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組織ジャーナリズムに身を置き40年余

百田尚樹・日本保守党代表「子宮摘出」発言の危うさ~「社会構造を変える」発想に潜むもの

 日本保守党の百田尚樹代表が、11月8日に配信したユーチューブ上の番組で、同党の有本香事務総長らと少子化対策を話した際、若い女性に子どもを産んでもらうためには社会構造を変えるしかないと主張し、「女性は18歳から大学に行かさない」「25歳を超えて独身の場合、生涯結婚できない法律に」「30超えたら、子宮を摘出する、とか」などと発言していたことが報じられました。「これはええ言うてるんちゃうで」「小説家のSFと考えてください」と断ってはいましたが、SNSなどで批判が相次ぎました。
 日本保守党は10月の衆院選で3議席を獲得しました。政党要件を満たし、政党交付金も受け取れます。その代表の地位にいる人物の発言です。一市民の発言とは意味合いが異なってきます。思うところを書きとめておきます。

 11月9日夜になって百田代表はX(旧ツイッター)に以下の「●謝罪ポスト●」と銘打った文章を投稿しました。
https://x.com/hyakutanaoki/status/1855245379547308465

⚫︎謝罪ポスト⚫︎

「やってはいけないこと」
「あくまでSF」
という前置きをくどいくらい言った上での「ディストピア的喩え」ではありましたが、
私の表現のドギツさは否めないものがありました。
不快に思われた人に謝罪します。

 有本事務総長はこのポストを引用して、「百田尚樹からの謝罪コメントです。叩いていた皆さんも、せっかくですから、#あさ9 で原発言をご視聴ください」と投稿していました。
 https://x.com/arimoto_kaori/status/1855246635401621949

 せっかくですので、元の発言を聞いてみました。
 https://www.youtube.com/watch?v=8znKE_Sx0HI&t=5283s
 ※少子化をめぐるやり取りは1時間9分ぐらいから、「子宮摘出」などの一連の発言は1時間23分あたりからです

 わたしなりの受け止めですが、話の流れは以下の通りです。
 出生率が低下
→若い女性に産んでもらわなければならない
→どうすれば産んでもらえるか
→百田代表「社会構造を変えなければならない」
→「子宮摘出」など一連の発言へ
 「社会構造」を言いながら、「若い女性」に限定して、どうにかしようとの文脈であることに、かつて大きな批判が巻き起こった「女性は産む機械」との元厚労相の発言を想起します。
 その上で、百田代表の発言の大元にあると感じるのは、「社会構造を変える」=「特定の層に強制的な措置を取る」との発想です。危うさを感じます。集団の利益のためには、特定の個人の人権を制限することも必要、との発想に容易に結びつくと感じるからです。その集団が「国家」であれば、国家の利益、国益のためには個人の犠牲もいとわない、との思想に行きつきかねません。
 百田代表の「謝罪ポスト」は、自分の発言の表現のドギツさを謝罪しているように読めますが、本質はそこではないのではないか。表現のドギツさといった表面的なことにとどまらず、個人よりも集団を優先という発想がうかがえることに、危険性を感じ取っている人が少なくないと感じます。
 このブログの一つ前の記事にも書いたことですが、民主主義は民主主義を否定する意見であっても保護しなければなりません。「自己矛盾」と言っていいと思います。百田代表がどんな思想を持つことも、それを表明することも、それ自体は原理的に思想信条や内心の自由、表現の自由の範囲内です。政治勢力、公党の主張も同様です。問題は、主権者一人一人の判断です。 

news-worker.hatenablog.com

 この百田代表の発言をマスメディアの報道で最初に目にしたのは朝日新聞のデジタル記事でした。その後、共同通信、読売新聞もデジタル版に記事をアップロード。共同通信の配信記事は毎日新聞や日経新聞、地方紙各紙のデジタル版にも載っています。日本保守党は公費から政党交付金の支出を受けることができる公党です。その代表の地位にある人物の発言が社会的に批判を受けていること、そのことに対しての釈明の内容は、社会で広く共有されていい情報です。

■朝日新聞「日本保守党・百田尚樹氏『30超えたら子宮摘出』『SFとして』発言」
=2024年11月9日 19時41分(2024年11月9日 23時51分更新)
 https://digital.asahi.com/articles/ASSC933HNSC9OXIE00PM.html

■共同通信「百田氏『30超えたら子宮摘出』 保守党代表、SFとして発言」
=2024年11月09日 22時49分
 https://www.47news.jp/11746286.html

■読売新聞「日本保守党・百田代表、少子化対策に『30歳超えたら子宮を摘出』…ユーチューブ番組で発言」
=2024年11月10日 0時31分
 https://www.yomiuri.co.jp/politics/20241110-OYT1T50000/

 朝日新聞の記事は、百田代表の「社会構造を変えるしかない」との発言も記事で紹介しています。共同通信、読売新聞の記事には見当たりません。
 全国紙では、産経新聞のデジタル版には記事が見当たりませんでした。NHKも取り上げていないようです。