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バイデン米大統領が菅首相を呼んで確認を求めたこと~対中国の抑止破綻まで織り込んだ共同声明

 菅義偉首相が訪米し、バイデン大統領と4月16日午後(日本時間17日未明)にホワイトハウスで会談しました。会談後に発表した共同声明には「日米両国は、台湾海峡の平和と安定の重要性を強調するとともに、両岸問題の平和的解決を促す」として、「台湾」が明記されたことが大きなニュースとして報じられました。バイデン大統領が就任後初の対面での首脳会談に菅首相を選んだことも、米国が中国と対峙していく上で、地理的に中国と近い日本を重視していることの表れだと指摘されています。台湾について「両岸問題の平和的解決を目指す」としてはいるものの、やはり気になるのは軍事面のことです。米国の中国に対する軍事作戦に日本が加わる恐れがあるのではないか。今回の日米首脳会談によって、日本はどのような位置に組み込まれたと理解すればいいのか。そのようなことを考えながら、新聞各紙の報道を読みました。
 東京発行の新聞各紙は、18日付の朝刊で大型の読み物記事や社説などで、今回の日米首脳会談を掘り下げています。他紙には見かけない視点で参考になったと感じたのは、産経新聞が総合面に掲載した「日米同盟 新ステージ/変わる戦略艦橋 役割見直し」の見出しのサイド記事です。
 共同声明には「(菅総理とバイデン大統領は)日米同盟を一層強化することにコミットする」「日本は同盟及び地域の安全保障を一層強化するために自らの防衛力を強化することを決意した」などの表現で、日米の軍事面での結びつきの強化と、日本の軍事力自体の強化が盛り込まれています。産経新聞の記事はこうした点について、「日米双方が抑止力とともに、抑止が破綻した場合の対処力を強化することで合意した」と指摘しています。また、「最近では米インド太平洋軍司令官が台湾有事の可能性に言及している」とした上で、「日本政府当局者」の「司令官は台湾有事を抑止する責任者であるにもかかわらず、抑止の失敗に言及したのはそれだけ危機感が強いということだ」との受けとめ方も紹介しています。
 一方で各紙とも指摘するのは日本と中国の経済面での関係です。この側面を無視して日本経済は立ち行かず、従って日本には米中の対立の間で果たすべき非軍事の独自の役割があるはず、ということにもなります。しかし、菅-バイデンの共同声明が、軍事的抑止の失敗まで織り込んで軍事同盟の強化と日本の軍事力強化を定めたものだとすれば、事実上、対中国を想定した軍事力行使の準備、もっと言えば戦争の準備(抑止を基調としながらも)を日米が共同で進めることを宣言しているように思います。バイデン大統領が、新型コロナウイルスがまん延しているにもかかわらず、「初の首脳会談の相手」という“栄誉”をもって菅首相をわざわざワシントンに呼びながら、ハンバーガーだけのランチという慌ただしさの中で確認を求めたのは、まさにこの点だったのかもしれません。密室の20分間のやり取りで、菅首相はバイデン大統領に何を伝えたのでしょうか。

 以下は、18日付の東京発行新聞各紙の朝刊のうち、日米首脳会談に関係する1面、総合面、社説の主な記事の見出しの記録です。

▼朝日新聞
1面トップ「日米、声明に台湾明記/中国との競争 連携強調/首脳会談」
1面「日本『受け身外交』転換を」佐藤武嗣編集委員
2面・時時刻刻「台湾海峡 踏み込む日本」「日本 中国に対抗 強硬米国と歩調」「米国 有事想定し 協力迫る可能性」「中国 譲れぬ統一 日本の変化不満」
社説「日米首脳会談 対中、主体的な戦略を」

▼毎日新聞
1面トップ「日米52年ぶり台湾言及/『海峡の平和重要』/首脳会談声明/首相『米国は五輪支持』」/「中国『強烈な不満』」
2、3面・クローズアップ「対中 けん制と配慮」「協調 一部すれ違い」「安全保障 海洋進出懸念 対話にも重き」「経済 半導体供給網構築へ」「気候変動 迫られる2030年新目標」「東京五輪 『コロナに勝利』使わず」
社説「菅・バイデン会談 問われる日本の対中戦略」

▼読売新聞
1面トップ「日米、対中へ同盟深化/台湾の平和 重要性強調 香港・ウイグル人権懸念/スノウ会談 共同声明/経済安保も連携」
1面「温室ガス『30年までに行動』明記/首相、週内に削減目標」
1面・企画・新冷戦の日米同盟(上)「首相 防衛力強化へ決意」
3面・スキャナー「日本慎重 米強硬」「『台湾』文言難航 『平和』強調で折衷」「『人権』対応でも曲折」
社説「日米首脳会談 強固な同盟で平和と繁栄導け/対中戦略すり合わせ責任共有を/台湾情勢明記は適切だ/人権弾圧に深刻な懸念/気候変動と五輪で協力

▼日経新聞
1面トップ「『中国』『脱炭素』米が問う覚悟/『台湾』52年ぶり共同声明に」
3面「日米、中国と対峙鮮明/日本『防衛力を強化』/共同声明を『羅針盤』に」
社説「日米同盟の進化で安定と発展を」/中国は行動を改めよ/日本は主体的に貢献を

▼産経新聞
1面トップ「日米声明『台湾』を明記/対中国 結束で一致/香港・ウイグル人権に懸念/拉致・尖閣にも言及/初の対面首脳会談」
1面「同盟新時代『言葉を行う国』に」渡辺浩生外信部長
2、3面「日米同盟 新ステージ」「対中シフト鮮明に」「変わる戦略環境 役割見直し」「人権侵害に対処 メッセージ」「中国反発『干渉許されず』」
社説(「主張」)「日米首脳会談 『台湾』明記の意義は重い/同盟の抑止力高める行動を」/もっと人権問題を語れ/経済安保に本腰入れよ

▼東京新聞
1面トップ「気候変動へ『確固たる行動』/共同声明に『台湾』明記/日米首脳会談 対中国で協調」
1面「日本、再エネ軽視で出遅れ」
2面・核心「台湾緊張 巻き込まれる懸念/日米首脳 中国にらみ同盟誇示」
社説(中日新聞と共通)①「日米首脳会談 米中との間合いを測れ」②「首相『防衛強化』 軍拡競争を危惧する」

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【各紙18日付朝刊1面】

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【各紙17日夕刊1面】