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組織ジャーナリズムに身を置き40年余

トランプの米国の暴走と国際協調の道義~敗戦から80年の憲法記念日 新聞各紙の社説、論説の記録

 第2次世界大戦が日本の敗戦で終結してから80年の今年の憲法記念日。新聞各紙も例年と同様に5月3日付の社説、論説で憲法を取り上げました。昨年の衆院選で、いわゆる「改憲勢力」は国会発議に必要な3分の2を割り、「改正の機運はしぼむ」(日経新聞社説)との受け止めが大勢だと感じます。その中で目を引いたのは、米国のトランプ大統領への言及です。
 印象に残るのは、トランプ大統領が国際協調を危うくしていることに対して、「日本が、自国第一の殻にこもる米国に国際協調の道義を説く番ではないだろうか」(北海道新聞)、「国際社会が積み上げた秩序やルールをないがしろにしないよう、トランプ氏に注文するのも同盟国の役割ではないか」(中国新聞)と、日本の役割を指摘する論調が地方紙にあることです。

▽「目を疑う米国の暴走」(朝日)「秩序を壊す大国の専横」(毎日)
 全国紙では朝日新聞、毎日新聞が、トランプ批判を前面に出しています。朝日新聞は「米国は自由と民主主義の牽引車を自他共に認めてきたはずだが、豹変に目を疑う」「全てはカネ勘定であるかのように振る舞って恥じる様子がない」と強い言葉で批判しています。

■朝日新聞
「戦後80年と憲法 この規範を改めて選び取る」/目を疑う米国の暴走/法の支配を手放さず/「不断の努力」を注ぐ
https://www.asahi.com/articles/DA3S16206645.html

 米国は自由貿易体制を危うくし、ロシアはウクライナ侵略をやめず、もはや米国には頼れぬと欧州各国は防衛力増強に走る。中国は台湾を威圧し、周辺海域に進出しては力を誇示している。そしてこの間もガザでは惨劇が続く。
 (中略)
 関税問題だけではない。米国は自由と民主主義の牽引(けんいん)車を自他共に認めてきたはずだが、豹変(ひょうへん)に目を疑う。
 あろうことか大統領が多様性を目の敵にし、言論や学問の自由も意に介さず、全てはカネ勘定であるかのように振る舞って恥じる様子がない。ガザをリゾート地にし、自身の像が建つ架空画像を拡散するのを見れば、フランスの議員が「自由の女神」像を返せと憤ったのも無理はない。

 毎日新聞も、ロシアのウクライナ侵攻、イスラエルのガザ侵攻などに続いて、「トランプ復権」が世界の混沌に追い打ちをかけたと強調しています。

■毎日新聞
「戦後80年 激動の世界と憲法 『法と正義』を市民の力で」/秩序を壊す大国の専横/協調と共感取り戻す時
https://mainichi.jp/articles/20250503/ddm/005/070/125000c

 国際法を無視したロシアのウクライナ侵攻、パレスチナ自治区ガザ地区へのイスラエル軍の攻撃、長引くスーダン内戦などで、世界は「混沌(こんとん)の時代に突入している」(グテレス国連事務総長)。
 追い打ちをかけたのがトランプ氏の復権だ。ウクライナを侵略したロシアに有利な和平案を提示し、高関税政策によって自由貿易体制の土台をむしばむ。国内では就任早々、移民規制強化など排外主義的な大統領令を連発した。
 共通するのは、規範を踏みにじり、政治・経済の両面で「力による現状変更」をごり押ししようとする政治姿勢だ。

▽「『9条』の限界を直視せよ」(産経)
 一方で、改憲を社是とする読売新聞は、直接トランプ大統領には触れていません。ウクライナ侵攻を挙げて、防衛力強化が必要であること、そのために米国の協力が必要だとして、憲法の見直しを説いています。

■読売新聞
「憲法記念日 時代の変化と課題の直視から/デジタル化やAIへの対応急務」/現実との乖離は大きい/悪化する安全保障環境/地方の声を軽視するな
https://www.yomiuri.co.jp/editorial/20250503-OYT1T50006/

 ウクライナの例を見ても、侵略を 躊躇させるための防衛力が必要なことは明白だ。占領された地域の子供はロシアに連れ去られ、ロシア人として育てられている。
 読売新聞が今年行った世論調査では、憲法を「改正する方がよい」との回答が60%に上った。国民の多くは、防衛力を強化していく重要性を認識しているのだろう。
 敵のミサイル発射拠点を日本だけで攻撃するのは難しく、米国の協力が必要だ。そのためにも、日本自身が平和を守るために努力し続けることは欠かせない。
 そうした観点からも、憲法を見直すことは避けて通れまい。

 読売新聞が比較的、淡々と改憲を主張しているのに対し、産経新聞の社説(「主張」)は例年にも増して、改憲を強く主張していると感じました。トランプ大統領が日米安保条約について、日本は米国を守る必要がないと片務性を強調したことを「トランプ氏の方が世界の常識を踏まえている」とし、日本が憲法9条を持っていることを「非常識」としています。
 トランプ大統領の日米同盟観には認識の偏りがあることが指摘されています。それをただす形での主張の展開も選択肢としてはありうるように思いますが、トランプ氏を引き合いに自国の「非常識」を強調した形だと受け止めました。
 歴史観などに鑑みればある意味、記録に残しておくべき重要な論調、主張だと思いますので、以下に少し丁寧に書きとめておきます。

■産経新聞
「<主張>憲法施行78年 『9条』の限界を直視せよ 改正条文案の起草に着手を」/外交防衛を妨げてきた/緊急条項の議論足りぬ
https://www.sankei.com/article/20250503-23CJFHNU4JOBPHGHTQOH2BDKNQ/

 北大西洋条約機構(NATO)諸国やフィリピンなど米国と同盟を結ぶ日本以外の国々は、フルスペックの集団的自衛権行使を前提に相互防衛を約束している。国力差があっても法的には対等に守り合う関係なのが世界の同盟の常識だ。

トランプ氏の方が世界の常識を踏まえている。日本が非常識なのは、戦争放棄や戦力の不保持を定める9条の解釈で、全面的な集団的自衛権の行使が禁じられているためだ。
どのような米大統領が今後現れるかはわからない。米世論も同様だ。9条のために唯一の同盟は不安定性を拭えない。
 フルスペックの集団的自衛権行使を約束できない日本は、中国の脅威が増していても、米国以外の国とも同盟を結ぶことはかなわない。「日本はあなたの国を守らないが、あなたの国は日本を守ってほしい」と言えないからだ。米国が基地提供で同盟を結んだのは、たまたま国益が合致したためである。
 9条は、条約上の同盟国を増やすという、国民の命を守るダイナミックな外交の展開も許さない。日本は準同盟の構築しかできないのだ。
 反撃能力保有に進む日本だが9条が海外での武力行使を禁じているため、北朝鮮に拉致された日本人被害者の居場所が分かっても、自衛隊の特殊部隊は救出作戦を認められない。
 9条を持つ現憲法は平和憲法というより、一部に反国民的性格を帯びているということだ。いつまで9条の欠陥、限界から目をそらすつもりか。

▽日本が道義を説く時
 ネット上の各紙のサイトでチェックできた範囲ですが、ブロック紙、地方紙にもトランプ大統領に言及している社説、論説がありました。冒頭で紹介した北海道新聞、中国新聞の「日本が国際協調の道義を説く時だ」との指摘は同感です。

■北海道新聞
「きょう憲法記念日 国際協調の旗を高く掲げよ」/米国に道義を説く時/9条空洞化歯止めを/歴史的背景見据えて
https://www.hokkaido-np.co.jp/article/1155488/

 「トランプの米国」によって世界は混乱の極みにある。
 極端な高関税政策は、自由貿易と多国間協力に支えられてきた国際経済を壊しかねない。
 ウクライナとパレスチナ自治区ガザで続く戦争でトランプ大統領はロシア、イスラエル寄りの姿勢を鮮明にしている。大国が力で小国を支配する帝国主義時代に戻ったかのようだ。
 気候変動対策の国際枠組み「パリ協定」再離脱や感染症対策を担う世界保健機関(WHO)脱退も表明した。人類の生存がかかる地球規模の課題に背を向け、大国の責任を放棄した。
 そうした中で迎えた憲法記念日である。施行78年、日本は不戦を誓った憲法と法の支配に基づく国際秩序の下で繁栄を築いてきた。その歩みは誇るべき「敗者の戦後」と言っていい。
 分断が深まる世界で今こそ憲法の平和主義と国際協調主義の旗を高く掲げ、普遍的な価値を訴えていかねばならない。
 (中略)
今度は日本が、自国第一の殻にこもる米国に国際協調の道義を説く番ではないだろうか。

■中国新聞(本社広島市)
「戦後80年の憲法記念日 平和的生存権、見つめ直そう」
https://www.chugoku-np.co.jp/articles/-/637219

 1月に返り咲いたトランプ米大統領にとって、日米同盟は「負債」のようだ。日米間の合意を覆し、在日米軍強化の停止を検討、と伝わるのも防衛面の負担増を日本に求める方便なのかもしれない。
 同盟国にも容赦なく関税措置を突きつけ、中国との対立も先鋭化。多様性を尊重しない。そんなトランプ氏に追随すれば、日本に対する信頼や評価を低下させよう。
 今こそ、平和主義に立ち返り、平和的生存権を希求する重層的な取り組みが必要だ。
 ロシアのウクライナ侵攻に出口は見えず、イスラエルによるパレスチナ自治区ガザへの執拗(しつよう)な攻撃はやまない。その間に世界は軍事化の方向へ進んでいる。力では平和で安定した社会をつくれない。停戦や緊張緩和に向け日本が独自の外交を展開すべき時だ。
 日本だけが平和であればいい、のではない。国際社会が積み上げた秩序やルールをないがしろにしないよう、トランプ氏に注文するのも同盟国の役割ではないか。
 平和的生存権と最も相いれないのが核兵器だ。存在する限り、時の政治リーダー次第で使われる可能性が否めない。核抑止力の限界だ。安全保障どころか、全人類を危険にさらす。核抑止を乗り越える議論の先頭に、被爆国日本は立たなければならない。

■東奥日報
「『混迷の時代』の灯火に/日本国憲法 施行から78年」
https://www.toonippo.co.jp/articles/-/2012451

 トランプ氏は同盟の信頼関係も毀損(きそん)している。日米安全保障条約は「不公平だ」と批判し、関税交渉に安保政策を絡めて防衛面での負担増を要求する。日本が多額の在日米軍駐留経費を負担している現実を無視した乱暴な発言だ。
 日本政府が2022年に改定した国家安全保障戦略は防衛費を27年度に国内総生産(GDP)比2%に倍増する計画で、25年度当初予算で1.8%にまで膨らんでいる。
 米政権内には3%への増額を求める声もあるが、軍備増強は地域の緊張を高めることになりかねない。平和主義は既に瀬戸際にあるとも言えるが、日本の安保政策の基本はあくまでも憲法9条に基づく「専守防衛」であることを確認したい。

 このほか、ネット上の各紙のサイトで全文が読める社説、論説は以下の通りです。
■日経新聞
「改憲めぐり国会で熟議深めよ」
https://www.nikkei.com/article/DGXZQODK306690Q5A430C2000000/
■中日新聞・東京新聞
「憲法記念日に考える 『永遠の戦後』目指して」/軍事傾倒「新しい戦前」/平和の愛好をまず宣言
https://www.chunichi.co.jp/article/1061728
■西日本新聞
「憲法を考える 『個人の尊重』こそ土台に」/理念を現実に生かす/全体を見渡し議論を
https://www.nishinippon.co.jp/item/1346817/
■秋田魁新報
「憲法施行78年 平和主義の価値を守れ」
https://www.sakigake.jp/news/article/20250503AK0001/
■福島民報
「【憲法記念日】平和の根本を問い直せ」
https://www.minpo.jp/news/moredetail/20250503124084
■下野新聞
「【憲法を考える】現実味のある議論進めよ」
https://www.shimotsuke.co.jp/articles/-/1104287
■信濃毎日新聞
「治安維持法の埋み火 再び燃え上がらせぬために 【憲法の岐路】」/「検察司法」の極限/検証なされぬまま/強まる監視と抑圧
https://www.shinmai.co.jp/news/article/CNTS2025050300176
■新潟日報
「憲法記念日 平和の理念と向き合おう」/広がる子どもの貧困/託された思い忘れぬ
https://www.niigata-nippo.co.jp/articles/-/601845
■福井新聞
「憲法記念日 国会は真摯な議論すべき」
https://www.fukuishimbun.co.jp/articles/-/2301320
■京都新聞
「憲法記念日に 異論に耳を傾ける姿勢こそ」/基本3原則が危うい/鈍すぎる政治の対応/真に守るべき価値は
https://www.kyoto-np.co.jp/articles/-/1470215
■神戸新聞
「憲法記念日/平和主義の行方は国民の手に」/無力化進んだ10年/幅広い議論深めて
https://www.kobe-np.co.jp/opinion/202505/0018940480.shtml
■山陽新聞
「憲法記念日 『合区』解消の議論深めよ」
https://www.sanyonews.jp/article/1718933
■高知新聞
「【戦後談話と憲法】平和国家の存在意義示せ」
https://www.kochinews.co.jp/article/detail/857154
■沖縄タイムス
「憲法とSNSと人権 被害放置せず対応急げ」
https://www.okinawatimes.co.jp/articles/-/1576464
■琉球新報
「日本国憲法施行78年 沖縄への完全適用求める」
https://ryukyushimpo.jp/editorial/entry-4203998.html

 全文は有料コンテンツながら、見出しが確認できた社説、論説は以下の通りです。
■河北新報「憲法と『令和の米騒動』 食料主権、国民的な議論に」
■山形新聞「憲法記念日 基本理念、今こそ再確認」
■神奈川新聞「憲法記念日 幸福追求できる社会に」
■山梨日日新聞「【戦後80年 憲法記念日】 『反省』疎かになってないか」
■静岡新聞「憲法記念日 『新しい人権』の議論も」
■北日本新聞「憲法記念日に/人権問題、人ごととせず」
■北國新聞「【憲法記念日】変わる世界、変わらない憲法」
■山陰中央新報「憲法記念日 基本理念の再確認必要」
■愛媛新聞「憲法記念日 生存権損なわぬ社会を築かねば」
■徳島新聞「憲法施行78年 崇高な理念 堅持したい」
■大分合同新聞「戦後80年と憲法 核心に踏み込む議論が必要」
■宮崎日日新聞「憲法記念日 混迷の時代に理念再確認を」
■熊本日日新聞「憲法記念日 自由と幸福守れているか」