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石破新政権に厳しい新聞各紙~地位協定は沖縄の過重負担是正、解消の試金石

 石破茂・自民党総裁が10月1日、国会で首相に指名され、新内閣が発足しました。首相就任前から10月27日の衆院選投開票を表明したことに対し、自民党総裁選では、衆院解散は国会の論戦を経て有権者に選択の判断材料を示してから、と主張していたこととの整合性がないとして、石破首相への批判が強まっています。いとも簡単に前言を翻す首相が資質を問われるのは当然です。一方で、岸田文雄・前政権が民意から見放されていた状況に鑑みれば、1日も早い衆院解散・総選挙で、引き続き自民党と公明党に政権を委ねるのか否か、有権者の判断を仰ぐことは、それはそれで意味がないことではないと感じます。
 自民、公明の連立の枠組みが維持されるか、否定されるのか、あるいは勝ち負けいずれとも明確ではない結果になるのか。いずれにしても有権者の選択です。仮に裏金議員が、自民党の公認、非公認を問わず当選を果たすなら、それもやはり有権者の選択です。

 石破政権の発足を新聞各紙も大きく扱いました。デジタルでどのように報じているか、全国紙5紙(朝日、毎日、読売、日経、産経)と、東京で政治取材を展開している東京新聞の計6紙のデジタル版について、事実関係の中心的な記事(本記)と社説を見てみました。それぞれの見出しは以下の通りです。総じて、好意的に評価とは言い難く、厳しいトーンの指摘が並んでいると感じました。

 本記では、6紙のうち4紙(朝日、毎日、読売、東京)が、内閣の発足から間を置かず衆議院解散となることを見出しに取っています。東京新聞は批判的なトーンが明白で分かりやすい見出しです。
 解説では、朝日新聞も早期解散を厳しく批判しています。毎日新聞は「政治とカネ」を最優先の課題と指摘し、安全保障の政策の危うさを強調した後に、早期解散に対しても批判しています。
 読売新聞の社説は趣が異なっています。石破首相が主張を翻し早期解散を表明したことを、自民党の主張を受け入れたためと指摘し、それを批判するわけではなく、「政権運営の主導権が官邸から党へ移行する予兆が見て取れる」との分析を示しています。
 産経新聞の社説(「主張」)は、早期解散に対して「丁寧な質疑を避けようとしているのは残念である」と批判しつつ、中心は安全保障政策や憲法改正を巡る石破首相への注文です。人事面でも、自民党総裁選を戦った高市早苗前経済安全保障担当相の処遇について「党ナンバー2の幹事長への就任を求めず、総務会長を打診し固辞された」と批判をにじませた表現になっているのが目を引きました。

 わたしが石破首相と政権への判断の基軸に置いているのは、日米地位協定の改定です。自民党総裁選のさなかに、石破首相が沖縄の地で表明しました。沖縄の過重な基地負担を是正すると言うのなら、絶対に実現させなければならない公約です。
 地位協定改定について、朝日新聞と読売新聞、産経新聞は本記で触れています。読売新聞は以下のように、石破首相の記者会見での発言を比較的詳しく紹介していますが、肯定的な評価とは言い難いトーンです。

 首相がかねて主張する日米地位協定の見直しを巡っては、「日米同盟をより強固なものにするためで、日米が果たす義務に変化はない」と強調し、「必要に応じて自民党での議論を求める」とした。一方、「首相になったからといって、いきなり実現するとは思っていない」とも語った。地位協定見直しには米国内で懸念が出ており、今後の政権対応が問われる。

 毎日新聞の社説は、ほかの安保政策も含めて「戦後の外交・安保政策を大転換させるもので、米国との同盟関係にあつれきを生みかねない。憲法改正も必要となる。国民の理解が得られるとは到底思えない」と懐疑的です。日経新聞の社説も「現実を見据え、優先順位をつけて丁寧に取り組まなければならない」としています。

 基地があるために、他の地域ではありえない負担を沖縄は強いられています。沖縄に対する差別とも言うべき現状の是正、解消は、ほかの政治テーマと同列に置いてはなりません。最優先に是正されなければならない課題です。それなくしては、沖縄に負担を強いている日本本土の側、日本本土に住む主権者は、差別の当事者であることを免れ得ません。
 この公約を石破首相が守るかどうかは、沖縄の過重負担の是正、解消に本気で取り組むのか、その試金石にもなります。東京で政治報道を展開しているマスメディアは丁寧に報じていく役割と責任があります。

 沖縄の地元紙の一つ、沖縄タイムスの10月2日付社説の一部を書きとめておきます。石破政権に対する沖縄の目は厳しいことを、石破首相はもとより、本土マスメディアも知るべきです。

■沖縄タイムス「石破内閣発足 首相は審判材料を示せ」

 沖縄関係の閣僚にはおなじみの顔ぶれも並ぶ。
 外相の岩屋毅氏は防衛相だった2019年、名護市辺野古の新基地を巡る県民投票で、7割が反対の意思を示したことを受けて「沖縄には沖縄の、国には国の民主主義がある」と発言して批判を浴びた。
 国交相には斉藤鉄夫氏が再任された。辺野古新基地建設を巡って、代執行の強権を振るい設計変更申請を承認した当事者である。
 防衛相は中谷元氏の再登板となった。かつて在沖米軍基地について「九州にも分散できるが県外での抵抗が大きい」と発言。米軍基地の自衛隊との共同使用について安倍晋三政権時代に提案した経緯もある。
 沖縄の基地問題に携わった経験のある布陣だ。実効性ある基地負担軽減策や、石破首相が言及した日米地位協定の改定を着実に進めてもらいたい。

 大学の非常勤講師でも学生たちに繰り返し説明したことですが、新聞の社説、論説を読み比べてみることで、社会にある意見の幅を知ることができます。石破内閣の発足は、「安倍政治」の流れに区切りを打つ始まりになるのかどうか、日本社会の大きな節目になる可能性をはらんでいます。ぜひ、多様なものの見方や意見に接してほしいと思います。
 ※全国紙各紙と東京新聞(中日新聞と共通)の社説は、ネット上で全文、無料で読むことができます。
・朝日新聞
 https://www.asahi.com/rensai/list.html?id=16&iref=pc_gnavi
・毎日新聞
 https://mainichi.jp/editorial/
・読売新聞
 https://www.yomiuri.co.jp/editorial/
・日経新聞
 https://www.nikkei.com/opinion/editorial/
・産経新聞
 https://www.sankei.com/column/editorial/
・東京新聞
 https://www.tokyo-np.co.jp/n/column/editorial?ref=gnb_pc_lv2