- 出版社/メーカー: 東洋経済新報社
- 発売日: 2010/06/28
- メディア: 雑誌
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iPadの日本発売などもあってか、電子書籍をめぐる日本の出版業界や関連業界の動きに紙数を割いているのが目を引きます。新聞業界については、デジタル分野での有料化指向を中心に朝日新聞社の秋山耿太郎社長インタビューや英国新聞界のリポートを掲載。新聞各社がデジタル展開を進める中で、読売新聞社だけは「紙」最優先で進んでいる最近の業界内事情も整理しています。
個人的に興味をそそられたのは経産省出身の岸博幸慶応大教授とNHKでの勤務経験がある池田信夫アゴラブックス代表取締役(上武大学大学院教授)の対談で、誌面には「激論 日本の大手メディアはクラウド時代に耐えられない」との見出しがついています。岸さんが、グーグルやアマゾンなどのプラットフォーム支配がこのまま続けば、コンテンツをつくっている人にカネが回らなくなり、日本の文化やジャーナリズムが成り立たなくなると指摘したのに対して、池田さんは、プロであれば独立してやっていけばいいのに日本の新聞記者がそうならないのだとしたら個人の能力ややる気の問題だとバッサリ。発言内容から編集部が取った見出しは、岸さんが「ジャーナリズムはプロが担わないとダメ」、池田さんは「メディアの人間は特権意識を捨てなさい」となっています。
日本の新聞業界は、米国のようにバタバタと廃刊、休刊が続くという状況にはなっていませんが、朝日新聞社の早期退職がネット上で話題になる(例えばこのブログエントリー)ように、人員削減などのリストラは避けられず、新聞記者の大量失業や転職は日本でも現実味のある話だと思います。わたし自身、既存マスメディアの企業内記者の働き方のありようや「ジャーナリズムを担うのはだれか」の考察を続けているところであり、2人の発言内容には一読してさまざま思うところがありました。
余談ですが、週刊東洋経済がバックナンバーで新聞業界の特集を組んだ際のタイトルは、昨年1月は「テレビ・新聞陥落」、ことし2月は「新聞・テレビ断末魔」でした。2008年12月には週刊ダイヤモンドも「新聞・テレビ複合不況」と題した特集を組んでおり、わたしの周囲では「『複合不況』『陥落』『断末魔』ときて、さて次は『レクイエム』か」などという声も飛び交っていました。今回のタイトルは「『旧大陸』企業」に身を置くわたしとしては「穏当だなあ」というのが率直な感想です。