアップ「辺野古阻止へ活路模索/沖縄知事 玉城氏再選」「法廷闘争・内外世論」「自公推進へ 続く対決色」「『経済』より『基地問題』 投票行動調査」
▽5面
「自民『影響分からず』 旧統一教会/沖縄知事選 与党系敗北」
▽第2社会面
「『県民の思いぶれず』/辺野古反対 継続呼びかけ」
解説「民意無視 募った反感」
▽社説
「玉城沖縄知事が再選 国は『アメとムチ』脱却を」

【読売新聞】
▽1面
「辺野古反対 玉城氏再選/沖縄知事選 政府は早期移設方針」/「宜野湾市長は与党系が再選」
▽4面
「辺野古工事 政府『粛々と』/名護・宜野湾 佐喜真氏、得票上回る」
「移設 野党間にも温度差」
▽社説
「沖縄県知事再選 不毛な対立を国と続けるのか」

【日経新聞】
▽2面
「政府の安保戦略に影響/『移設反対』台湾有事の備え懸念/沖縄知事に玉城氏再選」
▽社説
「安保論議へ沖縄の民意は重い」

【産経新聞】
▽1面
「沖縄知事 玉城氏再選/辺野古反対、自公系破る」
▽3面
「辺野古さらに遅滞も/政府は移設堅持『唯一の策』」/「自民大敗 2つの誤算/三つどもえ 戦略崩れ 『旧統一教会』逆風に」/「宜野湾市長は与党系が再選」
▽5面
「改造後敗北 自民に衝撃/『対決型』に波及懸念」/「野党、批判路線に手応え/旧統一教会『全体として効いた』」
▽第3社会面(24面)
「沖縄の民意 示されたか/経済界『地元再建策かすんだ』」
▽社説(「主張」)
「沖縄知事の再選 国と協力して県政運営を」

【東京新聞】
▽1面
トップ・核心「辺野古ノー 民意鮮明/沖縄知事に玉城氏再選/容認明言の佐喜真氏破る/政府『唯一の解決策』変えず」
▽22面(特報面)
「デマ再び 沖縄知事選/×『玉城氏は中国共産党の勢力』/×『旧統一教会系団体の会合出席』/県外が多数『継続的なチェックを』」
▽社説
「辺野古『反対』 民意と誠実に向き合え」

 

※追記 2022年9月18日22時50分

「思い起こすのはキャラウェイ『沖縄の自治は神話』発言~玉城知事大差で再選の民意」から改題しました。

国葬「賛成」25% 「反対」は倍の51% 対面による時事通信調査

 時事通信が9月9~12日に実施した世論調査の結果が報じられています。安倍晋三元首相の国葬に対しては「賛成」25.3%に対し「反対」51.9%でした。「反対」が「賛成」の倍に上っています。
 岸田文雄内閣の支持率は、前月比12.0ポイント減の32.3%と急落。不支持率は同11.5ポイント増の40.0%で、不支持率が支持率を上回りました。
 他社の定例世論調査がおおむね電話調査なのに対し、時事通信は毎回、対面で実施しています。一般に、調査員が対象者と直接、顔を合わせて質問し、回答を聞き取る方法は、電話調査よりも手間も時間もかかるのですが、その分、対象者の考えを正確に把握することができます。
 9月に入ってからの他社の電話調査では、国葬に対する民意は肯定的評価が30%台、否定的評価が50%台でおおむね共通していました。時事通信の調査結果からは、賛否の差はもっと開いていると言えそうです。

 ※「安倍元首相『国葬』 世論の推移」の記事を更新しました。

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「国葬」評価、若い世代に急激な変化~もはや「世論を二分」ではなく「反対多数」

 先週末に実施されたNHKと朝日新聞の世論調査のうち、安倍晋三元首相の国葬への賛否の評価を問う設問への回答結果が、興味深いことになっています。
 朝日新聞の調査(9月10、11日実施)では、国葬に対し「賛成」38%、「反対」56%でした。前回調査(8月27、28日)では「賛成」41%、「反対」50%でした。2週間で賛否の差は9ポイントから18ポイントに拡大しました。
 NHKの調査(9月9~11日実施)でも「評価する」32%に対し、「評価しない」は57%でした。差は25ポイントです。7月の調査では「評価する」49%、「評価しない」38%だったのが8月の調査で「評価する」36%、「評価しない」50%と逆転し、今回はさらに差が開いています。朝日、NHKに限らず他社の調査でも、肯定的評価を否定的評価が上回り、しかもその差が開いていく傾向が顕著です。安倍元首相の国葬に対する世論は、「賛否拮抗」「二分」から「反対(ないしは否定的評価)多数」に変わっています。
 さらに興味深いのは18~39歳の若い世代の動向です。
 NHKの今回の調査では、18~39歳では「評価する」43%に対し、「評価しない」47%と、否定的な回答が上回っています。8月の調査では、「評価する」53%、「評価しない」30%と、「評価する」が23ポイントも上回っていました。1カ月の間に、「評価する」は10ポイント減り、「評価しない」が17ポイントも増えるという急激な変化が起きています。他の世代でも「評価しない」が8月より増えてはいるのですが、ここまで急激な変化はみられません。そもそも8月調査では、「評価する」が「しない」を上回っていた世代は18~39歳だけでした。これですべての世代で「評価しない」が「する」を上回ることになりました。
 このブログの以前の記事で触れましたが、1週間前の9月2~4日に実施された読売新聞の調査でも、18~39歳では同様の“急変”がありました。「評価する」が8月調査の65%から22ポイント下がり43%に。「評価しない」は28%から21ポイント上がり49%になっていました。「評価する」が「しない」を40ポイント近くも上回っていたのに、わずか1カ月で逆転しました。
 読売新聞の調査結果について、わたしは以前の記事で「当初は若い人たちの間では、国葬に対して好意的な評価が高い割合を占めていました。ここにきて、否定的な評価が急速に取って代わりつつあるようです」と書きました。世代別の回答状況は、メディアによって明らかにしたりしなかったりとまちまちなのですが、読売新聞の調査と1週間後のNHKの調査の二つの調査で同じ傾向が見られることから、若い人たちの間で国葬への評価が急変していることは間違いありません。
 若年層のこの評価の変化の持つ意味をどう考えるか。以前の記事に書いたことを再掲します。 

 若年層の中で、国葬の社会的議論を通じて、安倍政治への評価それ自体に変化が起きているのだとしたら、その意味は小さくありません。安倍元首相が長期政権を誇った大きな要因の一つは、まさに若年層の支持が高い水準で安定していたことだったからです。自民党は安倍政治の当時と今も変わらず、岸田文雄政権は基本的に安倍政治を継承しています。若年層に安倍政治への評価の変化が生まれているのだとしたら、まさに「今」の政治に大きな影響を与えうるはずです。

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【追記】2022年9月14日22時15分

 朝日新聞とNHKの世論調査の結果を「安倍元首相『国葬』 世論の推移」に追記しました。わたしの目に留まった範囲ですが、7月以降、マスメディア各社の世論調査で、国葬に対する民意がどのように推移してきたかをたどることができます。

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地方紙は国葬へ批判が圧倒、撤回求める社説、論説も

 安倍晋三元首相の国葬を巡り、閣議決定による実施は適切だなどと岸田文雄首相が強調した9月8日の国会の閉会中審査について、地方紙も9日付の社説、論説で一斉に取り上げています。ネット上で目にした限りでは、批判的、懐疑的な論調が圧倒しています。
 岸田首相は、国葬の実施を閣議決定で決めたことについて「行政権の範囲内」と強弁しています。また、海外からの弔意の対象が「日本国民全体」になっていることを強調しており、国として応えるためにも国葬が必要だ、ということのようです。この点に関連して、北海道新聞の9日付社説は「思想信条、表現の自由を保障する憲法に照らせば、弔意表明は個人の自由であり、内閣に国民全員の弔意表明を意味する国葬を行う権限はないとの指摘もある」と疑問を投げかけています。同日付の信濃毎日新聞の社説も「国葬はそもそも、内心の自由などを定めた憲法に反する可能性がある。政府は、戦前の国葬とは違って『弔意を強制するものではない』とする一方、『国全体』で弔意を示す行事としてきた」「『国全体』とは何か。国民を指すのか。審議でも取り上げられたが、判然としなかった」としています。
 日本は国家としては三権分立で成り立っています。「国全体」「国民全員」を代表する行為として「国の儀式」を行うのであれば、法令に明記があるならともかく、そうではないものは行政、立法、司法の三権の調整があって然るべきでしょう。「行政権の範囲内」などと解釈するのは無理があり、専制ということになりかねません。そのことを行政権のトップである首相が強弁すること自体、首相としての見識が問われることであり、民主主義にとって非常に危ういと言わざるを得ません。
 地方紙からは「少なくとも静かに元首相の死去を悼む環境ではなくなってきている。いま一度再考を求めたい」(9日付京都新聞社説)などと、国葬の撤回を求める主張も目につきます。10日付では西日本新聞は「国論を二分したまま国葬に突き進むことはない。過去の首相経験者と同じように、内閣と自民党の合同葬にすることを再検討すべきだ」と主張し、琉球新報も「百歩譲っても内閣と自民党の合同葬など従来の葬儀の形式が妥当だろう」と指摘しています。

 全国紙では、読売新聞と産経新聞は国葬を支持する論調です。地方紙では北國新聞(本社石川県金沢市)が、国葬に対して肯定的な評価のようです。同紙のサイトでは、社説は見出しのみ無料公開ですが、9日付の見出しは「国葬16億円余 経費増えても万全の警備を」でした。同紙は8月27日付に「国葬に2億5千万円 弔問外交の効果は費用以上」との社説を掲載していました。

 以下に、地方紙各紙のサイトで確認した限りでの社説、論説の見出しを書きとめておきます。全文が無料域で読める場合は、リンクを張り、本文の一部を引用しています。

【9月9日付】
▼北海道新聞「『国葬』で論戦 首相答弁は納得できぬ」
 https://www.hokkaido-np.co.jp/article/728404/

 思想信条、表現の自由を保障する憲法に照らせば、弔意表明は個人の自由であり、内閣に国民全員の弔意表明を意味する国葬を行う権限はないとの指摘もある。
 泉氏が国葬でなく、内閣葬に変更するよう求めたのは、こうした法理論を踏まえたものだろう。
 首相は、国葬とするかは「その都度、政府が総合的に判断するのがあるべき姿だ」と述べ、法整備は不要との認識を示した。
 時の政権の恣意(しい)的な判断で国葬を実施すれば、政権を支える与党の党派性を帯びる。これを国葬と称するのは無理がある。

▼河北新報「首相の『国葬』説明 独断の後付け、説得力欠く」
 https://kahoku.news/articles/20220909khn000005.html

 政治家としての評価が分かれる安倍晋三元首相の葬儀を「国葬」とすべきか否か。少なくとも16億6000万円と見込まれる経費を全て国民の税金で賄ってよいか。
 岸田文雄首相の説明によれば、いずれも「行政権の範囲内」だから、内閣が独断で決められることになる。
 最初の判断から民意を軽視していたのだから、いかに言葉を尽くしても説得力が生まれないのは当然だろう。
 (中略)
一方、安倍氏の評価を巡っては、首相が旧統一教会との関係解明に消極的なことも、国葬の正統性に疑念を抱かせる大きな要因だろう。
 「サタンの国・日本」は「神の国・韓国」を植民地支配した罪を償わなくてはならない-。そんな教義を掲げ、巨額の献金が韓国に流れる仕組みを作っていた団体だ。
 安倍氏が岸信介元首相以来3代にわたって深い関係を保っていたことには、多くの国民が衝撃を受けている。
 憲政史上最長の在任期間や経済、外交上の成果など評価すべき点があったとしても、首相の姿勢に「旧統一教会隠し」が感じられる限り、国葬への共感は広がりにくいに違いない。

▼東奥日報「『岸田政治』が問われる/安倍元首相の国葬問題」
 https://www.toonippo.co.jp/articles/-/1328301

 安倍晋三元首相の国葬問題を巡り、衆参両院は閉会中審査を実施した。国民の間では国葬反対論が根強いが、岸田文雄首相が法的根拠をはじめとするさまざまな疑問に対し、説得力ある答弁をしたとは言いがたい。
 国葬批判の背景には、安倍氏ら自民党議員が霊感商法や多額献金で指弾された世界平和統一家庭連合(旧統一教会)側から、選挙支援を受けるなどしていた問題がある。
 自民党は閉会中審査の終了を待っていたかのように、旧統一教会と所属国会議員との接点確認を求めた調査結果を公表した。しかし、安倍氏の関わりには踏み込まず、この調査をもって国民の不信感は払拭できまい。
 いずれの問題も説明責任を負っているのは岸田首相であり、問われているのは「岸田政治」の民意への向き合い方だともいえよう。

▼秋田魁新報「『国葬』の首相説明 理解深められたか疑問」
 https://www.sakigake.jp/news/article/20220909AK0008/

 しかし国会に諮って理解を得るやり方をとらず、国葬の会場設営費約2億5千万円に予備費を充てるのは本来の形と言えない。国葬費用に警備費などが含まれないことへ批判が高まってから、概算の警備費や海外要人の接遇費計約14億円を公表した「後手」もいただけない。
 政府は国民一人一人に弔意を示すことは求めないとしているが、7月の安倍氏の家族葬で一部の自治体が学校現場などに半旗掲揚を依頼した。国葬で弔意が強いられる懸念が残る。
 時間不足からか野党の追及も迫力を欠いた。同じ言葉の繰り返しが目立つ首相答弁は「丁寧な説明」には程遠く、説得力を欠いた。「なぜ国葬なのか」という疑問への答えは最後まで見えなかった。これ以上、国民の分断が深まることのないように、政府にはより明確な説明を行う機会を求めたい。

▼山形新聞「『安倍氏国葬』閉会中審査 説得力欠いた首相説明」
 https://www.yamagata-np.jp/shasetsu/?par1=20220909.inc
▼茨城新聞「安倍氏国葬問題 『岸田政治』が問われる」
▼神奈川新聞「『国葬』国会説明 疑念解消にはほど遠い」
▼山梨日日新聞「[安倍氏国葬問題]教団との関係 ふたをするな」

▼信濃毎日新聞「国葬の国会審議 疑問は一向に晴れぬまま」
 https://www.shinmai.co.jp/news/article/CNTS2022090900043

 「今後も説明する」と強調するが、重要なのは中身だ。同じ対応を重ねるようなら、中止を含め国葬の実施は見直すべきだ。
 今回、実施の意義について岸田首相が最も強調したのは、海外から数多く寄せられた弔意のメッセージの対象が「日本国民全体」になっている、という点だ。
 外交に力を入れた安倍氏の「遺産」を、「国として」受け継ぐために必要な行事なのだという。
 対外的な体面を重視し、国民の反対を押してでもやり抜く。そんな本末転倒が受け入れられるだろうか。「民主主義を守る決意を示す」ための行事、との位置付けにも矛盾する。
 国葬はそもそも、内心の自由などを定めた憲法に反する可能性がある。政府は、戦前の国葬とは違って「弔意を強制するものではない」とする一方、「国全体」で弔意を示す行事としてきた。
 「国全体」とは何か。国民を指すのか。審議でも取り上げられたが、判然としなかった。
 法的根拠について、首相は今回も「国の儀式」を内閣府の所掌とする内閣府設置法を挙げた。事務所管の規定を実施できる根拠とするのは、やはり無理がある。

▼新潟日報「国葬の閉会中審査 納得いく説明には程遠い」
 https://www.niigata-nippo.co.jp/articles/-/109972

 釈然としなかったのは、安倍氏の国葬を決めた経緯だ。
 首相は安倍氏の死去から6日後の7月14日に記者会見で国葬実施を表明し、その8日後の22日には正式に閣議決定した。
 しかし国民の代表が集まる場である国会には全く説明しなかった。行政権の範囲内だとして即断即決したことが混乱を招いたことを、首相は深く反省すべきだ。
 (中略)
 国葬に対する国民の賛否は割れ、報道各社の世論調査でも反対が賛成を上回る状況が続く。
 国葬開催が決まってから、世界平和統一家庭連合(旧統一教会)と安倍氏の関係の深さが次々と明らかになったこともあるだろう。
 自民党が8日に発表した調査結果では党所属国会議員の半数近くが教団との接点を持っていた。
 党は今後、教団との関係を断つというが、安倍氏と教団との関係を調べずに、国葬とすることに矛盾はないか。党総裁として首相は国民にさらに説明するべきだ。

▼中日新聞・東京新聞「故安倍氏『国葬』 実施形式の再考求める」
 https://www.chunichi.co.jp/article/541434?rct=editorial

 故安倍晋三元首相の国葬を巡り岸田文雄首相が衆参両院の議院運営委員会で開かれた閉会中審査に出席し、質疑に応じた。
 しかし、首相は従来の説明を繰り返すにとどまり、国民の幅広い理解が得られたとは言い難い。国葬形式での実施は再考し、内閣葬や内閣・自民党合同葬への切り替えを検討すべきではないか。
 (中略)
首相は当初、国葬を「敬意と弔意を国全体として表す国の公式行事」と説明していたが、閉会中審査では「国全体」の表現を控え、地方公共団体や教育委員会、一般国民には弔意表明を求めない考えを強調した。国を挙げて弔うことは事実上断念したに等しい。ならば国葬である必要があるのか。
 過去の首相経験者の内閣・自民党合同葬にも各国首脳らが参列し弔問外交に支障はなかった。
 政府が閣議決定で決められるのは内閣葬や政党などとの合同葬までだ。首相がこのまま国葬形式での実施にこだわり続けるなら、故人を静かに見送ることすら難しくなりかねない。

▼北國新聞「【国葬16億円余】経費増えても万全の警備を」
▼福井新聞「安倍氏国葬問題 説得力ある答弁だったか」
https://www.fukuishimbun.co.jp/articles/-/1626283
▼京都新聞「国葬で国会論議 説得力欠く首相の説明」
 https://www.kyoto-np.co.jp/articles/-/875769

 拙速な国葬の決定を発端に、説明不足も重なって、反対の高まりを招いた。首相は「具体的、丁寧な説明」と繰り返したが、審議は両院それぞれわずか1時間半に限られ、生煮え感が強い。
 少なくとも静かに元首相の死去を悼む環境ではなくなってきている。いま一度再考を求めたい。

▼神戸新聞「閉会中審査/国葬への疑問は消えない」
 https://www.kobe-np.co.jp/column/shasetsu/202209/0015624386.shtml

 新たに強調したのは「多くの国から示された弔意に、国として礼節をもって応える」という外交儀礼である。「国民に弔意を強制するものではない」とも繰り返した。
 弔問外交を前面に掲げることは故人への礼を失しないのか。多額の国費を使いながら国民に弔意を求めることもできない。国葬の大義が揺らいでいると言わざるを得ない。
 75年、当時最長の在任記録を有しノーベル平和賞を受賞した佐藤栄作元首相の死去時も国葬が検討されたが、野党の反対などで政府、自民党、有志による「国民葬」になった。80年の大平正芳氏以降は内閣と党の「合同葬」が踏襲されてきた。
 今回との整合性について、首相は「国内外の情勢によって評価は変わり、時の内閣が判断する」と述べた。内閣だけで誰を国葬とするかを決められるなら政権の恣意(しい)的判断が可能となり、反発は避けられない。今回の決定過程を客観的に検証し、開催基準を定める議論が不可欠だ。

▼中国新聞「『国葬』首相の国会説明 疑問の解消には程遠い」
 https://www.chugoku-np.co.jp/articles/-/212296

 最近の世論調査のほとんどで反対や「評価しない」が過半数を占める。遅きに失した感はあるが、首相が閉会中審査に出てまで議員に直接説明するのは近年、まれだった。評価できる。
 (中略)
 見過ごせないのは、銃撃事件のきっかけとなった世界平和統一家庭連合(旧統一教会)との関係を不問に付した点だ。調査を迫られても「亡くなられたから実態を確認するのは限界がある」と繰り返すだけ。都合の悪いことには、ふたをするのか。
 国際的評価にも疑問が残る。国民全体への弔意を示すメッセージが海外から相次いだ、と説明した。しかし中曽根氏死去の際、当時のトランプ米大統領は日本国民に対しても深い哀悼の意を示す声明を発表した。シラク元フランス大統領の死去の際は、当時の茂木敏充外相がフランス国民にも哀悼の意を表すメッセージを出している。単なる外交辞令を大げさに受け止めているとしたら滑稽過ぎよう。
 小渕恵三元首相の合同葬ではクリントン米大統領をはじめ海外の要人が多く参列した。説明を重ねるにつれ、政府の挙げた根拠は乏しくなっていく。

▼山陰中央新報「安倍氏国葬問題 『岸田政治』が問われる」
 https://www.sanin-chuo.co.jp/articles/-/266088
▼愛媛新聞「国葬の閉会中審査 首相の説明では理解深まらない」
▼徳島新聞「国葬で閉会中審査 首相の説明、疑問拭えぬ」

▼高知新聞「【安倍氏の国葬】世論と向き合うのが遅い」
 https://www.kochinews.co.jp/article/detail/592195

 丁寧な説明で、政権に批判が向けられる局面を転換したいのだろう。しかし、そもそも世論と正面から向き合わなかったことが事態を複雑にした。懸念が消し去られたとは言い難い。
 安倍晋三元首相の国葬に関して初の国会論戦となる衆参の閉会中審査が、岸田文雄首相も出席して実施された。
 首相は、国葬を巡る説明が不十分だとの指摘を謙虚に受け止めるとの姿勢を示した。国民の理解が重要であることを念頭に、説明責任を果たし続けるとも述べた。
 その通りだろう。だが、国葬実施の意向を早々に示し、閣議決定からも時間がたっている。参院選を受けた臨時国会での言及もなく、賛否が割れる問題をやりすごそうとするような姿勢が続いた。首相の言葉はそのままには受け止めにくい。

▼大分合同新聞「安倍氏国葬問題 『岸田政治』が問われる」
▼宮崎日日新聞「安倍氏国葬問題 説得力を欠いた閉会中審査」
 https://www.the-miyanichi.co.jp/shasetsu/_65770.html
▼佐賀新聞「安倍氏国葬問題 『岸田政治』が問われる」
 https://www.saga-s.co.jp/articles/-/914342

 安倍晋三元首相の国葬問題を巡り、衆参両院は閉会中審査を実施した。国民の間では国葬反対論が根強いが、岸田文雄首相が法的根拠をはじめとするさまざまな疑問に対し、説得力ある答弁をしたとは言いがたい。
 国葬批判の背景には、安倍氏ら自民党議員が霊感商法や多額献金で指弾された世界平和統一家庭連合(旧統一教会)側から、選挙支援を受けるなどしていた問題がある。
 自民党は閉会中審査の終了を待っていたかのように、旧統一教会と所属国会議員との接点確認を求めた調査結果を公表した。しかし、安倍氏の関わりには踏み込まず、この調査をもって国民の不信感は払拭できまい。
 いずれの問題も説明責任を負っているのは岸田首相であり、問われているのは「岸田政治」の民意への向き合い方だともいえよう。

▼南日本新聞「[国葬閉会中審査] 説得力欠いた首相説明」
 https://373news.com/_column/syasetu.php?storyid=162434

 国葬に対する国民の疑念は解けなかったのではないか。岸田首相が掲げる「信頼と共感の政治」には程遠いと言わざるを得ない。
(中略)
 国民の賛否が大きく割れているのは、早々に国葬を実施すると決めながら、ここまで国会審議も野党との話し合いも行わず、政府が独断で進めてきたからに他ならない。
 国葬を行うなら、国民の幅広い理解が必要なのは言うまでもない。明らかにされた16億円超の費用にも、疑問が噴出している。政府は丁寧な説明を続けるべきである。

▼沖縄タイムス「[岸田首相「国葬」説明]これでは懸念拭えない」
 https://www.okinawatimes.co.jp/articles/-/1021314

 国葬を実施するだけの根拠はどれをとっても説得力に欠ける。
 閣議決定だけで、国会で諮ることなく実施するのは、恣意(しい)的な運用につながりかねない。
 (中略)
 自民党は、党所属国会議員379人中179人に、旧統一教会側と何らかの接点が確認されたとする調査結果を公表した。対象は現職の国会議員だけで、安倍氏との関わりには踏み込んでいない。
 国民の関心には応えず、これで幕引きを図れば、政治不信に拍車がかかる。安倍氏の国葬を巡る議論と旧統一教会との関係は切り離すことはできない。
 国葬の説明が不十分との指摘を謙虚に受け止めるというなら、実態を解明する責任がある。さらに国会で審議を尽くすべきだろう。
 (中略)
 国葬を機に、国民の意見が二分されたままでは、政治への諦めや無関心がさらに広がる恐れがある。
 説得力がない政治では民主主義は守れない。

【9月10日付】
▼福島民友新聞「安倍氏の国葬/説明で納得は得られたのか」
 https://www.minyu-net.com/shasetsu/shasetsu/FM20220910-728013.php

 岸田氏の説明は、国葬に反対する人たちにも納得のいくものだったのかは疑問だ。ただ国際社会に対して国葬実施を表明した以上、それを覆すのは日本に対する諸外国からの信用低下につながる可能性が高い。今は国の責任で海外からの要人の警護に万全を期すことを優先すべきはないか。その意味で、警備に関する国費出費はやむを得ない面がある。
 岸田氏は、国葬にハリス米副大統領などの要人が出席予定であるとして、可能な限り会談するとの考えを示している。弔問外交でどういった成果が残せるか。岸田内閣の手腕が問われる。
 (中略)
 なぜ国葬なのか、国民のふに落ちる説明と議論をさらに求めたい。国葬後には決定の経緯や費用などの検証、今後のルールづくりを視野に入れた議論が不可欠だ。

▼山陽新聞「国葬の首相説明 理解深まったとは言えぬ」
 https://www.sanyonews.jp/article/1306061

 参院選後に首相が記者会見で国葬実施を発表してから閣議決定するまで、国権の最高機関である国会への相談や説明がなかった。こうした手続きに、野党から「法的に瑕疵(かし)がある」と批判の声が上がったことを重く受け止めるべきだ。選挙中に安倍氏が凶弾に倒れたことを受けて「国葬で民主主義を守る決意を示す」と強調する首相だが、幅広く合意を得ようとする姿勢が欠けていると言われても仕方あるまい。

▼西日本新聞「首相の国会説明 国葬に突き進める環境か」
 https://www.nishinippon.co.jp/item/n/985711/

 私たちは社説で、国葬を巡って国民が激しく対立することにならないよう、首相はその意義を丁寧に説明すべきだと主張してきた。安倍氏を静かに送るためでもある。
 残念ながら、首相の言葉に賛同する国民が増えるとは思えない。「今後も説明責任をしっかり果たしていく」と述べたものの、国葬前の国会説明は今回が最後となる可能性が高い。
 国論を二分したまま国葬に突き進むことはない。過去の首相経験者と同じように、内閣と自民党の合同葬にすることを再検討すべきだ。

※西日本新聞は9月5日付と7日付でも関連の社説を掲載しています

・9月7日付「国葬の費用 不信高める小出しの説明」
 https://www.nishinippon.co.jp/item/n/984114/
・9月5日付「なぜ国葬か 国民の疑問点は尽きない」
 https://www.nishinippon.co.jp/item/n/983248/

▼琉球新報「首相の『国葬』説明 内閣葬ではいけないのか」
 https://ryukyushimpo.jp/editorial/entry-1581028.html

 首相の説明は牽強付会であり、過去の政府見解に照らしても納得できる内容ではなかった。例えば朝日新聞は、過去の佐藤栄作元首相が死去した際に、当時の内閣法制局長官が国葬について「法制度がない」「三権の了承が必要」との見解を示していたことを報じている。
 国葬とは、国費を投じて国民に追悼を求めるものにほかならない。戦前は国葬の実施や対象者を定めた勅令の「国葬令」が法的根拠になっていたが、戦後、言論・表現の自由、内心の自由(19条)、政教分離(20条)を定めた現行憲法の制定に伴って失効した。繰り返し主張するが、憲法に抵触しかねない国葬には反対である。百歩譲っても内閣と自民党の合同葬など従来の葬儀の形式が妥当だろう。

※全国紙の9日付の社説は、以下の記事に書きとめています

news-worker.hatenablog.com

だれであれ「国葬」強行は民主主義の危機~岸田首相の国会説明 「法治逸脱」あらためて

 安倍晋三元首相の国葬を巡る国会の閉会中審査が9月8日、衆参両院の議院運営委員会で行われ、岸田文雄首相が出席して質疑に応じました。国葬を行う理由や法的な根拠について、何も新しい発言がなかったのは予想通りです。到底納得できない、民意の多数の理解を得られない「法治主義からの逸脱」としか言いようのない見解が国会で繰り返されたことで、国葬に反対ないしは懐疑的な世論はさらに勢いを増すでしょう。
 岸田首相は、安倍元首相が選挙期間中に銃撃され落命したことを強調して、民主主義を守り抜く決意を示すことを国葬の理由の一つに挙げています。しかし、法に根拠がないことを「行政権の範囲内」と言ってのけ、実施に際しては国会や野党に諮るでもなく、その時々の内閣が総合的に判断すればよい、との姿勢は、判断に政治性、党派性が混じることを容認するも同然で、まさに「人治」の発想です。マスメディア各社の世論調査でも、当初は賛否二分でしたが、反対や懐疑的な意見が過半数へと変わってきています。このまま国葬が強行されるなら、明確に民主主義の危機です。
 ここに至っては、安倍元首相が国葬に値するかどうかは二義的な問題です。対象がだれであっても、このような決め方、やり方は民主主義を危うくします。安倍元首相の業績をどう評価するかは人それぞれなのは当然のことですし、国を挙げて手厚く、かつ静かに送りたいと考えている人たちの意思も尊重されていいと思います。しかし今回の決め方、進め方をこのまま先例にしてしまっていいのかどうかは、まったく別の問題だろうと思います。安倍元首相の業績をどう評価するか、その考え方の違いを超えて、社会全体で一緒に考えたいと思っています。そのためにマスメディアにも役割があるはずだと思います。

 ▼「行政権の範囲」の主張は乱暴で粗雑に過ぎる
 岸田首相が「行政権の範囲」と強弁していることに対して、少し書きとめておきます。
 8日の質疑でも、閣議決定で国葬を実施できる根拠として、内閣府設置法の規定を挙げています。その言いぶりからは、あたかも同法の条文に「何を国の儀式にするかは内閣が決めることができる」とでも書いてあるかのようですが、そうではありません。以下に、法の条文をみてみます。
 内閣府設置法は内閣府の任務と所掌事務、組織を定めている法律です。書かれているのは「内閣の権限」ではなく「内閣府の仕事」のことです。

第一条 この法律は、内閣府の設置並びに任務及びこれを達成するため必要となる明確な範囲の所掌事務を定めるとともに、その所掌する行政事務を能率的に遂行するため必要な組織に関する事項を定めることを目的とする。

 「国の儀式」は、内閣府の所掌事務を定めた第4条第3項33号に、以下のように記載されています。

三十三 国の儀式並びに内閣の行う儀式及び行事に関する事務に関すること(他省の所掌に属するものを除く。)。

 普通に読めば、内閣の儀式や行事と同じように、国の儀式の事務に関することは内閣府が担当することを定めているだけです。内閣の儀式や行事であれば、内閣が閣議決定で決めることができるのかもしれません。そこは内閣の裁量、行政権の範囲内だと言われると、そうかなと思います。東日本大震災の犠牲者の追悼式典などはこれに当たる、との指摘も報道されています。
 しかし、国の儀式について、内閣が閣議決定で決めることができる、とする根拠をこの条文に求めるのは無理があります。ここに記された「国の儀式」は、別に根拠法を持つ儀式に限定されるべきです。そうでなければ、国の儀式は際限なく増えかねません。この「内閣府設置法」はそのような法律でないことは、考えてみればすぐに分かることです。
 岸田首相は内閣法制局にも確認したことを強調していますが、内閣法制局は内閣の望む方向に憲法解釈ですら変えてしまうことがあります。安倍内閣当時に顕著にみられたことです。
 まして、国葬については、現憲法の施行と同時に旧国葬令が無効となった経緯を軽視してはいけません。大日本帝国憲法下では曲がりなりにも国葬の根拠法がありました。現憲法下でも、皇室以外にもどうしても国葬が必要だというのなら、根拠となる法令を整備するのが法治国家としての筋目です。
 戦後、皇室以外で唯一の国葬の例になっている吉田茂元首相のケースも、事後にこうした問題点を整理できなかったために、以後、例えばノーベル平和賞を受賞した佐藤栄作元首相であっても国葬は見送られた、とわたしは理解しています。吉田元首相の国葬の何を前例とするべきかと言えば、その後、国葬は一件も行われていないことが前例です。その前例を覆すには、岸田首相の見解は乱暴で粗雑に過ぎます。歴史に対する無知と無理解、歴史の教訓に対する不遜さ、傲慢さをも表している、とも感じます。

 ▼在京紙の扱いは二分
 9月8日の動きに戻ります。
 この日は国会の閉会中審査のほかに、自民党が旧統一教会と自党の所属国会議員との接点についての「点検」結果を公表する、という出来事もありました。衆参両院の議長を除く379人中179人に接点があった、との結果です。
 安倍元首相は点検の対象に含まれていません。安倍元首相が旧統一教会の組織票を自民党内で差配できる立場だったとの報道が出ています。安倍元首相が旧統一教会とどういう関係にあったのかは、国葬の是非とも絡む大きなテーマです。その意味では、自民党の「点検」は不十分です。岸田首相は国会の質疑で、安倍元首相が死亡しており、調査には限界があると繰り返しましたが、どこが「限界」かは、やってみなければ分からないことです。

 9日付の東京発行の新聞各紙朝刊の扱いを見てみました。1面トップは朝日、毎日、東京の3紙は自民党の旧統一教会「点検」、読売、産経は国葬の閉会中審査と分かれました。これまでの社説・論戦に表れている国葬へのスタンスで言えば、朝日、毎日、東京(中日)は批判的・懐疑的なのに対して、読売、産経は支持、中でも産経は強く支持しています。国葬へのスタンスの違いで1面トップの扱いが二分されたようにも見えます。

 各紙の閉会中審査の本記の扱いと見出しは以下の通りです。
・朝日:1面下「『国葬儀』が適切/首相、野党と平行線」
・毎日:1面準トップ「国葬、首相が正当性強調/閉会中審査 初の国会論戦」
・読売:1面トップ「首相『国葬は適切』強調/閉会中審査 費用16.6億円『妥当』/最長政権 実績を評価」
・日経:3面「首相『安倍氏国葬は適切』/閉会中審査『費用、妥当な水準』」
・産経:1面トップ「首相、国葬に関連法不要/最長政権『実施は適切』/閉会中審査」
・東京:1面下「首相『国葬、政府が判断』/閉会中審査『特別扱い』立民反対」

 社説、論説では、日経をのぞく5紙が国葬を取り上げました。以下のように、見出しからも国葬への姿勢が明確に読み取れます。
▽支持
・読売「安倍氏の国葬 追悼の場を静かに迎えたい」
  https://www.yomiuri.co.jp/editorial/20220908-OYT1T50386/
・産経「国葬で閉会中審査 安倍氏を堂々と送りたい」
  https://www.sankei.com/article/20220909-KXG7KSZHPBNXLB36DSCNFOQPCM/
▽批判的・懐疑的
・朝日「『国葬』国会質疑 首相の説明 納得に遠く」
  https://digital.asahi.com/articles/DA3S15410902.html
・毎日「首相の『国葬』国会説明 疑念の核心答えていない」
  https://mainichi.jp/articles/20220909/ddm/005/070/108000c
・東京(中日)「故安倍氏『国葬』 実施形式の再考求める」
  https://www.tokyo-np.co.jp/article/200992

 国葬を支持している読売、産経両紙の見出しが、断定や言い切りの文体よりもずいぶんと柔らかく感じる「願望」になっているのが目を引きました。

若年層の安倍政治支持に変化が起きているのか~「国葬」へ否定的評価が急増

 ひとつ前の記事の続きです。
 読売新聞が9月2~4日に実施した世論調査では、安倍晋三元首相の国葬に対する評価が、同じ質問をした8月の調査(8月5~7日)から大きく変化しました。「評価する」は49%から11ポイントも減って38%にとどまった一方、「評価しない」は46%から10ポイント増の56%です。読売新聞は8月調査では「評価する」「評価しない」が拮抗と位置付けていましたが、今回はその差は18ポイントにもなり、「評価しない」が多数です。見ようによっては、評価は逆転とも言えそうです。この大きな変化の要因は、若年層の回答状況とのことです。
 5日付の読売新聞の記事によると、18~39歳では「評価する」が8月調査の65%から22ポイント下がり43%でした。「評価しない」は28%から21ポイント上がり49%に。「評価する」が「しない」を40ポイント近くも上回っていたのに、わずか1カ月で逆転です。40~59歳でも、「評価する」は46%から36%に下がり、「評価しない」は50%から60%に上昇しました。
 他社の8月時点での世論調査でも、若年層が国葬に対して肯定的な傾向が見られました。朝日新聞が8月27、28日に実施した調査で18~29歳は賛成64%、反対30%だったのに対し、60代以上では賛成3割、反対6割でした。当初は若い人たちの間では、国葬に対して好意的な評価が高い割合を占めていました。ここにきて、否定的な評価が急速に取って代わりつつあるようです。
 以前の記事でわたしは、以下のように書きました。

 2006~07年、12~20年と長期にわたって首相の座にありました。若い世代で国葬への賛成が3分の2に上るのは、「子どものころから、首相と言えば安倍首相だった」という事情が関係しているのかもしれないと感じます。

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 7月に国葬論議が持ち上がって以降、当初は、安倍元首相へのなじみの深さから国葬を肯定的にとらえていた若者は少なくなかっただろうと思います。しかし、社会的にさまざまに交わされる意見に接するうちに、国葬に法的根拠がないこと、弔意の強制の意味合いを持つことなどを理解するに至った人たちが少なからずいるのではないか。そしてもう一つ、安倍政治に「功」があったとしても「罪」もまた小さくないことを知り、国を挙げての弔意の対象足りえない、と考えるようになったのではないか―。もちろん、安倍政権当時から、自民党所属の国会議員が旧統一教会と選挙などで深く結びついていたことが明らかになったことも関係しているでしょう。読売新聞の調査結果に表れた大きな変化の要因について、わたしはこのように推測しています。
 若年層の中で、国葬の社会的議論を通じて、安倍政治への評価それ自体に変化が起きているのだとしたら、その意味は小さくありません。安倍元首相が長期政権を誇った大きな要因の一つは、まさに若年層の支持が高い水準で安定していたことだったからです。自民党は安倍政治の当時と今も変わらず、岸田文雄政権は基本的に安倍政治を継承しています。若年層に安倍政治への評価の変化が生まれているのだとしたら、まさに「今」の政治に大きな影響を与えうるはずです。

 国葬の費用について、岸田内閣は9月6日、総額が16億6千万円になるとの試算を明らかにしました。それまでは、8月26日の閣議で会場設営費などに2億4940万円を支出することを決めたものの、警備費などは国葬が終わった後に明らかにするとしていました。世論が反対多数へと変わる中で方針を変更し、警備に8億円、海外からの要人の接遇費に6億円などの見通しを示したようです。しかし、今までの約2億5千万円がいきなり6倍以上に跳ね上がったことに対しては、理解よりも反発が上回るのではないかと感じます。
 国葬がこのまま強行されれば、岸田政権というよりも安倍元首相、菅義偉前首相当時から続く自民党政治への批判が高まることになるのかどうか。もしそうなれば、日本の政治に大きな変革が起こるきっかけになるかもしれません。

読売調査も賛否逆転 安倍元首相の国葬「評価しない」56%~世論の推移をまとめました

 読売新聞とTBS系列のJNNが先週末、それぞれ実施した世論調査の結果が報じられています。安倍晋三元首相の国葬について、読売新聞調査では「評価する」38%に対し「評価しない」56%と、18ポイントもの差で否定的な評価が上回りました。前回8月上旬の調査では「評価する」49%、「評価しない」46%と、わずかですが肯定的な意見が否定的な意見を上回っていました。JNN調査でも「反対」51%、「賛成」38%と、反対が賛成を13ポイント上回っています。前回調査から反対が6ポイント増え、賛成は4ポイント減りました。
 岸田文雄首相から、国葬の理由について納得できる説明は一向にされない一方で、法的な根拠を欠いていること、費用の全額を国費で賄うのは弔意の強制を意味することなど、国葬の問題点が周知されるにつれ、否定的な意見が増えています。8月のNHKや産経新聞・FNNの調査でも、前月と賛否は逆転していました。
 岸田首相は国会の閉会中審査で、自ら国葬について説明するとしていますが、これまでと同じ説明しかできないはずです。別の、そして納得できる説明ができるのなら、こんなことにはなっていません。岸田首相が同じ説明を繰り返すだけなら、世論は否定的な評価にいっそう傾いていくほかないように思います。

 わたしが目にした限りですが、マスメディア各社の世論調査で、安倍元首相の国葬への評価がどう移り変わってきたかを、別記事で書きとめておきます。随時、更新します。読売新聞の調査でも賛否が逆転したことにより、現時点では、肯定的評価が否定的評価を上回っているマスメディアの調査は見当たりません。

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 ※安倍元首相の国葬に対しては、ネット上で賛否の投票を呼びかけたアンケートなども多く目にしましたが、調査対象を無作為に抽出した世論調査とは性格が異なるため除外します。

安倍元首相「国葬」 世論の推移 ※随時更新

 9月27日の安倍晋三元首相の国葬に対し、マスメディア各社の世論調査で賛否がどう推移したかを、わたしが目にした範囲で書きとめておきます。随時、更新します。

【10月】
■9月27日に国葬が実施されたことに対しての評価です。

・毎日新聞 ※22、23日実施

 「実施してよかった」            18%
 「問題はあったが、実施しないよりはよかった」17%
 「実施するべきではなかった」        60%

・産経新聞・FNN ※15、16日実施
 「よかった」35・2%
 「よくなかった」59・2%

・ANN ※15、16日実施
 「評価する」30%
 「評価しない」57%

・共同通信 ※8、9日実施
 「評価する」「どちらかといえば評価する」計36.9%
 「評価しない」「どちらかといえば評価しない」計61.9%

・朝日新聞 ※1、2日実施
 「評価する」35%
 「評価しない」59%

・読売新聞 ※1、2日実施
 ※国葬実施をよかったと思うか、思わないか
 「思う」41%
 「思わない」54%

・JNN ※1、2日実施
 「良かった」42%
 「良くなかった」54%

【9月】

・共同通信 ※17、18日実施
 「賛成」「どちらかといえば賛成」計38.5%
 「反対」「どちらかといえば反対」計60.8%

・毎日新聞・社会調査研究センター ※17、18日実施
 「賛成」27%
 「反対」62%

・日経新聞・テレビ東京 ※17、18日実施
 「反対」60%

・ANN ※17、18日実施
 「賛成」30%
 「反対」54%

・産経新聞・FNN ※17、18日実施
 「賛成」31.5%
 「反対」62.3%

・時事通信 ※9~12日実施、対面調査
 「賛成」25.3%
 「反対」51.9%

・朝日新聞 ※10、11日実施
 「賛成」38%
 「反対」56%

・NHK ※9~11日実施
 「評価する」32%
 「評価しない」57%

・JNN ※3、4日実施
 「賛成」38%
 「反対」51%

・読売新聞 ※2~4日実施
 「評価する」 38%
 「評価しない」56%

【8月】
・朝日新聞 ※27、28日実施
 「賛成」41%
 「反対」50%

・毎日新聞・社会調査研究センター ※20、21日実施
 「賛成」30%
 「反対」53%

・産経新聞・FNN ※20、21日実施
 「賛成」40.8%
 「反対」51.1%

・ANN ※20、21日実施
 「賛成」34%
 「反対」51%

・共同通信 ※10、11日実施
(岸田首相の説明に)
 「納得できる」 42.5%
 「納得できない」56.0%

・JNN ※6、7日実施
 「賛成」42%
 「反対」45%

・読売新聞 ※5~7日実施
 「評価する」 49%
 「評価しない」46%

・NHK ※5~7日実施
 「評価する」 36%
 「評価しない」50%

【7月】
・共同通信 ※30~31日実施
 「賛成」「どちらかといえば賛成」45.1%
 「反対」「どちらかといえば反対」53.3%

・日経新聞・テレビ東京 ※29~31日
 「賛成」43%
 「反対」47%

・産経新聞・FNN ※23、24日実施
 「よかった」「どちらかといえばよかった」    50.1%
 「よくなかった」「どちらかといえばよくなかった」46.9%

・NHK ※16~18日実施
 「評価する」 49%
 「評価しない」38%