このブログの以前の記事で触れたように、国際オリンピック委員会(IOC)のコーツ調整委員長やバッハ会長が、東京五輪開催への強硬姿勢を相次いで見せている中で、信濃毎日新聞(本社長野市)は23日付で「東京五輪・パラ大会 政府は中止を決断せよ」との社説を掲載しました。目にした限りで、日本の新聞の社説・論説で初めて明確に「中止」を主張する内容です。
▼信毎web「〈社説〉東京五輪・パラ大会 政府は中止を決断せよ」=2021年5月23日
https://www.shinmai.co.jp/news/article/CNTS2021052300093
書き出しは以下の通りです。
不安と緊張が覆う祭典を、ことほぐ気にはなれない。
新型コロナウイルスの変異株が広がる。緊急事態宣言は10都道府県に、まん延防止等重点措置も8県に発令されている。
病床が不足し、適切な治療を受けられずに亡くなる人が後を絶たない。医療従事者に過重な負担がかかり、経済的に追い詰められて自ら命を絶つ人がいる。
7月23日の五輪開幕までに、感染状況が落ち着いたとしても、持てる資源は次の波への備えに充てなければならない。
東京五輪・パラリンピックの両大会は中止すべきだ。
以下、「崩壊する医療体制」「開く意義はどこに」「分断生じる恐れも」の小見出し3本を追うだけでも、主張の明確さは見て取れるのではないかと思います。長らく新聞各紙の社説、論説をウオッチしてきて感じるのですが、今後も同様の主張が地方紙で続くかもしれません。
大会の公式スポンサーには全国紙5社と北海道新聞社が名を連ねています。23日付では、そのうちオフィシャルパートナーの毎日新聞、日経新聞、オフィシャルサポーターの北海道新聞がやはり社説で五輪を取り上げました。
公式スポンサーの立場では信濃毎日新聞のように、現段階で中止を求める明快な主張は難しいのでしょうが、それでも開催に強硬な姿勢を見せるIOCや、追従一辺倒のように見える日本政府、組織委員会、東京都に対しては、厳しい内容です。
▼毎日新聞「東京五輪まで2カ月 『安全・安心』の根拠見えぬ」/関係者の行動どう管理/医療圧迫に強まる懸念
https://mainichi.jp/articles/20210523/ddm/005/070/013000c
日本ではワクチン接種が遅れ、変異株の感染が拡大している。緊急事態宣言の対象地域も広がっている状況だ。
だが、主催者側は開催ありきの姿勢で、IOCのジョン・コーツ副会長は緊急事態宣言下でも開催可能と明言した。感染リスクをだれが評価するかもはっきりせず、国民との溝は広がるばかりだ。
「安全・安心」と強調するのであれば、政府や組織委、IOCは専門家の知見に基づく根拠を明確に示さなければならない。具体的な説明がない限り、内外の理解を得ることはできない。
▼日経新聞「五輪への道筋を示す明確な発信を急げ」
※有料記事のためサイトの無料域では読めません
多くのアスリートや国民の不安を払拭すべく「どんな形なら開催できるのか」という喫緊の課題に、納得のいく指針を打ち出すタイムリミットに来ている。問題意識を国際オリンピック委員会(IOC)と共有し、迅速な決定と明確な情報の発信に努めるべきだ。
▼北海道新聞「五輪開催の可否 冷静で合理的な判断を」
https://www.hokkaido-np.co.jp/article/546911?rct=c_editorial
世界の人々が集い、親睦を深める平和の祭典としての意義を失ってもなお開催する理由は何なのか。IOCは説明し、実情を踏まえた可否の判断に臨むべきだろう。
このまま開催に突き進み、感染拡大を招くことは許されまい。
開催都市契約上、IOC側が優位なため、賠償責任が生じるのを恐れて日本側から判断を催促しにくいのではとの見方がある。
だが、その不作為自体が国民の命と健康に対する責任の放棄につながる。関係機関はそう肝に銘じるべきだ。
公式スポンサーという点では、小学館のサイト「NEWSポストセブン」の以下の記事のことも書きとめておきます。
▼「五輪スポンサーに雁首揃える大新聞6社に『開催賛成か』直撃」=2021年5月22日
https://www.news-postseven.com/archives/20210522_1661268.html?DETAIL
「週刊ポスト」の5月24日発売号が、東京大会のスポンサーとなった企業71社を対象にアンケートを実施し、「7月開催に賛成か」「開催の場合は無観客にすべきと思うか」「有観客で開催の場合、社員に会場での観戦を推奨するか」の三つを尋ねました。71社のうち新聞社6社の回答状況をまとめた記事です。読売新聞グループ本社と毎日新聞社は回答を寄せていますが、ほかの4社はいずれも「お答えしない」「回答を控える」との対応だったとのことです。