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組織ジャーナリズムに身を置き40年余

元検事正の性暴力 被害女性が明らかにした情報漏洩やセカンドレイプ~検察の腐敗を表現する言葉が見つからない

 検察という組織の腐敗ぶりは想像以上です。腐臭が漂っています。
 酒に酔った状態の部下の女性に性的暴行をしたとして、準強制性交の罪に問われた北川健太郎・元大阪地検検事正の初公判が10月25日、大阪地裁で開かれました。元検事正は「争うことはしません」と起訴内容を認め、謝罪の言葉を口にしたと報じられています。
 法廷では犯行当時の状況などが明らかにされました。マスメディアで報じられている範囲でも、驚くことばかりです。泥酔状態の女性に性的暴行をし、意識が戻った女性がやめるよう伝えても聞き入れず「これでおまえも俺の女だ」と口にしたり、事件後は「事件が公になれば自死する。検察庁に対し強烈な批判が出て仕事にならなくなる」「時効が来るまで食事をごちそうする」などと口止めを図ったりしたとのことです。
 閉廷後に被害者の女性は、自身が現職の検事であることを明かして記者会見しました。そこで語った内容を、ライターの小川たまかさんが詳細に書きとめています。

※「『私は堂々としていたい。検事の仕事もしたい。けれど……』女性が記者会見で語る 大阪地検元トップ初公判」=2024年10月25日
 https://news.yahoo.co.jp/expert/articles/42ce3b79bfe585447848853d6d13d1131219ffa7

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 改めて衝撃を受けたのは、被害者を脅し、口止めをした際、「公にならないなら喜んで死ぬ」とまで言っていた元検事正の実際の行動です。罪を隠して円満に退職。弁護士になった後も検察に大きな影響力を持ち続けたとのことです。

 まるで、自分の犯した罪などなかったかのような、傷つけた被害者の存在など忘れてしまったかのような振る舞いで、被害感情を逆撫でし、必死に苦しみに蓋をして検事の仕事に没頭し、そうやってなんとか生きていこうとしていた私を踏み躙ってきました。

 (中略)私自身を取り戻すためには、私のアイデンティティを守ることしかない、被告人を適切に処罰することしかない。被告人に真に自分の罪と向き合わせ、同じような被害者を二度と生み出してはいけないと思い、覚悟を決め、被告人の処罰を求めました。

 女性の言葉に胸を締め付けられるような思いがします。
 しかし、告発の後に、検察組織の中で何が起きたか。女性の証言にさらに大きな衝撃を受けました。

 ところが、今回の事件の関係者である、女性副検事が、内定捜査中の時点で、被告人側に捜査情報を漏洩し、被告人が当初弁解していた内容の、事実と相違する供述をしていたことがわかりました。
 さらにその女性副検事は、検察庁職員やOBに対して、被害者が私であることを言った上で、私が事件当時、飲酒酩酊のため抗拒不能の状態になかったので、性交に同意していたと思う、PTSDの症状も詐病ではないか、金目当ての虚偽告訴ではないかという趣旨の、私を侮辱し、誹謗中傷する虚偽の内容を故意に吹聴していたことがわかりました。
 さらにその嘘は、検察庁内に広く伝わり、私が信頼していた上級庁の検事までもが、証拠関係も知らないのに、被害者を誹謗中傷し、被告人を庇うような発言をしていたこともわかりました。
 性被害を受け、苦しんでいるにもかかわらず、検察内からこのような被害を受け、さらに傷つけられてしまいました。

 違法な情報漏洩と、組織内のセカンドレイプ。舞台は検察庁。日本の刑事司法の要の組織です。この腐敗ぶりをどう表現すればいいのか。本当に言葉が見つかりません。
 元検事正の犯罪は、この組織の腐敗が背景にあってのことであることを疑う必要があると思います。職責に照らせば、検察官は一般の市民よりも高い規範意識と倫理観を備えていなければなりません。現場で検事を束ねる検事正ともなれば、さらに厳しく自らを律していなければならないはずです。元検事正の犯罪は個人の単なる非行ではなく、さながら検察組織の腐敗ともたれ合ってのことだったと考えるほかないように感じます。

 昨年来、検察が危機的状況にあることに、このブログで再三、触れてきました。密室の取り調べで、一般人、民間人に対しては傲慢で強圧的に振る舞う一方で、自民党派閥パーティー券の裏金事件では、与党政治家に大甘の姿勢。少しさかのぼれば、森友学園への国有地払い下げを巡って、財務省の公文書の改ざんの刑事責任を不問に付す、といったこともありました。安倍晋三元首相の「桜を見る会」の費用負担を巡る政治資金規正法違反事件でも、徹底的に捜査を尽くしたか疑問でした。相手によって検察の「人権」感覚は異なっていると考えざるを得ません。
 極め付けは、袴田巌さんの再審無罪の確定に際して畝本直美検事総長が公表した談話です。なおも「犯人は袴田さん」と公然と後ろ指を差す内容でした。これらのことと、元検事正の性犯罪と検察内でのセカンドレイプは、根がつながっていると感じます。「人権」を尊重する意識が恐ろしいほどに稀薄なことです。
 深刻なのは、組織の立て直しを主導しなければいけないはずの検事総長に、その意識も見識もうかがえないことです。
 公権力がおかしなことになっているときに、いちはやくそのことを察知し、報じることを通じて是正につなげていくことは、マスメディアの組織ジャーナリズムの重要な機能です。「公権力の監視」です。
 性被害を受けた検事の女性が記者会見で公に声を上げると決めるまで、心中はいかばかりだったかと思います。マスメディアはその声を報じればこと足れり、ではないはずです。

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