東京大空襲をくぐり抜け、黄金色に輝くイチョウ

 以前このブログで、1945年3月10日の東京大空襲で焼かれながら、戦後に再び若芽を吹いた東京下町の神社のイチョウの木を紹介しました。ふと思い立って先日、そのうちの東京都墨田区押上にある飛木稲荷神社に足を運んでみました。
 最初に訪ねたのは1月で、寒空の中に太い幹が立っているだけでしたが、今回はこんもりと生い茂った葉が一部は黄色く染まり、一部は黄緑から黄色へと変わりゆく最中でした。日差しを浴びて黄金色に輝くさまに、強靭な生命力を感じました。静かな秋の日の午後。この平和な時間が続くようにと願いました。

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※飛木稲荷神社 東京都墨田区押上2−39−6
 京成、東武、東京メトロ半蔵門線の各「押上駅」から徒歩

news-worker.hatenablog.com

民意から浮かび上がる「安倍改憲のジレンマ」

 先日の週末に実施された世論調査の結果がいくつか報じられています。目に止まった主な内容を備忘を兼ねて書きとめておきます。
 安倍晋三内閣の支持率は53・1~44%。過去のどの時点の調査結果と比較するかによって差異はありますが、上昇・安定傾向にあると言ってよいと思います。では安倍首相への評価や期待が高いのかと言えばそうでもないようで、来年秋に予定される自民党総裁選で安倍首相が3選されるのがよいかどうかを尋ねた調査では、いずれも否定的な回答が過半数でした。自民党政権への支持は必ずしも安倍首相への支持ではない、という傾向が続いています。民意は「安定の中での変化」を志向しているようにも思えます。
 憲法改正を巡っては、国会の発議は急ぐべきかどうかを尋ねた毎日新聞の調査では「急ぐ必要はない」が66%に上り、「急ぐべきだ」の24%を大きく上回りました。議論を促進すべきだと思うかどうかを尋ねた産経新聞・FNNの調査では、促進すべきと思うが59・0%です。議論はいいが、発議は急ぐ必要がないとの民意が浮き彫りになっているように思います。

 興味深く読んだのは産経新聞の「自衛隊明記 賛成59%/朝日・共同は逆転 なぜ?」の記事です。憲法9条1項、2項の条文はそのままに、自衛隊の存在を明記するとの安倍首相と自民党の改正案について、産経新聞・FNNの調査では賛成が59%を占めたのに対し、朝日新聞や共同通信が以前に実施した調査では反対が賛成を上回っていました。
 記事によると、産経新聞・FNN調査の質問は「憲法9条の条文を維持した上で、自衛隊の存在を明記することに賛成か」と聞いていました。一方、朝日新聞や共同通信は「安倍政権のもとで」「安倍首相は」という表現を加えた上で、9条改正への賛否を聞いていました。産経新聞の取材に埼玉大社会調査研究センター長の松本正生教授(政治意識論)は「自衛隊を憲法に位置づけるのは理解できるから、その賛否を問う文脈では賛成が多くなる。ところが、質問で『安倍首相のもとで』と前置きされると、『近いうちに改憲の国民投票に持ち込むのか』と感じ、回答者の受け止め方、つまり文脈が変わってしまう。改憲よりも経済再生などを優先すべきだと考え、結果的に反対が多くなるのではないか」との見方を示しています。議論は結構だが発議は急ぐべきではない、との民意とも符合しているように思えます。

www.sankei.com

 私なりの仮設ですが、結局のところ、自民党政権である安倍晋三内閣の支持率と安倍晋三氏個人への期待に落差、乖離がある一因は、安倍氏が憲法改正、中でも9条改正を宿願としていることにあるように思えます。民意は性急な9条改正を望んでいないので、安倍氏が9条改正を主張すればするほど安倍氏への期待は低下する、別の人に政権を担ってほしいとの要請が強まる、しかし安倍氏が自民党総裁3選を果たして実現したいのは9条改正―。これはジレンマです。仮に「安倍改憲のジレンマ」と呼びます。このジレンマが続くのか、今後、どのような民意が示されるのか、注視していこうと思います。

 以下は、マスメディア各社の世論調査の主な項目の質問文と結果です。

▼内閣支持率 ※カッコ内は前回比、Pはポイント
・朝日新聞 11~12日実施 支持44%(2P増) 不支持39%(変わらず)※前回10月23~24日
・毎日新聞 11~12日実施 支持46%(10P増) 不支持36%(6P減)※前回9月26~27日
・産経新聞・FNN 11~12日 支持47・7%(5・2P増) 不支持42・4%(3・9P減)※産経新聞・前回10月14~15日
・NHK 10~12日実施 支持46%(7P増) 不支持35%(7P減)※前回10月7~9日
・TBS 11~12日実施 支持53・1%(4・4P増) 不支持45・8%(3・4P減)※前回10月14~15日

▼安倍晋三首相の続投について
・毎日新聞:「安倍晋三首相は自民党総裁として現在2期目で、任期は来年9月までです。安倍首相が3期目も引き続き自民党総裁を務めた方がよいと思いますか。」
 総裁を続けた方がよい 35%
 代わった方がよい 53%
・産経新聞・FNN:「来年(2018年)秋に予定される自民党総裁選挙で、あなたは、安倍首相が再選されるのが望ましいと思いますか、それとも安倍首相以外の人が選ばれるのが望ましいですか。」
 安倍首相の再選が望ましい 41・5%
 安倍首相以外の人の選出が望ましい 51・9%
・TBS:「安倍総理は自民党総裁としては現在2期目で、任期は来年9月までです。あなたは、安倍総理が3期目も自民党総裁を続投することに賛成ですか、反対ですか?」
 賛成 36%
 反対 54%

▼憲法改正
・毎日新聞
 「憲法9条の1項と2項はそのままにして、自衛隊の存在を明記する改正案に賛成ですか。反対ですか」
 賛成 33% 反対 29%
 「衆院選の結果、憲法改正に前向きな勢力が衆院の3分の2を超える議席を維持しました。国会が改憲案の発議を急ぐべきだと思いますか。」
 急ぐべきだ 24% 急ぐ必要はない 66%
・産経新聞・FNN:「憲法に関する次のそれぞれの質問について、あなたのお考えをお知らせください。」
 「国会は、憲法改正に関する議論を促進すべきだと思いますか、思いませんか。」
 思う 61・0% 思わない 32・6%
 「あなたは、憲法9条の条文を維持したうえで、自衛隊の存在を明記することに賛成ですか、反対ですか。」
 賛成 59・0% 反対 29・1%

苦情の矢面に立つ職員にも謝罪の姿勢なし~“メディア初登場”の佐川国税庁長官

 国税庁長官の佐川宣寿氏と言えば、前財務省理財局長として、大阪市の学校法人「森友学園」への国有地売却問題の国会答弁で事実確認や記録の提出を拒み続け、批判を浴びたことで知られます。国税庁長官という昇格人事に対しても疑問視する声がありました。国税庁長官に就任後も、歴代長官が恒例としてきた就任記者会見についても、記者から森友学園の問題で追及を受けるのがよほど嫌なのか、避け続け、ごく短いコメントで抱負を公表したのみで今日に至っています。その佐川氏の、ある意味では“メディア初登場”と言ってもいいのかもしれません。国税庁職員の労働組合である「全国税労働組合」との間で10月4日に開かれた団体交渉に佐川長官が出席。そのやりとりの様子が10月25日発行の機関紙「全国税」に掲載されました。

 労使の団体交渉の性格上、森友学園の問題に直接触れたやり取りはなかったと思われますが、それでもやはり組合側の発言からは、佐川氏が批判にもかかわらず昇格ポストの国税庁長官に就いたことで、全国の税務署の職員が納税者からの批判にさらされていることがうかがえます。そしてそのことに対して佐川氏はと言えば、「職員の皆さんが高い使命感を持って職務に精励していることに感謝申し上げる」とまるで他人事のような形式的な発言しかしていません。「全国税」は「職員へ謝る姿勢なし」「職員が苦情の矢面に」との見出しを立てています。掲載されているやり取りの一部を引用します。 

 委員長 定員削減に歯止めをかけてもらいたい。また、「できないものはできない」とのスタンスでなければ、職員の生活と健康は守られない。佐川長官の理財局長時の森友事件に関わる言動に国民から批判があり、職員は批判の矢面に立たされている。現場で苦悩する職員へ、何らかの言葉を発するべきだ。
 長官 職員の皆さんが高い使命感を持って職務に精励していることに感謝申し上げる。事務の簡素化、効率化に務めながら、職員の健康にも配慮し、明るく風通しのよい職場を作りたい。
 全国税 法定外資料を提出した納税者から、「来年からは提出しない。信用できない」と言われた。消費税無申告事案の調査で、領収書がない仕入税額の否認では、「おたくのトップは

認められるのに」と言われた。
 総務課長 今後とも適正な職務に努めてほしい。 

 税金はあらゆる公共の業務の中でも、もっとも公正性と透明性が必要なのに、その業務の元締めである国税庁長官に佐川氏が就き、しかもマスメディアの取材にも応じず、対国民、納税者に対して沈黙を続けていれば、納税者の不信と怒りを招くのは当然だろうと思います。その批判に現場の国税職員がさらされ続けるなら、やがては職務に対するモラルハザードを起こさないとも限らないでしょう。なのに佐川氏は職員に謝罪することもありません。本気で「感謝申し上げる」とひと言しゃべってすむ、それで組織の士気と規律が維持できると考えているのでしょうか。

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 機関紙「全国税」は、全国税のサイトからPDFファイルでダウンロードすることができます。
 ※全国税トップ http://www.kokko-net.org/zenkokuzei/index.htm
 記者会見を始めマスメディアの取材を避け続けている佐川氏ですが、団体交渉からは逃げるわけにいかなかったようです。団交にそれだけの重みを持たせる活動の積み重ねが全国税にはあるということだろうと思います。機関紙をサイト上で公開している透明性も含めて、全国税の活動に敬意を表します。

トランプ米大統領の「威嚇」と日本、憲法9条~思い起こすゲーリングの警句

 トランプ米大統領は日本に続いて11月7、8日に韓国を訪問。8日午前に韓国の国会で演説し、核・ミサイル開発をやめようとしない北朝鮮に対し「米国を過小評価するな。我々に挑んではならない」(朝日新聞の記事より)などと述べたと報じられています。朝日、毎日、読売3紙の東京発行8日夕刊ではそろって1面トップの扱い。主見出しは以下のようにそれぞれトランプ大統領の発言から取っています。
 ・朝日「『北朝鮮は我々に挑むな』」
 ・毎日「米大統領『我々を試すな』」
 ・読売「『野蛮な北 孤立させる』」

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 共同通信が新聞掲載用に配信した演説の詳報をみると、最初から最後まで徹頭徹尾、北朝鮮を激しい言葉で批判する内容で、言葉のトーンとしては罵倒に近いと感じます。何より目を引くのは、冒頭で「朝鮮半島周辺には現在、世界最大の空母3隻が展開している」「米国は現政権下で軍事力を徹底的に再建し、数千億ドルを投じて最新鋭で最高の装備を世界各地でととのえている。私は力による平和を求めている」と、まず米国の軍事力を誇示していることです。演説の最後でこそ、「脅迫行為をやめ核計画を廃棄する場合に限り、北朝鮮の明るい未来について話す用意がある」としていますが、全体から受ける印象は、「米国は北朝鮮に対して武力行使も辞さない」との強硬姿勢だと感じます。
 日本のマスメディアはそろって、この演説を北朝鮮に対する「警告」と表現していますが、トランプ大統領が朝鮮半島に乗り込み、周辺海域に展開させている強大な軍事力を背景に攻撃的な演説をしているさまは、「威嚇」と表現してもいいように感じます。ちなみに北朝鮮は11日になって、トランプ大統領の演説に対し「われわれの思想と制度を全面拒否する妄言を並べ立て、わが国を悪魔化した」と非難する外務省報道官談話を発表しました。共同通信の報道によると、トランプ大統領が「力による平和」を追求すると述べたのに対し「米国と力の均衡を実現し、主権と生存権を守るというのがわが国の立場だ」と反論。「われわれが核を保有したのは、米国の核の威嚇から国の主権と尊厳を守るための不可避な自衛的選択だ」と改めて核開発を正当化しました。

 トランプ大統領が誇示した「世界最大の空母3隻」は日本海に入り、11日に韓国海軍との合同演習を始めたと報じられています。韓国軍によると「北朝鮮の核・ミサイルによる挑発の抑止」を目的に、14日まで実施。海上自衛隊も参加するとのことです。

※47news=共同通信「米空母3隻、韓国軍との演習開始/日本海、北朝鮮情勢緊迫も」2017年11月11日
https://this.kiji.is/301867471600764001?c=39546741839462401

【ソウル共同】米韓両海軍は11日、米原子力空母3隻が参加して日本海で実施する合同演習を開始した。在韓米軍関係者が明らかにした。韓国軍によると「北朝鮮の核・ミサイルによる挑発の抑止」を目的に、14日まで実施。北朝鮮は朝鮮半島周辺を含む海域への空母展開に強く反発しており、情勢は再び緊迫しそうだ。演習には日本の自衛隊も加わる。
 米海軍によると、西太平洋で空母3隻が演習するのは2007年以来、10年ぶり。 

 こうした軍事行動に対してマスメディアは従来から「圧力」や「牽制」などの用語を使っています。しかし空母3隻という強大な攻撃力を誇示しながら核・ミサイル開発の放棄を迫ることは、まさに軍事力による「威嚇」ではないのかと感じます。そしてそこに自衛隊も加わるのだとしたら、見過ごすわけにいかないのは憲法9条との兼ね合いです。 

第9条 日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する。
2 前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない。 

 日本国憲法が国際紛争を解決する手段として放棄しているのは戦争だけではありません。武力による威嚇、武力の行使も含まれます。
 手元にある憲法の概説書(芦部信喜「憲法 新版補訂版」岩波書店 1999年)によると、9条が放棄を定めている「国権の発動たる戦争」とは単に戦争というのと同じ意味であり、宣戦布告または最後通牒によって戦意が表明され戦時国際法規の適用を受けるものを言う、と定義しています。「武力の行使」とはそういう宣戦布告なしで行われる事実上の戦争、実質的意味の戦争のことであり、満州事変や日中戦争を例示しています。「武力による威嚇」とは、日清戦争後の1895年の独仏露の対日三国干渉のように、武力を背景にして自国の主張を相手国に強要することと解説しています。
 今、北朝鮮に対して米国が行い、そこに日本も参加する軍事力を誇示しての圧力は、まさに「武力による威嚇」に該当しないでしょうか。もちろん、憲法解釈には異なった説もあります。自衛権を巡る論議もあって事はそれほど単純ではないでしょうし、政府は現に自衛隊を参加させている以上、合憲の見解なのでしょう。しかし、どれだけ北朝鮮の脅威が深刻であろうと、仮にも「威嚇」の形であっても自衛隊という軍事力の発動が既成事実化し、結果として憲法がないがしろにされるのであれば、日本はもはや立憲主義国でもなく法治国家でもない、何よりも平和主義を放棄したことになります。控え目に言っても、平和主義の後退です。少なくとも国会で、米軍の軍事的圧力、示威行動に自衛隊が参加することの意味合いを議論すべきだと思いますし、国会審議を待たずとも、マスメディアが問題の所在を提起していくのは大きな役割の一つのはずです。

 なお、上記の概説書(芦部信喜「憲法 新版補訂版」)によると、日本国憲法の「平和主義」は前文に「平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意した」と表現されています。これは国際的に中立の立場からの平和外交、および国際連合による安全保障を考えていると解釈できます。単に自国の安全を他国に守ってもらうという消極的なものではなく、平和構想を提示したり、国際的な紛争・対立の緩和に向けて提言を行ったりして、平和を実現するために積極的行動を取るべきことを要請しているものです。そういう積極的な行動を取ることの中に日本国民の平和と安全の保障がある、という確信を基礎にしていると同書は解説しています。この平和主義を具体化したのが9条です。
 こうした解釈は現在の憲法改正論議の中で、どこまで共有されているでしょうか。もちろん異説があるのは当然ですし、そのことも含めて、改憲の方向性を論議する前に、まず現憲法の解釈と運用の状況を共有することが何をさておいても必要だと感じます。改憲論ではよく憲法が現状に合わなくなっているということが言われますが、見方の違いによっては、憲法が遵守されていない、ということにもなります。そうした食い違いがあること自体を社会全体で共有しておかなければ、社会は分断の方向にしか進まないのではないかと危惧しています。

 自衛権で思い出すのはイラク戦争です。米国はイラクが大量破壊兵器を保有していると主張し、国連の支持を欠いたまま、英国とともに自衛権の先制行使の理屈で戦争を始めましたが、今日では大量破壊兵器はイラクにはなく、大義なき戦争だったことが明らかになっています。この戦争を契機に中東は混迷の度を深め、過激派組織の「イスラム国」が台頭する要因にもなりました。「攻撃を受けるかもしれない」ないしは「攻撃を受けつつある」という時ほど、一層の冷静さが必要であることは、歴史の教訓です。

 ここでもう一つ思い出すのは、ナチスドイツの大立者だったゲーリングが戦後に残した言葉です。国民はだれも戦争を望まないが、戦争に駆り立てるのは簡単なことだ、我々は攻撃されかかっているとあおり、平和主義者のことは愛国心が足りない、と言えばよい、これはどんな国にも当てはまる―。歴史の教訓を社会で共有しなければならないと思います。

※参考過去記事

news-worker.hatenablog.com

 

※追記 2017年11月12日19時55分

 朝日新聞によると、海上自衛隊と米海軍の原子力空母3隻の艦隊が12日、日本海で共同訓練を実施しました。ただし日本政府関係者によると、日米両政府は3隻の空母が日本海に集結するタイミングをとらえ、韓国も含めた3カ国の共同訓練を検討したものの、韓国側との調整がつかず見送ったということです。

www.asahi.com

あからさまに武器購入増を求めたトランプ大統領~日米首脳会談のニュースバリュー

 米国のトランプ大統領が11月5~7日、日本を訪問しました。5日は東京の米軍横田基地に大統領専用機で乗り付け、安倍晋三首相とゴルフ。6日は天皇と会い、その後、安倍首相との首脳会談、北朝鮮拉致被害者の家族との面会を経て、安倍首相との共同記者会見に臨みました。トランプ、安倍両氏の発言としては、この記者会見が大きく報じられています。
 今回の来日で最大の焦点は北朝鮮の核・ミサイル開発への対応が最大の焦点でした。2人の間では様々な話がされたのでしょうが、会見で明らかにされたことはそれほど多くなく、安倍首相は、「全ての選択肢がテーブルの上にある」とのトランプ氏の立場を一貫して支持していること、北朝鮮の政策を変更させるため、圧力を最大限にまで高めていくことで完全に一致したことを強調しました。いずれも目新しい内容ではありません。
 それよりも驚いたのは、トランプ大統領があからさまに米国製の武器の購入増を要求し、安倍首相が受け入れるかのような答えをしたことです。備忘を兼ねて、この部分の発言を共同通信が新聞向けに送信した詳報から引用します。 

 トランプ氏 首相は大量の(米国製)軍事装備を購入するようになるだろう。そうすれば、ミサイルを上空で撃ち落とせるようになる。先日、サウジアラビアが(イエメンから発射されたミサイルを)即時迎撃したように。米国は世界最高の軍事装備を保持している。F35戦闘機でもミサイルでも(米国から買えば)米国で多くの雇用が生まれ、日本はより安全になるだろう。
 首相 防衛装備品の多くを米国から購入している。安全保障環境が厳しくなる中、日本の防衛力を質的にも量的にも拡充していきたい。米国からさらに購入していくことになるだろう。 

 来日前、トランプ大統領が複数の東南アジア諸国の首脳に、日本は北朝鮮のミサイルを迎撃すべきだったと話したとの報道がありました。発言の意図がよく分かりませんでしたが、今にして思えば、日本に米国製の武器購入を迫る伏線だったのでしょうか。あるいは、うがった見方かもしれませんが、日米2国間の自由貿易協定(FTA)交渉には応じたくない日本側の足元を見透かし、「ならば武器を買え」と要求しているのでしょうか。
 いずれにしても、抽象的な内容が多かった共同記者会見の中で、この部分は非常に具体的で、トランプ大統領はF35などと個別の商品名まで持ち出しています。北朝鮮への対応で米国と一体化していることを誇示したい一方で、日米の通商問題には触れたくない安倍首相が、トランプ大統領にいいように―言葉は悪いですが―付け込まれて、「それなら武器を買え」となったのではないかと感じます。安倍首相にとっては、それもまた米国との軍事面での一体化強化につながり、北朝鮮への圧力最大化の一環となる意味もありそうです。対中国外交にとっても、歓迎すべき方向かもしれません。この武器購入増の要求は、目新しさ、予想外という意味でも、日本社会の今後に影響は決して小さくないという意味でも、大きなニュースバリューがあったと感じています。

 首脳会談翌日の東京発行新聞各紙の7日付朝刊1面は以下の写真のようでした。
 この「武器購入増」を1面の見出しに立てたのは東京新聞のみ。朝日、日経、産経は総合面や政治・経済面に見出しを立てていました。地方紙に掲載されることが多い共同通信の新聞用配信記事では「日米、北朝鮮へ圧力最大化/貿易是正・武器購入要求/トランプ氏、首脳会談で/ 中国にらみ新海洋戦略」と、2本目に入れていました。

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 朝日新聞のコラム天声人語はトランプ氏について「接待されつつ売り込みもできるとすれば、これほど優秀なビジネスマンはいない」と書いています。ゴルフに高級和牛の会食、歌手のピコ太郎さんまで呼んでの接待の上に、武器も買わされるのが安倍政権の対米外交なのでしょうか。北朝鮮に対して米国が武力行使に出れば、朝鮮半島はもちろん、米軍基地がある日本も戦火は免れず、住民にも犠牲が出ることが容易に予想されます。武力行使は控えるべきだと、安倍首相がトランプ大統領に直に訴えることが国民の生命と財産を守ることだろうと思いますし、拉致被害者の救出にも必要なことだと思います。

来秋以降の安倍首相続投、「続けてほしくない」51%(共同通信)、「反対」46%(読売新聞)~議席数とにやはり落差

 第4次安倍晋三内閣が成立したことを受けて11月1、2日に共同通信と読売新聞がそれぞれ実施した2件の世論調査の結果が報じられています。
 内閣支持率は共同通信調査で49・5%、読売新聞調査は52%と、50%前後の水準です。一方で、共同通信調査では、安倍氏が来年秋の自民党総裁選で3選を果たして首相を続けてほしいは41・0%、続けてほしくないは51・2%でした。読売新聞調査では質問で自民党総裁選には触れていませんが、来年9月以降も首相を続けることに賛成か反対かを尋ねており、結果は賛成43%、反対46%でした。総合して考えると、民意は安倍政権に一定の支持を与えているものの、今後も安倍氏に首相を続けてほしいとは必ずしも考えていない、ということになるのでしょうか。衆院選の結果が判明した直後から指摘されているように、安倍政権への支持の状況と自民党が獲得した議席数にはやはり落差があります。
 個別のテーマや政治課題では、共同通信の調査で憲法9条に自衛隊を明記する安倍晋三首相の提案への賛否を尋ねたところ、反対は52・6%で、賛成38・3%を上回りました。また安倍首相の下での憲法改正に50・2%が反対、賛成は39・4%でした。共同通信は記事で「首相は1日の記者会見で、改憲に関し、自民党内で具体的な条文案の策定を急ぐ考えを示したが、国民の理解が広がっていない実態が明らかになった」と指摘しています。
 読売新聞の調査では、北朝鮮問題について国際社会が北朝鮮との対話と圧力のどちらを重視すべきかと尋ねており、結果は「対話重視」48%、「圧力重視」41%でした。今年9月までの調査では「圧力」が多かったのが逆転しました。読売新聞の記事は「北朝鮮情勢が緊迫の度合いを増していることなどが影響した可能性がある」としています。安倍首相は「圧力」一辺倒ですが、支持を得ているとは言い難いようです。

麻生副総理「北朝鮮のおかげ」発言が示すもの~国民を守る責任が希薄になっていることを露呈していないか

 少し前のことになりますが、麻生太郎副総理兼財務相が10月22日投票の衆院選で自民党が圧勝したことについて「明らかに北朝鮮のおかげもある」と述べたことが報じられました。この発言がどんな意味を持っているのか、現在の社会状況の中でどんなふうに位置付ければいいのかを考えています。麻生氏にはこれまでにもいろいろと物議を醸す発言があり、「またか」と言う気もしないではありません。この発言についても深い意味はなく、北朝鮮の核・ミサイル開発に対する自民党・安倍晋三政権の対応方針が支持されたということを言いたかったのだろう、という見方もされているようです。しかし、それほど単純な話ではなく、本当の意味で国民の生命と財産を守り抜く政府の責任が見えにくく、希薄になっていることを図らずも示してしまったのではないかと感じます。
 まず先の衆院選です。安倍首相は衆院解散の理由に、少子化社会とともに北朝鮮の脅威を「国難」として挙げ、「国難突破解散」だと主張しました。「大義なき解散」として批判されたこの解散について、安倍首相が最初に相談したのが麻生氏だったと報じられています。麻生氏は自分が首相の時には、衆議院の任期満了が近い窮屈な日程の中で、不本意な解散を強いられて政権を民主党に渡した経験から、少しでも有利な時期のうちに解散するのが良いと、安倍氏に賛意を伝えたことが解散前後の新聞各紙の検証記事で報じられました。つまりは、10月22日投票に至る衆院解散、衆院選公示の日程は、少しでも自民党にとって有利な時期を狙ったものであって、いわば北朝鮮の脅威を選挙勝利のために〝政治利用〟したものではなかったのか。そして麻生氏の「おかげ」発言は、その本音が図らずも口をついて出てしまったのではないか―。わたしにはそのように思えます。
 「国難突破解散」を振り返っても、そこで安倍首相からは、どうやって北朝鮮の核・ミサイル開発を止めるのか、そのビジョンは何も示されず、ただ圧力を加えることだけが強調されました。ロシアのプーチン大統領が「雑草を食べててでも核開発をやめないだろう」と言い切った北朝鮮が相手なのに、とても戦略と呼べるような対処方針ではありません。何よりも危ういと感じるのは、11月5日に来日するトランプ米大統領に対して安倍首相が、軍事力行使を含めてすべての選択肢がテーブルの上にあるとするトランプ氏の方針を全面的に支持することを直接伝えると報じられていることです。仮に米国が北朝鮮に軍事力を行使すれば、出撃拠点に在日米軍基地も含まれ、自衛隊も米軍と緊密に行動することになるでしょう。その日本に対して、北朝鮮が攻撃してくるのは軍事の常識です。そういう事態をも安倍政権は受け入れる覚悟が既にできていると、トランプ大統領が受け取ってしまうのではないか。
 現在、日本にとってもっとも現実味を持って危惧される軍事的な危機は、北朝鮮から日本への先制攻撃よりも、先の行動が読めないトランプ氏による米国から北朝鮮への先制攻撃であり、それに対する北朝鮮の反撃によって日本も戦火に巻き込まれることのように思えます。そういう事態を招かないようにすることが、国民の生命と財産を守る政府の責任のはずですが、安倍政権はどこまでそのことを自覚しているのか。麻生氏の「おかげ」発言から感じられるのは、疑念ばかりです。

※47news=共同通信「麻生氏『北朝鮮のおかげも』/自民大勝の衆院選結果」2017年10月26日
 https://this.kiji.is/296257624994907233?c=39546741839462401 

 麻生太郎副総理兼財務相は26日、東京都内の会合であいさつし、自民党が大勝した先の衆院選結果について「明らかに北朝鮮のおかげもある」と述べた。政府、与党の北朝鮮対応が有権者に評価されたとの趣旨とみられるが、北朝鮮による挑発が続く中で、不適切な発言だとの指摘を受ける可能性もありそうだ。 

 そういう状況の中で、もう一つ気になるのは、全国各地で続くミサイル避難訓練です。報道で目にした範囲ですが、最近の事例では、10月24日に静岡県の大井川鉄道で電車の乗客を対象にした避難訓練が行われ、翌25日には長野県軽井沢町のJR軽井沢駅でも実施されました。10月30日に岡山県倉敷市のくらしき作陽大学で実施された訓練は、学生のアイデアを受けて、大学側が市に訓練を提案して実施が決まったと共同通信は報じています。

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 1週間の間に各地で3回。私たちの社会でミサイル避難訓練は日常の光景になっているように感じます。仮にミサイルが落下してきたら、仮に爆薬が装てんされていたら、屋外にいるか屋内にいるかなどで、生死が分かれることがあり得るでしょう。ですから訓練に意味がないとまで言うつもりはありません。しかし、こうした訓練のニュースに接するたびに違和感を覚えます。その違和感が何に由来するのか、突き詰めて考えれば、ミサイルは避けようがない自然災害とは異なる、ということです。北朝鮮にミサイルを撃たせないことが最も重要なはずであり、本来は訓練の徹底よりも、ミサイルを撃たせないことこそが国土や国民の生命、財産を守る政府の責任のはずです。ミサイル避難訓練が日常化することによって、その政府の責任が見えにくくなっていないでしょうか。何より、その責任を安倍政権はどこまで深く自覚しているのか。麻生氏の「北朝鮮のおかげ」発言からは、やはり疑念しか浮かびません。

 韓国の文在寅大統領は11月1日に韓国国会で「どんな場合でも、朝鮮半島で武力衝突はあってはならない」「韓国の事前同意のない軍事行動はあり得ない」と言明したと報じられています。安倍政権と落差を感じずにはいられません。

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【追記】2017年11月3日21時

 以下に、長野県軽井沢町で行われた避難訓練の模様を伝える信濃毎日新聞の記事から一部を引用します。参加者の感想も、決して一様ではありません。マスメディアは「日頃の訓練が大事」との声だけでなく、様々な感想や意見を紹介することが必要だと感じます。

※信濃毎日新聞「軽井沢ミサイル想定訓練 参加者住民 理解と違和感」=2017年10月26日 

 田中英昭さん(74)は駅構内の奥に身を隠した。やはり「何が起きるか分からないから」訓練にも意味はあると考えるが、「軽井沢にはいつも土地勘のない観光客が大勢いる。そうした人たちはどうなるのか」とも思った。
 コインロッカー脇で身をかがめた男性(70)は、「ミサイル飛来」という漠然とした前提で「大々的に訓練をするのはどうか」と感じた。破片、通常弾頭、核弾頭…。「何がどこに落ちてくるのか分からない」と話した。
 訓練後、軽井沢駅から約1キロ離れた全長439メートル、幅4・8メートル、高さ5・3メートルの旧信越線トンネルで行われた見学会でも、想定と現実との落差を指摘する声が漏れた。
 町はもう1本のトンネルと合わせて約2600人が避難できると見込むが、参加者からは「ここに来るまでに時間がかかるね」。北朝鮮のこれまでの弾道ミサイル発射実験でも、ミサイルはごく短時間で日本上空を飛び越え、太平洋上に落下していた。「高齢者や車いす利用者には難しい」との声もあった。

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