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組織ジャーナリズムに身を置き40年余

前宮古島市長逮捕のニュースバリュー~在京紙の報道の記録

 東京発行の新聞各紙の13日付朝刊紙面を見て、少なからず驚きました。沖縄県・宮古島に配備された陸上自衛隊部隊の駐屯地用地取得を巡る贈収賄容疑で、下地敏彦・前宮古島市長らが逮捕された事件の扱いです。
 1面に入ったのは朝日新聞のみ。産経新聞は社会面に見出し2段、毎日新聞は第2社会面、読売新聞は第3社会面にそれぞれ1段のベタ記事です。日経新聞、東京新聞には記事が見当たりませんでした。社会面にも関連のサイド記事を掲載した朝日新聞はともかく、他紙の扱いは、問題の大きさに比べて妥当かどうか、わたしは疑問に感じます。
 確かに宮古島は東京から2000キロ離れています。しかし、遠い離島のローカルな汚職事件ではありません。陸自部隊の配備は安全保障政策に大きな比重を占める国策であり、中国を軍事上の仮想敵国とした自衛隊の南西シフトの一環です。先ごろの日米首脳会談でも共同声明に明記されたことで注目された台湾に近く、台湾有事が勃発すれば、自衛隊部隊があるために宮古島にも戦火が及びかねない、そういう場所です。
 自衛隊配備に当たっては、宮古島にも住民の反対の声がありました。市として受け入れを表明したのは、安倍晋三政権、菅義偉政権に直結するパイプを持つ下地・前市長でした。前市長は、辺野古への新基地建設を巡って日本政府と鋭く対立した故翁長雄志氏が沖縄県知事だった当時、翁長知事に対抗する県内市長グループ「チーム沖縄」の会長を務めた県内保守の大物です。自衛隊受け入れ表明のその陰で、前市長が駐屯地用地の選定に介在し、市長の立場で影響力を発揮して見返りに金銭を得ていたのだとしたら、自衛隊配備が巨大利権と化していたことになります。仮に、前市長が駐屯地用地取得に介在することで、国が支払う取得費が不当に高くなっていたとしたら、森友学園事件の再来です。
 これらの事情に照らせば、前市長の収賄容疑での逮捕は、宮古島への自衛隊配備を是とするか非とするかの考えの違いに関係なく、また地域を問わない大きなニュースバリューがあり、日本政府、防衛省をも含めて、その背景の構造的な要因が問われるべき重要なニュースのはずです。
 日経新聞、東京新聞は遅れて13日夕刊に初報を載せました。
 今後、日本本土のマスメディアが事件の推移をどのように報じていくのか、注視します。

【13日付朝刊】
▼朝日新聞
1面「前宮古島市長を逮捕/陸自配備巡り収賄容疑」見出し3段、顔写真
26(第2社会)面「『政権とのパイプ役』/下地前市長 自衛隊配備後押し」見出し3段、宮古島駐屯地の航空写真
▼毎日新聞
24(第2社会)面「前宮古島市長を収賄容疑で逮捕/沖縄・陸自用地で便宜」1段
▼読売新聞
27(第3社会)面「前宮古島市長を収賄容疑で逮捕/陸自用地巡り」1段
▼日経新聞 ※見当たらず
▼産経新聞
25面(社会面)「前宮古島市長ら逮捕/陸自用地で650万円収賄疑い」見出し2段
▼東京新聞 ※見当たらず
【13日夕刊】
▼朝日新聞
社会面「駐屯地の用地取得費8億円/前宮古島市長に贈賄容疑の業者売却」見出し2段
▼日経新聞
社会面「前宮古島市長を逮捕/収賄容疑 陸自用地取得巡り」見出し3段
▼東京新聞
社会面準トップ「前宮古島市長 収賄疑い逮捕/陸自用地選定で便宜」見出し3段、顔写真