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組織ジャーナリズムに身を置き40年余

爆発的感染さなかの「9月解散戦略」「東京の底力」「パラ強行と学校連携観戦」

 新型コロナウイルスの感染者急増は東京から他地域に広がり、政府は8月17日、緊急事態宣言の対象に7府県を追加することを決めました。対象は計13都府県となり、期間は9月12日まで。東京など6都府県では当初、8月31日までとされていました。東京都は4回目の宣言で期間延長が2回ということになります。ほかにまん延防止重点措置も10県が追加され、計16道県に広がりました。
 19日に発表された東京の感染者は5534人、全国では2万5千人を超えました。既に首都圏では医療がひっ迫し、入院できない感染者が自宅での待機、療養を余儀なくされ、症状が急速に悪化して亡くなる事例が出ています。何としても、これ以上の感染拡大を抑え込まなければいけないはずですが、具体的な対応策に目新しさは感じられません。それどころか、パラリンピックは無観客を決めただけで予定通りの開催へ突き進んでいます。「9月12日まで」との緊急事態宣言の期間についても、自民党総裁選と衆院解散の日程をにらんだ菅義偉首相の政治的思惑を込めた判断との指摘も報じられています。
 ここ数日の気になる動きを書きとめておきます。

 ■9月解散戦略
 菅首相は17日の記者会見で、対策として①医療体制の確保②感染防止対策③ワクチン接種―の3本柱を進めることを強調しました。①では、自治体や医療機関と連携して自宅療養者に必ず連絡を取れるようにすること、病床の確保に努めることなどを挙げました。「いまさら」感しかありません。東京の感染爆発は五輪期間中に始まっていました。感染力が強い変異株の脅威を見誤っていなければ、五輪開会前にでも、医療体制の拡充が必要との判断は可能だったはずで、その時間もありました。②の感染防止対策も、宣言地域では新たにデパートやショッピングモールの人数制限を呼び掛けていくとしたほか、旅行や帰省は控え、日々の買物などの外出も半減させるよう要請しました。しかし、支持率が続落している菅政権のこの程度のメッセージに、どれだけ実効性が期待できるか疑問です。
 18日付の朝日新聞朝刊(東京本社最終版)は総合面に連載企画「漂流 菅政権 コロナの時代」の初回を掲載。「延長12日間 透ける再選戦略/総裁選前の解散 余地残した首相」の見出しで、9月12日までとの宣言の期間が、菅首相の政治判断で決まったとの政府関係者の説明を紹介しています。自民党総裁の任期は9月末。総裁選は9月17日に告示され29日に投開票する日程で調整が進んでいます。菅首相は総裁選前に衆院解散に踏み切り、衆院選に勝利して総裁選を無投票で乗り切る「再選戦略」を持っており、9月12日で緊急事態宣言が解除になれば、17日までの間に衆院を解散するチャンスが残る、というわけです。
 菅首相が9月の衆院解散・総選挙にこだわっているとの同様の見方は、18日付の毎日新聞朝刊も総合面の記事「『9月解散戦略』大誤算」の記事で紹介しています。緊急事態宣言の期間の選択肢として8月31日までの現状維持、9月12日まで、同19日までの三つが示され、田村憲久厚労相はもっとも長い9月19日を主張したのに、菅首相と加藤勝信官房長官は迷わず12日を選んだとのことです
 こうした政界の内情リポートは全国紙の政治報道の得意分野の一つで、実情をほぼ正確に伝えていると思います。この期に及んでも、なおも自身の再選を最優先に考えているのかと思うと、もはや菅首相、菅政権の元では、人命は守れないと考えざるを得ません。
 菅首相と政権が民意の支持と信頼を失っている様子は、8月に入って実施されたメディア各社の世論調査の結果からも明らかです。朝日新聞の記事では、9月解散が不可能になった場合は、党総裁選で菅首相とは別の「選挙の顔」を求める動きが本格化する可能性に触れています。

 ■「東京の底力」って何?
 首都圏では医療の現場はひっ迫しています。東京発行新聞各紙の18日付朝刊は、パラリンピックの人ものの読売新聞を除いて、社会面トップにそろって関連のリポートを掲載しました。以下に見出しを書きとめておきます。
 ・朝日新聞「自宅療養 薄氷の見守り/『息は?』『指先が紫?』看護師の電話切迫/玄関座り込む40台 1カ月前なら入院も」
 ・毎日新聞「自宅療養 足らぬ酸素/往診医『見放される命』憂慮」
 ・日経新聞「救急搬送困難 最多3361件/コロナ第5波 病床余力なく/『一時受け入れ』整備急務」
 ・産経新聞「保健所『もう限界』/鳴り続ける電話/入院調整難航/『死ねというのか』怒鳴られ」
 ・東京新聞「入院『30人待ち』搬送に1週間/『危険な状態に』医師警鐘/神奈川県立足柄上病院 ほぼ満床」

 感染しても医療にアクセスできずに自宅で過ごすほかなく、容態が急変して亡くなるなどの事例も報告されています。

 ▽共同通信「入院先5日見つからず死亡、千葉/中等症と診断」=2021年8月17日
  https://nordot.app/800333864798928896

nordot.app

 千葉県は17日、同日公表した新型コロナウイルス感染の死亡者8人のうち、2人が自宅待機中だったと明らかにした。1人は60代の男性で、8月上旬に軽症と診断、その後中等症と判断されたものの、入院先が見つからないまま9日から酸素投与を受け、自宅待機していた。13日に自宅で倒れているのを発見され、搬送されたが、死亡が確認された。

 ▽NHK NEWS WEB「東京都内 親子3人全員が感染し自宅療養中 40代母親が死亡」=2021年8月18日
  https://www3.nhk.or.jp/news/html/20210818/k10013209851000.html

www3.nhk.or.jp

 都によりますと、亡くなった40代の女性は家庭内感染で、今月10日に陽性がわかったということです。
 夫と子どもも陽性となり、3人で自宅療養をしていたということです。
 女性は、陽性がわかった翌日、11日に保健所が行った健康観察では発熱とせきの症状があったということです。
 都には、保健所から入院の調整依頼がなかったということで、都は軽症だったとみています。
 その翌日12日に自宅で倒れているのを夫が見つけましたが、すでに亡くなっていたということです。
 現時点で、女性の死因は不明だということです。

 ▽東京新聞「コロナ感染の30代妊婦、救急搬送先見つからず自宅で出産 早産の赤ちゃん死亡」=2021年8月19日

www.tokyo-np.co.jp

千葉県柏市は19日、新型コロナウイルスで軽症と診断され自宅療養中だった30代妊婦が早産となり、入院先が見つからないまま、17日に自宅で出産した男の赤ちゃんが死亡したと発表した。女性は妊娠29週だった。

(中略)市保健所の小倉恵美専門監は「感染した妊婦の入院は産婦人科系と呼吸器系の連携ができる病院でなければならず、受け入れ先を探すのが一層難しくなっていた」と話した。

 菅首相は、7月31日の記者会見での自身の発言を覚えているでしょうか。「もし、この感染の波、止められずに医療崩壊して、救うべき命が救えなくなったときに、総理、総理の職を辞職する覚悟はありますか」と問われ、いったんは答えをはぐらかして終わろうとしたのですが、重ねて覚悟を問われるとこう答えていました。
 「私がこの感染対策を自分の責任の下にしっかりと対応することが私の責任で、私はできると思っています」
 「できていない」としか言いようがないように思います。

news-worker.hatenablog.com

 小池百合子・東京都知事のこの発言も書きとめておきます。
 ▽スポーツ報知「小池百合子都知事、コロナ禍の五輪開催『東京と我が国の底力示した』パラ“必ず成功”強調」=2021年8月18日
  https://hochi.news/articles/20210818-OHT1T51103.html

hochi.news

 東京都の小池百合子知事は18日、都議会の第2回臨時会の所信表明において、新型コロナウイルス禍で行われ、8日に閉幕した東京五輪について「この未曾有の難局の中、歴史に残る祭典を成し遂げたことは、東京、そして我が国が持つ底力を示したものと言える」と述べた。

 五輪開催期間中に、東京の感染拡大は爆発的な状態になりました。いったい何が「底力」だというのでしょうか。暗澹たる気分です。
 菅首相にしても、小池知事にしても、民主主義の正当な手続きを経てその地位にあります。選挙での個々人の投票先いかんにかかわらず、首相も知事も社会の総意として選ばれました。首相や小池知事を批判するだけでは何も始まりません。重要なのは、有権者がその権利を行使すること、選挙を棄権せずに1票を投じることだと思います。

 ■パラ強行、学校連携観戦も
 東京のこの感染爆発の状況でも、パラリンピックは予定通り8月24日に開会するようです。さすがに無観客とすることが決まりましたが、「学校連携観戦プログラム」は実施。つまり児童生徒を集団で観戦させることに変更はないとのことです。
 政府も自治体も住民に移動の自粛を求めている一方で、ワクチン未接種の子どもたちだけは例外とする理由は何でしょうか。何よりも、ひとたび感染したら今は医療にアクセスするのが絶望的な状況です。
 東京都教育委員会の18日の臨時会では、出席した4人の委員全員が反対を表明したと報じられています。しかし議決事項ではないため、実施に変わりはないとのことです。

 ▽毎日新聞「実施か、中止か パラ学校観戦、都教委と教育委員が異例の衝突」=2021年8月19日
  https://mainichi.jp/articles/20210819/k00/00m/050/052000c

mainichi.jp

 「医療が逼迫(ひっぱく)する中で大変な状況に置かれている医療従事者に寄り添い、感染者を増やさないためにどういう行動をとらなければならないかが求められている。それは子供にも教えていかなければならない」。元日本オリンピック委員会理事の山口香委員は、オリンピックの開催時より感染状況が悪化していると指摘し、反対意見を述べた。

 児童生徒の観戦の大義名分は教育効果なのかもしれませんが、あくまでも実施するというなら、山口香さんを納得させられるだけの説明が必要ではないでしょうか。
 この問題は国会でも疑問が示されています。
 ▽共同通信「尾身氏、児童らのパラ観戦に慎重/参院内閣委が閉会中審査」=2021年8月19日
  https://nordot.app/800912678069911552

nordot.app

 政府の新型コロナウイルス感染症対策分科会の尾身茂会長は19日の参院内閣委員会閉会中審査で、東京パラリンピックを巡り、児童や生徒に観戦機会を提供する「学校連携観戦プログラム」の実施に慎重な姿勢を示した。野党議員が見解をただしたのに対し「今の感染状況はかなり悪い。そういう中で考えていただければ、当然の結論になると思う」と述べた。

 連携観戦プログラムは千葉県も実施するとのことですので、東京都だけの問題ではないようですが、感染症の専門家からも疑義が示されていることを、教育の場で強行することが、子どもたちにどのように受け止められるかも考慮するべきだろうと思います。

 パラリンピックでは五輪大会と同じように、航空自衛隊のブルーインパルスが都心上空を飛ぶようです。わざわざ都民に「外に出ましょう」と呼び掛けるようなものです。住民に外出を控えるよう呼び掛けている一方で、これがどんなメッセージとして受け止められるか。五輪会期中から感染爆発が起きているというのに、何を考えているのか理解できません。
 ▽共同通信「ブルーインパルス、パラでも飛行/都心周回、3色でライン」=2021年8月17日  

nordot.app

航空自衛隊は17日、アクロバット飛行チーム「ブルーインパルス」が、東京パラリンピック開会式当日の24日に東京都心を周回飛行するルートを明らかにした。パラリンピックのシンボルマークに使われている赤、青、緑のカラースモークで線を引きながら飛ぶ。五輪の開会日とは異なり、場所を決めてマークを描くことはしない。

 

菅首相「続けてほしくない」65%(共同通信調査)~個人の行動制限の前に、コロナ失政の検証必要

 共同通信が8月14~16日に実施した世論調査の結果が報じられています。8月8日の東京五輪の閉会から1週間のタイミングです。五輪が開催されてよかったと思うかの回答は「よかった」62.9%、「よくなかった」30.8%でした。この1週間前、東京五輪の閉会前後に実施された4件の世論調査(朝日新聞、読売新聞、NHK、JNN)も同じ傾向で、「よかった」は64~56%に上ります。その一方で、菅義偉内閣の支持率は、共同通信調査では前月調査から4.1ポイント減の31.8%でした。先行する4件の調査と同じく、内閣発足以来最低でした。
 共同通信の調査では、9月の自民党総裁選で菅首相が再選されて首相を続けてほしいかを尋ねています。回答は「続けてほしい」27.5%に対し、「続けてほしくない」が65.1%に上りました。菅首相の任期を巡っては、1週間前の読売新聞調査でも「どのくらい首相を続けてほしいと思うか」を尋ねたところ、「すぐに交代してほしい」18%、「今年9月の自民党の総裁任期まで」48%との結果でした。長くても9月の総裁任期までとの回答が計66%であり、共同通信の調査結果とほぼ一致しています。朝日新聞の調査でも「続けてほしい」25%に対して「続けてほしくない」60%でした。
 菅首相は五輪の成功で政権浮揚を図り、党総裁選、衆院選に勝利することを狙っていると、繰り返し報じられてきました。開催前と比べて、五輪開催への評価は好転し、そこは菅首相の思惑通りとなりましたが、政権浮揚に結びついていないどころか、内閣支持率は続落し発足以来最低。民意の大勢は菅首相にもはや期待していないという状況です。
 菅政権への厳しい評価の要因の一つは、新型コロナウイルスの感染拡大でしょう。五輪開催期間中から感染者は急増し、東京や首都圏では医療のひっ迫が深刻になっています。感染は急速に全国へ広がり、17日には、緊急事態宣言の期間延長と対象地域の拡大が決まりました。しかし、感染ピークがいつになるのか、それすら分からない状況です。
 この感染急拡大と五輪開催の強行との関連性について、菅首相も東京都の小池百合子知事もかたくなに否定しています。開催期間前と比べて人の流れは減っている、テレビで観戦した人が多くステイホームに寄与している、などと強弁しています。しかし、共同通信の調査では、五輪開催が感染拡大の一因になったと考えているとの回答が59.8%に上り、JNNの調査でも「そう思う」「ある程度そう思う」を合わせて60%を占めています。朝日新聞の調査では、五輪開催によって外出や会食を自粛するムードがゆるんだと思うか、それほどではないと思うかを尋ねたところ、「ゆるんだ」が61%に対して「それほどではない」32%でした。
 少なくとも人々の主観の問題として、五輪開催と感染拡大に関連があるとの考える人が6割に達し、自粛ムードが緩んだと感じている人が、そうは思わない人の倍に上っているわけです。仮に五輪と感染拡大の明確な因果関係を示すエビデンスが見当たらないとしても、「気の緩み」という心理的な要因がある可能性はコロナ対策の際に十分留意しておく必要があるはずです。こうした民意が示されているにもかかわらず、頭から五輪との関連性を否定してかかる菅首相や小池知事の姿勢は、危機管理の責任を負う立場としては極めて危うく感じます。政府や自治体の指導者がこうした態度では、いくら呼びかけても危機感が社会で共有されない、人々の行動が変わらないのも無理はないように思います。

 感染拡大がやまない現状に、感染症の専門家らからは、個人の行動を制限する仕組みを検討するよう求める声も上がるようになっています。政府の対策分科会の尾身茂会長は17日、報道陣に対し、「単に協力をお願いするだけではこの事態を乗り越えられないことを想定し、法的な仕組みの構築や現行の法律のしっかりした運用について、早急に検討してほしいという強い意見が出た」と説明しました。
 ※NHK NEWS WEB「分科会 尾身会長“一般の人々への行動制限の仕組みづくりを”」
 https://www3.nhk.or.jp/news/html/20210817/k10013207621000.html

www3.nhk.or.jp

 お願いベースの呼びかけだけでは、もはや間に合わないというわけです。しかし個人の行動は私権、人権にかかわることであり、その制限には慎重で抑制的であるべきです。どうしてもそこに踏み込まざるを得ないのであれば、まずこれまでの政府や自治体の対策の不備や、防げたはずの人為的な失政を検証し、責任の所在を明らかにすべきです。
 五輪は開催期間中だけの問題ではありません。昨年の1年延期の決定以降、コロナ対策の節目では「五輪ありき」の判断があり、十分な効果が上がる前に緊急事態宣言が解除される、などの対応がありました。変異株であるデルタ株の感染力の強さを甘く見ずに、五輪の中止ないしは再延期を早期に決断して、社会資源を医療態勢の拡充に充てて感染拡大に備えることも選択肢としてはあったはずです。
 そもそも菅内閣への支持は下がり続け、菅首相には民意の6割以上が続投を求めていない、期待していない状況です。そのような民意の支持を失った政権の下で、コロナの感染拡大に対する危機意識が共有され浸透するかは疑問ですし、ましてやそうした政権が人権の制限の拡大を手掛けるのは極めて問題があると思います。

 17日には、こんなニュースもありました。与党もこうでは、もはや何を言っても説得力はないように思います。
 ※共同通信「自公幹事長ら5人が会食 コロナ禍、SNSで批判も」
  https://nordot.app/800310585497845760

nordot.app

 自民党の二階俊博、公明党の石井啓一両幹事長ら与党幹部5人は17日昼、東京都内の日本料理店で会食した。「不要不急でなく大事な会議だ」(与党幹部)と説明するものの、緊急事態宣言の地域拡大や延長が決まるタイミングでの菅政権幹部による会食。SNSなどで早速批判が上がった。

 以下、8月前半の5件の世論調査結果から、いくつかの問いと回答状況を書きとめておきます。
▼内閣支持率
・共同通信:14~16日実施
  支持 31.8%(4.1P減) 不支持 50.6%(0.8P増)
・読売新聞:7~9日実施
  支持 35%(2P減) 不支持 54%(1P増)
・NHK:7~9日実施
  支持 29%(4P減) 不支持 52%(6P増)
・朝日新聞:7~8日実施
  支持 28%(3P減) 不支持 53%(4P増)
・JNN:7~8日実施
  支持 32.6%(10.1P減) 不支持 63.5%(9.2P増)
▼菅首相の任期
・共同通信:今年9月に菅首相の自民党総裁としての任期が終わります。あなたは菅首相が自民党総裁選で再選され、首相を続けてほしいと思いますか。
 「続けてほしい」27.5% 「続けてほしくない」65.1%
・読売新聞:菅首相には、どのくらい首相を続けてほしいと思いますか。
 「すぐに交代してほしい」18%
 「今年9月の自民党の総裁任期まで」48%
 「1、2年くらい」21%
 「できるだけ長く」8%
・朝日新聞:菅首相の自民党総裁としての任期は9月末までです。あなたは、菅さんには、総裁に再選して首相を続けてほしいと思いますか。続けてほしくないと思いますか。
 「続けてほしい」25% 「続けてほしくない」60%
▼東京五輪が開催されてよかったと思うか
・共同通信 「よかった」62.9% 「よくなかった」30.8%
・読売新聞 「(よかったと)思う」64% 「思わない」28%
・NHK 「よかった」26% 「まあよかった」36% 「あまりよくなかった」18% 「よくなかった」16%
・朝日新聞 「よかった」56% 「よくなかった」32%
・JNN 「開催してよかった」25% 「どちらかといえば開催してよかった」36% 「どちらかといえば開催すべきでなかった」24% 「開催すべきでなかった」14%
▼五輪と感染拡大
・共同通信:あなたは、東京五輪の開催も、新型コロナウイルスの感染拡大の一因になったと思いますか、思いませんか。
 「一因になったと思う」59.8% 「一因になったと思わない」36.4%
・読売新聞:あなたは、東京オリンピックは、菅首相が掲げた『安心安全』な形で開催できたと思いますか、思いませんか。
 「思う」38% 「思わない」55%
・NHK:「安全・安心な大会」になったと思うか。
 「なった」31% 「ならなかった」57%
・朝日新聞①:東京オリンピックは、菅首相の言っていたように、「安全、安心の大会」にできたと思いますか。できなかったと思いますか。
 「できた」32% 「できなかった」54%
・朝日新聞②:この夏にオリンピックを開いたことで、新型コロナウイルス対策のため、外出や会食を自粛する世の中のムードが、ゆるんだと思いますか。それほどではないと思いますか。
 「ゆるんだ」61% 「それほどではない」32%
・JNN:あなたは、今回のオリンピックが感染拡大につながったと思いますか。
 「つながったと思う」20% 「ある程度つながったと思う」40% 「あまりつながったとは思わない」27% 「つながったとは思わない」11%

死者との「約束の場所」靖国神社

 過日、夏の休暇を取った平日の午後、東京・九段の靖国神社を訪ねました。
 新聞、テレビのマスメディアは、首相や閣僚が靖国神社に参拝するたびに大きなニュースとして扱ってきました。第二次世界大戦後に東京裁判を経て処刑されたA級戦犯らが「昭和の殉難者」として合祀されていることを主な理由として、首相や閣僚の参拝には賛否両論があることが背景にあります。毎年8月15日の敗戦の日には、マスメディア各社は終日、神社周辺をウオッチして閣僚や国会議員らの参拝を取材しています。
 通信社で記者として働きながら、中でも社会部に長く身を置きながら、靖国神社にかかわる取材は経験がなく、訪ねることもありませんでした。昨年秋に定年を迎えて、マスメディアで働く現役の時間を終えたのを機に、靖国神社がどういう場所なのか、自身で確認しておきたいと思うようになりました。
 今年3月に一度、訪ねました。ちょうど境内の桜が満開を迎えるころで、おびただしい人でにぎわっていました。明らかに、参拝よりも桜を見るのが目的の人が大半でした。笑顔と歓声がそこかしこにありました。それも靖国神社の一面なのかもしれませんが、静かな時に再訪しようと思いました。

 ■「靖国で会おう」

 第二次大戦を軍人として戦った人たちが残したいわゆる戦記物を読んでいると、「靖国で会おう」という言葉が出てきます。生きて帰れるとは思わない。死んだらお互いに靖国神社に祀られるのだから、そこで会おう、ということです。特に生還が予定されていなかった特攻隊の隊員の間では頻繁に交わされていたようです。いわば、靖国神社は死者たちの「約束の場所」と言っていいのだと思います。
 20年前に初めて読んだ山崎豊子さんの長編小説「沈まぬ太陽」のあるシーンが長らく印象に残っています。国民航空がジャンボ機墜落事故を引き起こした後、絶対安全を至上命題として再建に乗り出すに当たり、繊維会社を徹底した労使協調で再建させた実績を持つ国見正之が、時の利根川泰司首相の意向で国民航空の会長職に就きます。二度固辞した国見が、利根川の代理人であり、シベリア抑留の経験を持つ元大本営参謀の龍崎一清から「お国のために」と要請され、ついに受諾を伝えた冬の日、向かった先が靖国神社でした。
 国見は学徒出陣した元軍人で、連隊勤務を経て陸軍予備士官学校へ進み、前線指揮官として養成されました。同期生の300人は前線に赴きますが、国見は教官要員として残りました。多くの友が戦死しました。戦後、国見は毎年大みそかに、必ず靖国神社を訪ねていました。
 「今年は少し早く来た―」。予備士官学校の寮で「死んだら靖国神社で会おう」と誓い合った友の姿を思い浮かべながら、国見は心の中で語りかけます。「貴君らと別れて、四十二年目の今日、私は遅ればせながら、二度目の召集を受けた」「五百二十名の死者を出した航空史上最大の惨事を起した国民航空の再建を引き受けることになった」「微力の私には至難なことだが、せめて生き残った者としての務めを果たす覚悟だ。貴君らのご加護をお願いする―。」

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【写真:靖国神社参道と大村益次郎像 】

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【写真:靖国神社拝殿】

 わたしが2度目に靖国神社を訪ねたのは、国見の時とは違って8月の暑い日でした。15日の敗戦の日にはまだ数日の間があり、境内に人はまばらで静かでした。地下鉄の九段下駅から第一鳥居(大鳥居)をくぐり、大村益次郎像を過ぎて第二鳥居までの長い参道は神社の境内というよりも公園の趣きです。かつて、戦死者の霊を合祀する儀式「招魂祭」の際には、全国から遺族が集まり、式典を見守った場所だそうです。
 第二鳥居に続いて神門をくぐると、桜の木が青い葉を繁らせていました。3月に来たときには、大勢の人でにぎわっていた一角ですが、この日は閑散としていました。
 拝殿の前で、二礼二拍して手を合わせました。拝殿から本殿までは、ゆったりと距離を取って建てられています。拝殿から本殿を見た時に奥行きを感じました。人が少なく、静かなこともあって、その奥行きの深さに厳粛さを感じるように思いました。
 わたしのすぐ横に、車いすの老齢の女性がいました。手を合わせた後、持参した小さな写真の額を、本殿に向けてしばらくの間、掲げていました。無言のままでした。声を掛けるのがはばかられたのですが、ここに祀られている父親と、亡くなった母親とを会わせてあげているのかもしれないと思いました。靖国神社は、生き残った者が死者と向き合う「約束の場所」でもあるのかもしれないと感じました。

 ■遊就館

 付属施設の「遊就(ゆうしゅう)館」も見学しました。
 「遊就館は、靖国神社に鎮まります英霊のご遺書やご遺品をはじめ、その『みこころ』や『ご事跡』を今に伝える貴重な史資料を展示しています」とのパンフレットの記載の通り、博物館とは似て非なる施設です。
 明治維新に始まり日清、日露両戦争から「支那事変」「大東亜戦争」までを時系列にたどる展示構成になっており、有名無名の戦死者の遺品とエピソードが紹介されています。日中戦争を「支那事変」、太平洋戦争を「大東亜戦争」と呼んでいるように、戦争当時の歴史観、価値観が色濃く反映されています。敗戦後に戦犯として問われ刑死した、あるいは獄中死した軍人は「昭和の殉難者」として扱われており、「戦死」の用語に対して「法務死」が使われています。

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【写真:遊就館】
 靖国神社に祀られているのは戦闘に加わった軍人が中心であるため、遊就館の展示も彼らがいかに戦い、いかに死んだかに重点が置かれ、日本軍がアジア各地で行った加害の側面や、日本国内での住民被害にはほとんど言及がありません。
 また、同じ作戦に従事していても、紹介されているのは戦死者だけです。例えば日米開戦時のハワイ・真珠湾攻撃の際、日本海軍からは航空部隊とは別に特殊潜航艇5隻も攻撃に参加しました。1隻に2人が乗り組んでおり、計10人のうち9人が戦死、1人は捕虜となりました。日本国内では当時、9軍神として大々的に報じられましたが、遊就館の展示も9人についてのみです。やはり、戦争の実相を伝える展示内容とは言い難く、戦争遂行を正当視する側の視点に貫かれていると感じました。
 いろいろな意味で印象に残るのは、特攻に関しての展示です。フィリピン戦線で海軍最初の特攻隊を組織し、敗戦とともに自死した大西瀧治郎中将が、周囲には特攻について「統率の外道だ」と語っていたことが紹介されています。この言葉は、当時の日本軍には、もはやまともに戦う力が残っていなかったことを、特攻の生みの親とされる大西がよく自覚していたことを示すものとして知られています。それだけの劣勢なら、一日でも早く停戦に持って行くのが合理的な思考のはずです。しかし、日本ではそうした思考は働きませんでした。大西のこの言葉は、当時の日本軍の非合理性をよく表している、とわたしは受け止めています。
 また、ポツダム宣言の受諾を伝える昭和天皇の玉音放送が流れた1945年8月15日午後、海軍の大分基地では、特攻作戦の指揮を執っていた宇垣纒中将が11機の特攻隊を自ら率いて沖縄沖へ出撃し、宇垣を含め23人が未帰還になりました。遊就館には、出撃の際の写真も何枚か、展示されていました。この行為は停戦命令への違反とする見方と、玉音放送を停戦命令と解釈できるか疑問とする意見の両方があるようですが、宇垣はともかくとして22人は死ななくてもいいはずでした。生きていれば、その後の戦後復興を支えていたはずの若者たちでした。
 大西にしても宇垣にしても、多くの特攻隊員を死なせたことへの責めを負って自ら命を絶ったことを強調する展示ではあるのですが、同時に当時の日本軍を非合理的な発想、極端な精神主義が覆っていたこともあらためて実感しました。
 展示の終わり近くには、戦死者の遺族の思いが紹介されているコーナーがありました。第三者の目に触れることを前提に述懐したと思われるものが多く、本当の心情がどこまで表れているのかは分かりません。中に戦後、特殊潜航艇に乗った息子が戦死したオーストラリアの港を訪ねた際の母親の述懐がありました。「よくこんな狭いところを。母はほめてあげますよ」。何であれ、息子ががんばったことをほめてやりたい。国家とか軍隊とか、個人の力ではどうしようもない時代だったのだと思いますが、だれを責めるでもなく親としての万感の思いが凝縮された一言のように思え、胸が詰まる思いがしました。

 ■特攻兵器「桜花」

 遊就館には第二次世界大戦当時の日本軍の兵器も展示されています。玄関ホールにあるのは海軍の主力戦闘機だった零式艦上戦闘機(零戦)。大展示室には人間魚雷「回天」や艦上爆撃機「彗星」などが置かれています。回天は文字通り、乗員1人が操縦して敵艦に体当たりする特攻兵器。零戦や彗星も大戦末期には特攻に使われました。
 わたしが目を引かれたのは、大展示室で、彗星の真上に天井からつるされているロケット特攻機「桜花」の実物大のレプリカです。機種に約1.2トンの火薬を搭載し、ロケット噴射で上空から敵艦を目がけて体当たりします。航続距離が短いため、双発の一式陸上攻撃機につり下げられて基地を出撃します。目標に近付くと母機から切り離され、乗員1人が操縦して飛行しました。

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【写真:特攻兵器「桜花」のレプリカ】
 日本は陸軍、海軍とも様々な航空機を特攻に使用しました。その中で桜花は、最初から特攻専門に設計、開発されたほぼ唯一の例でした。兵器としての正式採用は1945年3月。ひとたび母機から切り離されれば、絶対に生還できない非情さがありました。桜花のレプリカの下には、一式陸攻に抱かれた桜花が護衛の零戦に守られ、夕日を浴びながら沖縄へと進む状況のジオラマが展示されています。沖縄戦のころには、日本軍はまともな航空作戦を構えることができず、航空特攻一本でした。そこまで追い込まれたのならば、一刻も早く戦争を終わらせなければなりませんでした。搭乗員たちはどのような思いで出撃していったのか。このジオラマにも胸が詰まりました。

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【写真:(上)桜花部隊のジオラマ(下)ジオラマの一部・桜花を抱いた一式陸攻】
 桜花の特攻作戦では母機も撃墜されて未帰還となる例が多かったそうです。ジオラマの横には、その戦死者名の一覧のプレートがありました。ジオラマの説明によると、レプリカやジオラマは戦後、桜花部隊の「神雷部隊」戦友会から奉納されました。「かつて神雷部隊の将兵は戦死したら『神社のご神門を入って右の二番目の桜の木の下に集まって再会しよう』を合言葉としていた」とのことです。

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【写真:艦上爆撃機「彗星」 その上に「桜花」】

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【写真:人間魚雷「回天」】

 遊就館の見学を終えて退出するまで、入館から2時間半がたっていました。もっと一つひとつの展示をじっくりと、メモを取りながら見ていれば、優に半日はかかると思います。

 靖国神社の源流は、幕末の戊辰戦争の官軍戦死者の顕彰です。賊軍の戦死者は供養も禁じられ、遺体はしばらくの間、その場で朽ち果てるままにされていた例もあったとされます。明治の元勲の一人である西郷隆盛も、最後は西南戦争で賊軍となったため靖国神社には祀られていません。3年前、西南戦争の激戦地だった熊本県の田原坂を訪ねる機会がありました。現地には政府軍、薩摩軍それぞれの戦死者名を記した慰霊碑がありました。双方をわけ隔てしない、そうした感覚は今日的なもので、靖国神社の思想は異なるようです。国家のために生命を落とした者は国家の責任で顕彰する―。いわば兵役に就く者へ死後の名誉を国家が保障する場所であり、戦争をする社会にはどうしても必要な施設だったのかもしれません。
 日本が不戦を国是とする今では、政治と宗教の分離という意味でも、やはり首相や閣僚、国会議員らがその身分を公然とかたって参拝することには疑問があります。
 一方で、76年前の敗戦を挟んで日本の社会は大きく変わりましたが、死者には時間の経過はないのかもしれません。そうだとすれば、死者にとっては今も変わらない「約束の場所」かもしれない。そんなことも感じました。


※遊就館は拝観料1000円です。玄関ホールと大展示室の展示のみ、写真撮影が可能です。

※参考過去記事

news-worker.hatenablog.com

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【写真:熊本県・田原坂の慰霊碑。西南戦争の薩摩軍、政府軍双方の戦死者の氏名をわけ隔てなく刻んでいます=2018年11月】

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【写真:靖国神社境内の満開の桜。3月に訪ねた際には大勢の人でにぎわっていました。これも現代の靖国神社のひとコマです】

 

カテゴリ「東京五輪・直前2カ月~期間中の社説」

 東京五輪開会2カ月前の5月23日付から、新聞各紙の五輪関連の社説、論説を、各紙のサイト上で読めるものを対象に記録してきました。8月11日付で区切りとします。
 新聞の社説、論説は時の世論そのものではないにしても、世論を探るための歴史史料としての価値は持つと思っています。
 わたしのこの記録も、今すぐには役に立たずとも、いずれ時が経過した後で、この大会のことを調べたり考察したりする人たちに、何がしかの足掛かりにはなるのではないかと思って、こつこつと刻みました。この大会を巡るあれやこれやの出来事と、その報道に対するわたしの考察も、このブログにさまざまに書きとめています。それらの記事と一体で、後世の研究者の目に止まることを期待しています。
 「あれはいつごろだったか」といった記憶喚起にも使えるかもしれません。役立てていただければ幸いです。


 記事は計3本です。
(1)「東京五輪 直前2カ月間の社説、論説の記録①5月23日付~6月22日付」
 https://news-worker.hatenablog.com/entry/2021/06/02/002508
(2)「東京五輪 直前2カ月間の社説、論説の記録②6月23日付~7月22日付」
 https://news-worker.hatenablog.com/entry/2021/06/27/100757
(3)「東京五輪 期間中の社説、論説の記録」7月23日付~8月11日付
 https://news-worker.hatenablog.com/entry/2021/07/28/092407

 

 カテゴリ「東京五輪・直前2カ月~期間中の社説」にまとめています。

選手たちが五輪のありようとスポーツの価値を語る意義~五輪閉会、地方紙の社説論説

 東京五輪閉会後に大会を振り返った地方紙、ブロック紙の社説、論説の記録です。
 総じて、選手たちが技と力の競い合いを繰り広げたことは好意的に評価しつつ、新型コロナウイルス禍で開催の意義が二転、三転しながら強行されたことや、国際オリンピック委員会(IOC)の拝金体質には批判的、懐疑的である点が多く共通しているように感じました。
 特に印象に残ったのは「もう腐食はごまかせない」との見出しが付いた信濃毎日新聞の8月9日付社説です。五輪大会やIOCの“腐食”ぶりを指摘した上で、「『選手に罪はない』との声も聞かれる」としつつ「『選手第一』の本義は、競技者自身が五輪を考え、発言し、IOCや組織委を突き動かす主体性の発揮にあると信じたい」として、コロナ感染収束後にでも選手有志が集まって東京大会を振り返り、世界に意見を発信することを提起しています。
 自らの利益のみに腐心し開催国の感染状況にはまるで関心がないIOC、政治的思惑からか「五輪ありき」で突っ走った菅義偉政権や小池百合子都政の惨状を見ながら、そうした場で繰り返される「アスリートファースト」のフレーズにわたしは怪しさを感じていました。また、選手たちが「大会が開催されたことに感謝している」と口にする光景がしばしば報じられながら、その感謝の対象は大会関係者が中心で、コロナ禍でひっ迫の度を強め五輪どころではなくなっている医療現場に思いをはせている様子があまり伝わってこなかったことに、釈然としない気もありました。あらためて選手たち自身が五輪のありよう、社会の中でのスポーツの価値と自分たちの存在をどう考えるのかを語ることには、大きな意義があるだろうと思います。

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 以下に、各紙サイト上で読むことができる社説、論説の見出しと本文の一部を書きとめておきます。

【8月9日付】
▼河北新報「東京五輪閉幕/残した課題はあまりに多い」
 https://kahoku.news/articles/20210809khn000007.html

 原則無観客で、チケット収入を失った組織委の収支は赤字となることが確定的。つけは東京都民や国民に回り、今後、負担割合などが大きな問題となる。開催決定のプロセス、準備や運営の問題点なども含め、全般的な検証や透明性のある議論が求められる。
 過度に商業化してきた五輪の限界を露呈した大会でもあったが、新しい在り方として「東京モデル」を世界に提示できたかどうかは疑問だ。
 大会後の遺産(レガシー)も問われる。東日本大震災からの「復興五輪」という理念は、十分に発信できたかだろうか。今後も理念を継承していくため、地元からの強いメッセージが必要だろう。
 「多様性と調和」を掲げる中、複数の式典関係者が過去の差別的な言動を問題視され、直前に辞任・解任となった。パラリンピックは、このテーマもより注目される。

▼秋田魁新報「東京五輪閉幕 異例の大会、徹底検証を」
 https://www.sakigake.jp/news/article/20210809AK0011/

 当初は簡素な五輪を掲げたが、最終的な開催費用は関連支出も含め3兆円超とされる。900億円を見込んでいた入場料収入は大半が消えた。経済効果は期待できない。
 「復興五輪」でもなければ「コロナに打ち勝った証し」の五輪でもない。国際交流の場も多くが失われ、何のための五輪だったのか。開催意義はいまだに曖昧なままだ。
 世論を二分してまで開催した異例の大会の詳細は記録として残さなければならない。政府、東京都、大会組織委員会には徹底した情報開示による透明性の高い総括と説明を求めたい。
 膨らんだ開催費用はどう使われたのか。コロナ対策は適切だったのか。多くの問題点を整理し、検証しなくてはいけない。国民だけでなく、世界にも報告する必要がある。それがコロナ禍で開催した五輪のレガシー(遺産)になるはずだ。

▼山形新聞「東京五輪が残したもの 未来へ教訓生かしたい」
 https://www.yamagata-np.jp/shasetsu/index.php?par1=20210809.inc

 57年前の東京五輪は10月中旬~下旬に開かれた。夏季五輪が近年7~8月なのは、国際オリンピック委員会(IOC)が高額な放送権料を払う北米のテレビ局に配慮しているためだ。6日に開かれた総括会見でIOCのバッハ会長には、開催時期を見直すべきではとの指摘や「開催都市の負担が大きすぎる。もっと大きな変革が必要ではないか」といった厳しい質問が飛んだ。しかし、大会は「成功」と強調するバッハ氏はこれらの質問には明確に答えていない。世界のさまざまな地域が開催地になり得るのが五輪である。ならば、選手がより安全に競技に集中できる環境についても、IOCはよりはっきりした展望を示すべきだろう。

▼福島民報「【東京五輪 コロナ禍で閉幕】本県に残したもの」
 https://www.minpo.jp/news/moredetail/2021080989179

 競技面では双葉地区教育構想が花開いた。バドミントン男子シングルスで富岡高出身の桃田賢斗選手が一次リーグで敗退する番狂わせがあったが、混合ダブルスで同高出身の渡辺勇大・東野有紗組が銅メダルを獲得した。サッカー女子の日本代表にはJFAアカデミー福島出身の菅沢優衣香、平尾知佳、三宅史織、遠藤純(白河市出身)の四選手が選ばれた。
 構想は世界に通用する人材育成を掲げ、富岡高と地元の四中学校の連携型中高一貫教育として二〇〇六(平成十八)年春に始まった。東京電力福島第一原発事故に伴う富岡高の休校と広野町のふたば未来学園高の開校を踏まえ、県教委は二〇一七年に改定し、バドミントンはふたば未来学園中・高に受け継がれている。
 原発事故で静岡県に移転したJFAアカデミー福島の女子は二〇二四年四月から本県で活動を再開し、入校生は楢葉中とふたば未来学園に通学する。今年四月には男子が本県に活動の場を戻し、入校した中学一年生が広野中に通っている。若者の活躍は地域に活力を与える。構想をさらに推進し、福島から世界で戦える人材を送り出してほしい。

▼信濃毎日新聞「東京五輪閉幕 もう腐食はごまかせない」/約束は果たされず/招致反対のうねり/続けるつもりなら
 https://www.shinmai.co.jp/news/article/CNTS2021080900125

 国内の感染状況は深刻で、病院や療養施設に入れず自宅待機を強いられる感染者が増えた。飲食店は限界まで追い詰められ、収入が激減して不安を募らせる女性や若者、ひとり親家庭も多い。
 菅首相は「選手の活躍が夢と感動、勇気を与える」と述べる。十分な支援を受けられないまま、文字通り生存を懸けて闘う人々の悲鳴より、この国の政治は情緒的な「意義」を優先した。
 コロナ禍と1年延期で、選手たちは満足に調整できずにきた。特に海外の選手は、日本の酷暑や時差に慣れる時間が限られ、練習相手も伴えない不利な条件に置かれた。それでも力を振り絞る姿は見る者を魅了し、日本人選手も努力の成果を見せた。「選手に罪はない」との声も聞かれる。
 ただ、それだけでいいか。「選手第一」の本義は、競技者自身が五輪を考え、発言し、IOCや組織委を突き動かす主体性の発揮にあると信じたい。
 感染が収まってからでいい。選手有志が集まって東京大会を振り返り、世界に意見を発信できないか。五輪開催が困難な場合や選手間の公平性が損なわれる時、どんな代替手段が望ましいのか。政治や利権と切り離した、スポーツ本来の魅力を捉え直すきっかけにもなるに違いない。
 放送権料に固執し、負担を開催都市と国に押し付け、特権だけは享受するIOCの面々に、自浄能力は期待できない。最低限、第三者機関を設けるべきだ。
 招致都市の大会計画に盛られた約束は実現可能か。大会後の履行状況も検証し、経費超過を厳しく監視、指導する仕組みが要る。度重なる招致不正疑惑を防ぐ上でも意思決定の中立性、透明性を高めなくてはならない。

▼新潟日報「東京五輪閉幕 祭典の光と影を胸に刻む」/新風吹き込んだ選手/県勢健闘たたえたい/募るIOCへの疑問
 https://www.niigata-nippo.co.jp/opinion/editorial/20210809634361.html

 東京五輪を巡り、際立ったのは、国際オリンピック委員会(IOC)幹部の独善的言動だった。
 バッハ会長は6日の会見で「日本人が五輪を支持し、受け入れていると結論付けられる」と強調した。8日のIOC総会では「われわれは成功裏な大会を経験した。正しいタイミングに開催されたと自信を持って言える」と述べた。
 真夏の五輪開催時期を見直すべきではないかとの指摘や開催都市の費用負担が大きすぎるとの記者の質問に対しては、明確な回答を控えたり、IOCの正当性を主張したりするだけだった。
 感染禍の中での開催への批判もなかったことにするかのような姿勢には疑問が募る。それが新たな問題を生むことはないか。
 今後大きな課題となるのは、費用負担をどうするかだ。
 (中略)
 心配されていた五輪による感染拡大について、菅義偉首相は6日、「国民の人流は五輪前から増えておらず、五輪が感染拡大につながっているという考え方はしていない」と否定した。
 だが、感染力の強いデルタ株やワクチン接種の遅れに加えて、五輪による自粛ムードの緩みも感染拡大の要因とする見方は根強い。
 東京五輪は誰のため、何のための大会だったのか。感染禍の下での開催は本当に正しかったのか。私たち国民一人一人が考え続ける必要がある。

▼福井新聞「東京五輪閉幕 あるべき姿が垣間見えた」
 https://www.fukuishimbun.co.jp/articles/-/1374883

 選手は五輪と人々とを橋渡しする役目も担う。無観客開催だっただけにその役割の大きさは過去の比ではない。24日にはパラリンピックが開幕する。選手の精神面のケアも含めた早急な方策が必要だ。
 観客がスポーツを構成する大切な要素であることは過去にも「論説」で指摘してきた。しかし、今回は無観客もやむを得なかった。選手団やボランティアだけの会場に寂しさを感じる一方、素朴な応援は、「楽しむ」というスポーツの原点を思い出させてくれた。巨額の放映権料を頼りに華美にするばかりが五輪ではないことを再認識した。
 開催の可否をめぐっては世論を大きく分けた。新型コロナをめぐる危機管理は十分だったか。徹底した検証が求められる。

▼京都新聞「東京五輪閉幕 『強行』した意味問い直しを」/バブルにほころびも/理念と意義を示せず/多様性には広がりも
 https://www.kyoto-np.co.jp/articles/-/614767

 招致時に掲げた「復興五輪」はかすみ、「コロナとの闘い」「世界の団結」と変遷した。理念に一貫性を欠き、「多様性と調和」を掲げながら組織委幹部らの人権意識の低さをさらけ出した。
 開催費は招致計画時の2倍強の1兆6千億円超に膨張。無観客でチケット収入の大半が消え、大幅赤字の穴埋めが避けられない。大会後の利用計画が決まっていない国立競技場などの施設も「負の遺産」となりかねない。巨額の血税を注いだ大会開催を誰がどのように判断したのか、経緯と責任を明確にする必要がある。
 五輪そのものの精神も揺らいだ。IOCはコロナ流行下でも開催を譲らない強硬な姿勢を続け、国民感情を軽視した幹部の言動で反感を招いた。広島、福島を訪れたバッハ氏の平和や復興のポーズも浅薄さが透けた。
 (中略)
 一方、厳しい状況の中でも、女性参加者が増え、初のトランスジェンダー競技者や、複数のルーツを持つ選手らの活躍で、多様性の広がりを印象づけた。
 人種差別への抗議のため片膝をつくポーズをはじめ、さまざまな差別や抑圧に対する抗議を示す動きが目立った。「あらゆる差別反対」を掲げるIOCが政治的、人種的な宣伝活動を禁じる規制を一部緩和した面もあるが、選手個人による自発的な発信として注目されよう。

▼神戸新聞「東京五輪閉幕/『遺産』とするべきものは何か」/遠かった「安全安心」/理念や精神かけ離れ
 https://www.kobe-np.co.jp/column/shasetsu/202108/0014576636.shtml

 大会は準備段階から問題が噴出した。女性蔑視発言による森喜朗組織委会長の辞任に始まり、開会式の制作・演出チーム内で不祥事による辞任や解任が相次いだ。いずれも五輪の精神に反し、日本の人権意識の低さを世界に印象付けてしまった。
 また、IOCの商業主義や運営を巡る傲慢(ごうまん)さも浮き彫りになった。
 スタッフ向け弁当が大量に廃棄された問題も発覚した。組織委は食品ロスへの自覚に欠け、大会テーマの「持続可能性」に疑問符が付いた。
 復興五輪も持続可能な五輪の在り方も十分に体現できず、国内外の共感を得ることができなかったのは残念でならない。
 一方で、ベラルーシ代表選手の亡命問題などで、世界の紛争や格差、圧政の問題に人々の関心が向くきっかけになった。
 東京大会で見えてきたこうした課題を真摯(しんし)に受け止め、五輪とは何かを考え直すきっかけとしたい。新たな五輪の姿を導き出す起点になるなら、そこから真のレガシーが生まれてくるのではないか。

▼山陽新聞「東京五輪閉幕 スポーツの持つ力届いた」
 https://www.sanyonews.jp/article/1162008?rct=shasetsu

 57年ぶりとなった東京五輪が、きのう閉幕した。新型コロナウイルスの感染急拡大で綱渡りの運営となった大会は「中止」という最悪の事態を回避できた。全ての関係者の労苦をねぎらいたい。
 史上初めて1年延期され、開催の賛否も分かれる中で17日間の日程が始まった。205カ国・地域と難民選手団を合わせ、コロナ禍にありながら日本に集った約1万1千人の選手たちは、スポーツの持つ力を証明してくれた。
 大半が無観客となり、会場で感動を分かち合えなかったのは残念でならない。しかし選手たちのひたむきに力をぶつけ合う姿は、コロナ禍で苦しむ世界の人々に勇気を与えたことは間違いなかろう。

▼中国新聞「東京五輪閉幕 選手たちは頑張ったが」
 https://www.chugoku-np.co.jp/column/article/article.php?comment_id=781932&comment_sub_id=0&category_id=142

 大会ビジョンの一つの「多様性と調和」も薄っぺらかった。ここ半年、式典の担当者が相次いで辞任した。統括役による容姿侮辱演出の提案や、楽曲担当者による過去の障害者への虐待行為、演出統括者による過去のユダヤ人大虐殺をやゆするコントなど問題が噴出した。共通するのは人権感覚の乏しさだ。組織委の前会長、森喜朗元首相自身が女性蔑視発言で真っ先に辞任に追い込まれたのだから恥の上塗りと言えようか。
 乏しい人権意識は日本政府も同じかもしれない。性的少数者であるLGBTの差別を禁じる法律の制定もままならない。そんな国が多様性を掲げるのだから薄っぺらいはずである。
 国際オリンピック委員会(IOC)のバッハ会長も薄っぺらさでは似たようなものだろう。先月、コーツ副会長と手分けして広島、長崎を訪れた。被爆地で得た教訓を「平和の祭典」に生かせただろうに広島原爆の日の黙とうも実現できなかった。

▼山陰中央新報「東京五輪閉幕 歯車を再び動かした」
 https://www.sanin-chuo.co.jp/articles/-/76168

 政権が国家プロジェクトとして掲げた「復興五輪」も「ウイルスに打ち勝った証し」も達成できなかったのは明らかだ。それでも、多くの関係者の努力と協力によって、全世界の代表選手が最高の技術を競い合う舞台が整えられ、さまざまなドラマが生まれた。
 喜びにあふれた笑顔があり、さまざまな思いの混じる涙があった。過去の大会のような、祝祭の雰囲気にあふれた大会とはならなかったが、いったんは止まってしまった五輪スポーツの大きな歯車を力強く動かしたのは間違いない。
 大会の総括記者会見で、その点を強調したバッハIOC会長だけでなく、世界はこの事実を評価するだろう。

▼徳島新聞「東京五輪閉幕 厳しく検証し改革進めよ」
 https://www.topics.or.jp/articles/-/572110

 五輪憲章では政治的、宗教的、人種的な宣伝活動を禁じており、過去には黒人差別に抗議した選手が追放されている。国際オリンピック委員会(IOC)がその規制を今大会から緩めたのは、世界の人権意識の高まりからにほかならない。
 それに比べ、いかに人権問題への理解を欠いていたか。政府や組織委は猛省すべきだ。
 商業主義のひずみもあらわになった。
 IOCに巨額の放送権料を支払う米テレビ局の意向で真夏の開催となり、競技時間にも配慮した。懸念通り、酷暑のため選手が倒れたり、苦情が出たりした。時間変更を余儀なくされた競技もあり、女子マラソンのスタート前倒しは、本来の開始時刻の11時間前という異例の発表となった。
 大会開催が強行された背景には、中止によって放送権料を失いたくないIOCの意思が働いたとされる。
 経済的、政治的思惑にほんろうされる五輪でいいのか。大会を厳格に検証し、改革の糧とすべきである。

▼高知新聞「【東京五輪閉幕】大会のあり方を問い直せ」
 https://www.kochinews.co.jp/article/478258/

 一方で、この大会は近年の五輪が直面する課題も露呈したと言える。
 酷暑の中での競技開催は「アスリートファースト(選手第一)」から逸脱していたのではないか。選手の熱中症や棄権も相次いだ。
 そもそも7~8月の開催時期は、巨額の放送権料を払う米国テレビ局の意向があるとされる。
 以前から五輪の行きすぎた商業主義は強く批判されてきた。
 その問題は今大会を通じて、国際オリンピック委員会(IOC)の人々の安全よりも開催を優先するかのような強硬姿勢や、バッハ会長の国民感情を軽視した言動から、国内でもよく知られるようになった。
 開催都市の過度な財政負担に各国の五輪の招致熱は冷え込んでいる。次回2024年大会の招致争いでは当初5都市が立候補したが、巨額の開催費用に住民の反発が強まった結果、3都市が撤退している。
 「コンパクト五輪」をうたった東京五輪は、1年延期や新型コロナ対策の追加費用もあって、国や都などが要した関連経費は3兆円を超えるともされる。無観客開催となり、大会組織委員会が得たはずの約900億円のチケット収入も消えた。
 肥大化した五輪のあり方を見直す時が来ていることは間違いない。

▼佐賀新聞「東京五輪閉幕 感動を力に再び結束を」
 https://www.saga-s.co.jp/articles/-/720802

 新型コロナウイルスの感染が収まらず、大会期間中、緊急事態宣言が東京から隣県にも拡大される中で開かれた異例のオリンピック。リスクを冒してまで開いた意義はあったのだろうか。意見は分かれると思うが、自国開催という地の利を生かし、日本は過去最多の金メダルを獲得した。「コロナに打ち勝った証し」とまではいかなくても、見る人を元気づけてくれた。開催の意義はあったと考えたいし、とにかく今は無事に五輪を終えられたことを喜びたい。そして、五輪開催の収益が少しでも出るのならば、コロナワクチンの取り組みが進んでいない発展途上国に役立ててもらおう。
 (中略)
 五輪にはさまざまな差異を超え、互いを結びつける力がある。東京五輪の参加国数は200を超えた。世界の広さを実感し、平和を保つには「相互理解による協調」が必要だと、改めて考えさせられた。また、コロナで予定通りにはいかなかったにせよ、3人制バスケットボールのセルビア選手団が唐津市で事前キャンプをしたように、各地で何らかの縁ができた。この縁を大切にしたい。

▼沖縄タイムス「[東京五輪閉幕]負の遺産 検証が必要だ」
 https://www.okinawatimes.co.jp/articles/-/801212

 結局のところ東京五輪はどう評価されるべきなのか。
 政府は選手の活躍やメダル数をもって「成功」と評価するかもしれないが、それと大会そのものの評価は、厳密に分けて考えるべきだ。
 東京五輪は全体としてみれば、あまりにも「いびつな五輪」だった。
 新型コロナウイルスの感染拡大で、本来の2020年開催は1年延期された。
 「人類が新型コロナウイルス感染症に打ち勝った証しとして、完全な形で東京大会を開催したい」
 政府はそう強調していた。だが、コロナ対策の失敗で緊急事態宣言下の無観客開催を余儀なくされ、当初のもくろみは実現できなかった。
 「復興五輪」のスローガンも掛け声倒れに終わった。
 コロナ禍の五輪開催が国民の分断を生み、「感動で、私たちは一つになる」という大会モットーもむなしく響いた。

【8月10日付】
▼東奥日報「スポーツの歯車動かした/東京五輪閉幕」
 https://www.toonippo.co.jp/articles/-/623355

▼山陽新聞「SNSの中傷投稿 言葉の暴力から選手守れ」
 https://www.sanyonews.jp/article/1162249?rct=shasetsu

 閉幕した今回の東京五輪では、日本人選手が活躍する一方で、会員制交流サイト(SNS)を通じた選手に対する誹謗(ひぼう)中傷が問題になった。言葉の暴力を許すことはできない。選手を守る対策を講じなければならない。

▼西日本新聞「東京五輪閉幕 『原点回帰』へ課題検証を」/感染拡大と無関係か/半世紀前と同じ構図/
 https://www.nishinippon.co.jp/item/n/782867/

 閉会式があった国立競技場から視線を少しずらすと、五輪の熱も冷めるような現実がある。新型コロナウイルス感染は爆発的な勢いで広がり、開会時に比べて医療現場は明らかに逼迫(ひっぱく)している。五輪を楽しむ余裕のない人たちもいた。
 今大会を、異なる世界が並行して存在する「パラレルワールド」に例えたのは国際オリンピック委員会(IOC)の広報部長だった。五輪から感染は広がっていないと強調する意味の発言だが、言い得て妙である。
 IOCや大会組織委員会は、東京五輪は成功したと総括したが、その判断はまだ早い。感染が拡大し、多くの国民が理解したとは言い難い状況で開催を強行した大会だ。時間をかけて浮き彫りになった問題点を検証する必要がある。
 五輪の開催意義や運営方法を見直す契機としたい。
 (中略)
 地方から見れば、今回の東京五輪も首都再開発を促進するための一大イベントだった。五輪に経済効果を期待する意図は57年前の大会と同じだ。もう東京中心の高度成長の再現を夢想する時代ではない。発想の転換は不可避であると強調したい。

▼宮崎日日新聞「選手と心の健康 SNS含め重圧対策整備を」
 https://www.the-miyanichi.co.jp/shasetsu/_55552.html

 スポーツは産業として発展した。五輪の実施競技もプロスポーツも、多額の放送権料とスポンサー料を吸収するようになった。選手間、チーム間の競争は激化。選手の報酬も上昇し、優秀な選手は有力なスポンサー企業が支える。選手が感じる重圧の一つの要因はここにある。
 (中略)
 さらに見逃せないのが、会員制交流サイト(SNS)で選手が思わぬ非難にさらされるケースが増えたことだ。競泳の池江璃花子選手は五輪の開催反対に同調するよう、また出場を辞退するよう求められ「私に反対の声を求めても、私は何も変えることができません」と訴えた。
 スマートフォンを肌身離さず持ち歩く時代だ。だからこそ、選手がどのようにSNSと付き合うかを含め、選手の安心を守る方法を検討したい。好きだから続けていた競技がいつの間にか、気が重いものに変わってしまわないよう、心の健康を保てる環境づくりが大切だ。

▼琉球新報「東京五輪閉幕 多様性『遺産』に再生を」
 https://ryukyushimpo.jp/editorial/entry-1372069.html

 国際オリンピック委員会(IOC)は大会を成功と総括したが、額面通りに受け取れない。緊急事態宣言下での開催を強いられ、感染は収束せず全国に拡大した。理念なき開催が分断を生み国民不在の様相を呈した。
 では、東京五輪は何を残したのか。アスリートたちの健闘は感動をもたらした。とりわけ県勢の活躍は目覚ましく、男子空手形で喜友名諒選手が県出身初の金メダルを獲得するなど次世代に夢と希望を与えてくれた。
 同時に、アスリートたちは人種差別や性差別を許さない意思表示、独裁に抗議して亡命するなど「多様性」「人権」という五輪精神を体現した。それが今回の「遺産」なのかもしれない。
 何のために、誰のための五輪なのか。なぜ、コロナ禍の中で開催するのか。「コンパクト」「復興」「コロナに打ち勝った証し」「安心安全」。くるくる変わる五輪の理念に国民は振り回され最後まで大会の意義を見いだせなかった。

【8月11日付】
▼毎日新聞「東京五輪のSDGs 徹底検証し教訓を今後に」
 https://mainichi.jp/articles/20210811/ddm/012/070/090000c

 資源を一切無駄にしないとうたいながら、ゴミの減量よりも、使い捨てにつながるリサイクルに対策が偏っていると批判された。
 国立競技場は、まだ使えたものを建て替えた。しかも、NGOの調査で、建設資材に貴重な熱帯林の木材が使われたことも明らかになった。
 選手村で提供された卵などの食材が、動物愛護の観点から問題視された。日本の鶏の大半は狭いケージで飼われているが、欧州では禁じられている。
 スタッフ向けの弁当が大量に廃棄され、大会関係者のジェンダーや人権に配慮しない発言が相次いだ。いずれも「SDGs五輪」のイメージに逆行するものだった。
 日本では、モノやサービスを購入する際、持続可能性や人権に配慮する「エシカル(倫理的な)消費」が浸透していない。
 本来であれば、五輪で国際水準を上回る野心的な目標を掲げ、実践すべきだった。そうすれば先進的な取り組みが手本となって、大会後に普及する効果が期待できたはずだ。

▼河北新報「SNSでの選手中傷/根絶の機運 社会で醸成を」
 https://kahoku.news/articles/20210811khn000006.html

 インターネット上での匿名による誹謗中傷対策として、改正プロバイダー責任制限法が4月に成立。匿名の投稿者特定の迅速化が図られるようになった。誹謗中傷投稿に対する抑止効果が期待され、損害賠償を請求する被害者の救済につなげる狙いもある。
 中傷を受けた被害者を救う動きは進みつつあるものの、「特効薬」となる手段は現段階では見当たらない。SNSの影響力が大きい時代に即したアスリートの支援態勢をどう構築していくのか。競技団体や選手、良心的なファンが一体となり、度が過ぎた誹謗中傷をやめるよう、広く地道に訴えていくことも一つの策だろう。

▼宮崎日日新聞「五輪が残したもの 祭典の代償に向き合わねば」
 https://www.the-miyanichi.co.jp/shasetsu/_55580.html

アスリートはスポーツの力を存分に伝えてくれた。ただ、収束が見えないコロナ禍の下で、強引に突き進んだ「代償」は大きい。うたげのあと、私たちは祭典がもたらした影や負の遺産に向き合わなければならない。新たな負担の問題も出てくるだろう。不可欠なのは、政府や組織委員会の徹底した情報開示による、透明性の高い、丁寧な総括と説明だ。

 

思惑外れた菅首相、世論からは「ダメ出し」~東京五輪・在京紙の報道の記録(番外)8月10日付

 東京五輪閉会から1日過ぎて、東京発行の新聞6紙(朝日、毎日、読売、日経、産経、東京)の紙面がそれぞれに興味深かったので、番外編としてもう1日、記録を書きとめておきます。

【9月10日付】
 ■バブル崩壊
 1面トップに東京五輪を持ってきたのは毎日新聞、読売新聞、産経新聞の3紙です。
 毎日新聞は、選手村の新型コロナウイルス感染対策に焦点を当てたルポ風の記事です。見出しは「スーパーに五輪選手/買い出し 市民出待ち バブル壊れ」。大会終盤、選手村の近くのスーパーやコンビニでは、首に大会参加資格証を下げた外国人選手らが次々に買い物に訪れていた様子を写真付きでリポートしています。選手村のゲート前では、日本人の親子らの人だかり。選手とハグしたり、肩を寄せて写真を撮ったりしていたとのことです。「バブル方式」の実情を記録に残すリポートです。閉会式翌日の9日、ポロシャツ姿で銀座を歩くバッハ・IOC会長の写真も掲載しました。
 読売新聞と産経新聞は検証企画の初回を掲載しました。主見出しは読売が「五輪の意義 選手が体現」、産経は「団結生んだコロナ禍の闘い」。それぞれ、コロナ禍の中での選手たちの活躍を好意的に振り返っています。大会期間中、読売新聞と産経新聞は日本選手のメダル獲得を大きく報じるスタンスが他紙と比べて突出していました。

 ■菅首相にダメ出し
 10日付の読売新聞は1面準トップで7~9日に実施した世論調査の結果を報じています。菅義偉内閣の支持率は、前回7月調査から2ポイント減の35%で、発足以来の最低を更新しました。不支持率は54%。五輪開催に対しては、「よかったと思う」が64%に上り、「思わない」28%を大きく上回りました。
 10日夜にはNHKの世論調査結果も報じられ、菅内閣の支持率は29%と、やはり発足以来最低を更新。五輪開催には「よかった」26%、「まあよかった」36%、「あまりよくなかった」18%、「よくなかった」16%でした。
 前日報じられた朝日新聞、JNNの各調査も含めて①五輪開催に高い評価②菅内閣支持率は発足以来最低―の傾向は一致しています。
 菅首相は何が何でも五輪を成功させ、それをてこに政権浮揚を図り、党総裁選、衆院選に勝利することを狙っていると、繰り返し報じられてきました。開催前と比べて五輪自体は好評価に転じましたが、それが内閣支持率に結び付いていないことがはっきりしています。

 読売新聞は10日付朝刊の総合面で「五輪で政権浮揚 不発/首相の解散戦略に暗雲」との見出しを立てています。一方、産経新聞は総合面では「首相 薄氷の五輪成功/迷走続き政権浮揚は限定」と、読売新聞とはちょっとニュアンスが異なっています。
 読売新聞の世論調査結果によると、菅首相にどれぐらいの期間首相を続けてほしいかを尋ねたところ、「すぐに交代してほしい」18%、「今年9月の自民党の総裁任期まで」48%なのに対し、「1、2年くらい」21%、「できるだけ長く」8%でした。また、自民党の政治家の中で次の首相にふさわしいと思う人のトップは石破茂氏で19%。次いで河野太郎氏18%、小泉進次郎氏17%の順ですが菅氏はわずか3%でした。朝日新聞の調査でも、秋の自民党総裁選で菅氏が再選され、首相を続けてほしいと思うかを尋ねた質問では、「続けてほしい」25%に対し「続けてほしくない」は60%に上りました。国民の間に、菅首相へのダメ出し機運が醸成されていることがうかがえます。

※以下、各紙の1面掲載記事の記録です
▼朝日新聞
①「『最後の被爆地に』長崎の決意/核禁条約 首相また触れず/原爆投下76年」/「『ダメだ、ダメだ』言い続ける 平和宣言に引用の手記」
②「20年以内 1.5度に上昇/IPCC報告書 対策した場合も」
▼毎日新聞
①「スーパーに五輪選手/買い出し 市民出待ち バブル壊れ」「バッハ会長 銀座を散策」/「『また会いましょう』続々出国」
②「長崎『被爆体験者救済を』/市長訴え 76回目 原爆の日」
▼読売新聞
①「五輪の意義 選手が体現/政府と都 丁寧な説明欠く/立ち向かう姿 共鳴」検証Tokyo2020+(1)
②「内閣支持最低35%/五輪開催『よかった』64% 本社世論調査」
③「気温『21~40年に1.5度上昇』/IPCC 温暖化対策講じても」
④「長崎 刻む記憶 原爆の日」
▼日経新聞
①「気温1,5度上昇 10年早く/IPCC報告『21~40年に』/パリ協定 達成難しく」
②「ワクチン誤情報拡散/29のSNS投稿→転載5万件/接種進展 阻害も」データの世紀
③「長崎76回目『原爆の日』」
④「日本企業M&A最多/1~6月2128件 東証再編に備えも」
▼産経新聞
①「団結生んだコロナ禍の闘い/感染抑制策 世界の羅針盤に」TOKYO2020+1 時代への教訓
②「コロナ厳格措置 見直し/厚労省着手 感染症法扱い 緩和も」
③「長崎原爆76年 核廃絶祈り」
▼東京新聞
①「愛されたハギー 核の犠牲/ヒロシマ出撃 現地で捕虜に/廃絶願う娘『世界は何を学んだ』」原爆で死んだ米兵 遺族の証言 (上)
②「核禁条約『世界のルールに』/被爆地訴え 首相は応じず 長崎原爆の日」つなぐ 戦後76年

力と技への感動と共感、社会に刻まれた深い不信と分断、IOCの尊大さ~東京五輪閉幕の在京紙、北海道新聞の社説の記録

 一つ前の記事の続きです。
 東京五輪が8月8日閉会しました。新聞各紙も9日付の社説、論説で大会を振り返り、今後の課題を展望しています。発行元の新聞社が大会の公式スポンサーに名前を連ねる全国紙5紙と北海道新聞、それに東京で発行している東京新聞(中日新聞と同一)の各社説を読み比べてみました。
 目を引くのは、読売新聞と産経新聞の積極評価です。書き出しで「新型コロナウイルスの世界的な流行という困難を乗り越えて開催された異例の大会として、長く語り継がれることだろう」(読売新聞)、「無観客を強いられたが、日本は最後まで聖火を守り抜き、大きな足跡を歴史に刻んだ」(産経新聞)と、ともに歴史的な偉業を成し遂げたと強調しています。ただ、その評価の源は、主には「世界各国から集まった一流の選手たちが見せた力と技」(読売新聞)への感動や共感であって、その意味では多分に情緒的だとも感じます。
 また、大会期間中の報道姿勢を通じて2紙に顕著な姿勢なのですが、日本政府や自治体が不要不急の外出自粛を呼び掛けている一方で、国際的な大イベントを開催することが、人々の心理的な緩みを招いて感染の急拡大の一因になっているのでは、との指摘があることにはほとんど触れていません。読売新聞の社説は「選手村などで大きな集団感染が起きなかったことが、成功の証しと言えるのではないか」とまで書いています。五輪大会は日本社会とは異なる「パラレルワールド(別世界)」での出来事だととらえているかのような評価軸です。
 一方で、大会の総括として厳しさが目立つのは朝日新聞や北海道新聞、東京新聞(中日新聞)です。
 朝日新聞の社説は書き出しで「明らかになった多くのごまかしや飾りをはぎ取った後に何が残り、そこにどんな意義と未来を見いだすことができるのか」と、やはり歴史的な視点を打ち出していますが、読売、産経とはまったく趣きが異なります。朝日新聞は5月、菅義偉首相に対して、五輪大会の中止を求める社説を掲載していました。しかし五輪は強行されました。同時にコロナの感染は爆発的に拡大し、打つ手がない状況です。「安倍前政権から続く数々のコロナ失政、そして今回の五輪の強行開催によって、社会には深い不信と分断が刻まれた」との指摘は、日本社会の深刻な危機を言い当てているように感じます。
 東京新聞(中日新聞)と北海道新聞はともにIOCを激しく批判しています。東京・中日は「国連機関でも何でもないIOCの硬直的で、国家主権をも顧みない独善的な体質に、私たちはもっと早く気付き、学ぶべきだった」と書き、北海道新聞も「パンデミック(世界的大流行)下でも開催にこだわって反対論を抑圧し、開催国の主権をないがしろにするかのようなIOCの傲慢(ごうまん)な姿勢は看過できない」としています。札幌市は2030年の冬季五輪招致を目指しています。五輪開催が地域とそこに住む人たちを幸せにするのかどうか。今回の東京大会を通じて知られるようになったIOCの尊大さからは、そんなことも考えさせられます。

 以下に、各紙の9日付社説の見出しと書き出し部分、印象に残った部分を書きとめておきます。サイト上で全文が読めるものはリンクも張りました。日経新聞は有料コンテンツですので、書き出し部分のみにしました。

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【8月9日付】
▼朝日新聞「東京五輪閉幕 混迷の祭典 再生めざす機に」/「賭け」の果ての危機/失われた信頼と権威/虚飾はいだ先の光
 https://www.asahi.com/articles/DA3S15004172.html

 東京五輪が終わった。
 新型コロナが世界で猛威をふるい、人々の生命が危機に瀕(ひん)するなかで強行され、観客の声援も、選手・関係者と市民との交流も封じられるという、過去に例を見ない大会だった。
 この「平和の祭典」が社会に突きつけたものは何か。明らかになった多くのごまかしや飾りをはぎ取った後に何が残り、そこにどんな意義と未来を見いだすことができるのか。
 異形な五輪の閉幕は、それを考える旅の始まりでもある。
 (中略)
 これまでも大会日程から逆算して緊急事態宣言の期間を決めるなど、五輪優先・五輪ありきの姿勢が施策をゆがめてきた。コロナ下での開催意義を問われても、首相からは「子どもたちに希望や勇気を伝えたい」「世界が一つになれることを発信したい」といった、漠とした発言しか聞こえてこなかった。
 不都合な事実にも向き合い、過ちを率直に反省し、ともに正しい解を探ろうという姿勢を欠く為政者の声を、国民は受け入れなくなり、感染対策は手詰まり状態に陥っている。
 安倍前政権から続く数々のコロナ失政、そして今回の五輪の強行開催によって、社会には深い不信と分断が刻まれた。その修復は政治が取り組むべき最大の課題である。

▼毎日新聞「東京五輪が閉幕 古い体質を改める契機に」/多様性求める選手たち/コロナ下でひずみ露呈
 https://mainichi.jp/articles/20210809/ddm/005/070/042000c

 新型コロナウイルス下で行われた東京オリンピックが閉幕した。
 史上初の延期に加え、大半の会場に観客を入れず、選手を外部から遮断する「バブル方式」などの措置が取られた。祝祭感なき異例の大会となった。
 原則無観客で開催されたことによって、人の流れはある程度、抑制された。だが、マラソンなど公道での競技には、五輪の雰囲気を味わおうと人が詰めかけた。
 選手村では行動が制限され、ウイルス検査が連日行われた。ストレスの多い生活に選手から不満が漏れ、無断外出で大会参加資格証を剥奪される例もあった。
 選手にとっては「おもてなし」とは程遠い不自由な環境だっただろう。だが、感染を抑えるためには、やむを得ない対応だった。
 ただ、1年延期によるこの時期の開催が適切だったのかは、閉幕後も問われ続ける。酷暑の問題も含め、主催者と日本政府はきちんと検証しなければならない。
 (中略)
 IOCだけでなく、政府や東京都も開催ありきの姿勢を貫いた。「安全・安心」を繰り返すだけで開催の意義を語らず、政権浮揚に五輪を利用しようとするかのような姿勢が国民の反発を招いた。
 大会組織委員会の森喜朗前会長の女性蔑視発言や開会式演出担当者の過去の言動など、関係者の差別的な体質が次々と表面化した。「多様性と調和」という大会ビジョンは見せかけに過ぎないと多くの人の目には映ったはずだ。
 五輪の暗部が白日の下にさらされ、「開催する意義は何なのか」という根源的な問いが人々に投げ掛けられた。

▼読売新聞「東京五輪閉幕 輝き放った選手を称えたい 運営面での課題を次に生かせ」/強化策が実を結んだ/女子の活躍が目立った/浮き彫りになった問題
 https://www.yomiuri.co.jp/editorial/20210808-OYT1T50242/

 57年ぶりの東京五輪が幕を閉じた。新型コロナウイルスの世界的な流行という困難を乗り越えて開催された異例の大会として、長く語り継がれることだろう。
 今大会は、史上初めて開幕が1年延期され、大部分の会場が無観客になるなど、新型コロナの影響によって、当初計画から度重なる変更を余儀なくされてきた。
 (中略)
 17日間の会期中、感染力の強いデルタ株の広がりで東京都内の新規感染者数が急増し、一部に中止を求める声も上がった。
 しかし、世界各国から集まった一流の選手たちが見せた力と技は多くの感動を与えてくれた。厳しい状況の中でも大会を開催した意義は大きかったと言える。
 (中略)
 来日した選手や関係者は数万人に上った。選手村などで大きな集団感染が起きなかったことが、成功の証しと言えるのではないか。多くのボランティアに支えられたことも忘れてはならない。
 一方、現代の五輪が抱える課題も浮き彫りになった。
 暑さが厳しい真夏に大会を開き、夜間に予選を行うなど、選手にとって厳しい競技日程になったのは、国際オリンピック委員会(IOC)に巨額の放映権料を支払う米テレビ局の意向が優先された結果だとされている。
 大会の延期に伴う追加経費や無観客で失われたチケット収入の補填は、ほとんど東京都や国が負うことになる。放映権料を確保しているIOCに比べ、開催都市のリスクが大きいとの指摘もある。
 開会式の直前には、演出担当者らが過去の人権軽視の言動などを指摘され、次々と辞任や解任に追い込まれた。
 大会組織委員会は、今回直面した課題を記録に残し、今後の五輪改革につなげるよう、IOCに提案することが必要だ。

▼日経新聞「『コロナ禍の五輪』を改革につなげよ」/簡素化へさらに努力を/多様性を未来へ

 東京五輪が幕を閉じた。新型コロナウイルスの影響で1年延期され、さらには大半の競技が無観客の異例の大会となった。
 感染は収まらず、東京都に緊急事態宣言が発令される中で競技が続いた。都の1日の感染者数は5千人を超える日もあり、まさに非常時の開催となった。携わったスタッフらに敬意を表したい。
 開会直前まで混乱が続き、批判が渦巻く中、選手らは外部と接触を断つバブル方式を徹底、実力を発揮した。スポーツの力を存分に発揮した大会といえる。日本も過去最多の58のメダルを得た。

▼産経新聞「東京五輪閉幕 全ての選手が真の勝者だ 聖火守れたことを誇りたい」/日本勢躍進に拍手送る/魂を吹き込んでくれた
 https://www.sankei.com/article/20210809-W3IQCANXQVIIJINLGDDPQ22TBE/?outputType=theme_tokyo2020

 これほど心を動かされる夏を、誰が想像できただろう。日本勢の活躍が世の中に希望の火をともしていく光景を、どれだけの人が予見できただろう。
 確かなことは、東京五輪を開催したからこそ、感動や興奮を分かち合えたという事実だ。
 新型コロナウイルス禍により無観客を強いられたが、日本は最後まで聖火を守り抜き、大きな足跡を歴史に刻んだ。その事実を、いまは誇りとしたい。
 (中略)
 開催準備の過程は多くの反省点も残した。今年に入り、大会理念の「多様性」に反する言動で関係者が相次ぎ辞任するなど世界に混乱をさらし続けた。今後の検証は避けて通れない。
 心ない選手批判もあった。スポーツを軽んじる人々が存在することを反映している。だが、スポーツは、人がどんな挫折からもはい上がれることを教えてくれた。その象徴が白血病を乗り越えて代表入りした競泳の池江璃花子(りかこ)だ。
 「人生のどん底に突き落とされて、ここまで戻ってくるのは大変だった。だけど、この舞台に立てた自分に誇りを持てる」
 こう語った池江だけではない。コロナ禍に屈することなく、五輪の舞台に集った全ての選手たちが、この夏の真の勝者だろう。
 私たちもまた、東京五輪を開催した事実を大切にしたい。熱戦に心を動かされた経験を、余すことなく後世に語り継がなければならない。24日からはパラリンピックが始まる。五輪の熱気を冷ますことなく、選手たちの戦いを最後まで見守り、支え続けたい。

▼東京新聞(中日新聞)「東京五輪が閉会 大会から学ぶべきこと」/復興五輪掛け声倒れ/巨大マネーで炎暑に
 https://www.tokyo-np.co.jp/article/123067

 五十七年ぶりの日本での夏季大会となった東京五輪が閉会した。競技に挑んだ選手やコーチ、運営に尽力した関係者の努力はたたえたいが、招致の在り方から感染症が拡大する中での大会開催まで、私たちが学ぶべき教訓は多い。
 一八九六年にギリシャのアテネで始まった近代五輪は国際情勢の影響を強く受けてきた。世界大戦で三度中止され、今回の東京大会は新型コロナウイルスの感染拡大で、初めて一年延期した大会として五輪史に名を刻む。
 会場のほとんどは無観客となり日本国民の大多数はテレビで観戦した。選手やコーチ、大会関係者は「バブル方式」という、外部との接触を遮断された「泡」の中で過ごし、感染すれば排除され、観光で外出すれば指弾される。
 こんな状況を目の当たりにすれば、コロナ禍の日本で今、開催する意味が本当にあったのか、との思いを抱くのは当然だろう。
(中略)
 国連機関でも何でもないIOCの硬直的で、国家主権をも顧みない独善的な体質に、私たちはもっと早く気付き、学ぶべきだった。
 もちろん五輪混乱の原因はIOCだけには帰せない。歩調を合わせて五輪と感染拡大との関係を否定し続ける菅義偉首相をはじめ日本政府の責任は、特に重い。
 首相は中止論を一顧だにせず、楽観的なメッセージを発信し続けた。そのことは五輪開催中、日本全国を祝祭空間に変え、感染を急速に拡大させた。国民にとどまらず、選手や大会関係者らの命と健康を危機にさらしている。
 首相は一体、どう責任を取るつもりなのか。
 平和への希求や人間の尊厳など五輪が掲げる理念は、今後も最大限尊重されるべきだ。ただ、IOCや、今大会では日本政府が、それらを実践するにふさわしい存在でないことも、感染拡大下での大会強行が浮き彫りにした。
 そのことに気付けたことがせめてもの救いであろうか。それにしても私たち日本国民は、巨額の代償を支払うことになったが…。

▼北海道新聞「コロナ下の五輪閉幕 強行開催のひずみ直視を」/「選手第一」実現せず/軽視された命と健康/IOC改革不可避だ
 https://www.hokkaido-np.co.jp/article/576477

新型コロナウイルス禍の中での東京五輪がきのう閉幕した。
 世界の頂点を目指す各国・地域の選手たちの姿は感動を呼んだ。史上最多のメダルを獲得した日本勢の活躍に、閉塞(へいそく)感の中で喝采を送った人も少なくないだろう。
 しかし17日間の大会の進行と軌を一にするように、緊急事態宣言下の東京を中心に全国の感染者数は爆発的に拡大していった。
 この時期に、無観客であっても海外から数万人が集まった大イベントを強行すべきだったのかどうか、今も疑問を拭えない。
 五輪憲章が掲げる「人間の尊厳の保持」と矛盾した姿だったと言っても過言ではあるまい。
 無理に無理を重ねながらの開催は、巨大なビジネスと化した五輪を巡る問題を浮き彫りにした。
 国際オリンピック委員会(IOC)は東京開催がもたらした負の側面を直視し、今後の持続可能な五輪の在り方を考えていかなければならない。
 (中略)
 しかしパンデミック(世界的大流行)下でも開催にこだわって反対論を抑圧し、開催国の主権をないがしろにするかのようなIOCの傲慢(ごうまん)な姿勢は看過できない。
 開催都市契約上、開催可否の権限はIOCが独占する。今後も新たなパンデミックが起こりうるとの前提に立てば、こうした一方的な契約の見直しを含めたIOCの改革は待ったなしだ。
 商業化と肥大化を推し進め、開催国と都市に巨額の財政負担を強いて、開催に伴うリスクは押しつける。このままでは、五輪開催地に名乗りを上げる都市は減少し、先細りが避けられないだろう。
 誰もが歓迎できる五輪の形を取り戻す必要がある。
 札幌市は2030年の冬季五輪招致を目指している。
 今回あらわになった五輪のマイナス面を十分考慮し、このまま招致を続けるかどうか市民の意見を丁寧にくみながら検討すべきだ。

 

どこまでも「別世界」~亀裂の修復これから: 東京五輪・在京紙の報道の記録⑫8月8日付、9日付

 東京発行の新聞6紙(朝日、毎日、読売、日経、産経、東京)が東京五輪をどのように報じたかの記録です。各紙の朝刊1面が中心です。

【8月8日付、9日付】
 東京五輪が8月8日、終わりました。閉会式をテレビの中継で見ました。終わり近く、大会実行委員会の橋本聖子会長と、IOC(国際オリンピック委員会)のトーマス・バッハ会長のあいさつを聞きながら、その内容が徹頭徹尾、内輪の褒め合いであることに「この五輪大会はどこまでも『パラレルワールド』なのだな」との思いを深くしました。
 大会開会から1週間の7月29日、記者会見したIOCのマーク・アダムス・スポークスパーソンは、五輪開催と東京都の新型コロナウイルス感染者急増は無関係だと強調して、こう言い切っていました。
 「五輪関係者は最も頻繁に検査されており、パラレルワールド(別の世界)みたいなものだ。われわれから感染を広げていることはない」
 ※共同通信「五輪は国内感染広げずとIOC 『別の世界』と幹部が強調」=2021年7月29日
 https://nordot.app/793327571172491264

 感染防止策を徹底していることを強調しようとした言い回しであることは承知しています。しかし、この大会と日本社会のかかわりのありよう全体をひとことで表すのに、「パラレルワールド」「別の世界」ほど、ぴったり当てはまる言葉もないように感じます。

 ■感染者急増でも「打ち切り」オプションなく
 開会式が開かれた7月23日の東京都の新規感染者は1359人でした。それが会期中の8月5日には5000人を超えました。しかし、競技場では何事もないかのように競技が続きました。大会打ち切りや会期の短縮は話題にすらなりませんでした。
 事前に感染症の専門家らからは、パンデミックの下で五輪のような国際大イベントは普通はやらない、との指摘がありました。すったもんだの末に無観客が決まりましたが、開催中に日本社会で感染爆発が起きたらどうするのか、との疑問への答えは、大会組織委からも日本政府からも示されないままでした。途中で打ち切るオプションはあるのか、ないのかすら、はっきりしていませんでした。
 実際に日本社会では爆発的な感染者増が起きたのですが、菅義偉首相も小池百合子東京都知事も、実行委もIOCも、五輪開催との関連はかたくなに否定しました。その可能性を疑ってみようとすらしない姿勢は、粗雑で乱暴と言わざるを得ません。日本の政治リーダーや大会主催者サイドのこうした姿勢もまた、五輪大会が「別の世界」の出来事であることの一つの側面だったのかもしれないと、今になって感じます。
 感染者急増で医療のひっ迫が増し、変異株の感染力の強さに対抗するにはワクチンだけでは不十分、人と人の接触を避けるしかないと、だれしも少し考えれば理屈は分かるはずです。しかし実際には五輪開催と日本選手の活躍による高揚感が「自分は大丈夫」との気の緩みを招いている可能性がありました。
 現に、札幌市で行われた競歩とマラソンでは、沿道で見物や応援の人でごった返す場所もあったと報じられています。本州からの旅行者もいました。閉会式でも派手な花火が何発も上がり、国立競技場周辺にはやはり大勢の人出がありました。
 連日、コロナ感染者の急増が速報ニュースとして大きく報じられる一方で、日本選手のメダル獲得がこれまた負けずに大きく報じられる。わたしには違和感が絶えない17日間でした。
 五輪大会のすべての種目を予定通りにやり終えて、放送権料収入に何ら影響がなかったIOCは「すべてめでたし」。バッハ会長が上機嫌で繰り返し日本と日本国民を持ちあげて見せたのも、満足感からでしょう。菅首相と小池知事には、特例で五輪功労章の金章授与を決めたことも報じられました。どこまでも王侯貴族さながらの振る舞いが目に付きました。
 しかし、わたしたちの社会には巨額の経費の問題が残されています。無観客としたことによって、当てにしていた900億円とされる入場券収入の穴埋めをどうするかは切実です。何よりも、コロナの感染者増は医療を崩壊の瀬戸際にまで追い込んでいます。

 ■公式スポンサーと新聞

 大会期間を通じて、東京発行の新聞6紙の報道を、1面の紙面づくりを中心にウオッチしてきました。6紙のうち東京新聞をのぞく5紙(朝日新聞、毎日新聞、読売新聞、日経新聞、産経新聞)は、発行新聞社がそろって大会公式スポンサーに名前を連ねています。9日付の各紙の朝刊は、五輪大会閉会がそろって1面トップでした。
 目を引いたのは読売新聞です。開会式を報じた7月24日付朝刊に続いて、1面と最終面(26面)を閉会式の日本選手団の大きな写真でつないだ異例の紙面です。紙面の下3分の1は大会公式スポンサーの日本企業10社が名を連ねた「ありがとう。オリンピアのみなさんに、それぞれの観客席より。」の大きな広告が占めています。この特別な1面~最終面に掲載されている記事も広告も、すべて競技、競技場の中でのことです。「逆境越え 世界に希望」の見出しが付いた編集委員の署名評論は「日本は何を得たのだろう」と自問した後、次のように結んでいます。

 逆境の中、期待した形から変わってしまっても五輪開催という約束を貫いた、そんな日本への信頼と敬意を多くの海外の関係者が口にした。『これほどの努力を払った開催都市を他に知らない。金メダルに値する』(2024年パリ大会組織委エスタンゲ会長)。曲折はあったが、選手たちの舞台を作り、世界に希望を届ける手伝いはできた。それは心から誇りたいと思う。

 大会期間を通じて、日本選手のメダル獲得を何よりも大きく扱う紙面が際立っていたのが読売新聞と産経新聞です。7月24日付から8月9日付まで、朝刊発行が17回ありました。このうち、両紙がそろって五輪を1面トップにしたのはほぼ半数の8回。どちらかが1面だったのも6回で、両紙とも1面トップから外れたのは3回だけでした。
 パンデミック下でありながら、そして日本社会で感染が爆発的に増えても、ぶれることなく日本選手のメダル獲得を最大ニュースとして扱う方針について、従来通りの五輪報道だと考えていたのですが、今は「なるほど、これも『別世界』だったのか」という気がしています。
 コロナとの関連で、大会期間中から読売、産経両紙には他紙と比べて顕著な違いがありました。日本での感染急拡大と五輪開催とのかかわりを、一切認めなかったことです。高揚感や祝祭感といった心理的な側面、要因は、わたしが見ていた範囲では紙面で言及もありませんでした(わたしの見落としの可能性は否定できませんが)。
 大会公式スポンサーの役割が五輪と参加選手をだれよりも応援する、大会を盛り上げることに寄与することであるなら、読売、産経両紙は、同じスポンサー社発行のほかの3紙よりもスポンサーの立場に忠実だったのかもしれません。

 ■選手たちへの感動、共感と、舞台装置への冷めた視線と
 9日付の在京各紙の1面掲載記事の中で、もっとも印象に残るのは日経新聞の「続『1964』夢と現実」との見出しの論評です。署名は「論説委員会 大島三緒」。競技会の運営自体は長丁場をよく乗り切り、地の利があったにせよ日本選手の活躍も目覚ましかったとしつつ、以下のように指摘します。「1964」は1964年の東京五輪大会のことです。

 しかし、それでも「1964」がもたらしたような多幸感は社会に見いだせない。聖火が消えて、コロナ禍の日常に引き戻されるだけでなく、そもそも往時との差があまりにも大きいのである。
 この大会をなぜ、なんのために開催するのか。問われ続けた大義は曖昧なまま現在に至る。通奏低音として流れていたのは、やはり64年の再来を望む意識だろう。五輪の呪縛が、政治家や官僚を捉えて離さないともいえる。
 このパンデミックは、そういう幻想をゆるがせた。続「1964」への疑念は名古屋や大阪への招致時にも生じていたが、コロナ禍はそれを噴出させた。人々は競技に感動しても、五輪という仕掛けには酔っていない。

 テレビで閉会式が中継されていたさなかの8日夜、朝日新聞社が7、8両日に実施した世論調査の結果が同紙サイトにアップされました。五輪開催は「よかった」が56%、「よくなかった」は32%でした。一方で菅内閣の支持率は発足以来の最低を更新して28%。不支持は53%です。
 ※朝日新聞デジタル「内閣支持率28% 発足後最低を更新 朝日新聞世論調査」
  https://www.asahi.com/articles/ASP8865HHP86UZPS002.html

www.asahi.com

 TBS系列のJNNが7、8両日に実施した調査でも同じ傾向が出ています。
 ※TBSニュース「JNN世論調査、五輪開催『よかった』61% 内閣支持は過去最低」
  https://news.tbs.co.jp/newseye/tbs_newseye4332567.html

news.tbs.co.jp

 7月の朝日新聞の世論調査では、五輪開催に対して「反対」55%、「賛成」33%でした。五輪開催の強行にさまざまな疑念を持ちながらも、始まってしまえば選手を応援するのは、別におかしなことでも悪いことでもありません。終わってみて「五輪開催はよかった」と考える人が多数派になりました。しかし、「五輪ありき」を推し進めた菅政権の支持回復には結び付いていません。
 世論の反対を押し切って五輪開催が強行されたために、日本社会には亀裂が残っていると感じます。ツイッター上では、開催を評価する意見と批判する意見とが、およそ交わることが望めないほどに激しい調子で飛び交っています。この亀裂をどう埋めていくのか。選手たちへの感動や共感と、五輪という舞台装置への冷めた視線の意味を合わせて読み解きながら、亀裂の修復を図っていかなければなりません。そこにマスメディアの次の役割もあるだろうと思います。新聞と新聞社で言えば、そのためにはまず、全国紙の発行元がそろって公式スポンサーに名を連ねたことの検証が必要だろうと思います。

 以下、在京各紙の9日付と8日付の1面記事の記録です。

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◎9日付
▼朝日新聞
①「東京五輪閉幕/日本メダル最多58」/「負の遺産 すべて洗い出して」志方浩文・東京本社スポーツ部長
②「菅内閣支持28% 最低/五輪開催『よかった』56% 本社世論調査」
③「長崎原爆投下 きょう76年」
▼毎日新聞
①「異形の五輪 閉幕/無観客・コロナ拡大・酷暑/メダル最多58個」/「バスケ女子・自転車梶原 銀」/「意義と教訓 次世代に」小坂大・東京五輪・パラリンピック報道本部長
▼読売新聞 ※1面~最終26面
①「東京五輪閉幕/コロナ禍 延期・無観客/メダル最多58個」/「バスケ女子『銀』」「梶原『銀』オムニアム」/「逆境越え 世界に希望」結城和香子・編集委員

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▼日経新聞
①「コロナ下 世界と共に/東京五輪 閉幕/異例の夏 未来へ糧」/「続『1964』夢と現実」大島三緒・論説委員会
②「特許料、来年度上げ/最大5500円 中国文献増で審査費膨張」
③「高額プラン優遇撤廃/携帯大手3社の販売店評価」
▼産経新聞
①「東京五輪閉幕 未来へ遺産/『金』27、総数58個 メダル 史上最多/バスケ女子 歴史的『銀』」/「コロナ禍乗り越えた底力」金子昌世・運動部長
②「蔓延防止8県追加/都内感染 日曜最多4066人」
▼東京新聞
①「東京五輪閉幕/代償と伊丹 未来への『火』に」ルポ コロナ禍のオリンピック
②「東京の新規感染 初の週平均4000人」

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◎8日付
▼朝日新聞
①「水面下 ワクチン外交/日本は供給国3位、まず台湾に」経済安保 米中のはざまで
②「野球『金』正式競技で初」/「須崎・乙黒拓『金』 レスリング」
③「重点措置追加の県 人出減/東京、自宅療養増 1万8444人」
▼毎日新聞
①「東洋の魔女 孤高の闘い/栄光の象徴 自ら避け」迫る 64年五輪 出番なかった「金」※3面に続く
②「野球 日本が金/レスリング乙黒拓、須崎も」
▼読売新聞
①「野球『金』/正式競技で初 米破る」「須崎・乙黒拓『金』レスリング」
②「『逃げ場ない電車狙った』/容疑者供述 無差別襲撃か 小田急切りつけ」
③「全国感染1万5753人 4日連続最多」
▼日経新聞
①「中国AI研究 米を逆転/論文の質・量や人材で首位」チャートは語る
②「企業業績、回復一段と/今期35%増益 上方修正1兆円超」
③「侍ジャパン『金』」「東京五輪きょう閉幕」
④「排出枠売買 企業に仲介/みずほ 脱炭素へ世銀と」
▼産経新聞
①「50代接種 都内進まず/本紙23区調査 5割未満14区/ワクチン不足響く」/「東京の入院患者 最多」
②「侍ジャパン『金』/野球 正式競技で初」「レスリング 乙黒拓・須崎『金』」
③「極超音速兵器 無人機で探知/防衛省検討 中露ミサイルに対処」
▼東京新聞
①「コロナ病棟『災害級』緊迫/防護服・患者次々…疲労色濃く 千葉大病院ルポ」
②「国内感染 4日連続最多/まん延防止 8県適用」

 

※追記 2021年8月10日0時50分

 8月9日付の全国紙5紙と東京新聞・中日新聞、北海道新聞の社説の記録を別記事にまとめました。

news-worker.hatenablog.com

祭りは終わっても、コロナ感染爆発は続く~東京五輪・在京紙の報道の記録⑪8月6日付、7日付

 東京発行の新聞6紙(朝日、毎日、読売、日経、産経、東京)が東京五輪をどのように報じたか、その記録です。各紙の朝刊1面が中心です。

【8月6日付、7日付】
 新型コロナウイルスの日本国内感染者が8月6日、100万人を超えました。50万人に達したのは、昨年1月の最初の確認から1年3カ月後の今年4月上旬。その後4カ月で倍増です。東京都では7日、新たな感染者は4566人でした。4日連続で4000人超です。全国でも1万5753人で、4日連続で最多を更新しています。爆発的な感染拡大が続いています。
 この状況でも東京五輪は、一部の競技でスケジュールを変更しつつも予定通りに実施。「地の利」もあってか日本選手のメダル獲得も続きました。
 7日午前6時からは札幌市で、女子マラソンが行われました。沿道での観戦の自粛が呼びかけられましたが、やはり「密」状態が発生したと報じられています。本州から“観戦”に行った人もいるようです。
 ※NHK北海道 NEWS WEB「沿道での観戦自粛呼びかけの中 札幌で女子マラソン開催」
  https://www3.nhk.or.jp/sapporo-news/20210807/7000037205.html

www3.nhk.or.jp

 8日の最終日は同じく札幌市で男子マラソンが実施。夜の閉会式で、五輪の祝祭感は最高潮に達するのでしょうか。
 東京発行の新聞各紙のうち全国紙5紙は、6日付、7日付の紙面でも五輪の扱いに変化はありませんでした。コロナの感染急拡大というフェーズの変化があっても、一部の紙面は「今は五輪を楽しむ時だ」と言わんばかりに1面での大きな扱いが続きました。
 自然災害では、例えば地震後の津波や豪雨による河川の急激な増水、がけ崩れなどの危険が差し迫っている際には、マスメディア、特にテレビは強い言葉で避難を繰り返し呼びかけます。そうしないと、人々の避難行動が遅れかねないからです。このコロナ禍は医療機関への圧迫が強まり、通常の医療が機能しなくなる恐れがあるという意味で、自然災害と同じように人命が危険にさらされています。なのに、一方で五輪の日本選手の活躍が、場合によってはコロナ禍よりも大きく報道され続けています。
 神戸大大学院教授の岩田健太郎さんは、以下のように指摘しています。

 感染症は本当にやっかいで沢山の人が苦しんでいても危機感を共有しづらいです。地震が東京を襲い、瓦礫の下で9700人の人が怪我して閉じ込められて病院にいけなくなったら都民は全員驚愕して楽しい気持ちなどゼロになることでしょう。が、9700人のCOVID患者が自宅で苦しんで治療を受けられなくても誰も気づかないし、楽しく生活を続けられるのです。5月に医療崩壊した大阪や神戸もそんな感じでした。だから、せめてテレビなどではそういうアラートネスを繰り返し出すべきだったのですがtoo late。いや、今からでも。

 https://www.facebook.com/iwata.kentaro.1/posts/4826065217423391

 祭りの高揚感が去った後、わたしたちの社会にはどんな光景が広がるのでしょうか。危機意識の共有に寄与できなかったと指摘されるかもしれないメディアは、何をどう報じればいいのでしょうか。

 岩田さんはインタビュー記事の中で、以下のようなことも話しています。

 現状を改善するためには、五輪に参加した選手から国民にメッセージを発信してもらったらどうでしょうか。
 アスリート仲間のために、パラリンピックが中止にならないよう、「パラリンピックを安全に開くために、お願いですから外出は控えて下さい」と発言してもらうのです。政治家や専門家の発言よりずっと人々に伝わる可能性が高いと思います。

dot.asahi.com


 ■最後まで尊大なIOC、バッハ会長
 気になる発言がありました。IOCのバッハ会長が8月6日、東京で記者会見し、新型コロナの感染拡大が続く中で開催された大会は成功を収めたとの見解を示したとのことです。
 ※共同通信「バッハ会長、五輪は『成功』 『日本人は受け入れた』」
 https://nordot.app/796336206532575232

nordot.app

 無観客開催でも「選手が魂を吹き込んだ」とし「日本選手の力強いパフォーマンスも成功に貢献した」と続けた。
 日本国民の9割がテレビなどで五輪を見たとのデータを根拠に「日本人が五輪を支持し、受け入れていると結論付けられる。これは感触ではなく事実だ」と指摘した。

 「これは感触ではなく事実だ」。そうでしょうか。テレビで中継されている競技を見ることと、五輪開催を支持し受け入れることとは必ずしも結びつきません。開催が強行されたことへの疑問と、技を競った選手たちへのリスペクトとは両立し得ます。
 IOCとしては「失敗」はあり得ない、想定の中に「失敗」は最初からないのだと思いますが、あまりにも稚拙で強引、粗野な総括です。
 バッハ会長は会見後、マラソンが行われる札幌市に移動したとのことです。東京は緊急事態宣言下です。都県境をまたぐ移動は自粛が求められています。これまでも広島訪問があり、迎賓館での歓迎会という会合もありました。五輪はどこまでも特別扱いです。この6日の記者会見での発言は、バッハ会長とIOCの尊大なイメージを一層印象付けています。大会を通じて、IOCの拝金体質、五輪の理念と大会組織委の実情の乖離などが次々に可視化されました。五輪に対する日本社会の人々の視線は相当に厳しくなっているように思います。

 ■あいさつ読み飛ばし
 6日は広島の「原爆の日」でした。平和祈念式の平和宣言で松井一実・広島市長は、日本政府に核兵器禁止条約の締約国となるよう求めました。しかし菅義偉首相は式典でのあいさつでは同条約に触れず、式典後の会見で条約参加を否定しました。
 この菅首相のあいさつで、原稿の一部を読み飛ばすという異例、異常な出来事がありました。核廃絶に向けた日本の基本的な立場や姿勢を示した部分でした。菅首相は会見で陳謝したとのことですが、うがった見方をすれば、核廃絶に尽力するつもりがないことが、こうした形でも示された、ということかもしれません。

 6日夜になって、おかしな話が出回りました。真偽不明だと思います。
 ※毎日新聞「首相の読み飛ばし 原因は『原稿がのりでくっついてはがれず』」
  https://mainichi.jp/articles/20210806/k00/00m/010/462000c

mainichi.jp

 複数枚の原稿をのりで1枚につなぎ合わせ、蛇腹折りにしていたが、のりが一部はみ出して紙同士がくっつき、首相が開く際に剥がれなかったためにその箇所を読み上げられなかったとみられる。

 ※共同通信「首相の原稿、のりでめくれず 広島式典の読み飛ばし」
  https://nordot.app/796351217012948992

nordot.app

 原稿は複数枚の紙をつなぎ合わせ、蛇腹状にしていた。つなぎ目にはのりを使用しており、蛇腹にして持ち運ぶ際に一部がくっついたとみられ、めくることができない状態になっていたという。

 仮にその通りだとしても、そして理由はどうであれ、菅首相は意味を追いながら読んでいたのではなく、漫然と、ただ文字を発音していた疑いがあることに変わりはありません。つまりは、核廃絶をどこまで真剣に考えているのか極めて疑問です。
 あいさつの冒頭では「広島」を「ひろまし」と、「原爆」を「げんぱつ」と言い間違えていたことも、首相官邸のサイトにアップされている動画から分かります。健康上の要因なのかと、そんなことも考えてしまいます。
 ※「令和3年8月6日 広島市原爆死没者慰霊式並びに平和祈念式あいさつ」
 https://www.kantei.go.jp/jp/99_suga/statement/2021/0806hiroshima.html

www.kantei.go.jp

 テキストでは首相が読み上げなかった部分を含めた“全文”が掲載されています。これだけを見ると、何もトラブルはなかったかのようです。

 ■政治報道は「匿名」原則なのか
 「のり」のことは、わたしは真偽不明だと考えています。その点に関連して思うのは、毎日新聞、共同通信の記事で、なぜ取材先が匿名なのか、です。毎日新聞は「複数の首相周辺」、共同通信は「政府関係者」です。読み飛ばしにあまりにも批判が強いために、いわば首相を擁護するために流布しようとした話のように思えます。共同の記事では、この政府関係者は「完全に事務方のミスだ」と釈明しています。「首相は悪くない」というわけです。
 情報源を匿名にするのは、不利益を受けるのを防ぐためです。公務員が職務上の守秘義務違反を問われるリスクを犯してでも、社会に有益な情報を取材記者に提供するような場合であり、典型的には内部告発です。この「のり」の件はそういう事例ではありません。
 毎日新聞や共同通信だけの問題ではありません。新聞の政治報道には、他の分野に比べても匿名情報が目立ちます。記者会見やインタビュー以外の取材は、匿名とするのがルールになっているかのようです。
 同じ新聞記事でも、事件事故の記事スタイルは繰り返し論議され、批判を受けてきました。ここ数年来、感じていることですが、政治記事もメディアの側から見直す動きがあっていいように思います。

 以下、6日付、7日付の在京各紙の1面記事の記録です。

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◎8月7日付
▼朝日新聞
①「被爆76年 広島は問う/核禁条約発効 市長『参加を』 首相触れず/首相『核なき世界へ努力』読み飛ばす」
②「国内感染 累計100万人/重症197人増え1020人に」
③「小田急車内で切りつけ/9人負傷 逃走の男確保」
④「喜友名『金』空手形/向田『金』レスリング」/「小さくても3点シュートがある/バスケ女子 初の決勝へ」
▼毎日新聞
①「国内感染100万人突破/新型コロナ 8日間で10万人増」
②「小田急車内 乗客刺される/9人けが 30代容疑者確保」
③「菅首相 核禁条約不参加を明言/広島原爆の日」
④「空手形・喜友名『金』/レスリング女子・向田も/バスケ女子が『銀』以上確定」
▼読売新聞
①「喜友名『金』/空手・形 初代王者」「向田『金』レスリング」「バスケ女子初メダル 『銀』以上」「野中『銀』、野口『銅』クライミング」
②「コロナ感染 計100万人超/50万人から4か月で」
③「広島 76回目原爆忌」
▼日経新聞
①「接種進捗が示す医療効率/かかりつけ、大病院と連携/山口・和歌山、全世代で先行」データで読む 地域再生
②「在宅医療機器を増産/ダイキンや帝人」
③「第一生命 豪生保買収へ/730億円 成長市場で足場固め」
④「空手・喜友名が金/レスリング向田も」
▼産経新聞
①「進む米台軍事協力 日本も防衛対話を/台湾海峡有事」寄稿:渡辺金三・日台交流協会前安保主任
②「喜友名『金』空手 男子形 向田『金』レスリング女子53キロ級/野中『銀』 野口『銅』クライミング女子複合」
③「広島原爆76年 祈り深く/核禁条約 発効後初めて」
④「国内感染累計100万人超」
▼東京新聞
①「40度1週間でも入院できず/コロナ自宅療養 過酷な実態/経過観察する鎌倉の看護師ら奔走/『患者増 対応できていない』」
②「核禁止条約 早期批准を/首相、参加を否定/広島 原爆の日」つなぐ戦後76年
③「『シフト制』問題 司法の場へ続々/パートなど休業補償求め」コロナ禍 どう守る 仕事暮らし

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◎8月6日付
▼朝日新聞
①「都の医療『緊急時体制へ』/専門家 新規感染5000人超す/『2週間後に1万900人』試算」
②「緊急事態の全国拡大 否定/首相 まん延防止8県追加決定」
③「広島 きょう被爆76人」
④「川井梨 2大会連続『金』レスリング」
▼毎日新聞
①「厚労相『中等症は原則入院』/対象は東京 政府が修正文書/専門家『全国に宣言を』」/「まん延防止8県追加」/「飲み薬 年内申請目指す/塩野義社長 200万人分供給体制へ」
②「きょう76回目 広島原爆の日」
③「レスリング川井 姉妹で金/メダル46個 最多更新/卓球女子団体銀」
▼読売新聞
①「中等症『原則入院』に/政府 療養方針を明確化/まん延防止13道府県 8県追加決定」/「東京観戦5000人超す/全国1万5000人」
②「川井梨連覇/レスリング姉妹『金』/日本メダル最多46」「卓球女子『銀』」「清水『銀』空手・形」「池田『銀』競歩20キロ」
▼日経新聞
①「IT・部品、進む中国依存/十五品目でシェア3割超 20年世界調査/供給網見直し難しく」
②「自宅療養は東京中心/『まん延防止』8県追加決定」
③「共通通貨ケインズの夢/中銀7割 デジタル化研究」通貨漂流 ニクソン・ショック50年(5)
④「川井梨『金』/レスリング、姉妹で」
⑤「ホンダ早期退職2000人超/世代交代推進 EV・自動運転シフト」
▼産経新聞
①「中等症も原則入院/政府 コロナ療養方針 明確化」「8県追加決定 蔓延防止」/「都内感染5000人超す 連日最多」
②「川井梨 五輪連覇/レスリング 姉妹で『金』/池田『銀』山西『銅』男子20キロ競歩」「卓球女子『銀』」
▼東京新聞
①「首相 言葉響かず/発信に『失敗』 専門家が代弁」民なくして 2021年夏
②「都 中等症の入院継続/政府方針変更でも基準維持」/「東京5000人超/感染最多 重症者20人増/1都3県で9000人超」「首相『対策を徹底』 政治責任言及せず」

五輪開会から2週間の惨状~フェーズ変わらないメディア:東京五輪・在京紙の報道の記録⑩8月5日付

 東京発行の新聞6紙(朝日、毎日、読売、日経、産経、東京)が東京五輪をどのように報じたかの記録です。各紙の朝刊1面が中心です。

【8月5日付】
 8月4日に発表された新型コロナウイルスの東京都の新規感染者は4166人、全国では1万4千人を超えました。5日はさらに増え、東京都は5042人。首都圏では神奈川県1846人、埼玉県1235人、千葉県942人といずれも過去最多を更新しました。爆発的な感染拡大が続いています。全国では1万5千人超です。

■住民が悪いのか
 5日に開かれた東京都の新型コロナウイルスのモニタリング会議では、2週間後の8月18日には1日当たり約1万909人に達するとの試算が報告されたとのことです。

 ※東京新聞「2週間後の東京、新規コロナ感染1万人超えの予測 小池知事『都民の1000人に1人、毎日感染』と訴え」
 https://www.tokyo-np.co.jp/article/122095

 65歳以上の高齢者の感染が再び増加傾向にあること、人出が依然として抑えられていないことも報告されたとのことです。このままのペースでは、2週間たたずとも感染者が1日1万人を超えるのではないかと危惧します。
 気になるのは以下の小池都知事のコメントです。

 会議後、小池百合子知事は報道陣に対し「大曲先生から(都民の)1000人に1人(が毎日感染する)と数字が示された。いつ1000人の1人になるか分からないわけですから、1人1人が自分ごととして、捉えていただきたい」として、あらためて不要不急の外出や都県境を越える移動の自粛と、旅行、帰省の中止、延期を呼び掛けた。

 「1人1人が自分ごととして、捉えていただきたい」。社会に危機意識が共有されていないのは、その通りでしょう。しかし、自覚が足りないとして、住民が責められるようなことなのでしょうか。一方では東京五輪が開催されている中で、です。
 5日午後には札幌市の中心市街地で競歩の競技が実施されました。観戦自粛の呼び掛けにもかかわらず、やはり多くの“見物客”が集まってしまいました。
 ※共同通信「観戦自粛呼び掛けも『密』に 札幌で競歩開催、気温30度超」
  https://nordot.app/795943269406031872

 沿道では「感染予防のため観戦自粛をお願いします」と書かれたプラカードを首から掛けたスタッフらが「立ち止まらないでください」と声でも呼び掛けたが、ゴール地点付近では観客同士が触れるほど密集する場面も。

 仮に、現在わたしたちが目にしている感染の爆発的な拡大が、2週間前の状況の反映だとすれば、2週間前の7月23日はまさに五輪の開会当日でした。
 昼間、航空自衛隊のブルーインパルスが都心の上空を飛びました。わざわざ「さあ、外に出ましょう」と呼びかけるようなものでした。このブログの記事にも書きましたが、東京都は、飛行の中止を政府に申し入れるべき立場のはずではなかったでしょうか。夜の開会式は無観客ながら、国立競技場では派手な花火が上がり、周囲にはやはり「密」ができました。

news-worker.hatenablog.com その後は連日、日本選手が金メダルを獲得し、高揚感と祝祭感が続いています。そういう中で、人の動きが抑制できない、行動変容が徹底されない要因を住民の自覚の欠如に求めることにははなはだ疑問があります。その以前に、菅義偉首相や小池知事は国民、住民に向けてどんなメッセージを発してきたのか、それがどんな風に受け止められていたのか。住民に責めを負わせたり、さらなる私権制限の立法検討に進んだりする前に、政府や東京都はその検証をする必要があるはずです。
 菅首相も小池都知事も、感染者の急増と五輪開催の強行の関連性はかたくなに否定しています。しかし、現に開会から2週間ですさまじい感染拡大を招いている実態があります。札幌の競歩の例は、五輪開催それ自体が心理面で危機意識を持ちにくくしていることを実証しているように思います。事ここに及んでも、感染者の急増と五輪開催強行の関連性を直視しようとしない為政者ならば、国民、住民の生命と健康を守ることは到底できないでしょう。感染拡大を止めるのに、もはやなすすべがないのであれば、今からでも五輪の打ち切りを考えるべきではないでしょうか。そのこと自体が、危機意識を共有する強烈なメッセージになるはずです。

■新聞の二つの側面
 コロナ感染の爆発的な増加について、田村厚労相は4日の国会で「フェーズが変わってきている」と強調しました。しかし、5日付の在京各紙の紙面づくりのフェーズは変わっていませんでした。朝日新聞、毎日新聞、読売新聞、日経新聞、産経新聞は、これまでと同じように、1面に写真付きで日本選手のメダル獲得の記事を掲載しています。読売新聞は1面トップ。産経新聞は準トップながら、トップの「入院制限」問題の記事を凌駕するスペースと見出しの大きさです。5紙の発行元の新聞社5社は、そろって大会の公式スポンサーに名前を連ねています。
 企業が送り出す商品としての新聞と、社会の情報流通を担う、高い公共性を持つマスメディアとしての新聞と、新聞が持つ二つの側面の方向性が相反する事態に陥っているように感じます。このまま各紙とも五輪閉会まで突き進むのでしょうか。しかしそのころ、コロナ禍の惨状はさらに厳しさを増しているはずです。

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■被爆者と被爆地が求めるもの
 きょう8月6日は広島原爆の日。広島市長の平和宣言をテレビで見ていたら、持続可能性社会と核兵器は絶対に相いれない、との一節がありました。そう、被爆者と被爆者が訴え続けているのは核兵器の廃絶です。だから五輪の参加選手らに黙とうを呼びかけることには、五輪の理念にもかなう意義があり、単なる慰霊、追悼にとどまらない意味がありました。しかも広島市や被爆者が一方的にそれを求めたのではなく、IOCのトップ2人が広島、長崎を訪問したことを踏まえてのことでした。
 しかし、黙とうが呼びかけられることはありませんでした。残念であり、悔しい思いです。

 以下、5日付在京各紙の1面記事の記録です。

▼朝日新聞
①「23都道府県 ステージ4/全国の感染最多1.4万人超/入院制限 首相『理解を』」「東京最多4166人」/「重点措置 8県追加へ」
②「川井友『金』レスリング」/「10代 すくすく満開/四十住『金』・開『銀』 スケートボード」
▼毎日新聞
①「『入院制限』反発相次ぐ/自民、見直し要求 新型コロナ/首相、撤回に応じず」/「都、入院基準を厳格化/感染最多4166人 病床確保に対応」
②「スケボー 四十住が金/女子パーク 12歳開、日本最年少銀/レスリング 川井友が金」/「環境整備で女子活躍」
▼読売新聞
①「19歳 四十住『金』/12歳 開『銀』 スケボー・パーク/野球 決勝へ」「川井友『金』レスリング」
②「まん延防止 8県追加/福島など 感染最多1万4207人 政府方針」
③「人口減12年連続/1億2384万人」
▼日経新聞
①「トヨタ米販売、初の首位/4~6月 最高益8978億円」
②「まん延防止8県追加/愛知など31日まで 政府きょう諮問」
③「為替リスクゼロは夢か/円の取引量、30年で7倍」通貨漂流 ニクソン・ショック50年(4)
④「レスリング川井友『金』/スケボー四十住も」
▼産経新聞
①「『自宅療養』与党撤回要求/『全国一律でない』首相は方針維持」/「蔓延防止 8県追加/国内感染最多1万4207人」
②「川井友『金』レシリング女子62キロ級/スケボー四十住『金』 12歳の開『銀
』/日本勢『金』20個超える」
③「人口減最大48万人/動態調査 外国人7年ぶりマイナス」
▼東京新聞
①「与野党から撤回要求/首相否定『丁寧に説明』/判断基準 自治体に丸投げ/中等症患者の入院制限方針」
②「大会関係者陽性8県 特定できず/『強靱な検査体制』でも穴」五輪リスク
③「関東 デルタ株が9割/国内感染1万4000人超、最多」/「尾身氏、東京の感染者見通し 『来週以降6000~8000人』」