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組織ジャーナリズムに身を置き40年余

憲法99条「公務員の尊重擁護義務」は改憲問題の急所〜浦部法穂さんの論考から ※追記あり

 よく目を通す憲法関連のサイトに「法学館憲法研究所」の公式ホームページがあります。
 ※法学館憲法研究所 http://www.jicl.jp/index.html
 憲法をめぐる情勢について、研究者が専門的な観点から解説した記事や、働きながら働き方の問題として、あるいは社会活動の中で憲法とかかわる視点を提示する現場の方からの報告(今週のひと言)などが随時アップされ、とても参考になります。
 このサイトの常設企画の一つに、憲法学者で法学館憲法研究所顧問の浦部法穂さんの「憲法時評」があります。2月21日更新の論考は「憲法尊重擁護義務」のタイトルで、憲法99条に規定されている公務員の憲法尊重擁護の義務がテーマです。
 ※浦部法穂憲法時評「憲法尊重擁護義務」
 http://www.jicl.jp/urabe/backnumber/20130221.html
 99条は以下のような短い条文です。

第99条 天皇又は摂政及び国務大臣国会議員、裁判官その他の公務員は、この憲法を尊重し擁護する義務を負ふ。

 この条文については、このブログでも何度か取り上げてきました。閣僚や国会議員を含めて、公務員である限りは憲法を尊重し擁護する義務を負っています。仮に自治体首長や国会議員が、この憲法の根本原則を変えてしまうような改変論や、この憲法を無効として自主憲法を制定するとの主張を掲げるとすれなすれば、明確に憲法違反です。そして現在、そのような憲法違反の国会議員が公党の代表を務め、先の衆院選では比例代表自民党に次ぐ第2党の得票でした。石原慎太郎氏のことです。自主憲法制定は、石原氏と大阪市長橋下徹氏が共同代表を務めている日本維新の会の公約にもなりました。
 石原氏の自主憲法制定論は今に始まったことではなく、その意味では99条に違反する公務員の存在も、今に始まったわけではありません。一方で、東京都知事として石原氏は高い支持を維持していました。そうやって考えていくと、実はこの99条が機能していない、社会的に意識されていないことが、改憲問題の急所の一つであることに気付かされます。浦部さんの論考は、そのことを平易に説いています。特に次の一説は、国会議員や公党が「憲法改正」をかざす場合に、根本的な法理から自ずとその内容には制限がかかること、そしてそのことを当の国会議員や公党が知ってか知らずか、おおっぴらに公然と違反していることを分かりやすく指摘しています。

 いまの憲法を破棄すべきだという考え方をもつことやそういう主張を唱えることは、国民としては自由である。だが、公職にあるものには、その自由はない。なぜなら、彼らは憲法99条によって「憲法尊重擁護義務」を課せられているからである。だから、石原氏がみずからの思想・持論を貫きたいと考えるのなら、彼は都知事にも衆議院議員にもなってはいけなかったのである。そして、くだんの質問が「日本維新の会」を代表しての質問である以上、同会としてそのような立場に立っているとみなさざるをえず、そうである以上、「日本維新の会」も在野の政治団体にとどまるべきであって公職の選挙に打って出るべきではないのである。「国会議員が国の一番基本となる憲法のあり方を議論するのは当然ではないか、むしろ国会議員の最も重要な任務ではないのか」という反論が聞こえてきそうだが、それも「憲法尊重擁護義務」の範囲内でのことであって、「憲法破棄」などという議論は明らかに一線を越えている。

 石原氏が2月12日の衆院予算委員会で持論を展開したことに対し、浦部さんは「もはや衆議院議員としての資格を有しないとされるべきである。なのに、そのような観点からこの石原質問を報じたメディアは、これまでのところ、私の目についたかぎりではまったく見当たらない。日本の報道記者のレベルも落ちたものである」と、マスメディアの報道をも厳しく批判しています。憲法への姿勢が問われているのは国会議員や政党、自治体首長や公務員に限りません。マスメディアと、その中で働く一人ひとりも問われているのだと感じています。


【追記】2016年8月17日23時30分
◎「池上彰でもわかる日本国憲法の問題点」から来られた方へ http://matome.naver.jp/odai/2136765382340635701
 ご訪問ありがとうございます。
 この記事は、石原慎太郎氏の自主憲法制定論を批判的に書き、その根拠に憲法99条を挙げていますが、国会議員や市長が憲法改正を議論することを禁じられていることを記述したものではありません。そういう解釈には立っていません。「自主憲法制定」と「憲法改正」はまったく別のものです。自主憲法制定は、言葉の意味合いにおいては現行憲法を否定し破棄するものです。仮に手続きとして憲法改正を準用したとしても、憲法の性格としては全く別のものに置き換えられることです。「改正」と同列に扱えるものではありません。
 一方で憲法96条は改憲の手続きを以下のように定めています。

第96条 この憲法の改正は、各議院の総議員の3分の2以上の賛成で、国会が、これを発議し、国民に提案してその承認を経なければならない。この承認には、特別の国民投票又は国会の定める選挙の際行はれる投票において、その過半数の賛成を必要とする。
2 憲法改正について前項の承認を経たときは、天皇は、国民の名で、この憲法と一体を成すものとして、直ちにこれを公布する。

 ここで「各議院の総議員の3分の2以上の賛成で、国会が、これを発議し、」とあるように、国会議員憲法改正論議することは禁じられていません。96条と99条を合わせて考えるなら、国会議員ら公務員が憲法改正を議論するのは構わないが、この憲法の根本原理を損なわない範囲でなければならないと、わたしは考えています。それは例えば、主権在民、人権の尊重、平和主義などです。
 この記事の趣旨を正確にくみ取っていただければ幸いです。