ニュース・ワーカー2

組織ジャーナリズムに身を置き40年余

新聞の大きさを生かす~中日新聞・東京新聞「『ネコ電車』に朝刊が包まれた!」

 ことし春から、勤務先からの派遣の形で、首都圏の大学で「文章作法」の授業の非常勤講師を務めています。文章の書き方の指導です。受講生はメディアやコミュニケーションに関心がある学生たちなので、授業では毎回、東京発行の新聞各紙を教材に、日々のニュースの報道の比較なども行っています。日々、ニュースに接することは、社会の一員として社会の動きを知ることです。文章でだれかにメッセージを伝えたいときに、社会で共通の関心事であるニュースを知っていれば、それだけメッセージは豊かで内容の濃いものになる、というのが理由の一つです。
 今更ながらに教材に新聞を使うのは、紙の新聞を学生たちに知ってもらうためです。新聞の部数は減少の一途です。増えることはもうありません。新聞社や通信社の報道は、今やどうインターネットで展開していくのかが課題ですが、強みがあるとすれば、やはり組織でジャーナリズムを展開している点です。その組織ジャーナリズムは新聞づくりで培ってきました。デジタルとともに育ってきた若い人たちにも、メディアやジャーナリズムの今後を考える上で、新聞とはどういうものかを知っておいてもらうことの意味は小さくはないと考えています。

 11月1日付の東京新聞が、ジブリアニメのキャラクターを使ったラッピング紙面を発行しました。見開きの大きさの紙面いっぱいにネコ電車のイラスト。これで朝刊本紙を包んでいます。最初はてっきり、「となりのトトロ」に登場するネコバスだと思ったのですが、よく見るとパンタグラフがあって2両編成。なるほど、電車です。中日新聞の記事で知りました。同日、愛知県の「愛・地球博記念公園」にジブリパークが開園したことの記念企画のようです。中日新聞社が発行する中日新聞、東京新聞両紙で一斉に行ったとのことです。

※中日新聞「『ネコ電車』に朝刊が包まれた! ジブリパーク開園に合わせ中日新聞&東京新聞が特別紙面」=2022年11月1日
https://www.chunichi.co.jp/article/573476

www.chunichi.co.jp

 さっそく、授業で紹介しました。学生たちは興味津々で手に取っていました。ブランケット判と呼ばれる新聞の用紙は、その大きさを生かしたいろいろな表現が可能です。ほかの紙面の事例についても、手元にあった写真を集めて、パワーポイントで投影しながら紹介しました。昨年の東京五輪、パラリンピックの時の読売新聞、平成最後の日の朝日新聞のラッピング広告、琉球新報の沖縄屈辱の日の集会の報道、宝島社の見開き全面広告などです。「鬼滅の刃」や「ONE PIECE」のコミックの企画広告として、新聞各紙に横断的に1ページの全面広告が出稿された例にも触れました。
 この「新聞の大きさを生かす」表現手法は、ネットでは不可能です。残しておきたい新聞の機能の一つです。

【授業で紹介した他の紙面の例】

那覇市長選の本土メディアの報道に危惧~自公系勝利は辺野古移設容認ではない

 沖縄県の県庁所在地、那覇市の市長選が10月23日に行われ、国政与党の自民、公明両党が推薦した前副市長の知念覚氏が、玉城デニー知事が支持する元県議の翁長雄治氏を破って初当選しました。この選挙結果を伝えた日本本土のマスメディアの報道ぶりに危惧を覚える点があります。選挙から日がたっていますが、記録の意味でも書きとめておくことにします。
 沖縄には「オール沖縄」という枠組みがあります。故翁長雄志元知事が、米軍普天間飛行場の辺野古移転への反対を掲げ、保守、革新の違いを超えて「イデオロギーよりアイデンティティー」の理念の元に結集を呼びかけました。現在の玉城デニー知事は、翁長元知事の急逝を受けて衆院議員から転じた後継者です。那覇市長選に出馬した翁長雄治氏は翁長元知事の次男で、やはり「オール沖縄」勢力に支えられました。
 当選した知念氏も、もとは「オール沖縄」の流れにいました。那覇市役所の生え抜き職員で、翁長元知事が那覇市長だった当時の側近。翁長氏の後継市長だった城間幹子現市長の下で副市長を務めました。報道によると、その城間氏が市長選の告示直前に「オール沖縄」から離脱し、自公の推薦を受けた知念氏の支援に回ったことが、知念氏優位を決定づけたようです。
 日本本土復帰から50年のことし、沖縄では七つの市長選と知事選がありました。市長選では「オール沖縄」は全敗です。しかし、知事は玉城氏が再選を果たし、もう一つの全県選挙である参院選の沖縄選挙区でも、「オール沖縄」の候補が勝利しました。「オール沖縄」が前面に掲げる普天間飛行場の辺野古移設反対は、全県選挙では支持を得た、と言えます。
 一方、那覇市長選では翁長武治氏が辺野古移設反対を訴えたのに対し、知念氏は「国と県の係争を見守る」との立場でした。那覇市長選では、普天間飛行場の辺野古移設は、双方の主張がかみ合う争点ではありませんでした。
 この那覇市長選の結果をどう考えればいいのか。その一助として、地元紙の沖縄タイムス、琉球新報の翌24日付の社説を読んでみました。一部を紹介します。

■沖縄タイムス「[那覇市長に知念氏]経済再生へ経験を重視」
 https://www.okinawatimes.co.jp/articles/-/1045682

 知念氏は、那覇市に38年間勤務した行政経験を基に「蓄積のある即戦力」をアピールした。
 新型コロナウイルス禍や物価高で影響を受ける市民や事業者への直接補助、水道料金の引き下げは「那覇市ができること」として市民の生活第一を前面に訴えた。
 コロナ禍で、国際通りをはじめとする市の中心市街地の風景は一変した。
 政府の全国旅行支援や水際対策の緩和を受けて戻りつつある街の活気を、市経済の「V字回復」につなげたいと考える有権者は多い。長年にわたり市政運営に携わってきた知念氏の行政手腕に期待した形だ。
 (中略)
 知念氏は、名護市辺野古の新基地建設に対しては「県民投票の結果を尊重する」としながらも、「名護のことは名護で」と賛否を示さず争点化を避けた。
 一方で、習い事や資格取得などに活用できるクーポン発行を掲げるなど、市民生活に身近な政策を強調。地域の課題解決を重点的に訴えることで、幅広い支持拡大につながった。
 (中略)
 オール沖縄の支援を受け2期連続当選した城間氏が、自公が推薦する知念氏の支持に回ったことで、市民にとって分かりにくい選挙となった。投票率の低さは政治不信を表していないか。
 自身は新基地建設に「反対」としながらオール沖縄と決別し、知念氏を支援したことについて、城間氏は説明責任を果たすべきだ。

■琉球新報「那覇市長に知念氏 市民の暮らし守る施策を」
 https://ryukyushimpo.jp/editorial/entry-1604336.html

 両氏の政策が異なったのは辺野古新基地への対応だ。知念氏は県民投票の結果を受け入れた上で「国と県の係争を見守る」との立場で、反対を明確にした翁長氏と差があった。あえて争点にしなかった。
 ただ候補者が「辺野古容認」を明言した参院選、県知事選で自公は敗れている。各市長選は那覇と同様に経済や福祉が主要争点だった。那覇市長選の結果をもって辺野古容認の流れに傾いたとみるのは早計だ。国と県の法廷闘争は続いており、基地の過重負担に対する国民の異議は根強い。直近の世論調査(9月17、18日・共同通信)でも辺野古を「支持しない」が57%で過半数であることがその証しだ。
 今回の市長選は、翁長氏の父である雄志前知事が提唱した政治的枠組み「オール沖縄」の在り方に一石を投じた。
 この枠組みは雄志氏がイデオロギーよりアイデンティティーの重要性を喚起し、具体的政治課題として辺野古新基地建設反対を掲げて中道、一部保守、革新勢力を統合した。しかし雄志氏の後継である城間幹子市長が、辺野古の争点をぼかした知念氏を支持したことで、枠組みが揺らいでいることが明らかになった。オール沖縄勢が推す玉城県政を含めた再構築が課題となる。

 知事選や国政選挙である参院選と比べ、市長選では市民生活に身近な政策が問われます。七つの市長選で「オール沖縄」が全敗したからと言って、沖縄の民意が辺野古移設を事実上容認した、などということになるわけではないのは当然のことです。

 さて、日本本土のマスメディアが那覇市長選の結果をどう報じたか、です。東京発行の新聞各紙の24日付朝刊の扱いと、記事の見出しを以下に書きとめておきます。1面に掲載したのは産経新聞だけ。事実関係を中心にした「本記」のほかに、関連記事を掲載したのも産経新聞だけでした。朝日新聞は翌25日付朝刊に、「オール沖縄」に焦点を当てた長文の記事を掲載しましたが、他紙のそうした報道は目にしません。

【10月24日付朝刊】
▽朝日新聞:3面「那覇市長選 知念氏初当選/『オール沖縄』翁長氏破る」見出し3段・顔写真
▽毎日新聞:2面「那覇市長に自公系/知念氏、反辺野古派破る」見出し2段・顔写真
▽読売新聞:2面「那覇市長に自公系 知念氏」見出し2段・顔写真
▽日経新聞:2面「那覇市長に知念氏初当選」1段・本文11行
▽産経新聞:1面「那覇市長に自公系・知念氏/『オール沖縄』に打撃」見出し3段・顔写真/5面「揺らぐ沖縄 玉城県政に波及/那覇市長選 自公系が勝利」見出し3段・写真(花束を受け取る知念氏)
▽東京新聞:2面「那覇市長に自公系/知念氏が翁長氏破り初当選」

【25日付朝刊】
▽朝日新聞:第3社会面「オール沖縄敗北『対政権』岐路/那覇市長選『辺野古ノー』でまとまれず」/「今年7市長選 自公に全敗/『新たな軸』求める声」

 24日付の朝刊で最も報道量が多かったのは産経新聞です。1面に本記のほか、5面に関連記事も掲載しています。見出しからもうかがえるように、「オール沖縄」勢力の退潮と、玉城知事の県政の揺らぎを強調するトーンです。知事選と参院選ではオール沖縄勢力が勝利していることには、本記の終わりで触れてはいますが、5面の関連記事では那覇市長選後の見通しについて「米軍基地問題などをめぐる県と市のスタンスにずれが生じ、9月に2期目をスタートさせた玉城デニー知事の県政運営に影響をおよぼすのは必至だ」と、基地問題にも言及しています。産経新聞は社論として、辺野古移設を進める日本政府の方針を強く支持しています。
 朝日新聞は24日付では本記のみでしたが、25日付の記事では、選挙戦の舞台裏や今後の展望を丁寧に伝えました。「オール沖縄」の枠組みで日本政府に対抗していくのは限界だとの指摘が強いことや、辺野古移設強行に象徴される政府・政権とどう対抗していくのかが課題として指摘されていることなどです。「オール沖縄」の退潮は、辺野古移設に反対の沖縄の民意が後退していることを意味してはいないことが分かります。
 産経、朝日に比べると、他紙の報道は随分とコンパクトです。国政与党系の候補が勝ったこと、敗れた「オール沖縄系」が辺野古移設反対を掲げていたことは伝わります。しかし、この情報量では伝わらないことも少なくないのではないか。この記事の冒頭に「危惧する点があります」と書いたのは、この点です。
 当選した知念氏も「オール沖縄」の流れにいたこと、「オール沖縄」も当初は知念氏の擁立を模索していたことなど、今回の市長選の構図は複雑です。沖縄の地元メディアの報道を日々フォローしてきた人ならともかく、日本本土の住民がそうした背景事情を踏まえて、選挙結果の意味を理解するには、やはり事情を丁寧に解きほぐして伝えることが必要です。しかし、多くの本土メディアの報道の情報量は、他地域の県庁所在地の市長選と同じ程度のレベルでした。
 例えば、敗れた翁長武治氏が辺野古移設反対を前面に掲げていたのは事実です。その意味で毎日新聞の見出しにある「知念氏、反辺野古派破る」は間違いではありません。ただ、勝利した知念氏が辺野古移設を容認しているわけではありません。毎日新聞も記事の後半に「辺野古移設の賛否は明言しなかった」と書いてはいますが、読み手が見出しと記事の全体の印象から、辺野古移設反対はどうやら沖縄の総意ではない、と受け取る恐れはないのか。あるいはこうした報道を元に、辺野古反対派の候補が敗れたことと、「オール沖縄」勢力の退潮とがことさらに強調されてネット上などに広がれば、「沖縄でも辺野古移設は容認の空気が強まっている」というような受け止め方が広がることにならないか。そうしたことを危惧します。辺野古移設への賛否を表明しなかった別の市長選の当選者について、SNS上で多くのフォロワーを持つ著名人が「辺野古移設を黙認」と強弁するような言説も目にします。「市長は黙認」から「地元は黙認」へ飛躍を重ねた受け止めが広がることを危惧します。
 このブログで繰り返し書いてきていることですが、沖縄に過剰な基地負担を強いている歴代の政権は、選挙による民主主義の手続きを経て正当に成り立っています。沖縄の過剰な基地負担は、主権者である日本国民の選択ということになります。その意味で、日本国の主権者は等しく、沖縄に過剰な基地負担を強いている当事者です。当事者として、選挙を通じて示される沖縄の人たちの意思はきちんと受け止めなければなりません。沖縄の選挙を丁寧に伝えるのは、本土メディアの責務だと考えています。

国葬の社会的評価は定まった~「よかった」18%、「しないよりはよかった」17%、「するべきではなかった」60%(毎日新聞調査)

 9月27日に行われた安倍晋三元首相の国葬に対して、毎日新聞が10月22、23日に実施した世論調査で、ちょっと工夫した選択肢を設けているのが目にとまりましたので、書きとめておきます。他社を含めたこれまでの世論調査では、国葬の実施に対して賛否(肯定的か否定的か)のいずれかを尋ねていましたが、今回、毎日新聞調査は「実施してよかった」「実施するべきではなかった」のほかに、中間的とも言うべき「問題はあったが、実施しないよりはよかった」の選択肢を用意しました。結果は以下の通りです。
 「実施してよかった」            18%
 「問題はあったが、実施しないよりはよかった」17%
 「実施するべきではなかった」        60%

 積極的に評価している「実施してよかった」18%と、否定的評価60%では、圧倒的な差と呼んでもいいように感じます。
 国葬実施後の世論調査でも、すべて否定的評価が肯定的評価を大幅に上回っています。この国葬の社会的な評価は定まりました。この国葬で国を挙げての弔意を内外に示した、と強弁するなら、「国」とは何なのか、ということが問われます。

 毎日新聞の記事によると、「実施してよかった」は18~49歳では2割を超えたが、70歳以上では1割以下。「実施するべきではなかった」は30代以下では5割を下回ったが、40代以上では5割を超え、60代以上では約7割だったとのことです。
 岸田文雄政権の支持率は前回9月調査の29%から2ポイント下がって27%。不支持率は65%でした。

news-worker.hatenablog.com

民意は「国葬やって良かった」とはならず

 10月15、16日の週末に実施された世論調査2件の結果を目にしました。産経新聞とFNN(フジテレビ系)の合同調査では、岸田文雄内閣の支持率は5カ月連続の下落で40.9%。昨年10月の政権発足後、最低でした。ANNの調査でも、やはり政権発足後最低の33.1%でした。
 9月27日に行われた安倍晋三元首相の国葬に対しては、否定的評価が59.2%と57%です。肯定的評価は35.2%と30%で、その差は24ポイントと27ポイントもあります。国葬後の世論調査では、いずれも否定的評価が27~12ポイントも肯定的評価を上回っており、日がたったからといって「国葬をやって良かった」とはなっていないことが明白です。
 安倍元首相を巡っては、自民党内で旧統一教会の票を差配する立場だったとの指摘があります。しかし岸田首相(自民党総裁)は、自民党として安倍元首相と教団の関係は調査しないとの姿勢を崩しません。旧統一教会と関係が取り沙汰されている中での国葬強行が疑問視されたのは当然ですし、岸田内閣の支持が下がり続けるのもまた当然だと感じます。

 以下に、国葬実施の評価について、国葬後の主な世論調査でどういう結果が出たか、書きとめておきます。

・産経新聞・FNN ※10月15、16日実施
 「よかった」35・2%
 「よくなかった」59・2% 差24ポイント

・ANN ※10月15、16日実施
 「評価する」30%
 「評価しない」57% 差27ポイント

・共同通信 ※10月8、9日実施
 「評価する」「どちらかといえば評価する」計36.9%
 「評価しない」「どちらかといえば評価しない」計61.9% 差25ポイント

・朝日新聞 ※10月1、2日実施
 「評価する」35%
 「評価しない」59% 差24ポイント

・読売新聞 ※10月1、2日実施
 ※国葬実施をよかったと思うか、思わないか
 「思う」41%
 「思わない」54% 差13ポイント

・JNN ※10月1、2日実施
 「良かった」42%
 「良くなかった」54% 差12ポイント

 

※7月以降の世論調査の記録です

news-worker.hatenablog.com

新幹線200系の記憶

 10月14日は19721872(明治5)年に日本で最初の鉄道が新橋~横浜間に開業した「鉄道の日」です。ことしは150年という区切りの年に当たることから、JR各社ではいろいろと記念のイベントを企画しているようです。特にJR東日本では、東北・上越新幹線の開業40年、山形新幹線30年、秋田新幹線25年など新幹線の節目の年も重なり、「新幹線イヤー2022」のキャンペーンも組んでいます。その中でひときわ目を引いたのは、「200系カラー新幹線」の運行です。
 200系とは、1982年6月23日に東北新幹線盛岡~大宮間、同年11月15日に上越新幹線新潟~大宮間が開業した際に両新幹線を走っていた車両です。東海道、山陽新幹線が白地に青いだったのに対し、緑色のラインでした。その当時の「200系カラー」をE2系1編成に再現して走らせています。懐かしく感じて先日、大宮から上野まで1区間だけ乗ってみました。

 わたしが大学を卒業して通信社に入り記者になったのは、1983年春でした。東京本社で1カ月の研修を終えて配属された初任地は青森支局。前年に開業した東北新幹線に乗っての赴任でした。都内から大宮に向かい、新幹線「やまびこ」で盛岡までは3時間以上かかっていました。盛岡で在来線の特急「はつかり」に乗り換え、さらに2時間45分ほど。都内から青森までは計7時間ほどだったと記憶しています。それでも新幹線開業前、東北本線の特急の9時間からは随分と短縮されていました。以後、青森支局に勤務した4年間、休暇や出張であの緑の200系には何度も乗りました。様々な思い出があります。
 実は今まで、思い出深い新幹線車両と言えば、東海道山陽新幹線の0系でした。1964年の開業当初の初代車両です。九州から東京の大学に進み、長期休みの帰省で何度も0系で九州と東京を往復しました。まだ若くて、自分が何者であるのかがよく分かっておらず、そして何でもできるような気がしていた、青春の日の思い出とともに0系の記憶はあります。
 今回、200系のことを思い出して、同時に自分の気持ちが変化していることに気づきました。どうやら今は、0系よりも200系により強い思い入れが残っているようです。遠い日々への憧憬のような気持ちの対象が、今までは大学時代だったのが、青森で過ごした新人記者時代に移った、とも言えるかもしれません。マスメディアのジャーナリズムの仕事に就いてまもなく40年。2年前に現役の時間を終え、今は自分の経験や、失敗の教訓を後続の世代に引き継ぐ立場になっているからかもしれないと感じます。
 振り返ってみれば、あっという間の時間でした。40年は長いようでいて、人間の歴史の尺度で測れば本当に短い。だから一人の人間が記者という仕事でできることもたかが知れています。かつてそのことに気づいた時には、焦りにも似た気持ちがありました。しかしやがて、自分の持ち時間が終わる時には、次の世代にうまくバトンを渡せばいい、ということを考えるようになって、気持ちは落ち着くようになりました。200系新幹線と新人記者時代の記憶とともに、あらためてそんなことを思い出します。

 200系カラーの車両に乗った日、大宮の鉄道博物館を久しぶりに訪ねました。200系の保存車両があり、1982年の東北新幹線開業当時のポスターも展示室にありました。

※「新幹線イヤー2022」

www.jreast.co.jp

国葬「反対多数」と岸田内閣の支持続落に変わりなく~続く混迷と緊張に岸田首相で大丈夫か

 「どんどん反対が増えていったけど、やっぱりやって良かった―」とはならなかったようです。9月27日に行われた安倍晋三元首相の国葬のことです。10月最初の週末、1、2両日に実施された世論調査3件の結果によると、国葬実施に対して、いずれの調査でも否定的な評価が過半数に上っています。国葬直前の世論調査では、否定的評価が6割に達していました。賛否の差は24~12ポイント開いており、世論の「反対多数」に変わりはないようです。

 各調査の結果は以下の通りです。

・朝日新聞 「評価する」35% 「評価しない」59%
・読売新聞 ※国葬実施をよかったと思うか、思わないか
      「思う」41% 「思わない」54%
・JNN  「良かった」42% 「良くなかった」54%

 岸田文雄内閣の支持率も続落傾向のままです。

 ・朝日新聞 「支持」40%(前回調査比1ポイント減)
       「不支持」50%(同3P増)
 ・読売新聞 「支持」45%(同5P減)
       「不支持」46%(同5P増)
 ・JNN  「支持」42.7%(同5.4P減)
       「不支持」53.9%(同5.6P増)

 読売新聞調査でも支持、不支持が逆転しました。どの調査でも不支持が支持を上回る結果になっています。
 岸田内閣の支持率の低下の要因は、国葬の強行に加えて、旧統一教会と自民党議員の関係の問題だと、各メディアとも指摘しています。安倍元首相が自民党内で旧統一教会票を差配する立場だったとの指摘があるのに、岸田首相がかたくなに調査を拒み続けていることで、安倍元首相の国葬と旧統一教会の問題はリンクしています。

 国葬は終わりましたが、日本社会に危惧を覚えるのはむしろこれからです。政権の信頼がどんどん低下し、その要因も明らかなのに、岸田首相は何の対応もせずに、漫然と国葬を強行するばかりでした。政治家としての資質、能力に根本的な疑問を持たざるを得ません。
 このような政権が軍事費の増大、原発の新増設や運転期間の延長など、世論を二分する政治課題を進めることに深刻な危うさを感じます。国際的にも、ロシアはウクライナ侵攻をやめないばかりか、武力占領した地域の併合を宣言し、核兵器の使用の可能性が取りざたされる事態です。この記事を書いているさなかの10月4日朝には、北朝鮮のミサイルが日本列島を越えました。日本政府はJアラートを発して、北海道と青森県を対象地域に指定して避難を呼びかけました。
 混迷と緊張は続きます。政治指導者には迅速に沈着冷静な判断ができる能力と、何よりも今、社会の分断と亀裂を埋めて相互理解を進める強力なリーダーシップが必要なのですが、岸田首相にその資質があるとは思えません。そういう意味では、まさしく“国難”であると感じます。

【追記】2022年10月5日8時20分

 国葬を巡る7月以降の世論調査結果の推移まとめも更新しました。国葬実施前の最後の調査(9月17、18日実施)では、否定的評価は60%超に上っていました。

news-worker.hatenablog.com

「安倍政治」全肯定、主観と印象論の菅前首相の弔辞~「『功』より『罪』」のアベノミクスには触れず

 9月27日に実施された安倍晋三元首相の国葬や、その報道について、わたしの思うところ、感じるところを備忘を兼ねて書きとめておきます。まずは、国葬で読み上げられた弔辞のことです。

 弔辞(追悼の辞)は、国葬の実行委員長を務める岸田文雄首相と、安倍政権の官房長官を長く務めた「友人代表」菅義偉前首相の2人が長々と読み上げました。ほかに衆参両院の議長、最高裁長官も弔辞を述べましたが、ごく短いものでした。友人代表が菅前首相に決まったのは、安倍元首相の妻の意向とも報じられていますが、この人選一つ取っても、国葬の意味が感じられません。中心的な弔辞の2人が、身内も同然の岸田首相と菅前首相であり、いわば身内で礼賛に終始するのなら、国葬ではなく、まさしく自民党葬がふさわしかったように思います。
 実際に岸田首相、菅前首相とも、弔辞の内容は礼賛一色でした。弔辞とはそういうものだと言ってしまえばそれまでです。しかし、その中に嘘がある、あるいはそうとは言わないまでも、過大な誇張があるとしたら、どうでしょうか。私的な場ではなく、国の儀式です。
 特に菅前首相の弔辞に、わたしは見過ごせない、大きな疑問を持っています。例えば菅前首相は、会場の武道館周辺に花をささげよう、国葬(朗読は「国葬儀」だったようです)に立ち会おうとたくさんの人が集まっている、と述べ、以下のように続けました。

 20代、30代の人たちが、少なくないようです。
 明日を担う若者たちが、大勢、あなたを慕い、あなたを見送りに来ています。
 総理、あなたは、今日よりも、明日の方が良くなる日本を創りたい。
 若い人たちに希望を持たせたいという、強い信念を持ち、毎日、毎日、国民に語りかけておられた。
 そして、日本よ、日本人よ、世界の真ん中で咲きほこれ。ーこれが、あなたの口癖でした。
 次の時代を担う人々が、未来を明るく思い描いて、初めて、経済も成長するのだと。
 いま、あなたを惜しむ若い人たちがこんなにもたくさんいるということは、歩みをともにした者として、これ以上に嬉しいことはありません。
 報われた思いであります。

 若い人たち、具体的には20代、30代の人たちのうち、いったいどのぐらいの割合の人が安倍元首相を惜しんでいるのか。「少なくない」と感じたのは菅前首相の主観であり、しかも武道館周辺で目にした限りでのことのはずです。より正確に言えば、武道館周辺で見かけたのは年配の人ばかりではない、という程度に受け止めておかなければならないことです。惜しむ人以上に、否定的にみている人がいる可能性があります。
 メディア各社の世論調査の結果からは、この8~9月に、18~39歳の年齢層で変化が起きたことが鮮明になっています。安倍元首相の国葬への肯定的な評価が急減し、否定的な評価と逆転していました。NHKの8月の調査では、「評価する」53%、「評価しない」30%と、「評価する」が23ポイントも上回っていました。しかし9月の調査では「評価する」43%に対し、「評価しない」47%でした。読売新聞の9月の調査でも、「評価する」が8月調査の65%から22ポイント下がり43%に。「評価しない」は28%から21ポイント上がり49%になっていました。「評価する」が「しない」を40ポイント近くも上回っていたのに、わずか1カ月で逆転していました。

news-worker.hatenablog.com この変化は、国葬への評価であって、設問で安倍元首相への評価を尋ねているわけではありません。しかし、このブログの上記の過去記事にも書いたことですが、若年層の中で、国葬の社会的議論を通じて、安倍政治への評価それ自体に変化が起きている可能性があります。安倍元首相と旧統一教会の関係を自民党が調べようとすらしないことが不信を招き、ひいては安倍元首相への評価が変わっている可能性は否定できません。
 こうした世論調査の結果があるのに、主観的な印象で安倍元首相が若い世代に変わらず支持を受けているかのように語り、「報われた思いであります」とまで口にするのは、印象操作の度が過ぎると感じます。
 菅前首相が弔辞の中で、安倍元首相を「総理」と呼び、「あなたの判断はいつも正しかった」と言い切ったことにも強烈な違和感があります。安倍元首相の業績は評価が定まっていません。なのに、国の儀式という公式の場で、このような一方的な物言いがまかり通ってしまうのは、それが弔辞だからです。日本社会では一般に、葬送の場面では故人のネガティブな側面は口にしないのが慎みです。それをいいことに、安倍政治の全肯定が行われました。それが今回の国葬の本質だと感じます。安倍元首相の側近だった人物が話を盛るのはある意味、当然のことかもしれません。そんな言説に惑わされることなく、世論の動向を冷静に見ていけばいいのかもしれません。
 一方で、生前の安倍元首相自身が業績として誇っていながら、国葬の弔辞では岸田首相も菅前首相も触れなかったことがあります。アベノミクスです。そのことを中日新聞・東京新聞の9月28日付社説が指摘しています。

 私たちの暮らしにとって、アベノミクスは「功」よりも「罪」の方がはるかに大きい。
 安倍氏の後継政権である菅義偉前首相、岸田首相は国葬での追悼の辞で、いずれもアベノミクスに言及しなかったが、これまでの経済政策を検証し、改めるべきは改めることが、政策の選択肢を広げる第一歩ではないか。

※中日新聞・東京新聞社説「『安倍政治』検証は続く 分断の国葬を終えて」=2022年9月28日
 https://www.chunichi.co.jp/article/553047

社会の分断が可視化された日~安倍元首相「国葬」 在京紙の報道の記録

 安倍晋三元首相の国葬が9月27日、実施されました。このブログでも詳細に記録してきましたが、マスメディア各社の世論調査では、当初から賛否は分かれていました。時間がたつにつれ否定的な意見が増え、9月の調査では反対が6割に達しました。岸田文雄内閣の支持率も急落しましたが、岸田首相は信頼回復に何か手立てを取ることもありませんでした。当日はNHKや民放各局が中継していましたが、わたしは見ることができず、国葬の模様は後刻、主としてネット上の各紙サイトを含めて、新聞の報道を通じて知りました。会場の日本武道館近くの公園に設けられた一般向けの献花には約2万3千人が訪れた一方で、各地で抗議行動もあり、国会前には1万5千人(主催者発表)が集まったと報じられています。俯瞰して眺めてみれば、国葬の強行が社会にもたらした分断が可視化された日になった、と感じます。
 国葬を巡る賛否の論点の一つは、安倍元首相の実績をどう評価するか、でした。そもそも安倍元首相の政治姿勢は、社会に分断をもたらしていました。2017年の東京都議選の街頭演説で、「安倍やめろ」コールに対して「私たちは、こんな人たちに負けるわけにはいかないんです」と言い放ったことは、その姿勢の象徴でした。安倍政治の検証と総括はなお必要です。同時に、「安倍政治」で傷んだ社会の修復は、岸田首相の大きな課題であるはずです。しかし、国葬が終わった今、思うのは、岸田首相にはとても期待できない、ということです。岸田首相が国葬を強行したために社会の分断、亀裂は深まった観があります。
 ほかにも危惧することがあります。岸田政権は軍事費の大幅な拡大を表明し、原発の新増設や稼働期間の延長の方向性を打ち出しています。いずれも、社会のありようを大きく変えかねないテーマであり、賛否が割れることが予想されます。意見の違いを相互に認め合いながら、社会全体で熟議が必要なのに、信を失った岸田政権がこれらの進めていくことは極めて危ういと感じます。

 今回の国葬の報道を全体として見れば、故人の礼賛に終始する報道だけではなく、反対の声が高まっていた中で実施されたことを伝え、その反対の声自体を伝える報道も少なくありません。一般に葬儀では、故人のネガティブな面にはあえて触れないことが慎みとして共有されています。今回の国葬も、会場内では、葬儀委員長の岸田首相、友人代表の菅前首相の弔辞に代表されるように、故人の礼賛に終始していました。しかし、マスメディアの報道が会場外も俯瞰しながら、全体としては礼賛一色になるのを免れたのは、世論調査に表れた民意、デモや集会で示された反対の声などを無視できなかったからだろうと感じます。

 東京発行の新聞各紙(朝日、毎日、読売、日経、産経、東京)の翌28日付の紙面は、いずれもこの国葬を大きく報じました。中心的な事実関係を報じる「本記」の扱いと見出しは以下の通りです。経済記事が中心の日経新聞はともかくとして、他の5紙を比べると、朝日、毎日、東京の3紙は見出しに「賛否」が割れる中での実施だったことを明記しています。読売、産経は、見出しにはそうした要素は見当たりません。

▽朝日新聞:1面トップ「賛否の中 安倍氏国葬/戦後2例目 4100人超参列/一般献花に列■周辺でデモ」
▽毎日新聞:1面トップ「安倍元首相国葬に4200人/献花にデモ 賛否割れる中」
▽読売新聞:1面トップ「安倍元首相 国葬/菅氏『真のリーダーだった』/最長政権8年8カ月/4183人参列」
▽日経新聞:1面準トップ「安倍元首相 国葬/国内外4200人が参列」
▽産経新聞:1面トップ「安倍晋三元首相 国葬/内外4200人参列 献花2万人超/首相弔辞『長さより事績を記憶』/吉田茂以来55年ぶり」
▽東京新聞:1面トップ「賛否交錯の中 安倍氏国葬/戦後2例目 55年ぶり実施 4100人が参列」

 これまでの社説では、読売、産経の2紙は国葬とすることを支持する論調を掲げていたのに対し、朝日、毎日、東京は岸田首相の説明不足などを指摘し、このままでの実施には批判的な論調でした。その社論の違いが、1面の見出しに分かりやすく表れていると感じます。

 いくつかの新聞では、1面の写真にも工夫を感じます。毎日新聞は武道館内部の写真を国会議事堂前の反対集会と並べて掲載しました。祭壇は小さく、遺影は判別が困難です。そのためか、別に安倍元首相の顔写真を載せています。祭壇の遺影を正面からとらえた会場の写真を大きく掲載した他紙とは、随分と紙面の雰囲気が異なるように感じます。東京新聞は祭壇を正面からではなく、少し斜めから撮った写真でした。
 朝日、毎日、読売は1面には国葬と並べて五輪汚職事件の続報を掲載しています。東京五輪の誘致に際しては、安倍元首相は大きな役割を果たしていました。東京電力福島第一原発の状況を「アンダーコントロール」と言い切ったことに対しては、今も批判があります。その東京大会の舞台裏は汚辱にまみれていたことが、東京地検特捜部の捜査をきっかけに表面化しています。そういったことを考えると、歴史的な紙面と言えるかもしれないと感じます。

 各紙とも社会面にも関連記事を大きく載せ、武道館周辺の様子や各地の表情などを伝えています。その社会面トップの見出しにも、各紙ごとの社論の違いが反映されているようにも感じます。

▽朝日新聞「国葬 悼む列 怒る列」
▽毎日新聞「悼みと反発 入り交じり」
▽読売新聞「安倍さん『見守って』」
▽日経新聞「厳戒下 各地から献花に」
▽産経新聞「遺影見上げ 涙と拍手」
▽東京新聞「送る日 抗議も追悼も」

 安倍政権の当時、世論が割れるような政策では、常にと言っていいほど、政権に批判的、懐疑的な朝日、毎日、東京と、政権支持の色彩が強い読売、産経とに二極化していました。今回の国葬に賛否が割れているのは、直接的には岸田首相の“失政”の要因が強いと感じますが、在京各紙のこのトーンの違いは安倍政権当時そのままです。

 以下に、東京発行の6紙の28日付朝刊の主な記事の扱いと見出しを書きとめておきます。

【朝日新聞】
▼1面トップ「賛否の中 安倍氏国葬/戦後2例目 4100人超参列/一般献花に列■周辺でデモ」/「分断に責任 首相は行動を」林尚行・政治部長
▼2面時時刻刻「安倍氏へ弔意 粛々と」「足跡たたえる映像 8分間」「『友人代表』菅氏、声震わせ弔辞」/「もくろみ外れ 政権痛手/割れた世論 党内対立も」
▼3面・連載企画「国葬の代償」5回続きの①「岸田氏『国葬に近い形で』/家族葬の日 検討を指示」/「弔問外交2日目 豪印と連携確認」
▼4面(政治)「国葬参列 割れた野党/臨時国会では経費・基準 追及へ/与党『旧統一教会と関連づけられ痛かった』」
「席次 国際儀礼と政治的配慮と」/「『台湾』と呼ばれ代表が献花/中国側は反発『不可分の一部』」
▼11面(国際)「国葬 分断に海外メディア注目/BBC・CNN 会場の様子中継」
▼26面・ドキュメント(写真7枚)/岸田文雄首相 追悼の辞
▼27面(第3社会)「国葬 当日のSNSは/長蛇の列■反対デモ…関連投稿12時間で100万件超」/「『台本』の文書か SNSで広がる」
「テレビ各局 中継や特番/功績紹介の一方、森友問題なども」/「全国紙・NHK 参列への対応は」/菅義偉前首相(友人代表)追悼の辞
▼社会面(29面)トップ「国葬 悼む列 怒る列」「献花に3時間『気持ちを形に示せた』」「反対デモに人並『弔意強制しないで』」/「声届かなかったけど、一歩踏み出せた」/「『カオスな街に、安倍さんの光と影が見えた気がした』」
▼第2社会面(28面)「世論の分断 社会課題隠した」ジャーナリスト 津田大介さん/「空気頼みの国こそ 法整備を」近現代史研究家 辻田真佐憲さん
「都内限界 2万人警備」/「庁舎前 半旗掲揚/安倍氏の地元・山口」「花抱える人たち/奈良の銃撃現場」
▼社説「安倍氏『国葬』 分断深めた首相の独断」

【毎日新聞】
▼1面トップ「安倍元首相国葬に4200人/献花にデモ 賛否割れる中」/「首相は説明尽くしたか」中田卓二・政治部長
▼2面「安倍氏 評価定まらず」「『旧統一教会』に批判」「日米同盟強化に注力」「アベノミクス硬直化」
▼3面クローズアップ「国葬 分断浮き彫りに/弔意の強制 一掃に腐心」「中途半端 保守派も不満」「『かけ足』の弔問外交」
「実施 憲法上問題なし」龍谷大教授(憲法学)石埼学氏/「今の社会になじまぬ」中央大教授(日本近代史)宮間純一氏
▼5面「安倍氏国葬 野党出欠割れ/検証・基準作り 要望相次ぐ」/「『政府の思いが伝わらず反省』/自民・萩生田政調会長」/「同期の『盟友』首相追悼の辞」「『真のリーダー』菅前首相追悼の辞」/「ブルーリボンバッジ式壇に/拉致問題象徴」/岸田首相追悼の辞 全文/菅前首相追悼の辞 要旨
▼7面(経済)「商業施設は通常営業」
▼8面(国際)「台湾が指名献花/安倍氏国葬 中国は反発」
▼社会面見開き「悼みと反発 入り交じり」「疑惑 検証されないまま」
※社会面(25面)
「国葬 献花の長い列」/「厳戒警備 もみ合いも」「自民党本部に急きょ献花台」「半旗掲揚も 山口の公立高」
「英 宗教的な荘厳さ 日 和やかな雰囲気 国柄を反映」
※第2社会面(24面)
「恩師『証言を残してほしかった』/早紀江さん『拉致』対応に感謝/ゆかりの人たち」
「在京新聞6社 対応分かれる」/毎日新聞社社長室広報担当の話」
▼社説「安倍元首相の『国葬』 合意なき追悼の重い教訓」/分断招いた強引な手法/前例にしてはならない

【読売新聞】
▼1面トップ「安倍元首相 国葬/菅氏『真のリーダーだった』/最長政権8年8カ月/4183人参列」「海外要人700人 218の国・地域など」「皇族方7人参列」
▼2面「クアッド結束示す/弔問外交 豪印と首脳会談」/「中国 直前の人選/台湾顔ぶれで判断か」/「最前列は皇族方 2列目に首相ら」「天皇陛下きょう7か国元首会見」
▼3面・スキャナー「国葬 首相が主導」「世論の反発 想定外/旧統一教会問題が影」「閣議決定で式典 通例」
▼4面(政治)「政府説明 割れた賛否/与党反省も 立民ちぐはぐ」「維新・国民は出席■共産はデモ」「衆院議長経験2氏も参列」「海外の参列者と議員相次ぎ会談」
「出会い 別れ 菅氏朴訥と/『いつか首相になる人 確信した』/総裁選の出馬説得『誇り』」
▼6面(特別面)「黙とう 弔砲 別れの日」写真6枚
▼7面(解説)「安倍元首相国葬 どう見る」/「大きな功績 最高の礼儀」大阪大名誉教授・坂元一哉氏/「『国会合意』担保する必要」京大教授・曽我部真裕氏/「公的な葬儀 理念に共感」英誌エコノミスト元編集長・ビル・エモット氏
▼8面(特別面)安倍元首相国葬 追悼の辞全文 岸田首相・菅前首相、衆参議長、最高裁長官/ドキュメント/主な参列者一覧
▼9面(国際)「安倍氏指導力 各国たたえる」
▼社会面(31面)トップ「安倍さん『見守って』/拉致、被災地関係者ら追悼」/「厳重警備 トラブル防ぐ」/「元首相葬儀 皇族、いずれも参列」
▼第2社会面(30面)
「各地で反対の声も/『法的根拠ない』都内などでデモ」「42知事が出席 沖縄以外半旗」
「費用 高額と言えず」関東学院大の君塚直隆教授(国際政治史)/「首相の語る力 不足」評論家の内田樹・神戸女学院大名誉教授
▼社説「安倍元首相国葬 功績たたえ多くの人が悼んだ 外交遺産を戦略的に活用したい」/日本の存在感を高めた/内心の自由とは別問題/警備の体制も問われた

【日経新聞】
▼1面準トップ「安倍元首相 国葬/国内外4200人が参列」
▼3面「最長首相 最後の別れ/首相『土台の上に日本つくる』/菅氏『真のリーダーだった』/一般献花に長い列」/「米は大統領経験者/英、王室など対象 仏、辞退が慣習/世界の国葬は…」
▼4面(政治・外交)「割れた賛否 支持低下招く/首相、死去6日後に国葬表明/旧統一教会問題 重なる」/「安倍派、新体制を検討」/「萩生田氏『説明必要だった』/泉氏『政治利用許さず』」/「首脳級50人前後参列/米副大統領ら 首相、豪・印と結束確認」/「台湾『指名献花』対象に」
「専門家はこう見た」「丁寧な合意形成欠く」九州大教授・南野森氏/「批判でも説明 評価」早大教授・ソジエ内田恵美氏/「実施判断、早計だった」米国進歩センター上席研究員・トバイアス・ハリス氏
▼29面(特集面)「儀仗で見送り 弔砲19発/首相経験者、55年ぶり」/「伊藤博文や山本五十六/戦前、国葬の例は…」/「『内閣・党合同葬』が主流/戦後の歴代首相」/追悼の辞 全文 岸田首相(葬儀委員長) 菅前首相(友人代表)
▼社会面(41面)トップ「厳戒下 各地から献花に/安倍氏国葬、最高レベルの警備態勢/沿道に警官ずらり」/「絶えぬ列『感謝伝えたい』」「国会前で抗議『開催強行』」/「半旗掲揚 個別に判断/川崎市 弔意表明に独自基準」
▼社説「国葬への批判踏まえ丁寧な政権運営を」

【産経新聞】
▼1面トップ「安倍晋三元首相 国葬/内外4200人参列 献花2万人超/首相弔辞『長さより事績を記憶』/吉田茂以来55年ぶり」/「政治家の覚悟と不思議な縁」阿比留瑠比・論説委員兼政治部編集委員
▼2面「最高警備 2万人態勢/警察バス数十台・テロ制圧部隊も」/「台湾の指名献花 中国反発/韓国は内閣支持低下報道」
▼3面「戦後に幕 今日の礎/首相弔辞 拉致・会見、盟友へ誓う」/「『インド太平洋』継承強調/首相、豪印首脳らと会談」/「安保法制で功績、自衛隊が儀仗/防衛省前 隊員ら800人見送り」
▼5面「国葬 与党『歴史が判断する』/安倍氏の功績評価/『説明不足』反省も」/「自民党本部に臨時献花台」/「『出席』『反対集会参加』/対応分かれた野党」/安倍元首相の語録「戦後レジームを大胆に見直し/積極的平和主義の旗を掲げたい」
▼9面(国際)「豪印が示した厚い弔意」森浩のアジアの視線/「親日の台湾若者 安倍氏が残した宝/李登輝元総統の次女 李安妮氏」
▼11面(経済)「経済界、功績しのぶ/日銀本店や東京駅に半旗」/「アベノミクス 岸田政権で完遂を」茂木友三郎・キッコーマン名誉会長
▼14、15面(特集面)「国家の根本的課題 挑んだ勇気の人」岸田首相弔辞 全文/「再出馬 焼き鳥屋で口説いた3時間」菅前首相弔辞 全文 写真9枚、会場のイラスト
▼23面(スポーツ)「IOC会長が国葬参列/フェンシング・太田氏らと献花」
▼社会面(29面)トップ「遺影見上げ 涙と拍手/安倍氏追悼『ありがとう』/式壇 日本の風景表現」/「早朝から献花の長い列」/「霞が関 半旗掲げ黙禱も」/「各地デモ 国会前1.5万人」/「在京各局が特別番組」
▼第2社会面(28面)「国葬『正しさ』共有」「サッチャー元英首相の葬送と共通点/儒教研究者 大場一央氏と歩く」/「都道府県、職員に黙祷要請せず」/「拉致家族『尽力に感謝』/遺骨そばにブルーリボン」/「安倍氏自宅前にも儀仗隊」
「『過激な批判、原理主義のよう』評論家の與那覇潤氏」/「『首相、必要性訴えるべきだった』政治学者の岩田温氏」

【東京新聞】
▼1面トップ「賛否交錯の中 安倍氏国葬/戦後2例目 55年ぶり実施 4100人が参列」「分断の責任、岸田首相に」豊田洋一・論説主幹/「国会前『1万5000人』 全国で抗議」
▼2面・核心「首相打算 対立生む誤算/国会軽視、旧統一教会問題 残る説明責任」/「『実績はすべて、今日に連なる基礎に』/岸田首相が弔辞」/「与党『必要だった』『法整備を』」「野党『禍根残る』『政局化反対』」/「黙とう呼びかけ 省庁、対応分かれる」
▼3面「海外首脳級50人近く」「指名献花で政府『台湾』読み上げ/正式名回避も中国反発」
▼9面「百貨店など通常営業/『国葬 いつもの平日と同じ』」/弔辞・岸田首相(全文)、菅前首相(要旨)
▼22、23面(特報面)
「記者が見た 国葬その日」「モリカケは…追悼映像触れず/声詰まらす盟友 大きな拍手」/「強行の末 温度差鮮明」「『批判もあるけど』献花へ/賛否両派 緊迫の交差点」
▼社会面見開き「送る日 抗議も追悼も」「分断 修復の道は」
※社会面(25面)
「『民主主義傷つけた』デモ行進」「『尊敬』『感謝』献花の列4キロ」/「品川区長選 対応さまざま/街宣自粛『弔意示す』/反対訴え『多額税金』」
※第2社会面(24面)
「『問題追及し続ける』早大1年 安達晴野さん」「『社会成熟への半歩になった』作家 落合恵子さん」
▼社説「分断の国葬を終えて 『安倍政治』検証は続く」/政策縛るアベノミクス/憲法や国会を軽んじて

沖縄の苛烈な戦後史を知る~「ドキュメント〈アメリカ世〉の沖縄」(宮城修、岩波新書)

 ことし、2022年は、1972年5月に沖縄の施政権が米国から日本に返還されて50年の節目の年です。現在、日本にある米軍専用施設の70%が沖縄に集中し、米軍普天間飛行場の移設問題では、名護市辺野古沿岸部の埋め立てと新基地建設を巡って、沖縄県と日本政府が係争状態にあります。50年たって、沖縄の人たちが求めているのは、自分たちの将来のことは自分たちで決めることができる「自己決定権」だと、わたしは考えています。沖縄に自己決定権を許さないのは「外交と安全保障は国の専権事項」と主張する日本政府なのですが、現在の政府が民主的な手続きによって合法的に成り立ち、その権限を行使しているとすれば、沖縄に自己決定権を認めないことは、日本本土に住む主権者の選択でもある、ということになります。
 復帰50年のことし9月、沖縄県知事選が行われ、辺野古移設反対を前面に掲げた玉城デニー氏が大差で再選されました。一部の日本本土メディアが、玉城知事に対して辺野古移設反対を取り下げるよう求める主張を展開したことは、このブログでも紹介した通りです。選挙結果から沖縄の民意を読み取ろうとする意思や姿勢は感じられません。日本政府と一体化したメディアとしてのありようをどう見るかは、メディアに接する人それぞれの問題かもしれませんが、やはり痛感するのは、沖縄がたどった苛烈な現代史が広く日本本土の主権者に知られるべきだろう、ということです。そのことなくして、辺野古移設に反対する沖縄の民意、自己決定権を求める民意は理解できないだろうと思うからです。

 本書「ドキュメント〈アメリカ世〉の沖縄」は、沖縄の地元紙、琉球新報が2016年6月~17年5月に連載した全12回の大型企画「沖縄戦後新聞」で取り上げた出来事に、同時代の3人の政治家の歩みを絡めて沖縄の戦後史を描いています。

 3人の政治家は、初代公選主席で復帰後初の県知事を務めた屋良朝苗、那覇市長と衆院議員を務めた瀬永亀次郎、那覇市長と衆院議員、県知事を務めた西銘順治です。
 筆者の宮城修さんは琉球新報の論説委員長。「おわりに」で、沖縄の記者たち自身が沖縄の戦後史を知ることの意味を書いています。きっかけは2016年5月、沖縄でウォーキング中の女性が元米軍海兵隊員で軍属の男に襲われ殺害された事件でした。「おわりに」の一部を引用します。

 一体、国家とは何か。琉球新報は社説で次のように主張した。
 「基地ある限り、犠牲者が今後も出る恐れは否定できない。基地撤去こそが最も有効な再発防止策である。日米両政府はそのことを深く認識し、行動に移すべきだ」(琉新2016・5・20)
 記者たちが事件に関する取材に追われているさなか、取材の要となる社会部フリーキャップの新垣和也記者とサブキャップの宮城隆尋記者が、思いつめた表情で社会部長だった私に訴えた。
 「戦後、沖縄で発生した米兵事件を含む重要な出来事を伝える企画を組ませてください。私たちは沖縄の戦後史を知らなさすぎます」
 その通りだった。私自身、不勉強を痛感していた。果たして何ができるだろうか。私たちは米国が統治した〈アメリカ世〉二七年間の主要な事件事故や人権侵害と県民の抵抗を、新たな視点を加えて再現することにした。それが「沖縄戦後新聞」である。
 一人でも多くの記者に関わってもらいたくて特定の記者による専従取材班にしなかった。第一号から第一二号まで、一年間に延べ三五人が関わった。社会、政治、経済、地方、文化、NIE、整理、デザイン…。編集局全体で沖縄の戦後史を学び直す日々だった。

 「ニュースは歴史の第一稿」という言葉があるように、ジャーナリズムは歴史を紡ぐ行為でもあるとわたしは考えています。だから、現在の社会で起きている出来事を報じるには、先立つ歴史を知ること、考察することは不可欠です。そのことは情報の伝え手だけでなく受け手にとっても同様だと思います。現在の社会で起きている出来事を知り、その意味を考えるには、やはり先立つ歴史を知り、理解しなければなりません。
 この点で、為政者の歴史観という意味で、2015年に当時知事だった故翁長雄志氏が菅義偉官房長官(当時、のちに首相)と会談した際のエピソードが強く印象に残っています。本書でも紹介されています。
 翁長氏はもともと沖縄の保守政治家の重鎮でしたが、普天間飛行場の辺野古移設に反対して、保革を超えた政治勢力「オール沖縄」をまとめ、2014年11月の知事選に勝利します。敗れた現職、仲井真弘多氏は2013年12月に、辺野古沿岸部の埋め立てを承認していました。
 その翁長知事は、当時の安倍晋三政権の官房長官だった菅氏と2015年4月に初めて会談しました。本書の一部を引用します。

 辺野古新基地建設を強行する安倍晋三首相は、知事に当選した翁長との面談を拒み続けた。ようやく五カ月後に菅との初会談が実現した。会談の一部を再現しよう。
 菅「(名護市)辺野古移設を断念することは普天間の固定化にもつながる。(仲井真弘多前知事に)承認いただいた関係法令に基づき、辺野古埋め立てを粛々と進めている」
 翁長「『粛々』という言葉を何度も使う官房長官の姿が、米軍軍政下に『沖縄の自治は神話だ』と言った最高権力者キャラウェイ高等弁務官の姿と重なる。県民の怒りは増幅し、辺野古の新基地は絶対に建設することはできない」(流新2015・4・6)

 その後、日本政府は辺野古の工事を一時中断して沖縄県と集中協議を行います。しかし5回にわたった協議は決裂。そして工事は強行され、今に至っています。本書では、菅官房長官とのやり取りを振り返った翁長氏の述懐が紹介されています。孫引きになりますが、紹介します。

 官房長官とは四月に最初にお話ししてから、ずっと沖縄の歴史を含め、一番、私が思いを話した方でありますが、私の思いすべてについて集中協議が終わるときの「私のそういった話は通じませんか」というような話をしたら、(菅氏は)「私は戦後生まれなので、そういった沖縄の置かれてきた歴史というものについてはなかなか分かりませんが、一九年前の日米合同会議で辺野古が唯一(の解決策)だと。辺野古に移すんだということが私のすべてだ」と話したので、私自身は「お互い七〇年間を別々で生きてきたような感じがしますね」というような話をさせてもらいました(沖縄県「二〇一五年九月二四日 知事講演メモ」)。

 菅官房長官が口にしたとされる「私は戦後生まれなので、そういった沖縄の置かれてきた歴史というものについてはなかなか分かりません」との言葉に、安倍政権とその方針を引き継いだ菅政権、そして現在の岸田文雄政権の本質がよく表れています。歴史を知り、その上に立って「今」を見る、考える姿勢を欠いています。その努力すらしようとしません。堕落の政治です。

 本書は、沖縄の戦後史がコンパクトにまとまっており、入門書として格好の一冊だと思います。私自身、頭の中に乱雑に散らばっていた知識の断片を系統的に組み直すことができ、新たな知識も得ることができました。
 翁長知事が菅官房長官に話したという「お互い七〇年間を別々で生きてきたような感じがしますね」との言葉は、2022年の今では「77年」なのだと思いますが、菅氏に限ったことではなく、日本本土の住民にも今もそのままあてはまるのかもしれません。しかし、歴史を知らないことは必ずしも恥ずかしいことではありません。大事なのは「歴史を知らない」ということを自覚することであり、その後に歴史を学ぶことです。本書はそのきっかけになる一冊です。とりわけ、日本本土のマスメディアで組織ジャーナリズムを仕事にする若い世代の人たちに、ぜひ手に取ってほしいと思います。沖縄で何が起きているかを日本本土の主権者が知るためには、本土メディアの報道は極めて重要です。そこで働く個々人がまず沖縄の現代史を知る、歴史に学ぶことが必要です。

 辺野古移設を強行した安倍元首相は沖縄にどういう姿勢を取っていたのか。翁長氏が沖縄保守政治の重鎮だというのに、知事就任直後、会うのを拒み続けたことに、端的に表れています。まもなく9月27日、国葬が執り行われますが、この一事をもってしても、とても国を挙げての弔意の対象にはならないとわたしは考えています。

 以下に、本書の目次を書きとめておきます。 

はじめに
凡例

序章 忘れられた島
第1章 屈辱の日(一九五二年四月二八日)
第2章 島ぐるみ闘争(一九五六年)
第3章 瀬長市長誕生(一九五六年)
第4章 宮森小ジェット機墜落(一九五九年六月三〇日)
第5章 キャラウェイ旋風(一九六三年)
第6章 佐藤首相来沖(一九六五年八月一九日)
第7章 主席公選(一九六八年一一月一〇日)
第8章 二・四ゼネスト回避(一九六九年二月四日)
第9章 コザ騒動(一九七〇年一二月二〇日)
第10章 レッド・ハット作戦(一九七一年)
第11章 通貨確認(一九七一年一〇月九日)
第12章 施政権返還(一九七二年五月一五日)
終章 民意の行方
おわりに

主要参考文献
略年表
事項索引・人名索引

※岩波書店の本書紹介ページ

www.iwanami.co.jp

※amazon

※参考過去記事

news-worker.hatenablog.com

国葬それ自体に加え、岸田首相の姿勢も問われている~「強行するなら信を問え」(沖縄タイムス)

 安倍晋三元首相の9月27日の国葬が近づいています。岸田文雄首相が国会で説明を行ったにもかかわらず、マスメディア各社の世論調査では国葬に否定的な意見が6割に達しています。このまま国葬が強行され、社会の分断を深める結果を招くことを危惧します。国葬それ自体の是非もさることながら、ここにきて、岸田首相が世論の反対を押し切って国葬を強行しようとしている、その姿勢も問われてしかるべきです。国葬への反対意見が増えているのと同時に、岸田政権の支持率が続落しているのは、その民意の表れだと感じます。
 その岸田首相は22日、国連総会出席のため訪れていたニューヨークでの記者会見で、国葬について「引き続き最後まで丁寧な説明を続けたい」と強調しました。また、安倍元首相と旧統一教会の関係を巡っては「ご本人が亡くなられた今、実態を把握することには限界がある」と調査に改めて否定的見解を示しました。
※共同通信「国葬『最後まで丁寧説明』 首相、強い反対論踏まえ」=2022年9月23日

 https://nordot.app/945697201183309824

 「丁寧な説明」とは何のことを言っているのでしょうか。「限界」とは、やってみて壁に突き当たり、どうにも進めなくなったときに初めて「限界がある」と言えるもののはずです。国葬を終えてしまえば、いずれ批判は収まると考えているのか。
 こんなニュースも報じられています。
※共同通信「安倍氏国葬4300人参列見込む 海外から218カ国・機関」=2022年9月23日
 https://nordot.app/945601443676160000

国葬を巡り世論の賛否が割れている中、参列者は「最大6千人程度」(松野氏)との政府想定を下回るのは確実な状況だ。

 国葬でなければならない理由は何だったのか。元首相の突然の死を、自らの支持基盤固めのために政治利用したのではないか。あらためてそう感じます。

 目にとまった新聞各紙の最近の社説、論説のうち、国葬に関連した内容のものを以下に書きとめておきます。沖縄タイムス(9月20日付)は、国葬が日本国内に混乱をもたらしていることを指摘し、「混乱を招いた岸田政権の責任は重い」「事ここに至っては、衆議院を解散し、国民に信を問うべきだ」と主張しています。北海道新聞(9月13日付)は、知事の国葬への出席に対して批判しています。「言うまでもなく自治体は国の下部機関ではなく、両者は対等だ」「案内されたから行かなければならない筋合いはなく、『国の儀式』を出席理由とする知事の発言は主体性に乏しく納得できない」との見解が目を引きました。

▼9月22日付 朝日新聞「教団・『国葬』 首相はこれでいいのか」
 https://digital.asahi.com/articles/DA3S15423629.html

 首相の姿勢が厳しく問われているのは、来週に迫った安倍氏の「国葬」もそうだ。朝日新聞の今月の世論調査では、反対が56%と、賛成の38%を大きく上回った。立憲民主、共産、社民、れいわ新選組の各党の代表は欠席を決めた。このままでは、国民の分断を印象付けるだけに終わりかねない。
 首相は国会の閉会中審査で一度だけ、質疑に応じたが、先の世論調査で、首相の説明に「納得できない」が64%と、「納得できる」の3倍近かったことに示されるように、国民の心にその言葉は届いていない。
 先月末の記者会見で、首相は政治の信頼回復の先頭に立つ決意を語った。ならば、国葬までの残り期間に国民にどう向き合うか、真剣に考えるべき時だ。

▼9月22日付 中日新聞・東京新聞「内閣支持率急落 国民の声が聞こえぬか」
 https://www.chunichi.co.jp/article/549538

 岸田内閣の支持率が急落している。故安倍晋三元首相の国葬や自民党と旧統一教会(世界平和統一家庭連合)との関係、物価高などを巡る政権不信が主な要因だ。岸田文雄首相には、国民の切実な声が聞こえているのか。
 (中略)
 国葬について、首相は国会の閉会中審査で説明したが、従来の見解を繰り返すにとどまり、逆に反対意見が強まった。国民の声を真摯(しんし)に受け止め、内閣葬や内閣・自民党合同葬に切り替えるなど、実施形式を見直すべきではないか。
 (中略)
 首相は「世論調査結果に一喜一憂しない。国民の声には丁寧に耳を傾けていかなければならない」と語った。多くの国民が、首相の言葉に不信感を抱くからこそ、支持率が低下したのではないか。一憂くらいはすべきだろう。
 国民の切実な声を受け止め、時には反対意見にも耳を傾ける。そうした誠実な姿勢を政治に取り戻すしか、信頼回復の道はない。

▼9月20日付 日経新聞「首相は政策実行で信頼回復を」
 https://www.nikkei.com/article/DGXZQODK2069K0Q2A920C2000000/

 岸田内閣の支持率は50~60%台を維持してきた。当初は新型コロナウイルス対策などが一定の評価を受けたが、支持率の低下は1年近くたっても政策面の実績が乏しい現状への不満を映している。
政府は20日、足元の物価高対策として石油元売りへの補助金延長や低所得世帯への5万円給付などを決めた。しかし、コロナ対策と同様、対症療法の域を出ず効果は限定的だ。
看板政策の「新しい資本主義」や「全世代型社会保障」の制度設計を急ぎ、経済再生への道筋を明確にすべきだ。エネルギー戦略や防衛力の抜本強化も先送りが許されない喫緊の課題である。
世論調査からは、内閣の政策実行への期待もうかがえる。次世代原子力発電所の新増設・建て替え検討への首相指示は「評価」が53%、コロナ対策で導入した水際対策の緩和は「賛成」が63%に達した。重要課題への取り組みを加速し、成果を早く示してほしい。

▼9月20日付 沖縄タイムス「[国葬と内閣支持率]強行するなら信を問え」
 https://www.okinawatimes.co.jp/articles/-/1027660

 なぜ、安倍元首相を例外的に扱うのか、その説明も不十分で、安倍氏と旧統一教会の関係を巡る疑問に答えることもなく、国葬を実施するつもりなのだろうか。
 安倍元首相の葬儀を巡ってこれほど国内政治が混乱するとは、当初、誰も想像しなかったはずだ。
 混乱を招いた岸田政権の責任は重い。
 事ここに至っては、衆議院を解散し、国民に信を問うべきだ。

▼9月13日付 北海道新聞「知事の国葬出席 道民への説明不十分だ」

 https://www.hokkaido-np.co.jp/article/730015/

 言うまでもなく自治体は国の下部機関ではなく、両者は対等だ。
 案内されたから行かなければならない筋合いはなく、「国の儀式」を出席理由とする知事の発言は主体性に乏しく納得できない。
 (中略)
 一方、道内では弁護士らが、知事と議長が公費で国葬に出席するのは違憲、違法として差し止めを求める住民監査請求を行っている。国葬は憲法が保障する思想良心の自由を侵害するなどとした。
 知事は会見で「公務で出席する。当然それは公費で対応するのが当たり前だと思う」と述べた。
 「公務」自体が問題視されているのに説明になっていない。違法な支出をチェックする監査制度を形骸化させる問題発言ではないか。
 半旗掲揚も道職員や道民への弔意強制につながる恐れがある。知事一人の判断で決めていい事柄ではないはずだ。
 道議会は会期中の27日を休会にした。地方自治を体現する場の道議会が、国と道民のどちらを向いているのかが問われている。国葬問題の議論を尽くすべきだ。