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組織ジャーナリズムに身を置き40年余

未明の知事「辞職」と市長選出馬表明〜大阪ダブル選挙まで1カ月余

 大阪府橋下徹知事が先週末の22日(土)未明、辞職願を府議会議長に提出。ただちに府議会本会議で同意が得られ、今月31日付での辞職が決まりました。議会後、橋下氏は報道陣に、既に11月27日の投開票の日程が決まっている大阪市長選への出馬を表明。また、大阪府選挙管理委員会は、知事選を同じく11月27日投開票とする日程を決め、知事選、大阪市長選のダブル選挙実施が確定しました。23日の日曜日には、橋下氏が代表を務める地域政党大阪維新の会」が、市長選に橋下氏、知事選には維新の会幹事長の府議松井一郎氏を擁立することを決めています。
 これらの週末の動きを、在阪の新聞各紙はいずれも大きく報じました。備忘も兼ねて、印象に残った点、気付いた点などを紹介します。対象は各紙とも大阪本社発行の最終版です。

 【22日(土)夕刊】

「やらなければ『実行力がない』と批判され、やれば『独裁だ』と言われる。それなら、やって批判を受けた方がいいとの思いで大阪都に挑戦する」(朝日新聞から)

 細かい字句に違いはあるものの、各紙とも橋下氏が府議会の議場で行った辞任のあいさつから、この言葉を紹介しています。橋下氏はあいさつの中で、大阪府大阪市を再編して一つの自治体にする「大阪都構想」について「府と大阪市のあり方を何とかしなければ大阪の未来はないという思いが、日に日に強まるばかりで、今や自分で抑えることができない」(毎日新聞22日夕刊)とも語っています。また、任期を全うせずに知事を辞職することに関連して「知事を続けることとダブル選で府民に『大阪のかたち』を問うこと。どちらが大阪のためかと言えば、府民が大阪の将来像を選択する機会をつくる方が価値が上だ」(朝日新聞22日夕刊)と説明したと報じられています。
 総じて各紙の報道からは、橋下氏が自らの政治手法に「独裁」との批判があることを十分に意識しつつ、辞職とくら替え出馬の目的は「大阪都構想」実現のためであることを最大限に強調したことが読み取れます。
 橋下氏はもともとの予定では、21日の府議会審議が終了した後に辞職願を提出、23日に市長選への出馬を表明するとみられていました。しかし、任期半ばでの辞職を批判する自民党府議団が議案審議に抵抗。府議会が紛糾した結果、辞職願提出は日付が変わって午前2時半ごろになりました。議場で辞職のあいさつをしたのは午前3時15分ごろ。産経新聞は「議案の審議中は、終始淡々とした様子を見せていたが、あいさつのさいには顔を紅潮させ、思わず目を潤ませたように見える場面も」と紹介しています。
 一方、大阪市長選で、任期満了に伴い再選を目指して出馬することを既に表明している平松邦夫市長は、橋下氏を迎え撃つことに対してコメントを発表。「独裁を標榜する政治家の言動に振り回されることなく任期を全うし、市民の幸せを着実にめざしていきたい」(朝日新聞より)などと、徹底的に「独裁」をキーワードに橋下氏を批判する姿勢をうかがわせています。朝日新聞が約20行の単独記事で紹介しているのが目を引きました。このほか各紙とも、橋下氏の辞職とくら替え出馬に対する各党、各会派の反応を紹介しています。

 【23日(日)付朝刊】

「大都市の将来像を語れ」毎日新聞「社説」
「大阪の将来像を競い合え」産経新聞「主張」

 23日付朝刊では毎日新聞産経新聞が社説で取り上げました。ともに似たような見出しで、橋下氏が唱える大阪都構想を中心に、平松氏が掲げる「特別自治市構想」にも触れながら、論戦への期待を表明しています。これに対して、朝日新聞が翌24日付朝刊に掲載した社説の見出しは「選挙で問われる橋下流」。3年8カ月の橋下氏の知事在任期間を振り返り、選挙は「『橋下流』を総括する機会でもある」と論じています。
 23日付朝刊では、ストレートニュースとしては各紙とも特段の記事がない中で、読売新聞は一面トップで、大阪府池田市の倉田薫市長が知事選に出馬意欲を持っていると報じました。記事によると、出馬する場合には府内の市町村長らを中心に支援を求める構え。他紙も以降、倉田氏の動向をそろって追っており、維新の会に対抗する立候補予定者が確定していない中で、独自の存在感を放っています。

 【24日(月)付朝刊】
 各紙とも、維新の会の知事選候補に正式決定した松井氏が、橋下氏とともに記者会見したことを大きく取り上げている中で、産経新聞は一面トップで、民主党から知事選出馬の打診を受けていた弁護士で元東京地検特捜部検事、元長崎地検次席検事の郷原信郎氏が、立候補に否定的な姿勢を示していることを伝えました。郷原氏は先週21日、民主党の打診を受けていることが表面化。九州電力玄海原発のやらせメール問題で、九電の第三者委員会委員長として九電の姿勢を厳しく批判したことが話題になった直後だっただけに、去就が注目されましたが、産経記事によると、まさにその九電問題が最優先課題とのことです。

 【24日(月)夕刊】
 24日午前、郷原氏が大阪府庁で記者会見し、出馬断念を表明しました。各紙ともこのニュースを掲載。朝日新聞は一面トップで、倉田・池田市長の擁立を民主党府連と自民党府議団が検討していることを伝えています。記事によると、府内の市長有志らも出馬を要請。仮に民主・自民の統一候補として府内の市町村長らの支持も得れば、維新の会の松井氏との対決構図が固まることになりそうです。

 11月27日のダブル選挙投開票まで1カ月余。「大阪都構想」や「特別自治市構想」など大都市のありよう、首長政党と既成政党の関係、さらには維新の会の教育基本条例案や職員基本条例案の是非など、大阪という一地域だけの問題にとどまらない意味を持つ選挙戦と、その報道が続きます。大阪の新聞がこの選挙について何をどんな風に報じたか、このブログで紹介していこうと思います。そのためのカテゴリー「2011大阪W選」を新設しました。
 アップは随時ですが、可能な限りこまめな更新を目指します。わたしなりのジャーナル(日報)の試みですが、必ず毎日更新できるとは限りません。また、各紙について毎回網羅的に紹介するのではなく、目に留まった記事、印象に残った報道を書き留めていきます。大阪ではテレビでも相当の報道があるのですが、残念ながら網羅してチェックできる状況にありません。新聞だけが対象です。
 対象の新聞は原則として朝日、毎日、読売、日経、産経の5紙、いずれも大阪本社発行の最終版です。周辺の地方紙として、京都新聞神戸新聞もウオッチします。