日米に冷静さ求める地方紙・ブロック紙~北朝鮮の核・ミサイル問題で挑発の応酬、不測の事態を危惧

 北朝鮮の核・ミサイル開発問題を巡って、米国と北朝鮮の間で激しい言葉の応酬が始まっています。気になる動きを、報道を元に備忘を兼ねて書きとめておきます。 

 ■「ロケットマン」「完全に破壊」「必要なのは対話でなく圧力」

 まずトランプ米大統領が19日夜(日本時間)、国連総会の一般討論で初となる演説を行いました。北朝鮮を激しく非難。その中で、北朝鮮が弾道ミサイルの発射実験を繰り返していることから、金正恩・朝鮮労働党委員長をやゆするかのように「ロケットマン」と呼び、「自殺行為を行っている」と述べました。また、北朝鮮の脅威により米国が自国や同盟国の防衛を迫られれば、北朝鮮を完全に破壊するしか選択肢がなくなるとして、武力行使を警告しました。 スパイ教育のために海岸から13歳の日本人の少女を拉致したとも述べ、横田めぐみさんの拉致にも触れました。

 次に安倍晋三首相が21日未明(同)、一般討論演説をしました。北朝鮮の核実験と日本列島越えの弾道ミサイル発射を「脅威はかつてなく重大で、眼前に差し迫ったものだ」と強調。過去の対話の試みは「無に帰した」とした上で、核・ミサイル開発放棄のため「必要なのは対話ではなく、圧力だ」と訴えました。また日本人拉致問題も提起し、解決への決意を表明しました。

 「(核不拡散体制は)史上最も確信的な破壊者によって、深刻な打撃を受けようとしている」「対話とは、北朝鮮にとってわれわれを欺き、時間を稼ぐため最良の手段だった」など、相当に激しいもの言いは、トランプ大統領の言葉の激しさに通じるものがあるように感じます。

 ■「暴悪な宣戦布告」「超強硬対応措置」「米国の老いぼれ」

 トランプ大統領に対して北朝鮮は激しい反発を示しました。21日に金正恩委員長自身が国家の最高位とされる国務委員長名義で声明を発表。トランプ大統領の国連演説を「歴代最も暴悪な宣戦布告だ」と非難し「史上最高の超強硬対応措置の断行を慎重に考慮する」と表明しました。金委員長が自ら声明を発表したのは初めて。祖父や父の故金日成主席、故金正日総書記の統治時代にも、最高指導者名義の声明は出されたことがないとのことです。警告の強さを示しています。北朝鮮の李容浩(リ・ヨンホ)外相はニューヨークで記者団に対し「超強硬対応措置」は「水爆実験を太平洋上で行うこと」ではないかと述べました。
 このほか金委員長の声明は「わが国と人民の尊厳と名誉、そして私自身の全てを懸け、わが国の絶滅をわめいた米統帥権者の妄言に対する代価を必ず支払わせる。米国の老いぼれを必ず火で制御する」と威嚇。「完全に破壊する」との発言について「歴代どの米大統領からも聞かれなかった前代未聞の粗野なたわ言だ。世界に向かって言葉を発する時は、語彙を慎重に選んで相手を見てすべきだ」と述べました。トランプ大統領について「最高統帥権者として不適格で、政治家ではなく火遊びを楽しむならず者、ごろつきに違いない」とし、「(発言は)私を驚かせ立ち止まらせたのではなく選択した道が正しく最後まで進むべき道であると確証させた」と述べ、核・ミサイル開発を続ける姿勢を示したと報じられています。

 ※以上の報道内容は共同通信の新聞用配信記事を元にしました。

 双方の相手方への罵倒は続いているようです。

※産経ニュース「トランプ氏、また金正恩氏を揶揄『チビのロケットマン』『あちこちにミサイル発射、のさばらせない』」=2017年9月23日

www.sankei.com 

  【ワシントン=黒瀬悦成】トランプ米大統領は22日、南部アラバマ州での集会で演説し、核実験や弾道ミサイル発射を繰り返す北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長を「チビのロケットマン」と呼び、「あちこちにミサイルを発射する狂った男をのさばらせるわけにはいかない」と述べた。 

※朝日新聞デジタル「北朝鮮、トランプ氏ののしる集会 ごろつき・老いぼれ…」=2017年9月23日

www.asahi.com 

 北朝鮮で22日、金正恩朝鮮労働党委員長によるトランプ米大統領を批判した声明を受け、党や軍の幹部らが相次いで決起集会を開いた。23日付の労働新聞(電子版)などが伝えた。参加者らは、トランプ氏を様々な表現でののしり、結束を確認した。 

 ■罵倒し合う大統領と独裁者

 国連を舞台に制裁が決議されても核・ミサイル開発をやめようとしない北朝鮮が批判を受けるのは当然ですし、肝腎なのは北朝鮮に核・ミサイル開発を断念させることです。仮に太平洋上で水爆実験を強行したりしようものなら、人類全体に対する犯罪行為として指弾を受け、責任を追及されるべきでしょう。

 北朝鮮に非があることは疑いがないのですが、そのことと、北朝鮮に核と弾道ミサイルをどうやって手放させるかは別の問題であるように思います。軍事力では北朝鮮をはるかに凌駕する米国の大統領が、国連での演説で「ロケットマン」と相手を茶化すように呼び、武力行使を示唆して恫喝することには違和感を覚えます。現に金正恩委員長はこれを「宣戦布告」ととらえ、「火遊びを楽しむならず者、ごろつき」と言い返しています。大統領と独裁者が直接、相手を名指しして罵倒し、激しい言葉の応酬を繰り返すことは、単に子どもじみていると言うにとどまらず、結果的には挑発の応酬となって、相手の真意や出方を読み損ねることになり、不測の事態を引き起こす危険性が高まることになるのではないかと危惧します。

 武力行使を避けて問題を解決しようとするなら、将来、いずれは北朝鮮を交渉のテーブルに着かせなければなりません。しかし、非難と言うよりも罵詈雑言に近い言葉の応酬が続くようでは、対話と交渉は遠のくばかりのように思えます。トランプ大統領が自国では不人気で、しかも元来、国連には批判的とされ、国際協調にも消極的とされるだけになおさらです。

 この問題をどのように考えればいいのかの一助として、この数日間の応酬について新聞各紙の社説がどんな風に論評しているのかを、ネット上で分かる範囲で見てみました。全国紙の関連の社説の見出しと各紙のサイトへのリンクを書きとめておきます(リンクはいずれ切れます)。

▼朝日新聞

・9月23日「対北朝鮮政策 圧力は手段にすぎない」

http://www.asahi.com/articles/DA3S13146830.html?ref=editorial_backnumber

▼毎日新聞

・9月23日「日米韓の対北朝鮮政策 中露との連携を深めねば」

https://mainichi.jp/articles/20170923/ddm/005/070/042000c

・9月21日「トランプ大統領の国連演説 北朝鮮は考え直すときだ」

https://mainichi.jp/articles/20170921/ddm/005/070/027000c

▼読売新聞

・9月23日「日米韓首脳会談 対『北』人道支援は見合わせよ」

http://www.yomiuri.co.jp/editorial/20170922-OYT1T50108.html

・9月22日「首相国連演説 対『北』圧力で各国と連帯せよ」

http://www.yomiuri.co.jp/editorial/20170921-OYT1T50118.html

・9月21日「トランプ演説 北朝鮮の非道を世界に訴えた」

http://www.yomiuri.co.jp/editorial/20170920-OYT1T50176.html

▼日経新聞

・9月23日「北朝鮮の封じ込めへ日米韓は全力尽くせ」

https://www.nikkei.com/article/DGXKZO21463210S7A920C1EA1000/

▼産経新聞

・9月23日「『洋上で水爆実験』 圧力貫徹し恫喝を封じよ」

http://www.sankei.com/column/news/170923/clm1709230003-n1.html

・9月22日「首相の対北演説 日本は圧力の先頭に立て」

http://www.sankei.com/column/news/170922/clm1709220001-n1.html

・9月21日「トランプ国連演説 北の核阻止へ決意みせた」

http://www.sankei.com/column/news/170921/clm1709210001-n1.html

 読売新聞や産経新聞が、北朝鮮問題についてはトランプ大統領や安倍首相の強硬な演説を是とする一方で、朝日新聞は「危機をあおることなく、事態を改善する外交力こそ問われているのに、日米首脳の言動は冷静さを欠いている」「当事者であるトランプ米大統領と安倍首相の強硬ぶりは突出し、平和的な解決をめざすべき国連外交の場に異様な空気をもたらした」などと指摘しています。

 毎日新聞は9月21日付の社説「トランプ大統領の国連演説 北朝鮮は考え直すときだ」で「『全面的破壊』には会場に驚きが広がった。穏やかじゃない。乱暴だ。そう思った人も多いだろう」としつつ「無論、軍事行動など誰も望まない。だが、北朝鮮が国際世論も安保理決議も無視して挑発的な言動を続ける限り、軍事オプションがますます現実味を帯びてしまう」「国連に批判的なトランプ氏が総会で一致団結を呼びかけたのは皮肉な感じもするが、北朝鮮は『自滅への道』を歩んでいるという見方も含めてトランプ氏の指摘は正しい」などと、トランプ大統領の演説を評価しました。

 地方紙・ブロック紙は、目に付く限りでは、トランプ大統領や安倍首相に冷静さを求める主張が大勢のように感じます。特に安倍首相に対しては、強硬な物言いは衆院選を意識してのことではないか、との見方と批判が目立ちます。

 以下に、見出しとリンク先を書きとめ、印象に残った部分を引用して紹介します。

【9月23日付】

▼北海道新聞「日米と北朝鮮 非難だけでは解決せぬ」

https://www.hokkaido-np.co.jp/article/134007?rct=c_editorial 

 双方が言葉の限りを尽くしてののしり合う非難の応酬は、一触即発の懸念を強めるだけだ。

 トランプ氏に追随するかのように、安倍晋三首相も演説で「対話による問題解決の試みは無に帰した」と対話を全面否定した。

 「対話とは北朝鮮にとってわれわれを欺き、時間を稼ぐための最良の手段」だったと言う。

 北朝鮮が、対話による解決を期待する国際社会を裏切り続けてきたのは紛れもない事実である。

 だが解決の「出口」を考えたとき、武力行使による決着はあり得ない。圧力強化は交渉による解決へ導くための手段にすぎない。

 圧力自体を目的化するかのような首相の姿勢に、国内の強硬世論をあおり、衆院選を有利に運ぶ思惑があるとしたら容認できない。 

▼中日新聞・東京新聞「北朝鮮と日米韓 軍事衝突防止に総力を」

http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/editorial/CK2017092302000142.html

 トランプ政権の高官らは軍事攻撃から対話まで異なる趣旨の発言をしているが、大統領自身の感情的な言い方が最も危うい。米朝双方が相手の意図と行動を読み誤る危険性が増したと、深刻に受け止めざるを得ない。

(中略)

 核、ミサイルを議題とする本格的な米朝交渉は現段階では難しいとみられる。しかし、国連代表部を置くニューヨークで高官レベルの接触はできる。双方の考えを正確につかみ誤解を解くためにも必要なことだ。

 安倍晋三首相は総会演説で「対話は無に帰した」と断言したが、軍事衝突を防ぐためにも日米韓が結束し、中国とロシアにも働きかけて北朝鮮を交渉の席に着かせる努力が欠かせない。

 ▼神戸新聞「北朝鮮への非難/解決に程遠い言葉の応酬」

https://www.kobe-np.co.jp/column/shasetsu/201709/0010579283.shtml

  トランプ氏は演説の中で「(北朝鮮は)13歳の日本人の少女を拉致した」と批判した。横田めぐみさんを指している。国際社会に拉致問題をアピールしたのは確かだが、ののしるような演説が北朝鮮を必要以上に刺激すれば、問題の解決にはつながらないのではないか。

(中略)

 一方で、事態打開に向けたメッセージが欧州の首脳から相次いで発信されている。

 フランスのマクロン大統領は、北朝鮮の核問題は多国間の話し合いで解決すべきだと指摘した。またドイツのメルケル首相も「交渉参加の要請があれば即座に応じる」と述べている。

 日米韓中ロの関係国に加え、国際社会が連携して事態解決を図る手法も模索するべきだ。

 ▼山陽新聞「日米韓首脳会談 問われる核放棄への戦略」

http://www.sanyonews.jp/article/601955/1/?rct=shasetsu

 ただ忘れてならないのは、問題は武力でなく、外交手段でしか解決できないということだ。ひとたび米朝で衝突が起きれば、日本と韓国は甚大な被害を免れない。日本政府が最優先課題とする拉致被害者の救出も難しくなろう。

 国連でトランプ氏が、米国や同盟国が防衛を迫られれば「北朝鮮を完全に破壊するしか選択肢がなくなる」と警告したのに対し、「歴代最も暴悪な宣戦布告だ」と金委員長は反発した。北朝鮮外相は水爆実験を太平洋上で行うことをほのめかしたりしている。過激な言葉の応酬は不測の事態を招く恐れもある。

 北朝鮮がこれまで、対話の姿勢をにおわせながら核開発をしてきたのは事実だ。制裁の効果が生じてくれば、情勢が一層緊迫化する可能性もある。だが外交手段を使った国際圧力で孤立させ、核放棄につなげる大原則はあくまで逸脱しないよう求めたい。

 圧力の先に対話による打開の糸口をどう探るか。外交戦略こそ問われてこよう。

 気がかりなのは、こうした大切な時期に、安倍首相が衆院解散・総選挙に踏み切ろうとしていることだ。国連では各国に結束を呼び掛け、国内ではおよそ1カ月間の「政治空白」をつくる。国民の理解は得られるだろうか。

 自民党は政権公約に北朝鮮対応を盛り込み、安倍首相の危機管理能力をアピールするようだが、解散戦略と絡めるのには違和感が拭えない。

 ▼熊本日日新聞「北朝鮮対応 外交含めた総合的戦略を」

http://kumanichi.com/syasetsu/kiji/20170923001.xhtml 

 安倍首相は、トランプ大統領、文在寅[ムンジェイン]韓国大統領と3カ国首脳会談を開催。北朝鮮に政策を変更させるため、結束して最大限の圧力をかける方針で一致した。しかし、北朝鮮に核・ミサイル開発を放棄させ、朝鮮半島を非核化し、地域の平和と安定を確立するには、北朝鮮を対話の場に引き出さなければならない。それには圧力強化とともに外交の力も問われよう。総合的な戦略が求められる。

 安倍首相の演説は、大半を北朝鮮問題に割く異例の内容で、過去の対話を否定し、窓口を閉ざすような発言があった。核開発凍結などを定めた1994年の「米朝枠組み合意」や2000年代初めの6カ国協議に関し、「われわれを欺き時間を稼ぐための手段だった」「対話による問題解決の試みは無に帰した」と断じ、「必要なのは対話ではない。圧力だ」と強調した。

 確かに、北朝鮮が対話の場に着くだけで見返りを要求し、その一方で核・ミサイル開発を続けてきた経緯はある。しかし、それでも対話の道を用意しておくことは必要ではないか。

 特に日本には、北朝鮮との対話を通してしか解決が難しい拉致問題がある。安倍首相は先日、東京都内で開かれた拉致国民大集会で「被害者の帰国へ全力を尽くす」と訴えたが、情勢が緊迫化すればするほど解決は遠のいていく。

 また、安倍首相は国連で、北朝鮮の脅威はかつてなく重大で眼前に差し迫ったものとも述べ、国際的な結束を呼び掛けた。その一方で、帰国直後に衆院を解散し、「政治空白」をつくることに各国の理解は得られるだろうか。今は外交努力に専念する時であり、解散・総選挙に疑問は尽きない。 

 【9月22日付】

▼東奥日報「打開への戦略はあるか/対北朝鮮 首相国連演説」

http://www.toonippo.co.jp/shasetsu/20170922028960.asp

▼信濃毎日新聞「首相国連演説 『圧力』の先が見えない」

http://www.shinmai.co.jp/news/nagano/20170922/KT170921ETI090007000.php 

 6回目の核実験を受け、国連安全保障理事会は石油供給の制限を柱とする制裁決議を採択した。実効性を伴うよう、各国に履行を呼び掛けるのは当然である。問題はその先だ。北朝鮮に政策を変えさせると首相は言うものの、具体策には言及していない。
 拉致問題も同様だ。「一日も早く祖国の土を踏み、父や母、家族と抱き合うことができる日が来るよう、全力を尽くしていく」とするにとどまる。対話なしにどう解決しようというのか。
 首相は、北朝鮮対応で米国の立場を支持することも改めて表明している。トランプ氏は国連演説で自国や同盟国の防衛を迫られれば北朝鮮を「完全に破壊するしか選択肢がなくなる」と警告した。激しい言葉の応酬は抜き差しならぬ状況を招きかねない。
 圧力一辺倒でなく、対話の糸口を探ることこそ日本の役割ではないか。外交の真価が問われる。首相は政府の考え方を国会で説明するのが筋だ。北朝鮮対応の点でも衆院を解散する大義は見いだせない。改めて異を唱えたい。 

▼新潟日報「北朝鮮対応 平和解決の原則忘れるな」

http://www.niigata-nippo.co.jp/opinion/editorial/20170922347563.html 

 内外から北朝鮮を刺激するとの懸念が出ている。過度に圧力に傾斜する姿勢には疑問がある。あくまでも平和的な解決が最優先であることを忘れてはならない。

(中略)

 気がかりなのは、首相が「全ての選択肢はテーブルの上にあるとする米国の立場を一貫して支持する」と演説したことだ。北への強硬姿勢のアピールが解散総選挙を意識したものだとしたら筋違いだと言わざるを得ない。 

▼福井新聞「首相の国連演説 緊張あおりながら解散か」

http://www.fukuishimbun.co.jp/articles/-/240975 

 非難の応酬が緊張感を一層高め、不測の事態へと発展する懸念も捨てきれない。とりわけトランプ氏が発した「自国や同盟国の防衛を迫られれば、北朝鮮を完全に破壊するしか選択肢がなくなる」は、体制維持を強化する金政権にとっては最大級の警告に映ったのではないか。

 石油の上限規制や繊維製品の輸出禁止など安保理の制裁決議がじわじわ効果を見せ始めているとの観測があるが、実際には数カ月以上かかるとの見方もある。その間、情勢は緊迫の一途をたどる。日米韓合同の弾道ミサイル防衛訓練が予定され、米国は空母を中心とした艦隊を朝鮮半島周辺に向かわせる見通しだ。偶発的な軍事衝突を引き起こす可能性も否定できない。

 日本や韓国にとっては、軍事衝突が全面戦争の引き金になることを最も恐れる。安倍政権は日米韓の連携の深まりや、国際的包囲網構築への貢献などで危機管理能力の高さを示す狙いだろうが、圧力一辺倒に危うさを感じている国民も少なくないはずだ。

 県内でも弾道ミサイル発射を受け、県漁連が県に発射阻止や連絡体制の構築などを国に強く働き掛けるよう求めた。また西川一誠知事が小野寺五典防衛相に、原発の防御や自衛隊の基地整備などを緊急要請した。

 国民、県民が求めるのは、北朝鮮に核・ミサイル開発を放棄させ、朝鮮半島を非核化し、地域に平和と安定をもたらすこと以外にない。そのためには北朝鮮を対話の場につかせるしかない。問われるのは外交力だ。今は外交努力に専念する時であり、現段階での総選挙には疑問符がつく。それでも解散するなら、首相は外交的解決に向けた道筋を示すべきだ。 

▼京都新聞「国連総会演説  大国らしい言葉遣いを」

http://www.kyoto-np.co.jp/info/syasetsu/20170922_4.html 

 それにしても、「完全破壊」とは穏当ではない。「ロケットマン」は、ツイッターならまだしも、国連で発するのはいかがか。

 北朝鮮も国営メディアで挑発的な言葉を発し続けている。だが、世界最強の国の指導者が同じレベルに立つ必要はない。

 荒っぽい言葉は関係国の人々の心理にも影響する。言葉の応酬が偶発的な武力衝突を招かないか。ドイツのメルケル首相が「この類いの威嚇には反対だ」と述べるなど、各国から懸念の声が上がっている。

 トランプ氏はイランに対しても「残忍な体制」と批判した。その上で、米欧ロなどとイランが2015年に締結した核合意を「最悪の一方的な取引」と破棄を示唆した。

 イラン核合意は、原油禁輸や金融制裁などの圧力を強めた結果、イランも一定の譲歩を行った側面がある。米国もそれを主導した。

 北朝鮮に対し国際社会の求めに従うべきというなら、イラン核合意も尊重すべきではないか。 

▼山陰中央新報「首相の国連演説/対話の道も残すべきだ」

http://www.sanin-chuo.co.jp/www/contents/1506044167705/index.html

▼佐賀新聞「首相の国連演説 打開の戦略はあるか」

http://www.saga-s.co.jp/column/ronsetsu/465443 

 ただ、目指すべき目標は、北朝鮮に核・ミサイル開発を放棄させ、朝鮮半島を非核化し、地域の平和と安定を確立することだ。そのためには北朝鮮を対話の場に引き入れなければならない。圧力強化の一方で、北朝鮮を動かす打開への戦略はあるのか。平和的解決に向け、外交の力が問われている。

 首相の演説は、大半を北朝鮮問題に割く異例の内容となった。気になる点を三つ挙げたい。

 一つ目は、従来以上に米国の軍事的オプションを支持する姿勢を打ち出した点だ。(中略)

 二つ目は、過去の対話を否定し、窓口を閉ざすような発言だ。(中略)

 三つ目は、国内政治との整合性だ。首相は対北朝鮮での国際的な結束を国連で呼び掛けた。その帰国直後に衆院を解散し、日本が「政治空白」をつくることに各国の理解は得られるだろうか。

※署名は共同通信 

【9月21日付】 

▼北海道新聞「トランプ氏演説 『北』との対立深めるな」

https://www.hokkaido-np.co.jp/article/133478?rct=c_editorial 

 トランプ氏の言葉に踊らされず、慎重な対応が求められる。

 こうした中、危うさを感じるのが、安倍晋三首相の言動である。

 安倍氏は今週、米ニューヨーク・タイムズ紙に寄稿し「北朝鮮と対話しても行き詰まる」との見方を示した。その上で「すべての選択肢がテーブルにある」との米国の立場を全面的に支持している。

 これでは軍事行動も支持しているようではないか。安倍氏は米国に追従するのではなく、トランプ氏に対話を促す責務がある。 

▼信濃毎日新聞「トランプ演説 国際協調へ軸足を移せ」

http://www.shinmai.co.jp/news/nagano/20170921/KT170920ETI090003000.php 

 北朝鮮に対しては、世界に脅威を与えているとの認識を示し、核やミサイル開発の放棄を強く迫った。自国民を弾圧したり、横田めぐみさんを念頭に日本人少女を拉致したりしてきた、などと非道ぶりを訴えている。

その通りである。だからこそ国際社会は連携を深め、対処しなくてはならないはずだ。

 なのに、トランプ氏はまたも不安をまき散らした。言葉が乱暴で一方的だったからだ。米国や同盟国の防衛を迫られれば「北朝鮮を完全に破壊するしか選択肢がなくなる」と語ったときには、議場からざわめきが起きた。

 トランプ氏にリーダーシップを取らせれば、武力衝突に発展しかねない―。こんな不安を抱いた国が多かったのではないか。各国首脳に説得力ある言葉で解決への決意と結束を訴えなくては、事態が好転するはずがない。 

▼中日新聞・東京新聞「トランプ氏演説 脅して何を得るのか」

http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/editorial/CK2017092102000145.html 

 敵と味方を峻別して社会の分断を深める手法は、外交姿勢でも同じようだ。トランプ米大統領の初の国連演説は、敵と見なす国への敵意と脅しに満ちていた。これでは世界を不安定化させるだけだ。

 トランプ氏は北朝鮮とイラン、ベネズエラを「ならず者国家」と呼んだ。北朝鮮に対しては「米国や同盟国の防衛を迫られる事態になれば、北朝鮮を完全に破壊するしか選択肢はない」と最大限の脅しを利かした。

 これに先立って登壇したグテレス国連事務総長は北朝鮮の核・ミサイル問題に絡んで「激しい言葉のぶつけ合いは致命的な誤解につながる危険がある」と警告を発したばかりだった。

 トランプ氏と金正恩朝鮮労働党委員長の予測不能な両トップによる威嚇の応酬は、不測の事態を招きかねない。 

▼西日本新聞「トランプ氏演説 『協調主義』へかじを取れ」

https://www.nishinippon.co.jp/nnp/syasetu/article/360215/ 

 トランプ氏が国連総会の場で、北朝鮮の核・ミサイルの脅威をアピールしたのは、国連加盟国が北朝鮮の危険性に対する認識を高める上で大きな意味を持つ。拉致問題に言及して国際社会の関心を喚起したことも、日本にとってありがたい側面支援といえよう。

 ただ、米国が今後どれだけ北朝鮮問題で世界をリードできるかは不透明である。トランプ氏は北朝鮮に対する加盟国の一致した対応を呼び掛けたが、その一方で当のトランプ氏が国連の役割や国際協調主義を軽視する言動を繰り返してきた矛盾があるからだ。

 トランプ氏は大統領就任前、国連について「おしゃべりして過ごす仲良しクラブ」とツイッターで発信し、就任後も米国の国連拠出金の削減を主張している。地球温暖化防止の国際的な枠組み「パリ協定」からの離脱も表明した。

 北朝鮮のミサイル開発が進み、米国への脅威が増したことで、トランプ氏は北朝鮮包囲網の形成に迫られ、国際連携の重要性を訴え始めたのだろうが、これでは「ご都合主義」との批判を免れない。 

▼南日本新聞「[トランプ氏演説] 外交の理念が見えない」

http://373news.com/_column/syasetu.php?storyid=87165  

 トランプ氏は北朝鮮の脅威が強まれば「完全に破壊するしか選択肢がなくなる」と述べ、「ロケットマンの金正恩氏は自殺行為をしている」と批判した。異例の強い表現に、議場からざわめきが起きる場面もあった。

 北朝鮮の軍事強化路線が常軌を逸しているのは確かだ。だが、挑発に威嚇で応えるような態度は、国際社会のリーダーとしての振る舞いとはいえまい。 

 

 北朝鮮問題では、河野太郎外相のこんな発言もあります。

※産経ニュース「対北断交160カ国に要求 河野太郎外相、米コロンビア大で講演 北のICBM『ニューヨークにも到達可能な技術の開発推進』」=2017年9月22日

www.sankei.com 

【ニューヨーク=杉本康士】訪米中の河野太郎外相は21日夕(日本時間22日午前)、ニューヨーク市内のコロンビア大で講演し、核・ミサイル開発を進める北朝鮮と国交を結ぶ国が160カ国以上あるとした上で、「外交関係・経済関係を絶つよう強く要求する」と断交を求めた。北朝鮮に対しては「対話のための対話を行うときではない。圧力を最大限強化すべき局面だ」と述べた。 講演は河野氏の希望で同大学で行い、大学関係者や学生らを前に行った。 

 国交があるから働きかけもできるはずです。そもそも朝鮮戦争の当事者であり、朝鮮半島に軍を駐留させる米国と、その軍事同盟国を自認して一体化を志向する日本とは、他国は北朝鮮との向き合い方が異なっていてもむしろ当然だと思います。国連を舞台にした制裁の履行を呼びかけるのはともかく、他国の外交にまで口を挟むとは、何を考えているのか理解できません。

朝鮮学校の無償化除外「適法」判決に違和感

 少し時間がたってしまいましたが、備忘を兼ねて記しておきます。国が朝鮮学校を高校無償化の対象から除外したのは違法として、東京朝鮮中高級学校の卒業生62人が賠償を求めた訴訟で、東京地裁の田中一彦裁判長が9月13日、請求を棄却する判決を言い渡しました。不指定とした文部科学相の処分が、政治的外交的理由だったか否かが争点でしたが、処分には裁量権の逸脱や乱用はなかったとの判断でした。

 同種の訴訟は全国で5件あり、最初の広島地裁判決(7月19日)は原告敗訴だったものの、次の大阪地裁判決(7月28日)は、朝鮮学校を政治的理由で排除しており処分は違法と認定していました。先行した2件の判断が割れていたため、3件目の東京地裁判決が注目されていました。

 東京発行の新聞6紙が、翌14日付朝刊で判決をどのように報じたかを書きとめておきます。1面で報じたのは産経新聞のみで、同紙は「朝鮮総連と密接な関係にある学校の実態を踏まえた極めて常識的な判断だ」とする社説(「主張」)のほか、社会面には判決要旨も掲載しました。逆に扱いの小ささが目立ったのは朝日新聞で、第3社会面に2段の見出しで、写真もありません。朝日は翌15日付で社説「朝鮮学校訴訟 説得力を欠く追認判決」を掲載し「『結論ありき』で政権が進めた施策を、『結論ありき』で裁判所も追認した。そう言わざるを得ない判決である」「行政を監視し、法の支配を実現させるという司法の使命を忘れた判断だ」「政府の措置を違法とした7月の大阪地裁判決のほうが事実に即し、説得力に富む」などと批判しましたが、前日の小さな扱いとのちぐはぐ感がぬぐえません。

 以下は各紙の扱いと主な見出しです。いずれも東京本社発行の最終版です。

【朝日】
・第3社会面「朝鮮学校の無償化除外 東京地裁は『適法』」=2段/「『民族教育否定』卒業生憤り」=1段 ※写真なし
【毎日】
・社会面左肩「朝鮮学校 無償除外は適法 東京地裁判決『政治的理由』否定」=4段/「『学ぶ権利 同じでは?』」(雑観)=3段/「司法は冷静判断を」田中宏・一橋大名誉教授(日本社会論)=1段/「無償化許されない」長尾一紘・中央大名誉教授(憲法)=1段 写真・「不当判決」などと示す原告側弁護士ら、判決骨子、表・各地の訴訟一覧
【読売】
・社会面左肩「朝鮮学校を除外『適法』 東京地裁判決『邦、不合理でない』 高校無償化」=3段/「朝鮮学校」(ズーム)=1段 写真・判決後、記者会見する原告側の喜田村洋一弁護団長ら、表・3地裁の判断の比較
【日経】
・社会面「朝鮮学校 除外は適法 無償化巡り東京地裁 大阪地裁と判断割れる」=3段 ※写真なし
【産経】
・1面左肩「東京地裁 無償化認めず 卒業生の賠償請求棄却 朝鮮学校」=3段/「文科相に広い裁量権認める」=3段 表・3地裁の判断の比較
・第3社会面「文科省安堵『妥当な判決』 卒業生ら一斉非難」=見出し3段相当/判決要旨 写真・判決後、記者会見する原告側の弁護士 表・各地の訴訟
・社説(「主張」)「朝鮮学校『棄却』 北礼賛に理解は得られぬ」
【東京】
・第2社会面「無償化除外は『適法』 東京では原告敗訴判決 朝鮮学校」=3段/「元生徒『未来奪う判決』」=2段/「判断の根拠薄弱」名古屋大の石井拓児准教授(教育行政学)=1段 写真・判決後、記者会見する原告(※後ろ姿) 

 地方紙を中心に掲載される共同通信の出稿では、在京紙の紙面にはない「解説」記事があり、「(判決は)文部科学相の判断を『裁量権の範囲内で適法』と認定したが、理由が十分説明されているとは言い難い」と指摘しています。

 この判決に対しては、個人的には大きな違和感があります。朝鮮学校に通う生徒たちの日常をいささかなりとも知れば容易に分かると思うのですが、親と共にいずれは母国に戻るほかの外国人学校の生徒と異なり、朝鮮学校の生徒は3世、4世の在日コリアンです。日本で生まれ、日本語になじんで日本で育っています。ほかの日本の高校の生徒と同じように、日本の大学に進む生徒も少なくありません。そして何よりも、在日コリアンは日本社会の納税者であり、社会の一員として応分の貢献をしています。朝鮮学校で学ぶ生徒たちも、いずれは納税者になると想定されます。そうした彼らが、朝鮮学校に在籍しているという一事で、日本の高校に通う生徒たちと異なった扱いを受けるのは不条理だと感じます。日本人拉致問題がある上にミサイル発射、核開発で北朝鮮への批判が高まっていますが、それはそれ。日本社会で「教育の機会均等」を図る高校無償化は、まったく別の話です。

 以下のリンク先は京都新聞の9月15日付の社説です。「国が朝鮮学校の教育の実際について十分に調べた経緯はない。過去の裁判やインターネット上の情報をもとに北朝鮮の影響を示唆する主張に終始した」と指摘し「裁判所は、国が根拠を示さない主張を続けていることを指摘し、事実を踏まえる審理をしてほしかった」と結んでいます。国の主張をただ丸呑みにした東京地裁の田中一彦裁判長の姿勢へ疑問を呈しています。

※京都新聞「朝鮮学校判決  説明が十分と言い難い」=2017年9月15日

http://www.kyoto-np.co.jp/info/syasetsu/20170915_3.html

 信濃毎日新聞も19日付で関連の社説を掲載しました。「教育を受ける機会を公平に保障する高校無償化制度の趣旨を踏まえた判断とは言いがたい。学ぶ権利や教育の独立性を損なう行政の介入に厳しい目を向けるべき司法が、その責務を自ら放棄していないか」との書き出しで、裁判官の姿勢に疑問を示し、以下のように指摘しています。 

 拉致問題や核・ミサイル開発をめぐって北朝鮮は強く非難されている。だからといって、在日の人たちをそれと結びつけ、日本で生まれ育った子どもたちにまで責めを負わせるべきではない。

 教育を受ける権利は、ほかの学校の生徒たちと同じように保障されなくてはならない。朝鮮学校だけを分け隔てる施策は、法の下の平等や教育の機会均等に反する差別であり、排外的な主張を助長することにもつながる。

 民族的な少数者が自らのルーツに関わる言葉や文化を学ぶ権利も尊重されるべきだ。差別が制度化された現状は改めなくてはならない。司法は人権を守る立場から政府にそれを促す責任がある。 

※信濃毎日新聞「朝鮮学校訴訟 学ぶ権利、顧みない判決」=2017年9月19日

www.shinmai.co.jp

 5件の訴訟のうち、名古屋地裁と福岡地裁小倉支部の訴訟はこれから判決を迎えます。裁判官たちが審理を尽くし、国の主張をただ追認するのではなく、自由な心証で判断を示すためには、世論の関心の高まりも必要だと思います。その意味では、判決が社会で広く知られることが必要で、マスメディアの役割も大きいと思います。

 

※追記 2017年9月23日10時50分

 青森県八戸市に中心に発行するデーリー東北が19日付の社説で取り上げました。
※デーリー東北「朝鮮学校訴訟 判例の積み重ねが必要だ」=2017年9月19日
 http://www.daily-tohoku.co.jp/jihyo/20170919/201709190P185541.html
 一部を引用して紹介します。 

  無償化を定めた高校無償化法は第1条に「教育の機会均等に寄与することを目的とする」と定めている。誰でも高校教育を受けられるようにするという法の趣旨だ。

 無償化の資金が授業料に充てられていないことが事実なら当然、違法である。事実確認しているのならともかく「懸念される」というのでは根拠が明確でない、と言わざるを得ない。

 北朝鮮には、日本人拉致、その後のミサイルや核兵器の開発など国際的に非難される問題はある。しかし、在日朝鮮人子弟の教育とは直接関係ない事柄である。授業料無償化の適用対象外とするのは、理性的な措置とは言えないのではないか。

 教育を受ける基本的な人権の問題である。同種訴訟は名古屋地裁、福岡地裁小倉支部で係争中であり、控訴審でも争われる。割れている裁判所の判断が統一されるには事実認定を含め、さらに丁寧に審理されるべきだ。

 

危機の実相に報道は見合っているか~「ミサイル再び日本越え」は有事ではないし、災害と同列ではない

 北朝鮮が9月15日朝、平壌から弾道ミサイル1発を発射しました。前回の8月29日に続いて、北海道の上を飛び太平洋に落下。飛行距離は前回より1000キロ伸びて約3700キロ、最高高度も前回の約550キロに対し今回は約800キロだったと伝えられています。国連の安全保障理事会で北朝鮮への制裁強化決議が採択されたことへの反発とみられ、米軍の拠点があるグアムまで平壌から約3400キロであることから、グアムへの直接攻撃能力を誇示する狙いがあった可能性が報じられています。
 ミサイル発射は午前6時57分。日本政府は今回も7時ちょうどに全国瞬時警報システム(Jアラート)で「国民保護情報」を発出し、前回と同じ12道県に避難を呼びかけました。前回の反省から、「頑丈な建物」を単に「建物」とする(周辺に頑丈な建物がない場合はどうするのか、との疑問が示されていました)など、文言には変更が加えられたようですが、実際のミサイルの飛行コースから遠く離れた北関東や長野まで警報が出た点は変わりがありません。破片が落ちてきたわけでもなく、人的、物的被害はゼロ。ただ、一時ストップした交通機関があったほか、学校では授業開始が遅れたり、臨時休校にした例(茨城県で1校)が報じられています。

 東京発行の新聞各紙は9月15日当日の夕刊、翌16日付朝刊で大きく報じましたが、8月29日の際と比べると、変化もあるようです。一般に、新聞の1面トップの見出しは、ニュースの重要度が高くなれば縦位置が横位置になり、黒地に白字抜きになります。8月29日の夕刊は東京発行5紙(朝日、毎日、読売、日経、東京)はそろって横位置、白字抜きでしたが、今回15日の夕刊は毎日新聞は黒地白抜きではなく、東京新聞は縦位置でした。主見出しは朝日、日経が「ミサイル再び日本通過」、読売、東京が「北ミサイルまた日本通過」で同じでした。「再び」や「また」からは、国連の制裁強化にもかかわらず、のニュアンスが感じ取れます。同じ見出しになるのは、文字数に制約がある中で、ニュースの本質を伝える表現のバリエーションには限りがあることを示しています。

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【写真】東京発行各紙の9月15日夕刊1面 ※産経新聞は東京本社では夕刊発行なし

 ※前回8月29日の際の在京紙紙面については、このブログの9月2日アップの記事を参照してください。 

news-worker.hatenablog.com

 16日付朝刊では、経済専門紙の日経新聞のほか、東京新聞も1面トップからは落としました。また、夕刊発行紙の中で朝刊でも黒地白抜きの見出しにしたのは読売新聞だけでした。総じて、前回よりも落ち着いた紙面が多い印象を受けます。

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【写真】東京発行各紙の9月16日付朝刊1面

 前回の8月29日のミサイル発射を巡る報道について、わたしは前掲の9月2日のブログ記事で以下のように書きました。 

 北朝鮮のミサイル実験は「有事」なのかと言えば、攻撃を受けているわけではないので「有事」とは言い難いでしょう。しかし、有事法制に基づく「指定公共機関」の枠組みが発動している状況は「準有事」ととらえてもいいように思います。なのに、マスメディア自身がその自覚を欠いてしまえば、公権力による情報統制・操作はいともたやすく行われてしまうのではないか。そういう懸念を持っています。 

 この問題意識に即して、今回は注目すべきだと感じる記事がありました。

 ▼有事の「指定公共機関」
 一つは共同通信が16日付朝刊用に配信した記事です。「実際の危機に見合った警報なのか」との問題意識から、テレビの報道の実態や生活面への影響をまとめました。各地の地方紙を中心に掲載されていると思います。在京紙では毎日新聞が社会面に、テレビ報道の部分を抜き出して掲載しています。共同の記事の一部を引用します。

「ここで今、北朝鮮のミサイルの情報が入りました」
 NHK総合のニュース「おはよう日本」で15日午前7時すぎ、高瀬耕造アナウンサーがやや緊迫した口調でこう伝え、Jアラートの黒い画面に突然切り替わった。午前8時からの連続テレビ小説「ひよっこ」の放送を休止し、ミサイル発射関連の番組の放送を続けた。
 放送事業者は国民保護法に基づく「指定公共機関」の一つで、警報の内容などを速やかに放送することを盛り込んだ「国民保護業務計画」を各社で定めている。このため、公共放送のNHKだけでなく、民放各局も朝はミサイル報道一色に。
 TBSは「国民の生命・財産に大きな影響を及ぼす可能性があるための判断です」と説明。テレビ朝日は「視聴者の方々からさまざまなご意見をいただいていますが詳細は控えます」とした。
 上智大の水島宏明教授(ジャーナリズム論)は「実際のリスクに見合う放送になっているか。国民の命に関わる切迫した事態が生じていたのか。冷静に考えると、今回は恐らくなかったのでは」と疑問を投げ掛けた。 

  国民保護法は、小泉純一郎内閣当時の2002年から整備が始まった有事法制の一環です。当時、わたしは勤務先では社会部デスクでした。NHKをはじめ、東京の民放キー局、大阪や名古屋の準キー局が指定公共機関に指定されることに対して、政府が有事と認定すればテレビは政府が発表した情報だけを流すことになり、自由な取材や報道ができなくなる恐れはないのか、との危惧がメディア研究者らから挙がっていました。わたしたちも職場で、あるいは新聞労連や民放労連などの労働組合活動の中でも同じ問題意識を持っていました。
 そもそも今は日本にとって有事ではありません。北朝鮮はミサイル発射の後には、これが実験であるとの公式見解を発表しています。武力攻撃ではありません。ミサイルは日本列島の上空というよりもはるかかなたの宇宙空間を飛び、前回より高度はさらに高くなり、落下地点もさらに日本から遠ざかりました。しかし、警報の発出は変わらずに有事の際の仕組みで行われており、結果として、マスメディア、特に放送メディアは、政府から提供された「国民保護情報」を元に、危険情報だけを強調しているように視聴者からは見えると言わざるを得ない状況ではないでしょうか。

 ▼「作られた危機」への加担
 「Jアラートが国民保護情報を出したらどこに逃げればよいか」は、例えば地震や津波、台風、大雨などの災害は普段の備えが重要でしょう。しかし、今回のような北朝鮮のミサイル実験ではどこまで必要で、なおかつ有効なのでしょうか。高度500キロとか800キロの宇宙空間を飛んでいく物体から何か落ちてくることを、どこまで現実味のあることとして想定しなければいけないのか。日本のマスメディアはただ危険情報を流すだけではなくて、自由な取材と自由な報道によって、こうしたことも報じていくべきなのではないかと思います。
 さらに言えば、北朝鮮の脅威を言うなら、日本にとっては日本列島を越えていくICBMよりも、日本をめがけて落下してくる弾道ミサイルです。自衛隊と米軍が2段構えで迎え撃つとしていますが、どうやらその迎撃能力を上回る発射能力を北朝鮮は備えているらしいことも指摘されています。日本政府は迎撃能力の強化を指向しているようですが、それは果てしない軍拡の始まりではないのか。つまりは100%の防衛は理論上も無理であり、ならば撃たせないための外交をどう展開するべきなのか。そうした論点を社会に提供していくことも、マスメディアの役割のはずです。
 共同通信の記事が触れている放送各局の「国民保護業務計画」は各局のWEBサイトでも閲覧できます。例えばNHKは以下のリンク先です。
 http://www.nhk.or.jp/pr/keiei/hogo/index.html
 前文には「NHKは、有事の際にも、報道の自由、編集の自由を確保しつつ取材・放送にあたることを前提として、NHKが使命を果たすために必要な対策を業務計画として定めました」との一文があります。民放各局の国民保護業務計画にも同じような趣旨の文言があります。有事ではない現状ではもちろんこと、仮に有事になっても「報道の自由」「編集の自由」が確保できているかどうかは、指定公共機関の縛りはない新聞・通信各メディアも含めて、不断に自己点検し、相互に確認し合っていなければならないと思います。「作られた危機」の演出にマスメディアが結果的であるにせよ加担していると言われて、否定できなくなることを恐れます。

 ▼事実をもって検証
 もう一つ印象に残った記事は、毎日新聞が16日付朝刊の第2社会面(30面)に掲載した「予想進路を9分類」の見出しの記事です。Jアラートの送信地域があらかじめ9パターンに分けられていることを書いています。記事によると、それぞれ当該地域と関連地域があり、例えば北朝鮮ミサイルで2回続けて送信された「東北パターン」は、当該地域が東北地方の6県、関連地域が北海道、北関東3県と新潟、長野両県となっています。今回は防衛省から「東北地方方向にミサイルが発射された」との情報を受けた内閣官房が「東北パターン」を選択したということのようです。ちなみに記事によると、「北海道パターン」なら当該地域は北海道、関連地域は青森県のみです。首都東京を含むのは宮城、山形両県から静岡、岐阜、福井各県まで(愛知県は除外)を含む「関東パターン」と福島、新潟両県から三重、滋賀、京都、兵庫の各府県の「中部パターン」の二つです。
 前回も今回も、北朝鮮のミサイルは北海道のはるか上の宇宙空間を飛んでいきましたが、Jアラートはおよそ危険があるとは思えない長野県にまで送信されたことに、その必要があったのかどうかなどで論議があるようです。前述したマスメディアの課題とも関わってくることとして、警報のありようはマスメディアが検証すべきテーマの一つです。Jアラートの送信先設定の仕組みを9枚の図表とともに伝える毎日新聞の記事は、基本的な事実を明らかにする検証の第一歩だろうと思います。

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【写真】毎日新聞16日付朝刊の第2社会面

安倍晋三内閣の支持率は回復基調か?~「次の総理」石破茂氏25・4%、安倍晋三氏19・6%(NNN調査)の結果に驚き

 9月に実施された世論調査の結果がいくつか報じられています。安倍晋三内閣の支持率は以下の通りです。

▼朝日新聞 9月9、10日実施
 「支持」38%(前回比3ポイント増)
 「不支持」38%(前回比7ポイント増)
▼読売新聞 9月9、10日実施
 「支持」50%(前回比8ポイント増)
 「不支持」39%(前回比9ポイント減)
▼NHK 9月8~10日実施
 「支持」44%(前回比5ポイント増)
 「不支持」36%(前回比7ポイント減)
▼NNN(日本テレビ系列) 9月8~10日実施
 「支持」42・1%(前回比6・5ポイント増)
 「不支持」41・0%(前回比6・3ポイント減)
▼毎日新聞 9月2、3日実施
 「支持」39%
 「不支持」36%
 「関心がない」22%
 ※今回から携帯電話も対象に含めているため、前回とは比較できません
▼共同通信 9月2、3日実施
 「支持」44・5%(前回比0・1ポイント増)
 「不支持」46・1%(前回比2・9ポイント増)

 支持が20%台の調査結果まであった7月当時と比べると、支持率は回復基調のようにも思えます。しかし、読売新聞は記事では「前月比で12ポイント下落した6月調査の49%とほぼ同水準にとどまっている」との慎重な評価です。また朝日新聞は「回復傾向にはあるものの、無党派層の支持率は17%と依然低い」と指摘しています。「回復」とはいえ、さらに勢いを増して再び広範な層の支持を得るのは、現状では厳しいかもしれません。

 各調査結果の個別の質問と回答をチェックしていて、少なからず驚いたことがあります。NNNの最後の質問と回答結果です。

※日本テレビ世論調査のサイト 

http://www.ntv.co.jp/yoron/201709/soku-index.html

 【問13】あなたは、次の総理大臣には、誰が最もふさわしいと思いますか?
(1)安倍晋三 19・6%
(2)石破 茂 25・4%
(3)岸田文雄 7・8%
(4)野田聖子 5・4%
(5)前原誠司 2・1%
(6)その他 3・3%
(7)わからない、答えない 36・4%

 選択肢には「安倍晋三」もあるので、普通に受け止めれば、この問いは安倍氏の後任の首相についてではない、つまり安倍氏以外ではだれがふさわしいかを尋ねているのではない、ということになります。その上で、石破茂氏が安倍氏に6ポイント近くの差をつけているのですから、仮に内閣支持率は回復基調にあるとしても、必ずしも首相である安倍氏への支持を反映した結果ではないのかもしれません。1件の調査だけでは何とも判断できませんが、世論はこれ以上の安倍政権の長期化を拒み、新しい次の首相を求め始めている可能性があるように思います。

 ちなみに他社の調査を通じても、民進党や、同党の代表に就いた前原誠司氏への期待は、朝日新聞調査では28%、読売新聞調査も33%にとどまり、「期待しない」は朝日58%、読売60%にも上っています。

 もう一つ、話題になっている東京都の小池百合子知事に近い若狭勝・衆院議員が国政政党を目指して作った「日本ファーストの会」に対しては、朝日調査では「期待する」49%、「期待しない」39%、読売調査では「期待する」41%、「期待しない」46%で、民進党よりは期待が高いようです。ただ、小池氏は都知事に就任して日が浅く、将来はともかく、NNN調査の質問が想定している意味での次の首相候補にはなりえないでしょう。

 政党支持率では朝日、読売調査とも自民党は4~2ポイントとわずかですが回復しており、こうしたことも考えあわせれば、現状の民意を大雑把にとらえると、民進党や前原代表への支持は限られており、小池氏も首相候補には入っていない中で、消去法では大勢はやっぱり自民党支持になるが、さすがに安倍氏はもういい、誰かほかの人を。そうなると、ここでもまたも消去法で石破茂氏―。あくまでも仮説ですので、後続の調査でどんな結果が出るかを待ちたいと思います。
 それにしても、NNNのこの調査結果は、憲法改正を悲願にする安倍氏が、自民党総裁3選=首相続投を目指している中では、相当にインパクトが大きいはずですが、あまり話題になっていないようです。日本テレビはニュースで報じたのでしょうか。サイト上の記事、映像では、この質問と回答には触れていません。 

www.news24.jp

【追記1】2017年9月12日9時55分

 アップして間もなく、サブタイトルの一部を「、衝撃の結果も」から「の結果に驚き」に差し替えました。

【追記2】2017年9月13日1時

 NHKの世論調査結果も報じられています。内閣支持率を本文に挿入しました。「支持」が「不支持」を上回っており、回復基調とみていいのでしょう。

 民進党の前原代表への期待では、「大いに期待する」7%、「ある程度期待する」29%、「あまり期待しない」36%、「まったく期待しない」22%でした。大まかに言えば「期待する」36%、「期待しない」65%。他の調査結果と同じ傾向です。
 ちなみにNHKは、前原代表が山尾志桜里氏の党幹事長への起用を断念し、山尾氏は「既婚男性との交際疑惑」をめぐる報道を受けて離党したことについて、民進党に影響があると思うかを聞いています。回答は「大いに影響がある」24%、「ある程度影響がある」42%、「あまり影響はない」20%、「まったく影響はない」6%でした。

 東京都の小池百合子知事に近い若狭衆議院議員らの新党結成の動きへ期待するかどうかを聞いたところ、「大いに期待する」10%、「ある程度期待する」27%、「あまり期待しない」38%、「全く期待しない」16%でした。「期待しない」が54%、「期待する」は37%で、他調査に比べると「期待しない」が強く出ています。
 いずれにせよ、自民党にとって代わるほどの勢いを持った勢力は見当たりません。内閣支持率は回復基調ながら、民意は決して安倍晋三氏の続投を求めてはいない、との仮説に変更の必要はないように思います。

中日新聞・東京新聞社説(9月10日)「桐生悠々と防空演習」

 中日新聞・東京新聞の9月10日付の社説が、桐生悠々が1933(昭和8)年に信濃毎日新聞に発表した論説「関東防空大演習を嗤う」を取り上げました。10日は悠々の命日とのことです。

www.tokyo-np.co.jp

 一部を引用して紹介します。 

 その筆鋒(ひっぽう)は軍部にも向けられます。信毎時代の三三(同八)年八月十一日付の評論「関東防空大演習を嗤う」です。
 掲載の前々日から行われていた陸軍の防空演習は、敵機を東京上空で迎え撃つことを想定していました。悠々は、すべてを撃ち落とすことはできず、攻撃を免れた敵機が爆弾を投下し、木造家屋が多い東京を「一挙に焦土たらしめるだろう」と指摘します。
 「嗤う」との表現が刺激したのか、軍部の怒りや在郷軍人会の新聞不買運動を招き、悠々は信毎を追われますが、悠々の見立ての正しさは、その後、東京をはじめとする主要都市が焦土化した太平洋戦争の惨禍を見れば明らかです。
 悠々の評論の核心は、非現実的な想定は無意味なばかりか、有害ですらある、という点にあるのではないでしょうか。
 その観点から、国内の各所で行われつつある、北朝鮮の弾道ミサイル発射に備えた住民の避難訓練を見るとどうなるのか。 

 (中略)
 戦力不保持の憲法九条改正を政治目標に掲げる安倍晋三首相の政権です。軍備増強と改憲の世論を盛り上げるために、北朝鮮の脅威をことさらあおるようなことがあっては、断じてなりません。
 国民の命と暮らしを守るのは政府の役目です。軍事的な脅威をあおるよりも、ミサイル発射や核実験をやめさせるよう外交努力を尽くすのが先決のはずです。そもそもミサイルが現実の脅威なら、なぜ原発を直ちに停止し、原発ゼロに政策転換しないのでしょう。
 万が一の事態に備える心構えは必要だとしても、政府の言い分をうのみにせず、自ら考えて行動しなければならない。悠々の残した数々の言説は、今を生きる私たちに呼び掛けているようです。

 桐生悠々は「きりゅう・ゆうゆう」と読みます。わたしが知ったのは井出孫六さんの岩波新書「抵抗の新聞人 桐生悠々」によってでした。いつ読んだのか、記者の仕事に就いてからだったのか、記憶はあいまいなのですが、同書が刊行されて間もなくだったことは覚えています。調べたら1980年の刊行になっているので、大学時代に読んだと思われます。将来の選択肢として、新聞記者を具体的に考え始めていた時期でした。

 桐生悠々と「関東防空大演習を嗤う」のことは、わたしもこのブログで何度か紹介してきました。北朝鮮のミサイル発射を巡って、最近では9月2日のブログ記事「マスメディアに『準有事』の自覚あるか」で触れました。桐生悠々の今日性は、わたしたちマスメディアで働く者の間で、広く共有されるべきだろうと思います。

news-worker.hatenablog.com

 

抵抗の新聞人桐生悠々 (岩波新書)

抵抗の新聞人桐生悠々 (岩波新書)

 

 

山尾志桜里氏の交遊関係を「疑惑」と呼ぶ新聞、呼ばない新聞

 民進党に所属していた山尾志桜里・衆院議員が9月7日、離党届を提出し、8日に受理されました。7日発売の週刊文春が、既婚の男性弁護士との交遊関係を「禁断愛」として報じたことに対し、山尾氏は7日夜、離党届を提出した後の記者会見で、「男女の関係」はないとしたものの、「誤解を生じさせる行動でさまざまな方々に迷惑をかけ、深く反省し、おわびする」「臨時国会の場に、今回の混乱を持ち込むことは党にさらなる迷惑をかけると判断した」と述べました。山尾氏を巡っては、9月1日に民進党の代表に選出された前原誠司氏の意向でいったん党幹事長に内定しながら、当選2回と政治経験の浅さから危ぶむ声が党内にあったところに、週刊文春の記事掲載情報が加わり、前原氏が党の重職への起用を断念したと報じられていました。

 ▼大勢は「疑惑」報道
 野党第1党の執行体制がどうなるかという公の関心が強いニュースに絡むことではあるので、週刊文春が報じた内容を新聞や放送のマスメディアが引用して伝えることにも必要性と合理性はあります。ただ、その報じ方、取り上げ方にはメディアによって違いがあり、そのことは週刊文春が報じた交遊関係の問題をどう表現しているかによく表れているように感じます。
 ここでは新聞について、東京発行各紙のうち、朝日、毎日、読売、産経の4紙の7日付の朝刊に載った本記(事実関係を伝える中心的な記事)の見出しと書き出しの段落(リード)を比べてみます。各紙とも東京本社発行の最終版からの引用です。

・朝日新聞=1面掲載「山尾氏、民進に離党届 交際問題報道」 

 民進党の山尾志桜里・元政調会長(43)=衆院愛知7区=が7日、離党届を出した。同日発売の『週刊文春』が山尾氏と既婚男性との交際問題を報じたことを受け、党にとどまって議員活動を続けるのは困難と判断した。これまで自民党議員の交際問題などを追及してきたことも考慮した。 

 ・毎日新聞=社会面掲載「民進・山尾氏が離党届/週刊誌報道『党に迷惑かける』」

 民進党の山尾志桜里元政調会長(43)は7日夜、大島敦幹事長と国会内で会い、離党届を提出した。7日発売の週刊文春で弁護士の既婚男性との交際を報じられたことを受けてのもので、山尾氏は交際は否定しつつ、離党判断の理由について『今回の混乱を国会論戦の場に持ち込むことは党に迷惑をかける』と記者団に説明した。前原誠司代表は山尾氏の幹事長起用を一時内定しており、新執行部には大きな打撃となる。 

・読売新聞=2面掲載「民進・山尾氏が離党届/交際疑惑否定『迷惑かけた』」  

 民進党の山尾志桜里・元政調会長(43)(衆院愛知7区、当選2回)は7日夜、国会内で大島幹事長に離党届を提出した。7日発売の『週刊文春』が既婚男性弁護士との交際疑惑を報じていた。山尾氏は記者団に『男女の関係はない。政策ブレーンとして手伝ってもらった』と疑惑を否定した上で、『誤解を生じさせるような行動で迷惑をかけ、深く反省し、おわび申し上げる』と陳謝した。 

・産経新聞=1面掲載「民進・山尾氏が離党届/不倫疑惑報道『誤解生みおわび』」 

 民進党の山尾志桜里元政調会長(43)=衆院愛知7区=は7日夜、同日発売の週刊文春で既婚の男性弁護士(注・記事中は実名・年齢を表記)との不倫疑惑が報じられたことを受け、大島敦幹事長に離党届を提出した。8日の常任幹事会で承認される運びだ。 

 わたしが気になったのは、週刊文春の報道について読売が「交際疑惑」、産経は「不倫疑惑」と表記しているのに対し、朝日、毎日は「疑惑」を使っていないことです。朝日は総合面の関連記事で、民進党の大島幹事長への記者の質問を引用する中で「疑惑を全否定したのになぜ離党するのか」と、この1カ所だけ「疑惑」がありますが、毎日新聞は関連記事も含めて使っていません。ちなみに日経新聞は「週刊文春が既婚男性との交際疑惑を報じたことを受けて、同党に離党届を提出した」としました。東京新聞は本記では「疑惑」を使わず「既婚男性と交際していると週刊文春に報じられたことを受け」とする一方で、社会面の関連記事では「交際疑惑」としています。地方紙に掲載されることが多い共同通信の配信記事は「交際疑惑」、時事通信は「『不倫』疑惑」でした。
 大勢は「疑惑報道」が多数派ですが、山尾氏のケースでは「交際」であれ「不倫」であれ、あえて「疑惑」と呼ばずとも報道は可能ではないかと思います。

 ▼「不貞行為」は当事者の問題
 「疑惑」には、単に事実と整合していない可能性がある、という意味もあるのかもしれませんが、一般には、本来やってはいけないこと、あってはならないことが隠されているのではないか、との疑いが持たれているニュアンスが強いように思います。分かりやすいのは、それが本当だとしたら違法行為で刑事罰の対象になる場合です。
 週刊文春が報じたのは山尾氏の交遊関係です。週刊文春は「禁断愛」という用語を使っていて、必ずしも山尾氏と既婚男性の関係を具体的には指摘していないのですが、記事の全体を通して読んだ側が受ける印象は、「不倫」であり「男女の関係」でしょう。そのことに対して「疑惑」と呼べば、単に事実としてそういう関係にあったか否かを超えて、そういう関係にあるのは許されない、というニュアンスがつきまとうのは避けられないように思います。不倫は「不貞行為」のことであって、民事上は配偶者への不法行為として賠償を命じられることもありますが、人によって受け止め方が異なる余地があります。絶対に許されないことであるかどうかは、個人の受け止め方の問題でしょう。配偶者が何ら問題だと思わない場合もあるとすれば、やってはいけないことなのかどうかは本来、当事者の夫婦の間でのみ問題にされることであるように感じます。
 また、政治報道の場合はこちらがより本質的なことかもしれませんが、山尾氏のケースでわたしが感じるのは、仮にその既婚男性との交際が不倫に当たるとしても、何か政治が曲げられるようなことではなく、少なくともそうした指摘は挙がっておらず、私人の交遊関係の枠内ではないかということです。政治家のスキャンダルとしては、例えば違法な献金や公共工事を巡る口利きなどとはちょっと性質が異なるのではないか、と感じます。「不倫は許されないこと」という価値観が社会で強固に共有されているかと言えば、そうとも言い切れないと思いますし、価値観の違いを相対化して伝える、という観点からは、あえて「疑惑」という用語は使う必要はないと思います。

 ▼週刊誌報道がすべて
 もう一つ違和感を覚えるのは、新聞が「疑惑」と報じ、一部には山尾氏の説明責任を指摘する記事まであるのに、その「疑惑」は週刊文春の報道がすべてという点です。他人の尻馬に乗って山尾氏を批判するのはどうだろうか、ということです。仮にマスメディアとして「疑惑」ととらえるのなら、自らも真相を明らかにすることを目指して取材するべきでしょう。現に、違法な献金の疑いや、公共工事を巡る口利きが疑われたケースでは、雑誌が先行した場合でも新聞は取材を展開しました。
 山尾氏の交遊関係は取材するに足らない、とまでは思いませんし、むしろ独自に調べる新聞があれば新聞の多様性の幅も広がります。新聞それぞれの判断の違いも尊重されるべきです。また朝日、毎日の紙面や東京新聞の本記中に「疑惑」がないのは、意図的に使用を避けたのではなく、たまたまなのかもしれません。それでも、わたし個人の考えとしては、私人の交遊の話であり、山尾氏が公に「男女の関係ではない」と言明した時点で、手元にそれ以上の判断材料がない状況では、新聞はひとまず山尾氏と週刊文春の間の問題として、推移を見守るのがいいように思います。そうしたスタンスを紙面、記事の上でも示すなら、「疑惑」の使用を避けるのは一つの方法のように思います。

 山尾氏がかつて、自民党の男性議員の不倫を厳しく批判していたことをもって批判していたとして、山尾氏を批判する論調もあるようですが、現状では山尾氏は報道を否定しており、事実は定まったとは言えない状況です。たとえ状況的には真っ黒のようでも、新聞報道は事実の前に謙虚でありたいと思います。

 ▼公党の人権感覚
 以上は新聞の報道を巡っての私見ですが、山尾氏の問題では、離党届を受理した民進党の対応に対しても疑問を持っています。山尾氏は週刊文春の報道に対して「男女の関係」であることは否定し、事実上、報道を否定しているのですから、離党届を幹事長の預かりにして推移を見守る選択肢もあったのではないでしょうか。仮に将来、週刊文春が続報を出し、山尾氏が見解を一転させるような事態が起こりうるとしても、現段階の問題として、報道被害の可能性がわずかでも排除できないと考えるなら、慎重な対応はありえたのではないかと思います。離党の承認は政治判断ということなのでしょうが、公党としての民進党の人権のとらえ方に対して、わたしには懸念があります。

【追記】2017年9月10日22時45分
 「▼週刊誌報道がすべて」の段落の中で、「山尾氏がかつて、自民党の男性議員の不倫を厳しく批判していたことをもって」の「批判していたことをもって」を「批判していたとして」に修正しました。わたしが指摘したいのは、山尾氏が他人の不倫を批判していたことではなく、そうあげつらって山尾氏を批判する論調があることです。趣旨がより明確になるようにしました。実際に山尾氏が他人の不倫を批判していたかどうかは、山尾氏が週刊文春の記事内容を否定している現状では、ひとまず置いていい問題だと考えています。

「世界」10月号の座談会「報道の『沈黙』が社会を壊すープロフェッショナリズムの不在について」

 お知らせです。

 9月8日発行の岩波書店「世界」10月号に、わたしが参加した座談会の記事が掲載されています。タイトルは「報道の『沈黙』が社会を壊すープロフェッショナリズムの不在について」。上智大教授の田島泰彦さん、立教大名誉教授の服部孝章さんとの3人で、新聞のジャーナリズムについてあれこれ語りました。 

※岩波書店 https://www.iwanami.co.jp/book/b313507.html 

 皮切りは、鹿児島市の男性がけんかの仲裁に駆け付けた警察官に取り押さえられ、低酸素症で亡くなった「警官制圧死訴訟」について。警察官に同行していたテレビ局が一部始終を撮影しており、鹿児島県警が映像を押収しています。その映像を、遺族が県警を相手に起こした民事訴訟で証拠として採用するか否かを巡って論議を呼び、最終的に最高裁が報道の目的外使用に当たるとして、証拠採用を認めない判断を示しました。取材の成果は報道目的以外には使わない、そうでなければ報道や取材への信頼を得られないというのは、基本的な報道倫理の一つです。しかし、今回の警官制圧死訴訟には、「だから証拠不採用でよかった」では終わらない問題があります。

 その後は、地方紙の権力監視、マスメディアの2極化、ジャーナリストの職能的連携、職能と労働組合、ジャーナリズムと市民社会、メディアの信頼再構築などを巡って話し合いました。列挙したキーワードをみても分かるように、内容としてはちょっとまとまりを欠いたように思います。ただ、例えばジャーナリストが新聞社で働くことと、新聞社の社員が記者の肩書を付与されて働くことの差異など、わたしとしては、現在考えていることを率直に話しました。

 わたしの発言に対して、異論やご批判もあろうかと思います。お手に取って目を通していただければ幸いです。

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