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組織ジャーナリズムに身を置き40年余

「公務員」「教育」と「政治主導」〜論議呼ぶ大阪維新の会の条例案

 少し日が経ってしまいましたが、記録の意味でも書き留めておきたいと思います。
 大阪府橋下徹知事が代表を務める地域政党大阪維新の会」が8月22日、「教育基本条例案」と「職員基本条例案」の概要を発表しました。ともに9月以降、大阪府議会と大阪、堺の両市議会に提出する方針と伝えられています。このブログでも触れてきましたが、大阪維新の会は4月の統一地方選府議会では単独過半数議席を獲得。6月に府議会で、他会派を押し切る形で、いわゆる「君が代起立条例」(大阪府の施設における国旗の掲揚及び教職員による国歌の斉唱に関する条例)や府議定数削減の条例改正を成立させています。橋下氏は君が代起立条例に関連して、起立斉唱の職務命令に従わない教職員は段階を踏んで免職にすることを可能にする条例を設ける方針を当時から表明。今回の2つの条例案は、同一の職務命令に3回違反した場合は直ちに免職とする分限処分の基準も示しており、君が代起立条例の流れの上に出てきたとの位置づけができそうです。しかし、実際に出来上がった条例案のその内容たるや、君が代問題にとどまらず、政治主導で公務員制度を見直すとともに、教育に政治が深く関与し、自治体首長と教育委員会との関係を根本的に問い直すものになっています。選挙民の負託を受けている政治家(首長)が公務員の上位に立つのは当然で、教育と言えども例外ではないということでしょう。
 これらの条例案が「個別の自治体の事例」の位置づけにとどまらず、公務員制度や教育のありように広く社会的な論議を呼ぶのは当然です。加えて、大阪では橋下氏が任期満了を待たずに知事を辞職することで、11月27日投開票の大阪市長選が知事選とのダブル選挙となる見通しになっています。橋下氏と大阪維新の会は、条例案が論議を呼ぶことは折り込み済みで、このダブル選挙で決着を付ける、ということのようです。自治体の首長自らが率いる政党が議会で単独過半数を占めている状況そのものをめぐっても論議はあります。
 以上の状況から、これらの条例案について大阪発行の新聞各紙も大きく報じました。朝日新聞、読売新聞は22日の発表当日の朝刊でも、発表に先駆けて条例案の概要を詳しく報じています。以下に各紙の扱いと主な見出しを書き留めておきます。
【22日付朝刊】

▽朝日
本記:1面準トップ3段「首長に教育委員罷免権/維新の会、教育基本条例素案/モンスター親の要求禁じる」 表・教育基本条例案の骨子
サイド:第2社会面3段「教育管理 橋下流鮮明/『政治と一体化』懸念も/維新の会条例案」
▽読売
本記:1面トップ4段「最低評価連続で免職も/幹部 庁内・民間から公募/維新『職員』『教育』条例案全容/大阪府・市、堺市議会提案へ」 表・2条例案の主な内容と処分例

【23日付朝刊】=大阪維新の会の発表を受けて

▽朝日
本記:1面中3段「橋下流ダブル選へ集大成/維新、教育・職員条例案を公表」
サイド:総合面(3面)4段「政治主導の教育こだわり/橋下氏、教委の裁量に対抗」「都構想と連動 争点化を狙う/秋のダブル選」「期待『競争原理で緊張感出る』/動揺『学校は数字で測れない』」 年表・橋下知事の教育行政
素案の要旨:第2社会面
▽毎日
本記:1面中4段「人事評価5段階で/『職員』『教育』条例案を発表/維新の会」
サイド:社会面トップ4段「強制や処分…広がる懸念/基準明確化に評価も/維新の会 2条例案概要発表」 表・2条例案の主な内容
識者談話:社会面「身分安定効果に期待」(元最高検検事の土本武司・筑波大名誉教授)「子どもの権利奪われる」(文科省出身の寺脇研京都造形大教授)
▽読売
本記:社会面トップ4段「明確な処分基準共感/学校現場の混乱必至/『職員』『教育』条例案/有識者ら賛否」 表・2条例案の主な条文と専門家らが指摘する論点
サイド:社会面中3段「『民意反映する形に』維新議員が会見」
▽産経
本記:総合面(2面)3段「教育に政治関与明記/維新、2条例案を発表」 表・2条例案の概要
サイド:第2社会面4段「割れる賛否 激論必至/『公務員もクビ可能』『教育に民意反映』/維新2条例案」
▽日経
本記:社会面準トップ4段「教育、政治関与強める/条例案提出を正式表明/維新の会」 表・教育基本条例案の主な内容と処分例
識者談話:社会面「めざす目標は良い」(竹内洋・関西大教授)「イエスマンの懸念」(内田樹神戸女学院大名誉教授)

 このほか、関西の代表的な地方紙である京都新聞神戸新聞も23日付け朝刊で共同通信の配信記事を1面に掲載しています。
 条例案の論点が多岐にわたることは、各紙の見出しを概観するだけでも分かると思います。今後、議会の論戦、さらには11月のダブル選挙に向けての候補擁立と公約策定が進む中で論議は深まるでしょう。論点が本質の部分で、つまり地方自治の中での「政治主導」「政治関与」とは何なのかについて、橋下氏側の主張とそれに反対する側の主張がそれぞれ整理されることを期待しますし、その過程でマスメディアは重要な役割を負っていると思います。高い支持を誇る橋下氏の言動は注目を受けやすいのですが、橋下氏の一言一句を追うことに終始することなく、多様な意見、見方を広く取り上げるべきでしょう。
 今後もこの「大阪秋の陣」は、折に触れこのブログでも触れて行こうと思います。

※参考過去エントリー
 これまでもこのブログで何回か、橋下氏と大阪維新の会について書きました。参照いただければ幸いです。
▽「大阪維新の会君が代起立条例の報道に差(2011年5月29日)
http://d.hatena.ne.jp/news-worker/20110529/1306642945
▽日の丸・君が代、起立斉唱の職務命令に「合憲」判断は出たが(2011年6月2日)
http://d.hatena.ne.jp/news-worker/20110602/1306968234
君が代も定数削減も押し切った大阪維新の会〜橋下氏「新しい地方議会」(2011年6月5日)
http://d.hatena.ne.jp/news-worker/20110605/1307280545

神戸女学院大名誉教授の内田樹さんが自身のホームページに、大阪維新の会の条例案に批判的な観点から論考を発表されています。かなりの長文ですが、参考になる点も多いと思いますので紹介します。
内田樹の研究室「教育基本条例について」(2011年8月22日)
http://blog.tatsuru.com/2011/08/22_1258.php