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組織ジャーナリズムに身を置き40年余

「#検察庁法改正案に抗議します」の報じられ方~衆院委員会審議入り、在京各紙の記録

 検察官の定年を一律65歳とする検察庁法改正案に対する審議が5月8日、衆議院内閣委員会で始まりました。自民党は今週中にも衆院を通過させる構えだと報じられています。
 国家公務員の定年延長と一括して提出されている、いわゆる「束ね法案」です。検察官については、次長検事、検事長は63歳で検事に「降格」(役職定年)となりますが、内閣の判断次第では検事長などにそのままとどまることができる内容です。この法案に先んじて、東京高検の黒川弘務検事長が2月、安倍晋三政権の閣議決定によって63歳の定年後も検事長にとどまる、という出来事がありました。国会で追及され、安倍首相が突然法解釈の変更を言い出したり、人事院の局長が前言を翻したりしたため、野党のほか日弁連からも批判と撤回の要求が出ています。検察庁法改正案が直接、黒川検事長の定年の取り扱いを左右するわけではありませんが、法改正が実現すれば、今後は内閣の判断で特定の人材を検察幹部にとどめ置くことが可能になります。恣意的な運用の余地が生じてしまえば、刑事司法の公正や安定の確保のために、検察が政治との間に適切な距離を保つことができるのか、疑問です。そういう内容なので、検察庁法改正案にも黒川検事長の定年延長と同じように批判が高まっている、とわたしは受け止めています。
 このブログでも何度か触れてきましたが、わたしも黒川検事長の事例には疑問を持っていますし、国会での政府の説明にも納得にはほど遠いままだと感じています。同じように検察庁法改正案に対しても、その内容自体と、審議の進め方との双方に疑問を感じます。立憲民主、国民民主、社民、共産の4党は、森法相にも答弁させるために内閣委員会と法務委員会の連合審査とするよう求めたのに対し、与党側は拒否。野党4党が欠席する中で、自民、公明、維新の3党で8日の内閣委員会で審議入りしました。法相不在で、果たして十分な審議が可能なのでしょうか。しかも新型コロナウイルスの緊急事態宣言が続くさなかです。
 ちょっと意外な気がしたのは、東京発行の新聞各紙のこの出来事の扱いでした。9日付朝刊の扱いと見出しは以下の通りでした。

・朝日新聞:1面「検察の定年延長 与党が審議強行/法相出席応じず 野党反発」
・毎日新聞:3面「野党が審議欠席/与党の法相出席拒否で 検察官定年」
・読売新聞:3面「『65歳定年』法案 実質審議入り/一部野党欠席」
・日経新聞 ※見当たらず
・産経新聞 ※見当たらず
・東京新聞:3面「検察官対象に反発 野党が審議を拒否/衆院委 国家公務員定年延長法案」

 1面に入ったのは朝日新聞のみ。読売新聞は見出しに「検察官」がなく、日経新聞、産経新聞は記事が見当たりませんでした。問題の大きさ、深刻さに比べて、総じて扱いが小さい、目立たないように感じました。

 テレビを含めても報道は決して大きくはなかったのですが、かと言って、世論は冷ややかだった、というわけではありませんでした。
 ツイッター上で「#検察庁法改正案に抗議します」のハッシュタグを付けた投稿が9日午後から10日にかけてぐんぐん伸びました。わたしが気づいたのは9日午後で、そのときのツイート数は20万台でした。10日朝は120万、お昼前には200万を突破していました。異例の現象として、10日午後には新聞社のサイトにも次々と記事がアップされました。最終的に東京発行各紙が11日付朝刊でどのように扱ったかを書きとめておきます。

・朝日新聞:社会面トップ「『どさくさ』審議 反発拡散/#検察庁法改正案に抗議します/2日でツイート470万件」
・毎日新聞:社会面準トップ「検察定年延長 抗議の渦/『日本に悲劇』『国壊さないで』/著名人も声挙げ/改正案審議入り」
・読売新聞 ※見当たらず
・日経新聞:社会面見出し1段「『検察庁法』抗議 ツイート380万超/改正巡り著名人ら投稿」
・産経新聞:5面「著名人ら一時380万ツイート/#検察庁法改正案に抗議します」
・東京新聞:1面「#検察庁法改正案に抗議します 投稿470万件」

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 ツイッターへのおびただしい投稿を見ていると、「これまで政治的な話題はつぶやかなかったが、今回は黙っていられない」との趣旨のツイートが、いくつもありました。タレントやミュージシャンも少なくない数の方が投稿しています。これまで、そうした立場の人が政治的な意見を表明することには批判がありました。今回も批判はあるようですが、意見表明を当然のことと受け止める声も多く目にします。コロナ禍によって政治への関心が高まり、「政治への意見の表明」に対する社会の視線が変わりつつあるのかもしれないと感じます。
 ひるがえってマスメディアです。社会にどのような情報をどうやって届けるのか。コロナ禍によって社会が変化する中で、いよいよその役割が問われると思います。