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組織ジャーナリズムに身を置き40年余

沖縄県民投票と日本本土~元山仁士郎さんの105時間ハンストに思うこと

 沖縄県宜野湾市の米軍普天間飛行場を、沖縄県内の名護市辺野古に新基地を建設して移設することへの賛否を問う沖縄県民投票が2月24日に予定されています。国政選挙や知事選のたびに、「県内移設反対」の沖縄の人々の民意は示されているにもかかわらず、安倍晋三政権が辺野古沿岸部の埋め立て工事を強行している中で、県民投票が実施されれば、辺野古移設への賛否に絞っての民意が明確に示されることになります。仮に日米同盟を是とするなら、米軍基地の存在によって安全保障上の利益を享受するのは沖縄だけではなく日本全体です。その意味でも、沖縄の基地集中の問題は沖縄県外の日本本土に住む一人一人が当事者です。沖縄の県民投票の結果は、安倍政権だけでなく、日本本土の一人一人にも向けられるものと、わたしは受け止めています。
 そのような意義を持つ県民投票に、沖縄県内では宜野湾市や沖縄市、宮古島市、石垣市、うるま市の5市長が不参加を表明しており、このままでは県民の約3割が投票に参加できないと伝えられています。そのことに対して、県民投票実施の条例制定を求める署名運動を進めた「辺野古」県民投票の会代表の元山仁士郎さん(27歳)が1月15日朝、自身が住民登録している宜野湾市の市役所前で、5市長に県民投票への参加を求めるハンガーストライキに入りました。5日目の19日夕、ドクターストップで終了。ハンストは約105時間に及びました。
 沖縄の地元紙の沖縄タイムスは、「5市長が参加表明しない悔しさはすごくある」との元山さんの言葉を伝えています。
 ※沖縄タイムス「『県民投票の会』元山氏のハンスト、ドクターストップ 105時間で終了」=2019年1月19日
 https://www.okinawatimes.co.jp/articles/-/374469

 元山さんは記者団に「5市長が参加表明しない悔しさはすごくある。一方で県議会の水面下の動きがあるとのことで期待して、自分のハンガーストライキという抗議は終えたいと思う」と発表した。その後、メンバーに肩を担がれて車に乗り、病院へ向かった。

 5市長は参加表明に至ってはいませんが、ハンストの開始後、全県実施を求める支持者からの突き上げが一層強まり、公明党が県政与党側に歩み寄りを働き掛けるなど、解決を探る動きが急転直下で浮上したと、琉球新報は伝えています。例えわずかだとしても、現実の政治を動かしたようです。
 ※琉球新報「県民投票 高まる県民の不満 瀬戸際で妥協案急浮上」=2019年1月20日
 https://ryukyushimpo.jp/news/entry-863656.html

 新里米吉県議会議長は県民投票の全県実施に向け、全会一致による県民投票条例の改正について与野党調整に入ることを表明した。有権者の3割が投票できなくなる事態が想定される中で、投票事務を拒む5市長への批判とともに、事態打開に向けた動きのない県議会にも県内世論の不満は高まっていた。特に「辺野古」県民投票の会の元山仁士郎代表が宜野湾市役所前でハンガーストライキを始めてからは、全県実施を求める支持者からの突き上げは一層強まり、公明党県本が与党側に歩み寄りを働き掛けるなど政治的解決を探る動きが急転直下で浮上した。

 元山さんはハンスト中、ツイッターで情報発信していました。
 https://twitter.com/Jin46o?lang=ja

twitter.com

 また、15日から18日までの各日分、その日ハンスト中に出会った人たちとの会話や、自身が考えたこと、感じたことをブログに書き残しています。通読すると、あらためて県民投票の重み、ハンストの意義についての元山さんの思いが伝わってきます。そこにはわたしを含めて日本本土に住む人たちに向けられたメッセージも含んでいるように感じました。
 ここでは各日分の一部を引用して紹介します。

※「ハンスト1日目」
https://note.mu/jinshiro/n/n725ab0062e3f

note.mu

 暑い日差しの中、スーパーの入り口に立って集めた署名。
 目が不自由な方の代筆をしていただいた署名。
 18歳になったばかりの高校生が行なった初めての署名。
 少し考えが違うと言う学生と話しながらもらった署名。
 お腹に赤ちゃんがいるお母さんが駆けつけて書いてくれた署名。
 沖縄戦を体験したおじぃ、おばぁから、「がんばってよ」と声をかけられてもらった署名。
 彼らの手、声、表情が頭の中に焼き付いている。
 私以外にもたくさんの市民、県民が駆け回って集めた10万筆の署名。一人ひとりの県民投票実現の思いを決して無駄にしたくはなかった。
 だからこそ、県民投票を沖縄県民みんなで行いたい。
 私もいち宜野湾市民として2月24日に行われる県民投票で一票を投じたい。
  (中略)
 どうしたら市長に考え直してもらえるか。
 市民、県民、日本の人たちにこの不条理を伝えられるか。
 沖縄の先人たちもハンガーストライキという方法で世論に訴え、暮らしや権利を守り、勝ち取ってきた。
 私がいまそれをやることは何もおかしなことではないのではないかという思いに至った。
  (中略)
 今日、特に印象的だったのは、辺野古の基地ができる前の大浦崎収容所にいた方が来てくれたことだ。
 「あの海が埋め立てられ基地が作られるのは許せないし、投票できない市民がいるのはおかしい」ということを話してくれた。
 また、23時頃に小中学校の同級生・後輩の母親や高校の同級生が「久しぶり。がんばってるね」と来てくれたのも嬉しかった。 

 ※「ハンスト2日目」
https://note.mu/jinshiro/n/n30a13aa2871d

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 夕方に学校帰りの高校生6人が激励にきてくれたのは嬉しかった。ローラがアメリカ・ホワイトハウスに届ける署名をインスタに載せてたのがきっかけで、基地について考えるようになったと話していた。
 その高校生は新聞記事を読んで「沖縄の現状がおかしいと思ってる」と話してくれた。
 こういう行動していることをもっと周りの人に広めたいとも言ってくれて、本当に頭が下がる思いだった。
 高校生には、その時々での決断はあるが、すぐに賛成だとか反対だとかどっちかに決めきってしまう必要はなくて、ずっと悩んで考え続けるべきだと思うということを伝えた。自分もそういう風にしていると伝えた。
 そういえば、自分が高校2年生の頃(16~17歳)は基地や権利のことについて考えたこともなかったと思う。
 また、1996年に行われた「日米地位協定の改定の見直しと基地の整理縮小に関する県民投票」の時は、高校生は投票権がなかった。
 その時、投票権がなかった高校生が自主投票をやる動きがあった。今日来てくれた高校生には、先生方とも相談して、もし今回の県民投票でもそういう動きがあればものすごく応援したいと伝えた。

※「ハンスト3日目」
https://note.mu/jinshiro/n/n2102b7e3545f

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 今日は初めて右翼の街宣車の妨害があって16時から17時までの約1時間はだいぶ騒がしかった。署名に来てくださった方々が不安がらないように、毅然とした態度で外に立って見つめていた。
 警察の方も来られていて、直接の危害は加えられなかったので安心した。
 でも、精神的にはすごい疲れたなあ…。
 右翼の街宣車に乗っているおじさんたちがどこの市町村に住んでいるかわからないけど、2月24日に行われる県民投票でこの人達の意思表示もしっかりできるように、ハンガーストライキを頑張ろうと思った。
 (中略)
 昨日話しに来てくれた高校生がもう一度、友達を連れて応援に来てくれたのも嬉しかった。それ以外にも何人か制服を着た高校生が署名をしにきてくれて、沖縄の未来に希望を感じた。

※「ハンスト4日目」

https://note.mu/jinshiro/n/n15c611d53c47

note.mu

 少しダルさが増してきたように感じたので、朝の支度をした後は、1時間くらい仮眠をとろうと寝袋に入った。
 その矢先、ひっきりなしに飛び回るオスプレイの重低音が疲れた身体に堪える…。
 市役所や学校など公共施設の真上を飛ぶこの現状も踏まえ、改めて今回の県民投票のテーマ「辺野古米軍基地建設のための埋め立て」について考えたい。
 遠方からここに来てくださる方々もこれを感じ、考えてもらえたらと思った。
 (中略)
 朝から夜まで足を運んでくださる人が絶えず、励まされる。
 仕事終わりに、部活終わりに、家族連れで、カップルで…。
 特に私より歳下の人や赤ちゃんを連れた親御さんを見るのは微笑ましい。
 あるお母さんは、「この子がなんでご飯食べないのー?」って聞いてくるんです、と話してくれた。その子は不思議そうな目で私を見つめていた。
 いつか、「あの時あんな人がいたな~」って思い出して、自分はどうするのかを考えてくれるといいな。
 そんなことを思いながら、目を閉じて体を休める。届けてくれた湯たんぽが、体を芯まで温まる。
 5市長に県民投票への参加を求めるハンガーストライキを始めて4日が終わる。ハンストを行なっているこの場所でいろんな出会い、対話が生まれていることが何よりも嬉しい。

 安全保障や日米同盟、在日米軍基地などを巡っては、社会にいろいろな意見、考え方があって当然です。それは沖縄も沖縄県外の日本本土であっても変わりはないはずです。だから、普天間飛行場の移設、辺野古への新基地建設については、沖縄の人々が示す民意を受け止めて、日本の社会全体で考え、議論し、決めていくことが重要なのだろうと、元山さんの手記に触れて思いました。本土の側が無関心、あるいは見て見ぬふりのままは、あってはならないと思います。

 元山さんのハンスト終了は、20日付けの東京発行の新聞6紙(朝日、毎日、読売、日経、産経、東京)では、朝日新聞が社会面に見出し1段で11行の記事を掲載し、東京新聞は琉球新報の提供記事を、第2社会面に写真付きの3段の囲み記事で載せました。ネット上の各紙のサイトを見たところでは、毎日新聞は記事がありました。

 なお、沖縄県内の5市長が県民投票への不参加を表明していることに対しては、憲法学者の木村草太・首都大学東京教授が、県民投票の条例は、住民投票を実施するか否かの選択権、裁量を各町村に与えておらず、また5市長はいずれも県民投票が違憲・違法であることを説明できていないとして、「不参加方針の市の主張は、いずれも法的な事務遂行義務を否定する法律論になっていない。各市は、一刻も早く、投票事務の執行に取り掛かるべきだ」とする論考を沖縄タイムスに寄せています。
 ※沖縄タイムス:木村草太の憲法の新手(96)「県民投票への不参加問題 市の主張、法律論にならず」2019年1月20日
 https://www.okinawatimes.co.jp/articles/-/374571 

www.okinawatimes.co.jp

 木村氏は以前にも、市町村の県民投票への参加拒否は憲法違反に当たる、との論考を沖縄タイムに寄稿しています。特に「県条例は棄権の自由を認めているから、県民投票反対の県民は、市長や市議会議員に代表してもらわなくても、棄権という形で抗議の意思を表明できる。市民全員に棄権を強制することは不合理だ」との指摘は極めて分かりやすいと感じました。
 ※沖縄タイムス「木村草太氏が緊急寄稿 『県民投票不参加は憲法違反』」2019年1月10日
 https://www.okinawatimes.co.jp/articles/-/368131 

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