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特定の記者、媒体の選別と排除が可能な参政党「記者会見」登録制~「沈黙」は「承認」と受け取られる

 参政党の「記者会見」が、特定の記者、特定の媒体を事実上、選別し排除できる仕組みになっていることは、このブログで触れてきました。会見への参加問題以前に、記者を選別することなく質問を受ける、という姿勢を欠いているのであれば、「記者会見」と呼べる場ではないのではないか、ということも書いてきました。
 7月22日の「記者会見」から神奈川新聞の石橋学記者を排除したことについて、参政党は同24日に公式サイトで公表した見解の中で、以下のようなことを主張しています。

 なお、会見の内容はすべて公式YouTubeチャンネルでノーカット配信しており、特定の記者や報道機関を排除する意図はありません。神奈川新聞社からは、「知る権利をないがしろにしている」とのご指摘を頂戴しておりますが、会見はすべて公開されており、報道機関や記者を問わず等しく視聴できる環境を整えております。したがって、そのようなご指摘は当たらないと考えております。

▽「神奈川新聞記者の定例会見への参加制限について」
https://sanseito.jp/news/n4158/

 記者会見とは、政党が見解を一方的に表明するだけではなく、取材者からの質問に答えることで成り立ちます。動画を見ればやり取りは分かるのだから排除ではない、との主張のようですが、そういう場はそもそも「記者会見」ではなく、一方的な政治宣伝の場です。
 8月1日の「記者会見」には石橋記者は参加しましたが、神谷宗幣代表の主張に虚偽があることを問おうとしたところで、「1人1問のルール」をかざす党側に発言を封じられました。事実上の排除であり、「知る権利」をないがしろにする行為です。
 留意が必要なのは、参政党は国会議員18人が所属する公党、国政政党だということです。民間団体であれば、誰に見解を伝えるか、質問を受けるか、相手を選ぶこともあるかもしれません。公党である参政党はそういう団体ではないはずだ、ということです。

 その参政党の記者会見を巡って、新たな動きが報じられました。
 報道各社やフリーランスのジャーナリストらに対し、神谷代表らの記者会見に出席する場合は、事前に登録するよう求める通知を8月6日に送ったとのことです。
 以下は朝日新聞の記事です。

 参政党は6日、神谷宗幣代表の記者会見などに出席する場合、事前に記者登録を求める通知を報道機関に送った。同党が関係する会見やイベントで「妨害や迷惑行為」をした記者や報道機関は、「取材をお断りする場合がある」と明記。「承諾」の意思表示をしなければ登録できない仕組みだ。専門家は「報道の恣意(しい)的な選別につながりかねない」と指摘している。
 通知には、具体的にどのような行為が「妨害」や「迷惑行為」に該当するか明記されていない。登録フォームには、所属会社や部署、氏名、電話番号などの記入を求めているほか、フリーランスの記者には、過去の掲載記事のURLの入力を必須とし、運転免許証やパスポートなど顔写真付きの身分証明書の添付を求めている。

▽朝日新聞「参政、会見出席は『登録』要請、『断る場合も』 識者『選別』を懸念」
 2025年8月7日 20時15分
 https://digital.asahi.com/articles/AST8734K9T87UTFK001M.html

digital.asahi.com

 朝日新聞は「不都合なメディアを排除する口実になる」との見出しで、専修大の山田健太教授の談話も載せています。
 読売新聞もやはり、「国民の知る」が阻害される恐れがあることを指摘する識者のコメントとともに、比較的長文の記事を載せています。

▽読売新聞オンライン「参政党記者会見の事前登録、識者『国民の知る権利が脅かされる恐れ』…『断る場合ある』承諾が条件」
 2025/08/08 05:00
 https://www.yomiuri.co.jp/politics/20250807-OYT1T50246/

www.yomiuri.co.jp

 紙面では、朝日、読売両紙とも8月8日付朝刊の社会面に掲載しています。
 この登録制について参政党は、神奈川新聞の石橋記者の質問を封じ込んだ8月1日の「記者会見」でも予告していました。まさにその場で石橋記者に参政党がどう対応したかを見ていれば、この「登録」が何を意味するのかは、8月1日の当日のうちに容易に分かりました。ただちに新聞社、通信社、放送局各社から抗議があってもよかったのではないかと思います。目立った動きもないまま、6日に参政党は各社に通知を送りました。石橋記者に対してやったことと同じことを、対象を広げて各社にもやろうとしている、ということではないのか、と感じます。
 注意が必要だと思うのは、「沈黙」は「承認」と受け取られてしまうことです。朝日新聞や読売新聞は批判的な記事は掲載していますが、参政党に直接抗議したのかどうかは分かりません。他の新聞社、通信社、放送局も同様です。参政党が民間の任意団体ではない、国会議員18人が所属し、政党交付金の交付対象であることなどに鑑みれば、個々の新聞社、通信社、放送局の対応にとどまらず、報道界を挙げての抗議があってもいいと思います。
 7月22日に神奈川新聞の石橋記者が排除されたことに対して、沖縄タイムスや琉球新報がいち早く批判的に報じ、いくつかの全国紙や通信社も続きました。新聞労連は7月25日に抗議の特別決議を定期大会で採択しました。しかし参政党はなおも「選別と排除」の仕組みを広げようとしているように見えます。ここで報道界が沈黙していれば、参政党への「承認」「同意」に等しいと受け取られることを危惧します。新聞各社やNHK、民放キー局の経営者、編集権者でつくっている新聞協会も、今からでも見解を表明していいのではないかと思います。
 新聞社、通信社、放送局のそれぞれの組織内でも、まず編集権者、編集局長が、参政党の恣意的な「記者会見」の運営方針にどう対応するのか、揺るぎのない見解を示すべきだろうと思います。それが、現場の記者たちの背中を支え、一歩前へと後押しすることになります。

※参考過去記事

news-worker.hatenablog.com

news-worker.hatenablog.com

news-worker.hatenablog.com

【写真】8月1日の「記者会見」の模様を伝える神奈川新聞デジタル版の記事