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組織ジャーナリズムに身を置き40年余

「『ノーモア戦争』の声を」(沖縄タイムス)、「『前夜』を拒絶する日に」(琉球新報)~沖縄慰霊の日の地元紙社説

 参院選公示の翌日、6月23日は沖縄の慰霊の日でした。第二次世界大戦末期の沖縄戦で、日本軍の組織的戦闘が終わったとされる日です。ロシアによるウクライナ侵攻のさなか、23日付の沖縄タイムス、琉球新報の社説は、新たな戦争への危惧と、歴史から学ぼうとしない日本への不信を突き付けています。

 5月15日には日本復帰から50年を迎えましたが、基地の過重な集中は解消されず、むしろ台湾有事をにらんだ最前線として自衛隊の展開も進んでいます。そうした中で、生活の場が戦場になっているウクライナの人々の辛酸は、沖縄戦を経験し、あるいはその経験を語り継ぐ沖縄の人たちにとっては他人事ではないのだと思います。そして、沖縄戦で軍は住民を守らなかった歴史の事実があるからこそ、「台湾有事」の想定に軍事力の増強で対応しようとする日本に、いざとなれば再び沖縄を切り捨てようとする危うさを見て取っているのだと思います。その視線は日本政府だけでなく、政府を成り立たせている日本国の主権者一人ひとりに向けられていることを、あらためて自覚しておこうと思います。

 両紙の社説の一部をそれぞれ書きとめておきます。

■沖縄タイムス「[慰霊の日に]『ノーモア戦争』の声を」
https://www.okinawatimes.co.jp/articles/-/979509

 私たちはいま、過去・現在・未来にまたがる三つの戦争に直面している。
 77年前の沖縄戦と、現在進行中のウクライナ侵攻と、米中対立を背景にした台湾有事という名の未来の戦争の三つである。
 このような事態はこれまでなかった。現在を「戦前」と呼ぶ人もいる。
 人は「平和」という抽象的な言葉よりも「安全」という言葉に敏感だ。
 「まことに『安全の脅威』ほど平和を掘り崩すキャンペーンに使われやすいものはない」と著名な精神医学者の中井久夫さんは指摘する(「戦争と平和 ある観察」)。
 ロシアもそうだった。「安全の脅威」を前面に押し立てて戦争準備を始め、侵攻を開始したのである。
 南西諸島の軍事要塞(ようさい)化や軍事費の増大、敵基地攻撃能力の保有などが、矢継ぎ早に打ち出されているのも「安全の脅威」を根拠にしている。
 空気によって流され、気が付いたら後戻りのできない地点にいた、というのが一番怖い。
 戦争が引き起こされるときは、言論が統制され、戦争を正当化するプロパガンダが繰り返されることが多い。
 二度と同じ過ちを繰り返してはならない。
 緊張をつくり出すのではなく、緊張を緩和する取り組みが必要だ。

■琉球新報「慰霊の日 『前夜』を拒絶する日に」
https://ryukyushimpo.jp/editorial/entry-1537645.html

 1944年の初頭まで沖縄には本格的な軍事施設はなかった。ワシントン軍縮条約によって、沖縄本島および離島沿岸部の要塞基地計画が廃止されたからだ。多国間による外交努力によって軍縮を実現させ、沖縄が戦場になる危険性が回避されたわけだ。
 やがて日本はこの条約を破棄して沖縄と台湾方面の軍備強化に乗り出す。44年3月、沖縄に第32軍を創設した。沖縄戦を目前にした同年12月、長勇参謀長は県に対し、軍は作戦に従い戦をするが、島民は邪魔なので、全部山岳地方(北部)に退去させ自活するように伝えた。
 軍の方針について泉守紀知事が県幹部にこう漏らした。「中央政府では、日本の本土に比べたら沖縄など小の虫である。大の虫のために小の虫は殺すのが原則だ。だから今、どうすればいいのか。私の悩みはここにある」
 (中略)
安倍晋三元首相は昨年、「台湾有事は日本有事」と述べた。ロシアのウクライナ侵攻後は核共有議論を提起した。岸田文雄首相も台湾を念頭に「ウクライナは明日の東アジアかもしれない」と発言し、防衛費大幅増を目指す。
 台湾や尖閣諸島で不測の事態が発生した場合、沖縄が戦場になる可能性が高まる。しかし、島しょ県である沖縄では、有事の際の島外避難に大量の航空機や船舶が必要で、全住民の避難は不可能だ。
 なぜ日本は歴史から学ばないのか。私たちは、再び国家にとって「小の虫」とされることを拒否する。