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スコットランド独立投票と沖縄の「自己決定権」〜地方紙社説の記録

 英国から独立するか否かを問うスコットランド住民投票は9月18日実施され、即日開票の結果、独立反対票が賛成票を上回ることが確実となり、スコットランドは英国にとどまることとなりました。

スコットランド、独立否決 英首相が勝利宣言、分裂回避」2014年9月19日(47news=共同通信
http://www.47news.jp/CN/201409/CN2014091901000629.html

 【エディンバラ共同】英国からのスコットランド独立の是非を問う住民投票は18日夜(日本時間19日朝)、即日開票された。選管の19日の開票結果によると、反対票が賛成票を上回るのが確実となり、独立は否決された。キャメロン英首相は事実上の勝利宣言をした。英政府は国土の3割、人口の8%を超えるスコットランド(人口約530万人)をつなぎ留めることに成功し、分裂による国力低下や経済混乱の危機を辛うじて回避した。
 独立派は「悲願」達成には届かなかったものの、当初の予想を上回る追い上げで接戦を繰り広げ、分離・独立問題を抱える世界各国から大きな注目を集めた。

 投票当日が近づくにつれ、日本のマスメディアでも大きく取り上げられるようになっていたこの出来事に対して、わたしは、日本本土(ヤマト)と沖縄との関わりの観点から関心を持って見守っていました。米軍基地が過度に集中している沖縄で、住民の民意が日本国の施策に反映されない状況が恒常化しています。民意が明確に示された最近の世論調査の例では、このブログでも紹介したように、米軍普天間飛行場の代替施設建設地として日米両国政府が合意した名護市辺野古地区で海底ボーリング調査が行われていることに対して、80%の人たちが「移設作業は中止すべきだ」と回答しています。
※参考過去記事
「『辺野古中止』80%、政権不支持81%〜琉球新報社・OTV合同世論調査(備忘)」=2014年9月1日
http://d.hatena.ne.jp/news-worker/20140901/1409530794

 民意は明らかなのに、その意に反した国策が強行される、言葉を換えれば地域住民が地域の将来を自分たちで選び取ることが許されない状態です。そうしたことが沖縄以外の地域では起こりえないのならば、これもこのブログで書いてきたことですが、それは沖縄に対する差別です。差別を強いているのは日本政府ですので、その政府を成り立たせている日本国の主権者の一人として、日本本土に住むわたしも沖縄への差別の責任を負う立場だと考えています。
 英国と日本、スコットランドと沖縄では様々に事情が異なるでしょう。しかし、沖縄の扱いをめぐって、実は日本は国家統合のありようを問われているのだとすれば、スコットランド住民投票は様々な示唆に富んでいるようにも思えます。
 以上のようなことを考えながら、この出来事を新聞各紙がどのような視点でとらえているか、ネット上で20日付朝刊の社説を目にする限りで調べてみました。沖縄の地元紙2紙は「自己決定権」がキーワードです。備忘を兼ねて一部を引用します。

沖縄タイムス「独立問う住民投票 自治への問い手放すな」

 沖縄の戦後史は、米軍統治の下で、政治的・経済的・精神的な自立を求めて悪戦苦闘した歴史だった。
 戦後、日本が戦争に敗れ、米軍が沖縄を軍事占領したため、沖縄の人々の選挙権は停止された。沖縄選出議員のいない国会で新憲法が制定され、沖縄選出議員のいない国会で沖縄の分離を盛り込んだサンフランシスコ講和条約が批准されたのである。
 自分たちの運命を決定づける重要な場面で、沖縄の人たちは、自己決定権を行使することができなかった。
 復帰後も、基地維持優先政策と安保・地位協定の壁にさえぎられ、自分たちの住む地域の将来を自分たちで決めることができない状態が続いている。米軍普天間飛行場辺野古移設計画がその典型だ。
 変化しつつあるのは、県民の中から、かつての「居酒屋独立論」の時代とは異なる、地に足のついた自立への取り組みが見られることだ。
(中略)
 スコットランドの経験を受けて、沖縄でも独立論議が高まりそうだ。しかし、政府にとってのほんとうの危機は、独立論議の高まりではない。 ほんとうの危機とは、沖縄県民の中に政府への不信感がどうしようもないほどに根付き、広がることである。その兆候は表れ始めている。

琉球新報「スコットランド 自治権拡大は世界の潮流だ」

 世界の耳目を集めたスコットランドの独立を問う住民投票が終わった。独立反対が賛成を上回り、独立は否決された。この地域の将来像を決める権利を持つのは言うまでもなくその住民だけである。その意思決定を重く受け止めたい。
 それにしても、民主的手続きを通じて国家の解体と地域の分離独立の可能性を示した試みは世界史的に重要な意義がある。それを徹底的に平和的な手段でやり遂げたスコットランド住民に深く敬意を表したい。
 賛否双方の住民が公明正大に論議を尽くす姿にも感銘を受けた。投票権者の年齢を16歳以上へ引き下げた点も印象深い。将来像を問うのだから若年者はまさに当事者であり、だから投票権を与えるべきだという発想だろう。民主主義の原点を見る思いだった。
(中略)
 島袋純琉大教授によると、スコットランド自治政府は現時点でもあらゆる分野で高度な自治権を持つ。英国の政府予算の一部は自動的に自治政府に配分され、英政府のひも付きでなく独自に予算配分を決定できる。欧州連合(EU)の機関にも独自の代表を置く。中央政府と外交権を共有するのに近い。
 そこに一層の権限拡大が約束された。だから、賛成派は独立こそ勝ち取れなかったものの、大きな果実を得たとも言える。原潜の基地の存在にも焦点を当て、非核化の願いを国際的に可視化した意義も大きい。
 冷戦終結以降、EUのように国を超える枠組みができる一方、地域の分離独立の動きも加速している。国家の機能の限界があらわになったと言える。もっと小さい単位の自己決定権確立がもはや無視できない国際的潮流になっているのだ。沖縄もこの経験に深く学び、自己決定権確立につなげたい。

 ほかにも、直接、沖縄に具体的に言及している新聞がいくつかありました。いずれもブロック紙・地方紙です。

福井新聞「スコットランド独立投票 わが国も教訓にすべきだ」

 今回の「独立運動」は、一極集中の中央政府が地域住民の意思を無視し、「国益」を力ずくで追求してきた政策のツケである。
 同様の問題は日本も抱えている。「沖縄」である。県土の約10%に在日米軍専用施設の74%が集中。政府は沖縄の基地負担軽減を口にする一方で、普天間辺野古移設を強引に進める。大戦から変わらぬ植民地状況から脱するため、市民の間で「琉球独立」の動きがある。「寄り添う」という言葉とは裏腹に、住民の痛みを理解しようとしない日本政府は、英政府より罪深いように見えないか。

西日本新聞「スコットランド 独立派健闘が残した教訓」

 最終的に、住民はリスクの高い独立より、英国にとどまる「安定」のメリットを選んだ。しかし、英国という最も成熟した民主主義国家で、一地域の分離・独立が実現の一歩手前にまで至ったのは、やはり驚きである。
 中央政府が地域の世論を軽視し、中央の論理に基づく政策を押し付け続ければ、積もり積もった住民の不満は、時として国家の統合さえ揺るがす−。この事実は、貴重な教訓として残りそうだ。
過重な基地負担に悩む沖縄で昨年、独立を研究する学会が設立された。国家の一体感を維持するために、むしろ地域の「自己決定権」を拡大した方がいいケースもありはしないか。遠い英国の話と片付けず、「国と地方」について幅広く考えるきっかけにしたい。

南日本新聞「英国の住民投票  地方軽視の政治に異議」

 今回の結果は、一極集中の中央政府が住民の意思を無視し、「国益」の名の下に一方的に政策を押しつけてきたことへ異議を突きつけたと言えよう。
 こうしたスコットランドの姿は、在日米軍の基地や施設の7割以上が集中する沖縄の姿と重なる。過重な基地負担の現状に沖縄で独立論が盛り上がっても、住民投票になることはないだろう。
 だが、住民の痛みや不満を理解しなかった英政府の対応が、混乱を招いた。日本政府はスコットランド住民投票対岸の火事とせず、住民意識を尊重した地方自治のあり方を考えることが重要だ。