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組織ジャーナリズムに身を置き40年余

これで終わりにはできない~杉田水脈議員LGBT差別、自民「見解」への新聞各紙社説

 杉田水脈衆院議員のLGBT差別寄稿の続きです。
 杉田議員を指導したという自民党の「見解」が示され、それに対して杉田議員からは謝罪も反省もないコメントが示されました。自民党総裁の安倍晋三首相はぶら下がり取材に応じましたが、話した内容はまるで他人ごとのよう。8月4日付の新聞各紙でもこの問題を取り上げた社説がありました。その内容は杉田議員と自民党への批判、疑問で共通しています。やはり、これで終結とはならないように思います。
 以下に、確認できた社説のそれぞれ一部を引用して書きとめておきます。

・朝日新聞「LGBT 自民の本気度を疑う」 

https://www.asahi.com/articles/DA3S13620657.html?ref=editorial_backnumber

 杉田氏とは一線を画し、LGBTに寄り添う党の姿勢を示したが、額面通りには受け取れない。自民党はどこまで本気でこの問題に取り組もうとしているのか。
 たしかに、一人の所属議員の言動に党が見解を示すのは異例ではある。だが、二階俊博幹事長が「人それぞれ政治的立場、色んな人生観もある」と問題視しない考えを示すなど、当初の反応は鈍かった。
 これに対し、党本部前で大規模な抗議集会が開かれ、海外メディアも批判的に報じた。石破茂・元幹事長は「そんな心ないことを自民党は許してはならない」と語り、9月の党総裁選のテーマにも浮かんだ。内外の批判に追い込まれ、党見解で収束を図っただけではないか。
 「指導」の内実はつまびらかでない。杉田氏は「真摯(しんし)に受け止め、今後研鑽(けんさん)につとめて参りたい」とコメントしたが、撤回や謝罪はしていない。安倍首相も、人権と多様性が尊重される社会づくりが「政府与党の方針」と述べるだけで、杉田氏の主張への考えを自らの言葉で語ることはなかった。
 杉田氏への批判が広がっているさなか、同党の谷川とむ衆院議員はインターネット放送の番組で、同性愛を念頭に「趣味みたいなもの」と発言した。
 谷川氏は、一昨年に党が作成した「性的指向・性同一性(性自認)に関するQ&A」に目を通さなかったのか。そこには、はっきりと「本人の意思や趣味の問題であるとして片付けてしまうことは、誤りです」と書かれている。議員らに配り、周知する狙いだったが、2年たっても浸透していない。 

 

・毎日新聞「自民党が杉田議員を『指導』 形だけ取り繕う空々しさ」  

https://mainichi.jp/articles/20180804/ddm/005/070/120000c 

 見解は党のホームページに掲載されている。ただし、誰が杉田氏を指導したのかの記載はない。
 韓国訪問中だった二階俊博幹事長は「知らない」とひとごとのように語った。先月には「人それぞれ、いろんな人生観もある」と杉田氏をかばうような発言もしている。
 自民党がこの問題に及び腰なのは安倍晋三首相と杉田氏の「近さ」をおもんぱかったからではないか。
 もともと自民党ではなかった杉田氏が衆院選比例中国ブロックの名簿順位で優遇されたのは、首相の後押しがあったからだとされる。
 批判の矛先が首相に向かい始めたため、慌てて火消しを図ったようにも見える。党見解の発表は首相が宮城県を視察した当日で、同行記者団から認識を問われて「党として既に見解を表明している」とかわした。
 一連の動きからくみ取れるのは、自民党内の人権感度の鈍さではないか。多様性を尊重する世界的な潮流から取り残されているように思えてならない。その体質は谷川とむ衆院議員が同性愛は「趣味みたいなもの」と発言したことにも表れている。
 自民党は2016年参院選と昨年の衆院選でLGBTに関する理解増進法の議員立法を公約に盛り込んだが、具体化していない。今回の党見解では「真摯かつ慎重に議論」と積極的なのかどうかも疑わしい説明がわざわざ添えられている。
 批判をかわそうと形だけ取り繕うから、余計に空々しく聞こえる。 

 

・山形新聞「自民議員の『排除の論理』 少数者にも価値はある」
 http://yamagata-np.jp/shasetsu/index.php?par1=20180804.inc 

 2年前の7月には、相模原市の知的障害者施設「津久井やまゆり園」で入所者19人が殺害され、職員を含む26人が重軽傷を負う事件が発生した。殺人罪などで起訴された元職員植松聖被告は、共同通信の接見取材に対し「あれしか方法はなかった」と自己を正当化している。さらに、やまゆり園での勤務を通して「障害者は生きていくのに金がかかる」と考えるようになり、意思疎通が困難な障害者は「社会からいなくなった方が良いと気付いた」と、殺意を抱くようになった経緯を述べている。
 植松被告の言動はあまりにも極端だ。ただし「生きていくのに金がかかる」、つまり「生産性がない」ような人に積極的価値を見いだそうとしない点では、杉田氏の主張と共通する部分があるのではないか。
 半面、相模原殺傷事件に関しては次のような話がある。事件で顔や首を切られ負傷した40代女性は重度の自閉症だ。50代の兄は高校1年の時に、その妹に救われた。兄がいじめを受けて不登校になった際、邪険にしても妹は何度も体を密着させてきたのだという。寄り添い続けてくれた妹に接するうち、逃げずに学校に戻ることを決めた。そして今、兄は福祉団体で働いている。「生きていくのに金がかかる」「生産性がない」といった言葉が見落としている部分がいかに多いかを示す一例である。
 杉田氏が寄稿した雑誌を発行するのが大手出版社なのもふに落ちない。強者よりも弱者の意見をくみ取るのが、雑誌や出版社の本来的な在り方だったはずだ。 

 

・京都新聞「LGBT寄稿  正しい認識を共有せよ」
 https://www.kyoto-np.co.jp/info/syasetsu/20180804_4.html 

 杉田氏の寄稿は「『LGBT』支援の度が過ぎる」というタイトルだが、そもそも認識が間違っている。
 LGBT支援の本質は、特別扱いではなく、権利の保障である。男女の区別と異性愛に基づく従来の社会制度を、多様な性のあり方に応じたものにしよう、ということだ。同性の結婚などを認める流れが国際的に広がっているが、それに伴い誰かの権利が削られるということはない。
 杉田氏は、日本は寛容な社会で差別はあまりない、とも書いているが、LGBTに対する社会の無理解が、生きづらさを助長している実態を知らないのだろうか。
 思春期に自らの性的指向について悩む人の中には、自殺を考える人も多いことが、さまざな研究から明らかになっている。
 国会議員の役割は本来、こうした問題を抱える人たちの声を国政に届けることである。
 自民党は杉田氏に対し「問題への理解不足と関係者への配慮を欠いた表現がある」として、注意するよう指導し、党見解をホームページに掲載した。
 これで十分ということなのだろうか。杉田氏の寄稿は、間違った認識に基づく攻撃的な内容だ。注意を促して済むとは思えない。
 二階俊博幹事長は「人それぞれ、いろんな人生観がある」「大げさに騒がない方がいい」などと繰り返すが、このような姿勢が、差別を深刻化させていることに気づいてもらいたい。
 安倍晋三首相は「人権と多様性が尊重される社会をつくるのは当然」と話すが、人ごとのような印象を受ける。杉田氏を公認した党総裁として、説明責任を果たしてほしい。 

 

・山陽新聞「LGBT寄稿 自民党の姿勢が問われる」
 http://www.sanyonews.jp/article/763004/1/?rct=shasetsu 

 自民党の対応はお粗末すぎた。二階俊博幹事長は当初、「人生観もいろいろある」などと寄稿を容認するかのような発言をした。杉田氏も批判を受けた当初、自身のツイッターで「先輩議員から『間違ったことを言っていないから、胸を張っていれば良い』と声を掛けられた」などと記し、党の責任を問う声が一気に高まった。
 自民党は1日付の党ホームページで、寄稿は「問題への理解不足と関係者への配慮を欠いた表現がある」と認め、杉田氏に「今後、十分に注意するよう指導した」と公表した。だが、杉田氏は「真摯(しんし)に受け止める」などとするコメントを発表しただけで、撤回や謝罪はしていない。国会議員である以上、公の場で説明するべきではないか。
 杉田氏は日本維新の会や次世代の党を経て、昨年の衆院選で自民党の公認を得て、比例中国ブロックで当選した。杉田氏は今回と同様の主張を以前から繰り返していた。自民党は寄稿は党の見解と異なると強調しているが、比例名簿で、杉田氏を比例単独候補の最上位に掲載した党の責任は免れないだろう。 

 

・西日本新聞「LGBT発言 政権党の人権感覚を問う」
 https://www.nishinippon.co.jp/nnp/syasetu/article/438585/ 

 党見解の公表と歩調を合わせるように、この問題に関する発言を控えてきた安倍晋三首相(党総裁)も2日になってようやく「人権、多様性が尊重される社会を目指すのは当然だ。政府、与党の方針でもある」と記者団に語った。
 これが、月刊誌の発売から2週間後の対応である。遅きに失した感は否めない。さらに、党本部による「指導」で済む問題なのか。首相の発言も一般論の域を出ていない。
 党見解を受けて杉田氏は「真摯(しんし)に受け止め、研鑽(けんさん)に努めていく」との談話を出したが、謝罪もなければ撤回もしなかった。
 憲法が保障する国民の基本的な人権に関わる問題である。しかも、党の見解や選挙公約にも明らかに違反する言動なのに、この程度の対応でよしとするのか。断じて看過できない。
 政権を担う政党の人権感覚を改めて問いただしたい。  

  この問題については以下の過去記事も参照いただければ幸いです。

news-worker.hatenablog.com

 

news-worker.hatenablog.com