ニュース・ワーカー2

組織ジャーナリズムに身を置き40年余

参院選の争点は「物価高」「安保」「改憲」、根底で問われるのは「非戦の国是」

 参議院議員選挙が6月22日、公示されました。
 折しも、2月24日に始まったロシアのウクライナ侵攻は終わりが見えず、ロシアへの経済制裁は原油の高騰、物価高となって日本の社会にも跳ね返ってきています。ロシアは日本の隣国でもあり、不安を感じる人は少なくないだろうことは想像に難くありません。繰り返される北朝鮮のミサイル実験や、中国が台湾へ武力侵攻するのではないかとの臆測が流れていることも相まって、自民党からは軍事費予算の倍増や敵基地攻撃能力の保有などの軍拡路線の主張が声高に聞こえます。
 そういうさなかで迎えた参院選です。試みに東京発行の新聞各紙の23日付朝刊と前日22日夕刊の1面の見出しからキーワードを拾ってみました。

■23日付朝刊
朝日新聞「物価高・円安・安保」
毎日新聞「物価高・安全保障」「改憲」
読売新聞「物価高・安保」
日経新聞「物価高・安保」
産経新聞「安保・物価高」「改憲」
東京新聞「物価高」

 

■22日夕刊 ※産経新聞は夕刊発行なし
朝日新聞「物価高・コロナ対策」
毎日新聞「物価高・安保」「改憲」
読売新聞「物価高・安保」
日経新聞「物価高・安保」
東京新聞「物価高」

 

 新聞各紙がこの参院選の争点と位置づけたのは第一に「物価高」、次いで「安全保障」「憲法改正」ということです。
 物価高の大元はロシアのウクライナ侵攻です。だから、物価高をこの選挙の争点として考えることは、この戦争をどう考えるのかということと無関係ではありません。安全保障については、この戦争との関係は一層明白です。報道で「防衛費」と呼ぶ軍事費の倍増も、政府や与党が「反撃能力」と呼び方を変えた敵基地攻撃能力も、ロシアのウクライナ侵攻後にいっそう声高に叫ばれるようになった観があります。ロシアに不安をかきたてられたのか、あるいはこの機に乗じてと考えてのことなのか。いずれにしても、熟慮の末に出てきたものではありません。安倍晋三元首相が言い始めた米軍の核兵器の共有などは、思いつきのレベルでしかないでしょう。「憲法改正」も、ここにきて岸田文雄首相が強い意気込みを見せています。自民党案の内容は「改憲のための改憲」であって、この時期に無理を重ねて急がなければいけないようなものではありません。
 物価高にしても、安全保障や憲法改正にしても、ロシアのウクライナ侵攻と直接的、間接的に結びついています。そうした視点で見ていけば、根底にあるのは、非戦と戦力不保持を国是と定める憲法9条をどうするのか、という問いであることに気付きます。明示され、可視化された争点にはなっていないかもしれませんが、この選挙に際して、日本国の主権者、有権者として考えなければならないのは、憲法9条をどうするのか、との問いにどう答えるか、だろうと思います。ロシアのウクライナ侵攻や、北朝鮮、中国の軍拡はわたしも不安です。だからと言って、熟慮、熟議を欠いたまま一時のムードで憲法をいじり、非戦の国是を変えてしまうようなことは避けねばなりません。
 憲法9条で国を守れるのか、との疑問形の言説があります。では軍事力で国を守れるのか。守れなかった歴史の事実が日本には厳然とあります。つい77年前のことです。きょう6月23日は沖縄慰霊の日。沖縄の地上戦で、どれだけの住民が犠牲になったか。軍は住民を守りませんでした。そうした歴史の事実から目をそらすべきではありません。
 この参院選では、そういうことも考えながら投票先を選ぶようにしたいと思います。そして、そうした有権者に対して幅広く判断材料を提供することも、マスメディアの役割のはずです。各党の主張をそのまま報じるだけで、ことが足りるわけではないだろうと思います。

 

※追記 2022年6月24日0時40分

 沖縄の地元紙の沖縄タイムスと琉球新報は6月23日付で、新たな戦争を危惧し、歴史に学ばない日本に不信を突き付ける社説を、それぞれ掲載しています。新しい記事をアップしました。

news-worker.hatenablog.com