ニュース・ワーカー2

組織ジャーナリズムに身を置き40年余

毎日新聞1面社説「『冷めた信任』を自覚せよ」〜衆院選の結果を伝える在京各紙紙面の記録 ※追記・改題しました

 第47回衆院選は12月14日に投開票の結果、与党の自民党290議席公明党35議席で計325議席を獲得し、定数475議席の3分の2超を維持しました。ほかの政党別議席数は民主党73、維新の党41、共産党21、社民党2、次世代の党2、生活の党2、無所属9です(共同通信集計による)。
※47news=共同通信「自公325、安倍政権継続 3分の2議席維持、共産倍増」2014年12月15日
 http://www.47news.jp/CN/201412/CN2014121401001708.html

 第47回衆院選は14日に投票、即日開票され、15日未明に全475議席が確定した。自民、公明両党は定数の3分の2(317)を上回って計325議席となり、安倍政権の継続が決まった。自民党は単独で290議席を獲得したが、公示前の295には及ばなかった。安倍晋三首相(自民党総裁)は24日に特別国会で第97代首相に指名され、第3次安倍内閣が発足する運びだ。民主党は公示前の62議席から73に上積みした。維新の党は1減の41議席だった。8議席共産党は倍以上の21となった。

 以下の写真は、15日付の東京発行の新聞各紙朝刊の1面です。

 各紙の1面、社説、政治部長論説委員ら編集幹部の署名評論の主な見出しを以下に書き出してみます。これだけでも各紙ごとの論調の違いがある程度うかがえるのではないかと思います。
朝日新聞
1面トップ「自公大勝 3分の2維持」「安倍政権の基盤強固に」「『アベノミクス』継続へ」「投票率52%前後、戦後最低」「海江田氏落選 民主代表選へ」
1面「首相、改憲論議の推進表明」
社説「自公大勝で政権継続 分断を埋める『この道』に」選択肢はあったか/格差是正こそ急務/投票日の翌日から
署名評論「安倍政治の先 問い続ける」長典俊ゼネラルエディター(1面)
署名評論・座標軸「ゲームで終わらせないために」大野博人論説主幹(20面=最終面)

毎日新聞
1面トップ「自民微減 291議席」「衆院選 自公3分の2維持」「民主微増 共産は倍増」「海江田氏落選 代表辞任へ」
1面「安倍首相 主要閣僚再任へ」「特別国会24日召集、組閣」/「投票率は戦後最低」
社説・1面「『冷めた信任』を自覚せよ」

▼読売新聞
1面トップ「自公圧勝 320超」「議席の2/3上回る」「投票率最低52%前後」「民主伸びず、維新苦戦」「海江田代表落選、辞任不可避」
1面「第3次内閣 全閣僚辞任へ」
社説「衆院選自公圧勝 重い信任を政策遂行に生かせ」「謙虚で丁寧な政権運営が必要だ」奏功した「電撃解散」/野党は受け皿となれず/1票の格差是正が急務
署名評論「目指す道筋 明確にせよ」田中隆之政治部長(1面)

産経新聞
1面トップ「自公3分の2超 圧勝」「首相 長期政権地固め」「海江田氏落選、代表辞任へ」「共産躍進、20議席獲得」
1面「閣僚と党幹部 続投」「補正・来年度予算を急ぐ」
社説(「主張」)「自公圧勝 安倍路線継承への支持だ」「規制緩和と再稼働で成長促せ」野党は受け皿再構築を/与党で憲法協議進めよ
署名評論「手にした『推進力』で難題突破を」有元隆志政治部長(1面)

日経新聞
1面トップ「自公勝利 3分の2維持」「アベノミクスを継続」「民主伸び悩み 維新横ばい」
1面「第3次内閣 24日発足へ」「主要閣僚再任 年内に税制大綱」/「海江田氏が落選」「民主党代表 辞任へ」/「投票率最低 52%前後に」
社説「『多弱』による勝利に慢心は許されぬ」最低投票率深刻な事態/成長戦略実現に注力を
署名評論「この民意くみとる『道』を」池内新太郎政治部長(1面)

東京新聞
1面トップ「自公3分の2維持」「共産倍増、民主 議席増」「投票率最低52%台 推計」
1面「2人に1人棄権 民主主義の危機」/「有権者戸惑い」川上和久・明治学院大教授/「論戦 広がらず」岩崎正洋・日大教授
1面「海江田代表落選、辞任へ」
1面「小選挙区 自民 沖縄で全敗」
社説「安倍政権継続へ 『1強』ゆえに謙虚たれ」絶対得票は30%未満/主要政策、世論と乖離/誤りなきを期すには
署名評論「全有権者の声に耳を」金井辰樹政治部長(1面)


 1面トップの見出しでは、多くが「自公」でそろったのに対して、毎日新聞だけは「自民微減 291議席」と独自色が出ています。紙面ではその下に社説が掲載されており、その見出しは「『冷めた信任』を自覚せよ」。この2本の見出しを視覚的にアピールしようとしたのでしょうか。紙面の構成に工夫があると思いました。

 今回の選挙結果をどう見るか、ポイントはいくつかあると思いますが「戦後最低の投票率」はその最たるものだと思います。在京紙各紙の社説を読んでみると、この投票率の見方、読み解き方に、それぞれの新聞の安倍晋三首相や政権への距離感が反映されているようです。以下に、安倍政権支持が鮮明な読売新聞と産経新聞の社説(産経は「主張」)のうち、投票率に言及した部分を引用します。

▼読売新聞
 一方、首相は、自民党が突出する「1強多弱」体制を維持しても手放しで喜べる状況ではない。野党の失策に加え、戦後最低に落ち込んだ投票率が、固い組織票を持つ与党に有利に働いたからだ。
 与党に対する国民の支持は、積極的ではなく、「野党よりまし」という消極的な面が強いことを、きちんと自覚する必要がある。

産経新聞
 今回の解散総選挙を野党側は大義がないと批判した。だが、有権者の関心度が高まらず低投票率を招いたのは野党側の要因も大きい。とくに政権交代を掲げず、過半数に届かぬ候補者しか擁立できなかった民主党の責任は重い。
 維新も第三極勢力として踏みとどまったものの、存在感の低下は否めない。
 野党側は巨大与党の「暴走」にストップをかけると唱え、アベノミクスの副作用を強調したが、具体的な代替案を示して有権者の心をつかむことができなかった。これでは自公連立政権の受け皿と認知されるのは難しい。

 一方、安倍首相と政権に批判的な朝日新聞毎日新聞は以下のように社説で触れています。

朝日新聞
 この選挙で際立ったのは戦後最低レベルの低投票率だ。意義がつかみにくい解散、野党が選択肢を示せなかったことに対する有権者の冷めた感情があったことは想像に難くない。
 だが、政治と有権者との間のこうした距離を放置することは、日本の将来にプラスになることは決してない。
 株価を上げ、円安誘導を図る安倍政権への政治献金が、その恩恵を受ける大企業からを中心に去年は4割も増えた事実を思い起こそう。ここで市井の有権者が声を上げなければ、格差はますます拡大し、社会の分断線はさらに増えかねない。
 自分の立場を嘆き、分断線の内側にこもって不満を言い募るだけでは、社会も政治も変わることはない。
 日本より大きな格差社会である米国のありように警鐘を鳴らす元米労働長官のロバート・ライシュ・カリフォルニア大教授は、近著「格差と民主主義」で次のように説いている。
 政治を中間層に振り返らせ、格差を減らしていく。その具体的政策に取り組むよう、一人ひとりが当選した政治家に働きかけていくべきだと。そしてこう呼びかけるのだ。
 「投票日の翌日こそが、本当の始まりである」

毎日新聞
 だからこそ、首相は何もかも授権されたかのように民意をはきちがえてはならない。有権者の約半数しか投票に参加しない選挙であり、国会での優位が続くとはいえ自民党は公示前の勢力よりわずかに数を減らした。
 小選挙区は実際の得票率以上に多数派への議席集中を起こす制度だ。勝者にはいたずらに「数」を用いぬ節度が求められる。首相の悲願である憲法改正も公約の約300項目のひとつに含めたからといって、国民の賛意の表れとみなすことはできない。決め手を欠く成長戦略や財政の健全化に、今度こそ結果を出すことが、第3次内閣に課せられた使命であろう。

 日経新聞の社説は低投票率小見出しにも取って、以下のように記述しています。

日経新聞
 投票率は過去最低だった前回2012年の59.32%を大幅に下回り、選挙そのものに有権者からの疑問符が突きつけられた格好だ。深刻な事態である。野党のあり方を含めて日本政治の問い直しが迫られている。

 東京新聞は先に書き出したように、1面に「2人に1人棄権 民主主義の危機」の見出しを取って、識者2人の談話を掲載。社説でも以下のように指摘し、選挙報道にも触れています。

東京新聞
 衆院で三分の二以上という議席数は圧倒的だ。参院で否決された法案も、衆院で再可決すれば成立させられる。それほど強い政治力を、自民、公明両党は引き続き持つことになる。
 しかし、その足元は、強固とは言い難い。
 投票率は史上最低の52%台にとどまる見通しだ。与党の得票率が40%程度だとしても、全有権者数に占める得票数の割合「絶対的得票率」は30%にも満たない。
 それが選挙制度だと言ってしまえば、それまでだが、安倍政権の側はまず、全有権者の三割に満たない支持しか得られていないことを自覚しなければならない。
 有権者の側も、政権への支持が全有権者の三割に満たなくても、憲法改正を発議できる議席を与えてしまう事実に、もっと関心を払う必要があるだろう。
 「国のかたち」でもある憲法の発議を、国民の大多数が望むのならともかく、少数の手で進めてしまっていいわけがない。
 半数近くの有権者が投票所に足を運ばなかった理由は多々あるだろう。まずは、首相が解散に踏み切った理由への疑問だ。
 税は民主主義の根幹だが、今回の衆院選で問われたのは消費税の増税ではなく、再増税先送りの是非だ。有権者の戸惑いは最後まで消えなかったのではないか。
 民主党が今回、定数の半分に満たない候補者しか擁立せず、政権選択の衆院選だった過去二回とは趣が異なった。安倍政権の「信任投票」では、有権者の足が投票所から遠ざかっても無理はない。
 さらに、一票を投じても政治は変わらないという諦めが有権者側にあったのなら見過ごせない。
 序盤から終盤まで一貫して、自民党の優勢が伝えられた。あくまで調査に基づく選挙情勢の報道ではあるが、有権者に先入観を与えることはなかったか。報道の側にも自戒が必要だろう。

 この投票率の低さは、安倍首相と政権に対し、日本国民の総意として白紙委任まで容認するものではない、ということは言えるのだろうと思います。
 このほかにも今回の選挙ではいくつか留意すべきことがあると考えています。沖縄の小選挙区自民党候補が全敗したこと、共産党が倍増以上に躍進したこと、日本維新の会の流れを汲む維新の党が大阪の小選挙区で不振だったこと、などなどです。個人的には、得票の比以上に議席数に差がついてしまう小選挙区制の問題もあいまって、社会のどの意思をだれがどういう形で代表するのか、という民主主義の根本にかかわる問題があると考えています。


※追記・改題しました 2014年12月15日20時10分
 当初の『毎日新聞1面「自民微増」「『冷めた信任』を自覚せよ」〜衆院選の結果を伝える在京各紙紙面の記録』から改題しました。当初アップした際にわたしの手元にあった毎日新聞の15日付朝刊は東京本社発行の「14B版」でしたが、その後さらに新しい版(追い版)を印刷したようです。「14D版」では、1面トップの見出しは「自民横ばい 291議席」に差し替わっていました。このブログ記事のタイトルも改題することにしました。
 公示前の自民党議席は295議席。公認候補が獲得した議席290、当選後の追加公認を含めて291は「微減」ですが、今回の選挙は定数も5減っていました。自民党の獲得議席の評価は、そうしたことも考慮して考える必要があるかもしれません。
 毎日新聞の見出しが差し替わっていることは、この記事をアップ後にツイッターでご教示いただきました。Boさま(@agrinews_watch)ありがとうございました。
【写真説明】毎日新聞東京本社発行の15日付朝刊14D版の1面