「誰もがいくらかの犠牲を払わないといけない」~IOC会長も東京五輪開催強行を言明 ※追記 「犠牲」は日本人意図せず

 国際オリンピック委員会(IOC)のコーツ調整委員長(IOC副会長)が、東京五輪は新型コロナウイルス対策の緊急事態宣言が発令されていても開催する、と明言したのに続いて、さらに驚くニュースをデイリースポーツのサイトで目にしました。IOCのバッハ会長の発言です。
 ※デイリースポーツ「バッハ会長も五輪予定通り開催強調『最後のカウントダウン』コーツ氏発言を“後押し”」=2021年5月22日
 https://www.daily.co.jp/general/2021/05/22/0014350292.shtml?

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 国際オリンピック委員会(IOC)のトーマス・バッハ会長は22日、国際ホッケー連盟のオンライン総会での声明で、7月23日に開幕する東京五輪について、予定通り開催されると宣言した。「東京がようやく間近に迫った今、最後のカウントダウンが始まった。この困難な時期に、私たちはリカバリー、団結、多様性について、強いメッセージを送る必要があります。東京はトンネルの終わりに光を放つだろう」と主張し、「五輪の夢を実現するために誰もがいくらかの犠牲を払わないといけない。アスリートは間違いなく彼らの五輪の夢を実現することができます」と、語った。

 「五輪の夢を実現するために誰もがいくらかの犠牲を払わないといけない」。何度か読み返しました。いったいなぜ、IOCが誰もに犠牲を強いることができる、というのか。なぜ五輪開催のために、わたしが犠牲を払わなければならないのか。犠牲とは何なのか―。よく分かりません。
 「緊急事態発言下でも東京大会は開催する」とのコーツ発言に対しては、一つ前の記事で①緊急事態宣言は法に基づき日本政府が発令している②宣言解除の見込みがないまま五輪開幕日を迎えることが確実になれば、日本政府として五輪開催の是非の判断を示す必要がある③その判断は開催、中止のいずれにしても、日本国の主権にかかわる―等を挙げ、開催国の主権よりもIOCの判断、意向が優先するのか、との疑念を抱いていることを書きました。

news-worker.hatenablog.com

 バッハ会長は今年3月、海外からの一般観客受け入れの断念が決まった際にも、声明の中で「世界中の熱狂的なファン、選手の家族や友人と落胆の気持ちは一緒だが安全が第一。IOCの最優先は全ての人にとって安全な大会を開催することだ」「(新型コロナウイルス禍で)誰もが犠牲を払わないといけない」(共同通信)と、「犠牲」という表現を使っています。この際には、海外観客受け入れ断念を「犠牲」と呼んだようです。
 今回の「犠牲」発言の文脈は必ずしも明確ではないのですが、「強いメッセージを送る必要がある」とも述べています。いずれにしても、緊急事態宣言が発令されていようがいまいが、何があろうと東京五輪は開催する、との強固なメッセージであることは間違いがないようです。だれもが「犠牲」を強いられる、というのに、日本政府や大会組織委員会、東京都はこの発言の真意をただすことなく放置するのでしょうか。わたしは到底理解も容認もできません。

 いったい五輪とは何なのでしょうか。日本オリンピック委員会(JOC)理事の山口香さんが、共同通信のインタビューの中で「応援したかった人が大勢いたにもかかわらず、あえて敵をつくるやり方をしてきたことが残念だ」と述べていたことをあらためて思い起こします。
 https://news-worker.hatenablog.com/entry/2021/05/20/083724

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 続けざまのIOCトップレベルの発言を、東京発行の新聞各紙(朝日、毎日、読売、日経、産経、東京)はどのように伝えたのか、記録しておきます。コーツ発言は5月22日付朝刊で、毎日新聞が1面トップ。他の各紙もそれなりに目立つ扱いですが、発言の事実だけです。わたしが疑念を抱いている日本国の主権とのかかわりなどに触れた記事はありません。毎日新聞と産経新聞が、政府の基本的対処方針分科会メンバーの舘田一博・東邦大教授(感染症学)が「東京で緊急事態宣言が出されている状況の中で五輪ができるとは思わないし、やってはいけない。それはコンセンサスだ」と述べていることを紹介しているのが目を引きました。翌23日付の朝刊では、毎日新聞が総合面の大型のサイド記事であらためて取り上げているのが目立ちました。
 少なからず驚いたのは、バッハ会長の「犠牲」発言は記事が見当たらないことです。伝えるに足りる重要なニュースだと思うのですが。
 コーツ発言は日本のマスメディアが直接質問するオンラインの記者会見でのことでした。バッハ発言は国際ホッケー連盟のオンライン総会での声明ということで、カバーしていたメディアが少なかったのでしょうか。6紙のうち、東京新聞以外の5紙は東京大会の公式スポンサーに名を連ねています(ほかに北海道新聞も)。

■5月22日付朝刊
・朝日新聞
 1面「IOC『宣言下 五輪可能』/組織委、医療態勢『8割確保』」
・毎日新聞
 1面トップ「『五輪 緊急事態でも開催』/IOC副会長 専門家見解に反論」
・読売新聞
 2面「『五輪 緊急事態下でも開催』/IOC・コーツ氏『安全な大会できる』」
・日経新聞
 2面「緊急事態下も五輪可能/IOC調整委員長が明言」
・産経新聞
 1面「菅政権 五輪照準、押さえこみ/IOC、宣言下でも開催意向」
  ※緊急事態宣言と菅政権の思惑に絡めたサイド記事の中でコーツ発言に言及
・東京新聞
 27面(社会)「『緊急事態でも五輪開催』/IOCコーツ氏 関係者入国7.8万人」

■5月23日付朝刊
・朝日新聞
 15面(スポーツ)「『みんなが納得の形、議論を』/競泳・入江、IOC副会長発言に」
 ※競泳日本代表の入江陵介「(開催、中止)どちらの意見も聞いて、しっかりと議論をしてほしい」「なにがなんでもやりたい、という気持ちは正直、ない」
・毎日新聞
 3面・クローズアップ「五輪 確証なき安全/IOC幹部発言 再び物議/開幕まで2カ月」
 ※コーツ発言について「今夏の開催に懐疑的な国内世論の火に油を注ぐことになった」「大会組織委員会幹部は『余計な一言だった』とつぶやいた」

 

【追記】2021年5月24日8時45分

 バッハ会長の「犠牲」発言を共同通信が24日朝、報じました。インドのPTI通信の報道をキャリーしています。「国民感情に配慮を欠く発言として反発を招きそうだ」としています。
 ※共同通信「五輪のため『犠牲を』バッハ会長 反発必至」=2021年5月24日

 https://this.kiji.is/769340987563622400?c=39546741839462401

this.kiji.is

 

【追記2】2021年5月24日22時
 バッハ会長の「犠牲」発言について、IOCの広報担当者は「日本国民にではなく、五輪関係者、五輪運動に向けた発言」と説明したとのことです。共同通信が24日夜、報じました。
 ※共同通信「『犠牲』は日本人意図せず IOC、会長発言で説明」=2021年5月24日
 https://this.kiji.is/769524513750188032?c

this.kiji.is

 IOCが公開したスピーチの詳細によると、バッハ氏は国際ホッケー連盟のオンライン総会で「最優先事項は選手や参加者、開催国日本の皆さん、全ての人にとって安全で安心な五輪を開催することだ」と強調。その上で「五輪コミュニティーの全員が犠牲を払わなければならない」などと語った。

 ブログ記事の本文でも触れていますが、バッハ会長は以前から「犠牲(sacrifices)」という言葉を使っているようです。過去の文脈を検証して、その対象は選手や大会関係者であるとする論考を目にしました。
 ※「東京五輪のバッハ会長『誰もが犠牲』発言は翻訳ミスでは? 同じ会議で『全員の安全と安心は最優先』とも」
 https://news.yahoo.co.jp/byline/shinoharashuji/20210524-00239524/

news.yahoo.co.jp

 「犠牲」の文脈は、五輪の夢を実現させるために、選手や大会関係者は従来とは異なる開催方式となることを甘受し、受け入れなければならない、といったニュアンスであるということでしょうか。
 それでも、「最後のカウントダウンが始まった」「東京はトンネルの終わりに光を放つだろう」などのバッハ会長の発言は、やはり何があっても東京大会は中止しないとの強固な意思を示したものと受け取るほかありません。
 大会中止を決める権限は契約上、IOCにしかないようですが、新型コロナウイルス対応の緊急事態宣言が発令されている状況では、日本政府は外国人の入国を認めない非常の措置を取ることで、五輪の開催を阻むことも可能なはずです。やはり緊急事態宣言下での五輪開催の可否は、日本国の主権にかかわることです。IOCの姿勢を乱暴と感じることにわたし自身、変わりはありません。