ニュース・ワーカー2

組織ジャーナリズムに身を置き40年余

正確な情報の共有は「感情の氾濫」を止める~「文章作法」で気付かされた視点

 東京近郊の大学で非常勤講師を務めていた「文章作法」の授業が先日、終了しました。2年間の非常勤講師の任期も3月で終了します。
 最後の授業で講評した課題は小論文。メディアやコミュニケーションに関心がある学生を対象にした講座ですので、テーマは「ニュースを社会で共有することの意義」と指定しました。「ニュース」は、新聞やテレビなどのマスメディアの報道を指すことが前提です。元日に能登半島地震が発生したこともあってか、提出作は災害時の情報流通に触れたものが目立ちました。文章に、履修生それぞれの個性が出ていました。
 ある学生は「ニュースは人の感情の氾濫を止めるもの」と書きました。論旨は以下の通りです。
 SNSでは時に、真偽不明の情報がむき出しの感情とともに拡散される。一つの意見が強すぎると、別の意見が出にくくなり、多様な意見に触れることが難しくなる。正確な情報が流れることで、社会の混乱を防ぎ、個々人の感情が暴走しないようにする機能がある―。
 「感情の氾濫を止める」という表現に感心しました。正確な情報を発信することは、組織ジャーナリズムの仕事の上では自明の、基本中の基本のことです。その効果をこんな風に言葉にして表現してみる、ということはわたし自身、あまり考えたことがありませんでした。「なるほどなあ」と思いました。15年以上も前のことになりますが、明治学院大で初めて非常勤講師を務めた際、奨めてくれた先輩から「『教える』は『学ぶ』に通じる」との言葉をもらいました。まさに、あまり考えていなかった視点を履修生に気付かせてもらったように思います。
 正確さということでは、新聞記事やテレビのニュースの正確さは、トレーニングを受けた記者が取材し、経験豊富なデスクや編集者がチェックを重ねていればこそのことです。別の学生は、ニュースの受け手として、「真偽を見極める力が必要になる」と書き、そのためにメディアの仕組みを学び、メディア・リテラシーを身に付けることの重要性に触れました。授業では折に触れ、マスメディアの記者がどのように経験を積み、育っていくかも話しました。きちんと受け止めてくれていることが分かりました。
 明るい前向きな話題、ポジティブなニュースが必要だと強調する内容の提出作もありました。災害や犯罪、事故、さらには戦争といったニュースばかりに接していると、確かに精神的につらくなってしまうことがあります。この学生は、災害報道の合間にも、藤井聡太八冠の王将戦や、大リーグ大谷翔平選手から日本の学校へのグローブの寄贈などのニュースが流れことを挙げ「この不安定な今だからこそ『まだ日本は大丈夫だ。』と視聴者に希望を抱かせるニュースが必要」だと書きました。
 英国のロイタージャーナリズム研究所が公表した「デジタルニュースリポート」で、ニュースに触れることを意図的に避けようとする人たちが世界的に増加しているとの分析が示され、メディア関係者の間で話題になったのは2022年でした。「選択的ニュース回避」(selective News Avoidance)と呼ばれます。理由の上位には「気分に悪影響がある」もありました。ニュース離れが進み、社会で情報が共有されなくなると、だれにも関係がある問題なのに社会的な議論が成り立たなくなるおそれがあります。そうなれば民主主義の危機です。この学生の論考には「なるほど」と感じ入るところがありました。

※参考過去記事

news-worker.hatenablog.com 何人かの学生に共通していたのは「ニュースに接し、情報を共有することで、自分の行動に選択肢が増える」ということでした。顕著な例は災害時です。何が起きているかを知ることで、呼びかけに応じて具体的な支援に動くことができます。知らなければ、その選択肢はありません。
 全体として、履修生たちはマスメディアが組織的に取材、報道を展開することの意義自体については、ひとまず肯定的にとらえてくれたようです。新聞についても、それがどういうメディアで、どんな風に日々作られ社会に届けられているか、そこにどれだけ多くの人がかかわっているか、などを丁寧に説明すれば、関心が高まるということも、授業を通じて実感しました。実際には、ジャニーズ事務所元社長の性加害に対する沈黙の問題など、新聞が総括しきれていない課題も少なくありません。それらのいくつかは、授業でも触れてきました。そうした問題をどう考えるのか、引き続き考察を深めていってほしいと思います。

 最後の15分は、今学期の授業の総まとめを話しました。文章を書く要諦、エッセンスをあらためて説明。文章を書くスキルの上達に終わりはないことも説明し、引き続き文章力を磨くよう励ましました。いい文章を書くには、いい文章にふだんから接することも大事で、本を読むこと、新聞も生ニュースの欄だけでなく、論評や寄稿などの長い記事もじっくり読むことを奨めました。
 最後に、次のようなことを話しました。
「皆さんの中にはマスメディアや組織ジャーナリズムに関心が深い方もいると思う。この授業では新聞を中心に組織ジャーナリズムについても話をしてきた。将来、組織ジャーナリズムを仕事にしよう、と思う方はぜひがんばってほしい。そうでない方には、違う仕事に就いても、組織ジャーナリズムのよき理解者、よき情報の受け手であってほしい。わたしからのお願いです」

 総まとめは、わたしにとっては、自身の2年間の試行錯誤の総括でした。以前から就職活動の学生の作文を指導する機会はありましたが、系統だって説明できるようなメソッドは正直なところ持っていませんでした。自分なりにあれやこれや、先人の「文章読本」を読み漁ったりもしながら、何とか自分なりの指導法を組み立ててきました。1年目は悪戦苦闘、2年目になって、何とかその指導法は形になり、効果も確認できたように思います。
 そんなこともあって、履修生たちがこの後、どんな道を進むのか、気になります。将来、どんな仕事に就くにせよ、文章がきちんと書けることは身を助けます。彼ら、彼女らの今後の健闘を期待しています。

 春の新緑、秋の黄葉と、2年の間、目を楽しませてくれたキャンパスのイチョウ並木は、見納めの日は冬景色でした。

 4月からは、別の大学で半期、非常勤講師を務めることになっています。やはりマスメディアに関心を持つ学生を対象にした文章指導です。今度は、自由な内容の作文ではなく、時事問題を論じる文章です。報道、ニュースへの接し方がとても重要になります。組織ジャーナリズムの実状も丁寧に伝えてみたいと考えています。いずれ、このブログでも紹介していこうと思います。

「安倍派幹部『不問』」になお8割超が疑義~民意の検察不信と新聞

 自民党のパーティー券裏金事件で、自民党安倍派の政治資金収支報告書の虚偽記載に対し、東京地検は会計責任者を起訴しただけで、事務総長経験者ら派閥幹部の国会議員については不問としました。1月に実施された2件の世論調査では、「納得できない」「適切だとは思わない」との回答が80%と78%に上ったことは、以前の記事で触れました。先週末、2月3~4日に実施された共同通信の世論調査でも、「納得できない」が83.4%に上ったと報じられています。
 まとめると以下の通りです。

 TBS系列のJNNの世論調査(2月3~4日実施)でも、「納得しない」の回答が78%に上ったとのことです。派閥幹部の刑事責任を問わない検察への疑義は根強く、時間がたっても収まる気配がありません。検察への不信と言ってもいいように思います。
 気になるのは、この民意をマスメディア、その中でも新聞各紙がどこまで共有しているかです。東京地検が刑事処分を発表したのは1月19日。翌20日付で、朝日、毎日、読売、日経、産経の全国紙5紙は、そろって社説で取り上げました。いくつかの地方紙も関連の社説を掲載しています。その概要は、このブログの以前の記事にまとめました。

news-worker.hatenablog.com

 検察が派閥幹部の責任を問わなかったことに対し、全国紙では毎日新聞、産経新聞には批判的、懐疑的な記述は見当たりません。朝日新聞は、還流議員側の立件が3千万円で線引きされた点には疑問を呈していますが、派閥幹部のことは付け足しのように触れているだけです。読売新聞と日経新聞は、ある程度のまとまった記述がありますが、トーンは「全員を不問に付すのは不公平感が拭えない」(読売)、「多くの国民が結果に納得できないのは当然だ」(日経)など、さほど強くはないように感じます。
 民意に添うように、検察に躊躇なく疑問を提示し、批判していると感じるのは、いくつかの地方紙です。検察は派閥幹部について、会計責任者との共謀を示す証拠が見つからなかったことを、「不問」の理由にしているようですが、そもそも捜査についてろくに説明していません。そんな状況で「捜査は尽くされた」「法に不備があるのだから仕方がない」と受け止めるのは無理だ、と考える人も少なくないはずです。地方紙の社説では、例えば中国新聞は検察に対し、具体的に説明するよう求めています。
 現行の政治資金規正法は、政治資金収支報告書の虚偽記載の処罰対象を会計責任者と明記しています。政治家本人を処罰するためには、会計責任者との共謀を立証する必要があります。ハードルが高いのは事実ですし、その点を「法の不備」と言えばその通りかもしれません。法改正で、共謀の有無を問わず政治家も失職するなどの連座制が導入されるに越したことはありません。しかし、そのことと、現行法の下で検察がありとあらゆる捜査を尽くすこととは、別の問題です。
 「法に不備があるから、立件見送りは仕方がない」ということになれば、政治家、とりわけ自民党の国会議員たちは「今のままがいい」と考えるはずです。現に、刑事処分が発表された後、訴追を免れた議員が公にどんな説明をしているか。自民党の改革論議はどんな状況か。いずれも納得できるものではありません。この状況で、連座制の導入が本当に実現できるでしょうか。国会に任せていても改革は進まない、だから検察に期待したのに、「法の不備」を理由にさっさと捜査を終わらせてしまったとしか思えない―。世論調査に表れているのは、そうした疑義であり、不信、失望、怒りであるように感じます。
 今回の裏金事件は、民主主義の根幹にかかわります。仮にマスメディアが検察の説明を是とし、「法に不備があるから、立件見送りは仕方がない」と理解を示すとしたら、「検察と一体化しているのではないか」との不信を招くのではないでしょうか。そのことを危惧します。

自身の半生に重ねて振り返る新幹線~続・200系の記憶

 一昨年のことになりますが、2022年は、日本で最初の鉄道が1872(明治5)年に新橋~横浜間に開業して150年、1982年に東北・上越新幹線が開業して40年や、山形新幹線30年、秋田新幹線25年などが重ねる年でした。日本の鉄道の歴史の節目でした。JR東日本は「新幹線イヤー2022」のキャンペーンを組み、「200系カラー新幹線」を運行しました。ことしの年明け、その車両を東京駅で久しぶりに見かけました。
 200系とは、1982年6月23日に東北新幹線盛岡~大宮間、同年11月15日に上越新幹線新潟~大宮間が開業した当初に、両新幹線を走っていた車両です。外観のデザインは東海道、山陽新幹線を走っていた0系や100系をほぼ踏襲。東海道・山陽の車体のカラーが白地に青いラインだったのに対し、緑色のラインでした。当時の200系カラーを現在のE2系1編成に再現した車両のことは、このブログでも以前、触れました。「まだ走っているんだな。いずれまた乗りたいな」と思っていたのですが、3月15日(金)で定期運行を終えることを知りました。名残惜しく感じます。

【写真】ことしの年明け、東京駅で見かけた200系カラーのE2系車両

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 東北新幹線開業の翌年、1983年4月にわたしは通信社の記者となり、初任地は青森でした。東京の本社で1カ月間、新人研修を受けた後、200系の「やまびこ」に大宮から乗って、任地に向かいました。4年後に青森から埼玉に転勤するまで、休暇や出張で200系には何度も乗りました。20代前半から半ばのあのころは、つらいこともありましたが、自分には無限の時間と可能性があるように感じていました。そうした記憶とともに、200系にはひときわ強い思い入れがあります。

 「200系カラー新幹線」が通常運行を終える翌日の3月16日は、北陸新幹線金沢~敦賀間が開業します。沿線では元日に能登半島地震が起きました。2011年3月11日の東日本大震災では、翌3月12日が九州新幹線の全線開業でした。祝賀行事は取りやめになり、ひっそりとしたスタートでしたが、新幹線網が新青森から鹿児島中央まで1本につながり、日本社会の一体感が強まることに寄与しました。東北の被災地の支援にもつながったことと思います。
 新幹線の歴史を振り返ると、東海道新幹線の開業は1964年10月1日。東京五輪の直前でした。日本社会は敗戦後の窮乏期を脱し、高度経済成長期の只中でした。「ひかりは西へ」のコピーとともに、山陽新幹線が博多まで全線開業したのは1975年3月10日。当時、北九州市で中学生だったわたしは、行ったことのない大都会・東京と自分の街が直結したことにちょっとした興奮を覚えていました。公害が各地で社会問題化するなど、実は高度成長のひずみも生じていたのですが、まだ日本社会全体が上を向いていられたようにも思います。
 その後、東京の大学に進むと、帰省のたびに新幹線を使いました。そして記者の仕事に就くと東北新幹線で任地へ。自身の半生を、新幹線網の拡大に重ねて振り返ることができる、そんなことに気付きます。東京~博多間は開業当初は最速の「ひかり」で6時間56分。かろうじて7時間を切っていました。今は「のぞみ」で5時間余です。東北新幹線の開業当初、上野~青森は在来線を乗り継いで約7時間でした。今は東京~新青森が最速の「はやぶさ」では3時間を切っています。まさに「隔世の感」がありますが、それだけの時間を自分は生きてきたのだな、との感慨も覚えます。
 まもなく迎える北陸新幹線の延伸開業も、沿線では忘れられない出来事として記憶されていくのだろうと思います。何より、能登半島地震の被災地の方々にとって、明るい話題になることを願っています。

 <余話>JR東日本が東京近郊で「スーパートレインスタンプラリー」を開催しています。10駅分のスタンプを集めて、駅構内のコンビニで600円以上の買い物をすれば、特急車両などをかたどったアクリルスタンドがもらえます。3種類のうち一つが新幹線200系。先日、スタンプを集めて、首尾よく手に入れることができました。

 このスタンプラリーはJR東日本が近年、テーマを変えて1~3月に実施しています。週末ともなると、各駅のスタンプ台は親子連れの参加者でにぎわいます。旅行客が減る時期の集客イベントとして定着しているようです。

www.toretabi.jp

能登半島地震から1カ月の在京各紙(備忘)

 能登半島地震は2月1日、発生から1カ月となりました。死者は震災関連死が疑われる方を含め238人、安否不明者は19人と報じられています。避難生活を送っている方は約1万4千人に上ります。犠牲になった方々にあらためて哀悼の意を表します。1日も早く、復興が進むことを願っています。

 東京発行の新聞各紙(朝日、毎日、読売、日経、産経、東京の6紙)も、2月1日付の朝刊では1面から総合面、社会面まで関連記事を掲載しました。1面や総合面では「検証」を掲げた記事が目を引きます。被害状況を地図に落とし込んだ大型の図解や、多数の写真を載せた特集面など、ビジュアルの面でも工夫を凝らしています。
各紙が1面や総合面の中心となる記事にどんな見出しを立てているか、主なものをピックアップしてみました。

 想定を上回る地震であったために、被害も想定を上回って対応が追いつかなかったこと、半島で道路網が寸断され、復旧が進まず、救援がなかなか届かなかったこと、過疎の進む地域で復興に長い時間がかかることなど、発生から1カ月の節目に際して、この災害の特徴がよく分かるように思います。
 各紙とも社会面や特集面では、犠牲になった方々の人となりも紹介しています。そうした報道に接することによって、238人それぞれに、わたしたちと変わらない「生」があったこと、それが奪われた理不尽さを感じ取ることができます。そこから、被災地へ思いを寄せ、それぞれの立場で復興を支援する、といった「共感」が社会に広がることにもなるだろうと思います。組織ジャーナリズムだからこそ可能なことだろうと思います。

 以下に、東京発行各紙の2月1日付朝刊の主な記事の見出しを書きとめておきます。
■朝日新聞
▽1面トップ「能登地震1カ月 なお1.4万人避難」
「『大災害起きない』はずが/前輪島市長『やれたことあった』」※2面に続く 検証 能登半島地震
「死因『圧死』が4割 警察庁」
▽2面・検証 能登半島地震「見直し阻んだ『安全神話』」「07年 被害最小限『裏目』 23年 群発地震受け 着手したが」「国の活断層評価 待った末」/「主張は自分事として考えて」住宅再建 県独自に支援 元鳥取知事・片山善博氏/「地域防災計画とは―/年1回検討・訓練で実効性アップ」
▽3面「被災者 生活再建に難題/仮説や公営1.8万戸提供/年度内に石川県 住宅被害に及ばず」「災害関連死リスク 懸念も/専門家『高齢者、体と頭動かして』」
▽9面(経済)「被災コンビニ 復旧に壁/避難・男性 営業数時間で『ありがたい』」
▽15面(オピニオン)耕論「災害ボランティア考」※識者3人
▽28面「能登 遠い日常」※大型図解、写真
▽社会面、第2社会面「生きる これからも一緒に」

■毎日新聞
▽1面トップ「指定避難所 3割開設できず/発生当初 一部に殺到 備蓄枯渇」能登地震1・1 1カ月
「死因『圧死』が最多4割 警察庁分析」
▽3面「道開くか 迂回か 難題直面」「国交省初動 事前計画なく」「首相が対応主導 批判も」「救助隊 陸路阻まれる」
▽7面(経済)「観光・工芸 打撃深刻/支援急ぐ 政府・金融機関」
▽社会面トップ「『親友よ、どこにおるんや』/輪島朝市火災 安否今も」/「死因14% 低体温症・凍死/道路寸断 救助遅れ響く」など
▽第3社会面「発生3カ月程度は 高い関連死リスク」

■読売新聞
▽1面・トップ「あと1メートル 命救えず/過疎地 消防力に限界/発生1か月」※社会面に続く 能登地震 検証1
「1次避難なお9557人 断水4万戸」
▽2面「被災地停電 ほぼ復旧/道路寸断地域では難航」/「支援本部を設置 きょう初会合」/「生活再建へ300万円給付/制度新設検討」
▽3面・スキャナー「『なりわい』直撃/漁港再開見えず・津波で農地に塩」「県外工場で生産の動きも」
▽9面(経済)「停電完全復旧 道半ば/倒壊電柱 雪・道路寸断が壁」
▽18、19面(特別面)「突き上がる大地 海岸激変」大型図解、写真
▽20、21面(特別面)「戻らぬあなたへ」※犠牲者への家族らからのメッセージ集 48人分・顔写真
▽25面(くらし)「子連れ避難 自問自答の日々」
▽27面(文化)「漆芸継承の拠点 無念の休講」
▽社会面トップ「48時間後 やっと現場に/道路寸断 消防援助隊阻む」※1面からの続き 能登地震 検証1
▽第2社会面「『笑ってお別れ』できなかった」

■日経新聞
▽2面「『半島防災』練り直し/伊豆・紀伊など国土の1割/備蓄や輸送手段確認」/「携帯基地局 85%が復旧」
▽15面(ビジネス)「主要400社 供給網被災」
▽39面(特集)「救援遅らせた急峻な地形」※大型図解、写真
▽社会面トップ「応急住宅 能登に少なく/山間部で用地不足 6割が県外」など

■産経新聞
▽1面トップ「避難長期化1万4000人/体育館・集会所に6割/能登地震1カ月/死者238人、安否不明19人」
「家屋倒壊 圧死最多/低体温症・凍死は14% 犠牲者調査」
▽3面「複合要因 断水なお4万戸/水道管 低い耐震化率半島の地形 応援阻む」/「道路寸断 足かせ/国道1本『頼みの綱』」/「地下構造 耐震基準ない/ビル倒壊『どこでも起こり得る』」/識者談話1人
▽6面「首相、偽情報対策を重視/能登地震1カ月 連日SNS投稿」
▽10面(経済)「企業の支援 多様に」
▽12、13面(特集)「日常へ歩き出す」「能登沖 複数活断層が連動か」※大型図解、写真
▽14面(生活)「つらい気持ち 我慢しないで」
▽15面(文化)「被災地 テレビ復旧に23日間/交通網寸断 想定外の長期化」
▽社会面、第2社会面「近くにいなくて、ごめん」「輪島大火 防災教訓へ」

■東京新聞
▽1面トップ「まだ夢の中にいるよう/石川・珠洲 妻子失い『悲しみ押し寄せる』」
「避難 いまも1万4000人超」
▽2面・核心「過疎 被害を深刻化/住宅耐震化進まず、『共助』限界」
「復興 買って応援 JR池袋駅構内にアンテナショップ」/「市民団体『原発停止を』 災害対策指針機能せず」
▽7面(特集)※大型図解、「犠牲者の横顔」35人(顔写真11人)
▽8、9面(暮らし)「『生活不活発病』防ごう(高齢者)」「避難先 遊び集える場を(乳幼児と親)」
▽18、19面(特報面)「漁業振興、政府支援は?/3・11の経験どう生かす」/『前例ない』海底隆起 漁港、港など被害深刻」/「『復興』気安く使えないけれど必ず」七尾支局長
▽社会面、第2社会面「続く避難」「遠い日常」

「安倍派幹部『不問』」に8割が疑義

 自民党のパーティー券裏金事件で、自民党安倍派の政治資金収支報告書の虚偽記載に対し、東京地検は会計責任者を起訴しただけで、事務総長経験者ら派閥幹部の国会議員については不問としました。そのことへの疑問は、このブログでも触れました。東京地検が刑事処分を発表したのは1月19日。その後に実施された世論調査2件では、この点に対していずれも極めて厳しい結果が出ています。
 1月20~21日の朝日新聞調査では「納得できる」12%に対して「納得できない」80%、1週間後の毎日新聞調査(1月27~28日実施)でも「適切だと思う」11%に対し、「適切だとは思わない」が78%に上っています。「安倍派幹部の責任は不問」との東京地検の処分に、世論はおおむね8割が疑義を呈しています。
 自民党内では安倍派を始め派閥の解散の動きが出ていますが、朝日新聞の調査では、信頼回復につながらないとの回答が72%に上っています。毎日新聞の調査でも、「自民党の取り組みが政治の信頼回復につながると思うか」との問いに対し、「思わない」の回答が84%でした。
 民意は、自民党に任せても信頼回復はできないことをよく知っているのだと思います。政治とカネの問題が絶えないこと自体が、自浄能力がないことの裏返しでもあるからです。政治資金規正法も改正されてきましたが、それでも政治とカネの不祥事は繰り返されています。だからこそ、検察が捜査を尽くしたかどうかが問われます。安倍派の幹部の刑事責任を不問としたことは、民意の期待を大きく裏切ったと言えそうです。検察は捜査を尽くしたというなら、もっと説明すべきだろうと思います。

※参考過去記事

 検察の処分への疑問は、以下の記事に書いています。どうぞ、併せてお読みください。

news-worker.hatenablog.com

 検察の処分を是とするか否かの観点から、新聞各紙の社説、論説をチェックしました。こちらもどうぞ併せてお読みください。

news-worker.hatenablog.com

「最期は本名で」の真意は何だったのか~「狼煙を見よ 東アジア反日武装戦線“狼”部隊」(松下竜一)が描く検事の説得に思うこと

 先週1月26日、驚きのニュースに接しました。神奈川県内の病院に入院している男性が、1974年8月の三菱重工爆破事件など、74年から75年にかけて起きたいわゆる「連続企業爆破事件」の一部に関与したとして指名手配されている「桐島聡」を名乗っている、との内容でした。末期の胃がんで1月29日朝、死亡しました。「最期は本名で迎えたい」と話していたとのことです。同一人物なら70歳。確認は取れていないようですが、「本名」を名乗ったことは広く報じられました。願いは叶ったのでしょうか。
 報道を総合すると、男性は「内田洋」の名前で数十年前から神奈川県藤沢市の工務店で、住み込みで働いていました。金融機関の口座は持たず、給料は現金で受け取っていました。約1年前から通院し、今年になって入院。25日になって「桐島聡」を自称したとのことです。「桐島聡」本人であれば、指名手配から約半世紀を逮捕されることなく“逃げ切った”ということになります。
 三菱重工爆破事件が起きた時、わたしは中学3年生中学2年生でした。夏休みの終わりの8月30日、東京で大きな爆発事件があり死傷者が多数出ているとニュースで知りました。「東京は怖いな」と思いましたが、遠く離れた九州の中学生にそれ以上の感情はなかったように思います。警視庁は翌75年5月19日、メンバー7人を一斉に逮捕しました。朝刊に「逮捕へ」の特ダネ記事を掲載していた産経新聞は、「捜査妨害」の口実を与えないよう、当該地区への配達を遅らせた、という事件報道の歴史に残る出来事もあったのですが、そうしたことを知ったのも後年、通信社に就職し記者になってからでした。

 この「東アジア反日武装戦線」と一連の企業爆破事件に多少なりとも関心が高まったきっかけは、一冊の本でした。作家、松下竜一のノンフィクション「狼煙を見よ 東アジア反日武装戦線“狼”部隊」です。手元の河出書房新社刊の単行本の奥付を見ると、1987年1月に発行、同年10月に3刷とありますので、88年ごろに購入して読んだのだと思います。東アジア反日武装戦線のメンバーのうち、三菱重工本社爆破を実行した「狼」部隊の中心人物、大道寺将司を中心に、グループの軌跡や逮捕後の苦悩などを丁寧に追った作品です。

 「桐島聡」を名乗る男性が「最期は本名で迎えたい」と口にしたと知って、思い起こしたのは同書に描かれた大道寺将司の取り調べの様子です。
 彼は取り調べで全面自供に至りました。もともと、グループはほかの新左翼勢力とは異なり、法廷闘争に重きを置いていませんでした。逮捕されたら自死を選ぶために青酸入りカプセルを所持していましたが、逮捕当日は自宅に置き忘れていました。
 同書によると、メンバーたちは、三菱重工爆破で同社とは無関係の通行人らを含めて想定外の死傷者を出したことに内心では苦悩していました。取り調べでそこを突かれました。

「世間では君たちのことを爆弾マニアとか、生命感覚を喪失させた理論も思想もない連中であるといっている。君はそれでいいのか、残念だとは思わないのか。これを防ぐ途は、君が自ら真実を明らかにする以外にないはずだ」
「被害者が爆弾マニアによって死傷させられたのか、それとも革命思想や理論に基づいた者たちによって死傷させられたのかによって、彼らは救われるか救われないかが決まるのだ。もし君が真実を明らかにするならば、死傷者の中に救われる人が出てくるのだ。君は供述して彼らを救ってやる義務と責任があるのだ」
「君たちの戦いは終わった。君たちの任務は完了したのだ。総括すべきじゃないか」

 以上は、同書に収録されている取り調べ担当の検事、高橋武生の説得の言葉です。同書によると、大道寺将司だけでなく、他のメンバーも黙秘を貫くことなく早期に自供したとのことです。
 大道寺将司は死刑確定後、病気で死亡しました。日本赤軍が起こしたハイジャック事件で、超法規的措置として妻の大道寺あや子らが釈放され日本赤軍と合流する、といった出来事もありました。それらのことを「桐島聡」は報道で間違いなく知っていたはずです。検事の説得も含めて知っていたのかもしれません。

 「最期は本名で」とは、自分は最後まで逃げ切ってみせた、ということを歴史に残したかったのか。そうではなくて、何らか過去を総括したかったのかもしれない、とも思います。爆弾事件に至った思いや心情などを残しておきたい、ということだったのか。大道寺夫婦の軌跡は「狼煙を見よ」という優れた作品によって後世に残ります。犯罪は犯罪として、「桐島聡」が何かを語り残せば、それも歴史の記録になっていたはずです。いずれにせよ、もはや「最期は本名で」の真意は想像するしかありません。

 高橋検事は後年、東京地検検事正、福岡高検検事長を経て証券取引等監視委員会の委員長を務め、2013年2月に他界しました。東京地検次席検事の時に、わたしは社会部で検察担当の記者でした。
 東京地検のNO2の次席検事は重職で、特捜部の検事や法務官僚として早くから頭角を現した逸材が就くとされるポストでした。その意味では、記者たちの間で知られていた存在ではありませんでした。「今度の次席は公安畑らしい」と聞き、どこかで見た名前だと思い、やがて大道寺将司の取り調べ検事だったことに気付き、「狼煙を見よ」を読み返した記憶があります。遠くに感じていた爆弾闘争の時代のことが、少し身近になったように感じられました。
 次席検事はスポークスマン役なので、検察担当の記者とはよく顔を合わせます。事件から20年近くがたっていましたが、松下竜一が作中で描写した通りのオールバック姿でした。雑談の折りに、事件のことに水を向けたこともありますが、多くは語りませんでした。ただ、検事として峻烈と言っていいほど自らを厳しく律している、と感じました。爆弾闘争が激しかったあの時代に、公安検事として「人の生き死に」にかかわってきたとの自負の表れでもあったのだろうと思います。

 「桐島聡」がかかわった爆弾事件は半世紀も前のことです。関心があるのは一定の年代より上の層かと思っていたら、そうでもないようです。公開手配のポスターは至る所で目にします。若い世代でも、あの長髪に眼鏡をかけた顔はなじみがある、との解説を目にして、なるほどと思いました。マスメディアも連日、続報をつなぎました。世代を問わずよく読まれ、話題に上ったのではないでしょうか。

※追記 2024年1月31日8時50分
 ▽「後悔している」
 「桐島聡」を名乗り死亡した男性が、警視庁公安部の事情聴取に対し、東アジア反日武装戦線が起こした一連の事件について「後悔している」と話していた、との続報が目にとまりました。
※共同通信「『後悔』と桐島容疑者名乗った男 連続企業爆破など一連の事件に」=2024年1月30日
https://www.47news.jp/10460646.html

 「そうだろうなあ」と思う内容です。ただし、公安警察経由の伝聞情報であることには留意が必要だろうと思います。東アジア反日武装戦線のメンバーは、日本赤軍のハイジャック事件で超法規的措置で釈放された2人が逃亡中です。公安当局としては、情報戦、心理戦もさまざまに考えているはずです。

 ▽「大義は一面の真実」

 「桐島聡」が「最期は本名で迎えたい」と話していたことについて、オウム真理教をテーマにした映画「A」などで知られる森達也監督は「切なさを感じた」「オウム真理教事件の死刑囚や連合赤軍の関係者と同様、恐らく悩みながら、後悔しながらの半生だったのではないか」と話しています。共同通信の配信記事が、各地の地方紙の30日付朝刊に掲載されています。
 「爆弾闘争という手法は許されないが、その大義は一面の真実でもあった」「メディアや社会が単なる凶暴で冷酷な『テロリスト』が見つかった事案として今回の件を扱うのは違和感がある」としています。そして、政治に関心がない若い人に向けて「ぜひ記憶にとどめてほしい。かつての同世代の人たちが、米国との付き合い方、太平洋戦争で侵略したアジアへの補償や謝罪について、真剣に考えていたということを」と結んでいます。
 森監督の言葉に、前掲の松下竜一の著書「狼煙を見よ」を最初に読んだ時のことを思い出しました。大道寺夫婦は北海道の釧路の出身でした。大道寺将司の行動の原点に、地元でアイヌが就職などで差別を受けていることを知り、歴史的な問題意識を深めていった体験があることを同書で松下は指摘しています。爆弾闘争の方法論は全く容認できませんが、問題意識には共感する部分が少なくないように感じました。
 確かに「大義は一面の真実」であったのだろうと思います。

「派閥幹部は不問」に疑義を示す地方紙の社説、論説~続・検察は捜査を尽くしたか

 自民党のパーティー券裏金事件をめぐり、安倍派の政治資金収支報告書への虚偽記載に対して、検察が会計責任者を起訴しただけで、事務総長経験者ら派閥幹部の政治家は不問としたことをめぐり、東京地検特捜部が捜査を尽くしたと言えるのか疑問を感じていることは、一つ前の記事に書いた通りです。この点について、新聞各紙の社説、論説がどのように論じているかを、ネット上の各紙のサイトで全文が読めるものを対象に調べてみました。
 政治資金規正法は虚偽記載の処罰対象を会計責任者と規定し、政治家本人を処罰するためには会計責任者との共謀を立証する必要があります。捜査を尽くしたが、共謀の証拠は得られなかった、というのが検察の立場です。目にした範囲でのことですが、各紙の社説、論説は、政治家の責任を直接問うことになっていない点を政治資金規正法の欠陥ととらえ、法改正によって、会計責任者が有罪となれば政治家も議員資格を失う連座制を導入することなどを主張する点はおおむね共通しています。ただし、検察の捜査結果を必ずしも「是」とする社説や論説ばかりではありません。特に地方紙で、検察の刑事処分に相当強く疑義を示している社説、論説が目にとまりました。

 検察が刑事処分を発表したのは1月19日でした。翌20日付の全国紙5紙(朝日、毎日、読売、日経、産経)では、読売新聞と日経新聞の社説の中に、刑事処分への疑問とも受け取れるくだりがあるのが目にとまりました。以下に書きとめておきます。

▽読売新聞「政治資金起訴 派閥幹部の責任は免れない」
 https://www.yomiuri.co.jp/editorial/20240119-OYT1T50233/

 一方、特捜部は、安倍派を仕切ってきた幹部議員について、全員の起訴を見送った。収支報告書の不記載は会計責任者に責任があり、幹部がそれを指示した証拠は乏しいと判断したのだろう。
 だとすると、会計責任者はなぜ不正を行う必要があったのか。その解明が不可欠だ。幹部らも還流を受けている。全員を不問に付すのは不公平感が拭えない。

 共謀を示す証拠はないというのなら、なぜ会計責任者は虚偽記載をしたのか。捜査はその点を解明していない、との指摘です。

▽日経新聞「自民は派閥解散を機に党再生へ踏み出せ」/先頭に立ち悪弊打破を/疑惑の幕引き許されず
https://www.nikkei.com/article/DGXZQODK196SJ0Z10C24A1000000/

 だが収支報告書に不記載の収入総額は3派閥で9億円を超える。最多の安倍派は6億円超だ。事務総長などの要職を務めながら、知らぬ存ぜぬですむ問題なのか。還流分を記載しなかった所属議員の大半も罪に問われていない。
 還流の仕組みをだれが考え、裏金は何に使ったのか。多くの国民が結果に納得できないのは当然だ。今後、検察審査会が処分の妥当性を審査する可能性もある。

 朝日新聞の社説は、還流を受けた議員側の立件を「3千万円」で線引きした点を中心に疑問を示しています。

▽朝日新聞「自民裏金事件 政治責任 不問にできぬ」
 https://digital.asahi.com/articles/DA3S15842786.html

 特捜部は政治資金をめぐる過去の同種事件を参考に、「3千万円」を基準にしたようだが、それ以下ならおとがめなしとの結論を、どれだけの人が納得できよう。今後、検察審査会への申し立ても想定される。幹部議員の責任とあわせ、無作為に選ばれた市民による判断を注視したい。

 毎日新聞と産経新聞の社説は以下で読むことができます。検察の捜査結果と刑事処分に対しての直接の批判、疑問は見当たりませんでした。
▽毎日新聞「裏金事件で3派閥起訴 政治家の責任は免れない」
 https://mainichi.jp/articles/20240120/ddm/005/070/073000c

▽産経新聞「政治資金不正事件 ザル法の穴を放置するな」
 https://www.sankei.com/article/20240120-CTFAPZULURO7LCJT2P2JJJNCPM/

 一方、地方紙の社説、論説の中には、検察への疑問を強い調子で打ち出しているものがあります。

 特に、佐賀新聞のサイトにクレジット付きで掲載されている共同通信配信の論説は、安倍派では2022年分はいったん還流をやめることに決まったものの、安倍晋三元首相が銃撃を受けて死去した後、幹部の協議で撤回された経緯を挙げ「会計責任者は幹部らの判断に従い、収支報告書に虚偽を記入した形だ」「むしろ同年分については、共謀があったと考える方が自然ではないのか」と強く疑問を投げかけています。
 政治資金規正法の不備の指摘は今に始まったことではなく、「政治とカネ」が問題になるたびに法改正の必要性が指摘され、何度か改正もされてきました。しかし、一向に不備は解消されていません。法改正に当たるのが当の国会議員たち、という事情もあるのだと思います。今回に限って、これまでとは異なる抜本的な改正が期待できるのでしょうか。この1週間ほどの自民党内の改革論議を見ても、全く楽観できないと感じます。
 だからこそ、検察の捜査が重要になります。政治家自身による改革に多くを期待できないからこそ、現行法の枠内で、検察が捜査を尽くし、立件にこぎつけることに意味があるはずです。証拠がなくても起訴せよ、というのではありません。本当に捜査を尽くしたのか、法の不備を言い訳にしていないと言い切れるか、疑問は解消しない、ということです。検察に批判的な、一群の地方紙の社説、論説に接してみて、あらためてそう感じます。
 検察は例えば袴田事件の再審公判では、執拗なまでの有罪主張を行っています。その有罪主張を支持するつもりはありませんが、そのことと比べても、裏金事件の捜査には、あらゆる手を尽くした、というような気迫は感じられません。手を尽くしたというのであれば、少なくとももっと詳しい説明が必要です。個人的な犯罪ならともかく、政党を舞台にした民主主義の根幹にかかわる事件です。

 以下に、裏金事件の検察の処分をめぐる地方紙の社説、論説のうち、ネット上で全文が読めるものの見出しをリンクと一緒に書きとめておきます。検察に批判的、懐疑的な内容のものは、本文の一部も書きとめておきます。

【1月20日付】
▽北海道新聞「自民党派閥資金立件 尻尾切りでは済まされぬ」/捜査尽くしたか疑問/体質刷新の本気度は/真の政治改革実現を
 https://www.hokkaido-np.co.jp/article/965373/

 特捜部が安倍派幹部7人を不起訴としたのは、会計責任者との共謀は問えないと判断したためだ。
 安倍派では2022年に還流を取りやめる方針が示され、後に撤回された。派閥運営を取り仕切る事務総長ら派閥幹部が違法性を認識していた疑いは拭い切れない。
 安倍派が22年までの5年間に政治資金収支報告書に記載しなかった金額は13億円超に上る。
 7人を任意で事情聴取しても、共謀を裏付ける証言が得られなかったのだろうが、捜査を尽くしたか疑問に思う国民は少なくない。
 公判を通じて焦点である裏金の使途など疑惑の全容を解明してもらいたい。

▽秋田魁新報「自民裏金、刑事処分 政治とカネ、抜本改革を」
 https://www.sakigake.jp/news/article/20240120AK0014/

 特捜部は安倍派幹部について会計責任者への還流分不記載などの指示を確認できず、共謀は問えないと判断。立件しなかった。国会閉会中の短期間の捜査では解明が困難だったか。検察審査会への審査申し立ては避けられないだろう。

▽山形新聞「安倍派、岸田派など解散へ 改革の覚悟、首相もっと」
 https://www.yamagata-np.jp/shasetsu/index.php?par1=20240120.inc

▽福島民報「【裏金事件刑事処分】決着とは到底いかない」
 https://www.minpo.jp/news/moredetail/20240120113919

▽福島民友新聞「自民裏金事件/派閥解散だけでは済まない」
 https://www.minyu-net.com/shasetsu/shasetsu/FM20240120-832749.php

▽信濃毎日新聞「安倍派幹部不問 捜査は尽くされたのか」
 https://www.shinmai.co.jp/news/article/CNTS2024012000170

 派閥の組織的な裏金づくりが慣行になっていたのは明白だ。政治家の刑事責任を問えなかった検察の捜査は、中途半端で終わった感が拭えない。
 (中略)
 安倍派の会計責任者は、NTT退職後、派閥に迎えられた。派内の実務を取り仕切る事務総長の経験者ら幹部議員の指示や了承なしに巨額の裏金づくりを続けていたとは到底思えない。
 22年4月には、会長だった安倍氏の意向を受け、還流の取りやめが決まった。ところが、一部議員の反発で、安倍氏の死後に、幹部らの協議を経て撤回している。
 こうした経緯からも、幹部議員らが違法性を知りながら還流の継続を認めていた疑いは残る。
 二階派と岸田派も派閥側で罪に問われたのは会計責任者だけだ。政治家を刑事告発した市民からは、不起訴の場合、検察審査会へ審査を申し立てる動きがある。
 検察には、政治家の立件を見送った理由について、今後も丁寧な説明を求めたい。

▽新潟日報「裏金一斉立件 政治への信頼地に落ちた」
https://www.niigata-nippo.co.jp/articles/-/347116

▽中日新聞・東京新聞「自民の裏金事件 幹部の責任問えぬとは」
 https://www.chunichi.co.jp/article/840473

 自民党の政治資金パーティーの裏金事件で、東京地検は安倍・二階・岸田各派の会計責任者らを政治資金規正法違反の罪で在宅・略式起訴した。安倍派幹部は立件されなかった。裏金は約6億円もあったのに、不問に付すとは到底納得できない。「ザル法」の穴を埋める法改正も急ぐべきだ。
 「会計責任者に任せていた」。安倍派幹部は検察の聴取にこう答えたという。会計責任者も「幹部からの指示はなかった」と。共謀を示す証拠が得られず、起訴できなかったことは極めて残念だ。
 (中略)
 裏金を受け取った側は、虚偽記入額が4千万円を超えた議員にだけ刑事責任を問うことで捜査の幕は閉じられそうだ。
 しかし、安倍派議員の大半が裏金を受領していた。派閥に入金しない「中抜き」もあった。横領に等しい。継続性、悪質性から派閥幹部を含め、受領額が4千万円以下でも幅広く処罰すべきだ。
 仮に政治資金という認識がない裏金ならば、個人所得として税務上の追及が必要ではないか。

▽京都新聞「安倍派幹部、不起訴 自民の病巣、温存は許されぬ」
 https://www.kyoto-np.co.jp/articles/-/1187958

 還流は森喜朗元首相が派閥会長だった20年以上前から行われていたとの証言があり、時効にかからない直近5年に事務総長など要職にあった塩谷立、下村博文、松野博一、西村康稔、高木毅、世耕弘成、萩生田光一の7議員の関与が捜査の焦点だった。昨今の政権で閣僚や党三役としても権力をふるってきた。
 特捜部は7人に任意で聴取したが、会計責任者に不記載を指示するなど「共謀」を裏付ける証拠が固まらなかったとする。7人の中には、還流を「派閥会長案件」とし、亡くなるまで務めた安倍晋三元首相と、先代の細田博之前衆院議長に責任を向ける説明もあったという。
 これで捜査を区切るなら疑問が尽きない。還流による裏金は100人近い安倍派の大半が受けていたとされる。立件を線引きする根拠は何か。少なくとも裏金工作を管轄する立場にあった7議員は起訴し、司法の裁きに委ねるべきではないか。

▽神戸新聞「裏金の一斉処分/自民党は解党的出直しを」
 https://www.kobe-np.co.jp/opinion/202401/0017241947.shtml

 一方で、安倍派の事務総長を務めた松野博一前官房長官、西村康稔前経済産業相ら幹部7人の立件は見送られた。会計責任者に還流分の不記載などは指示しておらず、共謀は問えないと判断した。国会閉会中の短期間で捜査が尽くされたか疑問だ。

▽山陽新聞「裏金事件の処分 国民は到底納得できない」
 https://www.sanyonews.jp/article/1505085

▽中国新聞「自民派閥裏金事件 幹部不起訴は納得できぬ」
 https://www.chugoku-np.co.jp/articles/-/413813

 特捜部は、安倍派の会計責任者と二階派の元会計責任者を在宅起訴、岸田派の元会計責任者を略式起訴した。安倍派を重点的に捜査し、実力者「5人組」を含む幹部7人を任意で事情聴取したが、いずれも不起訴とした。
 だが、事務方だけが立件され、派閥幹部らが刑事責任を逃れれば「トカゲのしっぽ切り」だ。到底納得できない。
 (中略)
 規正法は報告書の虚偽記入の処罰対象を会計責任者と定める。政治家を立件するには会計責任者との共謀を示す明確な証拠や供述が必要だ。東京地検は「共謀を認めるのは困難と判断した」としたが、具体的に説明してほしい。
 立件のハードルが高いことは理解できるとしても、キックバックの仕組みを事務方でつくり、継続的に運用できるわけがない。共謀があったと考える方が自然ではないか。

▽高知新聞「【自民の裏金事件】不信払拭へ道のりは遠い」
 https://www.kochinews.co.jp/article/detail/715082

▽西日本新聞「検察の裏金捜査 国民は到底納得できない」
 https://www.nishinippon.co.jp/item/n/1169658/

 億単位の裏金を会計担当者の一存でつくれるだろうか。派閥幹部の刑事罰を問わない捜査結果に、国民はとても納得できまい。
 (中略)
 裏金づくりに幹部の関与がなかったとは到底思えない。議員がパーティー券の販売ノルマを超えた額を派閥から受け取る際、政治資金収支報告書に記載しないように派閥から言われた、との証言が複数出ている。
 安倍派では22年のパーティーで還流をやめる方針だったが、会長の安倍晋三元首相が死去した後、幹部らが協議して継続したという。
 安倍派をはじめ3派閥は、裏金づくりに誰がどのように関わったかを国民に説明すべきだ。その上で責任の所在を明確にしてもらいたい。

▽佐賀新聞「派閥幹部不起訴 決して免責ではない」※共同通信
 https://www.saga-s.co.jp/articles/-/1179962

 安倍派では2022年に特殊な経緯があった。西村康稔前経済産業相が事務総長だった同年4月、会長の安倍晋三元首相の意向で還流取りやめが決まったのに、7月の銃撃事件で元首相死去後、西村氏ら枢要な幹部が協議して方針を撤回。従来通りの処理が行われた。

 会計責任者は幹部らの判断に従い、収支報告書に虚偽を記入した形だ。幹部が還流や裏金化を知らなかったと言えるはずがない。むしろ同年分については、共謀があったと考える方が自然ではないのか。
 通常国会までに終結させる前提だった特捜部の捜査は「尽くされた」と言えるのか。捜査と不起訴処分の適否はいずれ、検察審査会が告発人の申し立てを受けてチェックすることになろう。

※同趣旨
 ・東奥日報「政治的、道義的責任免れぬ/自民派閥幹部立件せず」
  https://www.toonippo.co.jp/articles/-/1710411
 ・福井新聞「派閥幹部『秘書が…』 免責ではないと自覚せよ」(1月24日付)
  https://www.fukuishimbun.co.jp/articles/-/1960742
 ・山陰中央新報「派閥幹部不起訴 決して免責ではない」(1月21日付)
  https://www.sanin-chuo.co.jp/articles/-/516514

【1月21日付】
▽琉球新報「自民主要派閥解散へ 根本的解決にはほど遠い」
 https://ryukyushimpo.jp/editorial/entry-2717430.html

検察は捜査を尽くしたか~裏金事件、安倍派幹部議員「不問」への疑問

 自民党のパーティー券裏金事件は1月19日、東京地検特捜部が在宅捜査分について刑事処分を発表し、区切りを迎えました。派閥の政治資金収支報告書をめぐる政治資金規正法違反罪(虚偽記入)では、自民党安倍派の会計責任者、二階派の元会計責任者を在宅起訴、岸田派の元会計責任者を略式起訴としましたが、派閥幹部の国会議員の刑事責任は不問とされました。個別の議員の収支報告を巡っては、安倍派1人について議員本人と秘書が在宅起訴、議員もう一人と秘書が略式起訴になりました。二階派の二階俊博元自民党幹事長の秘書も略式起訴になりました。ほかに、逮捕された安倍派の池田佳隆衆院議員と秘書は捜査が続いています。
 この捜査結果に対して、いくつか疑問を感じています。大きく分けると①派閥、特に5年間で13億5千万円余りもの不記載があった安倍派について、事務総長経験者ら派閥幹部の政治家の刑事責任を不問としたこと②還流を受けた政治家について、収支報告書への不記載の額がおおむね3千万円で線引きされ、そのラインに満たなかった政治家に対しては、会計責任者の訴追もないこと―の2点です。

■検察の姿勢と捜査力
 1点目の派閥幹部の責任について、報道によると、派閥の会計責任者との間に共謀があったことを示す証拠が得られなかったためとされます。そもそも取り調べに対して、議員が「会計責任者に、収支報告書には記載しないよう指示しました」とか、会計責任者が「○○議員から言われたとおりにしました」と話すわけがありません。そうした供述は得られなかった、だから共謀は認定できない、というのであれば、検察は何と優しいのかと思います。
 捜査を尽くすというのであれば、そうした供述になることを折り込んだ上で、どんな捜査をしたのか、およそ考えつくことはすべてやり尽くしたというところまでやったのかどうかが問われます。なぜなら、これまでも「政治とカネ」が問題になるたびに、特に自民党の議員からは「秘書が」「秘書が」との言い訳が繰り返されてきたからです。「そんなわけないだろう」というのは社会の一般的な感覚です。捜査結果について、東京地検の新河隆志次席検事は19日に記者会見を開きました。報道で見る限りですが、どこまで捜査を尽くしたかの説明は極めて淡白で具体性を欠きます。到底、社会一般の疑問に答えうる内容ではありません。
 疑惑を刑事告発して今回の捜査のきっかけを作った神戸学院大の上脇博之教授は、東京新聞の取材に「政治資金収支報告書に書くべき金額を書かないという判断を、会計責任者や事務方だけでできるとは思えない。検察は本当に捜査を尽くしたと言えるのか」(1月20日付朝刊1面掲載記事)と疑問を示しています。また同紙特報面の記事では「幹部の携帯電話を押収し、事務方との通信記録を精査するべきだった。証拠がなかったわけではなく、捜査を尽くしていないだけだ」と批判しています。
 気になるのは毎日新聞の20日付朝刊3面「共謀立証 記載認識の壁」の見出しの記事の一節です。東京地検特捜部の聴取に対し、安倍派幹部の議員たちの供述は食い違いがあったとしています。幹部の会合で、一人が収支報告書への記載の仕方に具体的に言及したとの証言が取材で得られたとも書いています。同様の証言が特捜部の捜査の中でも出ていたとすれば、その食い違いを特捜部は放置したまま、議員の責任は不問としたのでしょうか。
 現状で「法の不備」と結論付けるのは尚早で、主には検察の姿勢と捜査力の問題ではないかと感じます。あらゆる手立てを尽くし、多少は無理筋を承知でも、新しい判例を得るぐらいのつもりで政治家を訴追し、でもやはり裁判所で「無罪」が確定するなら、そのときが現行の政治資金規正法の本当の限界のはずです。

■驕りと傲慢さ
 2点目の、還流を受けた議員側の立件範囲の問題でも、問われるのは「検察の姿勢」であるように思います。
 立件の線引きが3千万円というのは、検察なりの法の安定性を重視してのことなのでしょう。犯罪の態様が従来と同じなら、その理由にも納得性がないわけではありませんが、今回はどうでしょうか。パーティー券の売り上げは政治資金収支報告書に記載されないことで裏金と化しました。記載していれば還流自体は問題ないから形式犯だ、との主張も目にしますが、裏金を得るために収支報告書に記載しなかったとの疑いは解消していません。形式犯にとどまりません。そんな行為が派閥ぐるみで慣習として、複数の派閥で続いていました。
 公費から政党交付金を得ている政党で、派閥単位で組織的にパーティー券収入を得て、その一部を裏金にする。今までに例を見ない悪質な態様です。裏金化を完結させる行為として、収支報告書に記載しない行為(=虚偽記載)がありました。その行為が意味する悪質さが社会で共有されているからこそ、世論調査では岸田文雄政権、自民党ともに支持を落としていました。検察もその悪質さを踏まえるなら、従来の基準にこだわらず、金額の多寡にかかわらず虚偽記載があった政治家側はすべて訴追してもいいはずです。
 検察官は公訴権を独占しています。また、犯罪行為をすべて起訴しなければならないわけではなく、態様などを考慮して起訴しない(起訴猶予)ことも認める「起訴便宜主義」もあります。検察が大きな裁量を持っているのは確かですが、だからといって、あまりに社会の一般的な考え方、受け止め方と遊離した判断を取るのは、検察の驕り、傲慢さではないかと感じます。
 政界事件ではこれまでも、社会一般の考えとかけ離れた驕り、傲慢さがみられました。例えば、河井克行元法相夫妻の選挙違反事件では、被買収側の地方議員らは当初、起訴されていませんでした。

■検察権力の監視
 今回の検察の刑事処分について、マスメディアは大きく報道しました。東京発行の新聞各紙(朝日、毎日、読売、日経、産経、東京の6紙)も20日付朝刊でそろって1面で大きく扱いました。ただ、岸田首相が言い出した岸田派の解散に続き、安倍派、二階派も解散を決めた、との政界ニュースとの比較では、どちらをトップとするかは扱いが分かれました。1面トップを検察の処分にしたのは朝日新聞、毎日新聞の2紙。派閥解散をトップにしたのは読売新聞、日経新聞、産経新聞の3紙です。東京新聞は、1面トップの記事は検察の処分が中心で、リードに派閥の解散を盛り込み、いちばん大きな横見出しに「安倍派幹部『裏金』不問」、縦見出しに「自民3派閥 解散へ」と取っています。強いて言えば、朝日、毎日両紙に近いかもしれません。

 各紙とも総合面の長文のサイド記事などで、検察の捜査と今回の処分を詳しく伝えています。それらの記事からは、派閥幹部の訴追を見送った点について、「捜査を尽くしたが証拠がなかった」との検察の立場、言い分はよく伝わってきます。では、その検察の“弁明”をそれでよしとするのかどうか。気になるのはその点です。ただ、メディアとして統一見解があるとは限らないと思いますし、取材に当たった個々の記者の間で考えが異なることもあるだろうと思います。そのことを踏まえた上で、いくつか書きとめておきます。
 ・検察の処分に対して、紙面全体から「疑問」「納得できない」とのトーンを感じるのは東京新聞です。以下は各紙の本記の扱いと主見出しです。「安倍派幹部『裏金』不問」を1面トップの横見出しに据えた東京新聞は、他紙と一線を画しています。

 ほかにも東京新聞は前述のように、1面に刑事告発で捜査のきっかけを作った神戸学院大の上脇博之教授に取材した記事を掲載。特報面でも見開きで関連記事を掲載しており、「刑事責任 議員は過保護?」などの見出しが目を引きます。
 ・この事件の捜査をめぐる昨年来の報道は、朝日新聞が際立っていました。検察の立件対象の絞り込みなど、捜査の節目を最初に報じるのは、おおむね朝日新聞でした。検察の捜査を深くウオッチしていたのだと思います。その朝日新聞が、検察の刑事処分をどのように評価するのかに関心がありました。捜査の推移を報じることだけでなく、検察という公権力が権力をどう行使するのか(しないのか)を監視するのもマスメディアの役割の一つだと考えるからです。その中で、この事件の取材を統括する立場ではないかと思われる社会部次長の署名入り1面解説記事「党の腐敗 徹底検証が先決」の一節が目にとまりました。抑制が効いていると感じます。

 二階派、岸田派にも及んだ事件は自民党全体の構造腐敗を示しており、国民に対するかつてない重大な背信行為だ。
 であるが故に、幹部議員が立件されなかった捜査結果に納得できないという市民感覚は当然だろう。一方で、証拠が不十分なのに懲らしめ目的で刑事責任を科すのは法治国家として許されない点には留意したい。捜査が尽くされたかどうかは今後、検察審査会で審査される可能性がある。


■「離脱」も「解散」も方便か
 事件は政治的にも大きな影響があります。一つだけ、派閥の解散論議で疑問に思うことを書きとめておきます。
 岸田首相が岸田派の解散を言い出し、それが安倍派、二階派にも波及したようです。その岸田首相は昨年12月、派閥を離脱していたはずです。派閥に属していないのに、なぜ派閥の解散を決めることができるのか。素朴な疑問です。その点を指摘する報道も、20日付朝刊各紙には見当たりませんでした。離脱しても事実上のオーナーなのだから、大した問題ではない、ということなのかもしれません。本当にそうでしょうか。
 「離脱しても事実上のオーナー」ということは、離脱に実際は何の意味もない、ということになります。あるいは、離脱は一時的なことで席(籍)は残っている、ということなのか。やはり離脱に意味が見出せません。方便に過ぎないのではないか。そうであれば「解散」もまた一時的な方便ではないのか。そうではないとどうして言えるのか。
 マスメディアの政治報道の課題があぶり出されているように感じます。

 以下に、1月20日付の東京発行各紙の朝刊の主な記事の扱いと見出しを書きとめておきます。

【朝日新聞】
▽1面
・トップ「安倍・二階・岸田派を立件/在宅・略式起訴 会計責任者ら 虚偽記載罪/幹部議員らは見送り」
・準トップ「立件の3派閥 解散決定/安倍・二階・岸田派 政権 不安定化」
・視点「党の腐敗 徹底検証が先決」
▽2面(総合)
・時時刻刻「組織的裏金 立証に壁/安倍派幹部ら 不記載関与は否定/検察『証拠基づき判断』」「3000万円 立件線引き 認否で分かれた処分」「不起訴 検審で妥当性審査へ/『起訴相当』2回で強制起訴」
▽3面(総合)
・「脱派閥 自民ちぐはぐ/麻生氏『やめない』三派連合、終焉」「二階氏『人は自然に集まる』安倍派は異論なし」
・「残る実態解明 安倍派幹部は『潔白』主張」
・視点「改めるべきは 政治とカネ繰り返す体質」
▽4面(総合)
・「派閥解散 野党『目くらまし』」など関連記事5本
▽社会面~第2社会面
・トップ「政治の裏切り 失望/『かけ離れた感覚』『国民は精いっぱい』」 関連記事9本、うち識者談話2本
▽社説「自民裏金事件 政治責任 不問にできぬ」

【毎日新聞】
▽1面
・トップ「自民3派閥裏金 起訴/会計担当者ら 安倍7幹部は見送り」「大野氏在宅 谷川氏略式」
・「これで済むわけがない」松尾良・政治部長
・「安倍・二階・岸田派 解散へ/塩谷氏『国民の信頼裏切った』」
▽2面(総合)
・「派閥解散名ばかり疑念/『政策集団』存続に含み」「自民党内に亀裂も」
▽3面(総合)
・クローズアップ「共謀立証 記載認識の壁/客観的証拠 乏しく」「検察審査会 対象外か」「処分『相場』過去との公平性/政治家『訴追ライン』3000万円か」
▽5面(総合)
・「野党攻勢 裏金解明訴え」など関連記事2本
▽社会面
・トップ「安倍派勢力拡大『還流』脈々/『事務所は火の車』にじむ自己弁護」連載企画「裏金 パーティー事件」(上)など関連記事7本、うち識者談話2本
▽社説「裏金事件で3派閥起訴 政治家の責任は免れない」/「首相が『岸田派』解散 党全体で取り組めるのか」

【読売新聞】
▽1面
・トップ「安倍・二階派も解散へ/パーティー券/麻生・茂木派は慎重」
・「首相『全派閥解散』へ賭け」連載企画「裏金 悪弊の果て」(1)※3面へ
・「3派会計責任者ら立件/規正法違反 安倍派幹部 見送り 東京地検」
▽3面(総合)
・スキャナー「派閥解消へ流れ/安倍派『存続訴えは皆無』/二階派『選挙戦いやすく』」「不正処理『意図的で悪質』/特捜部判断『幹部と共謀』証拠なく」
▽4面(政治)
・「各派閥 謝罪と釈明」など関連記事8本
▽15面 論点スペシャル「パーティー券問題 刑事処分」識者3人(五十嵐紀男・元東京地検特捜部長、北川正恭・元三重県知事、国広正弁護士)
▽社会面
・トップ「不記載『長年の慣行』/安倍派『5人衆』具体的説明なし」など関連記事2本
▽社説「自民派閥解散へ 党の体質改善につながるか」/「政治資金起訴 派閥幹部の責任は免れない」

【日経新聞】
▽1面
・トップ「安倍派・二階派解散へ/自民、党内政治に転機/首相『信頼損ねおわび』」
・「自民3派閥 在宅・略式起訴/幹部の刑事責任問わず」
▽3面(総合)
・「派閥なき党内統治 探る/自民、解消失敗の歴史/『政策集団のルール再考』/過去には首相公選 議論」
・「ガバナンス改革の先に」吉野直也・政策報道ユニット長
▽4面(総合)
・「春の補選、政権正念場に」など関連記事5本
▽社会面
・トップ「3000万円 立件ラインに/『派閥とカネ』攻防2カ月」 関連記事5本
▽社説「派閥解散を機に党再生へ踏み出せ」/先頭に立ち悪弊打破を/疑惑の幕引き許されず

【産経新聞】
▽1面
・トップ「安倍派・二階派も解散/麻生・茂木派は協議/パーティー収入不記載」
・「3派会計責任者ら立件/一斉処分 大野・谷川議員も」
・「購入者リスト 群がる『ハイエナ』」連載企画「汚れた錬金術 自民党派閥パーティー券事件」(上)※社会面に続く
▽2面(総合)
・「首相、電撃表明で突破/派閥解散 昨年末から探る」「最大派閥・安倍派の解体『衝撃』/改憲・皇位 議論停滞も」
▽3面(総合)
・「立件逃れた派閥幹部/指示証拠なく『共謀』の壁再び」「安倍派幹部ら再捜査必至/検察審査会 申し立て公算」
・「自民難局 春には補選/捜査区切りも影響懸念」
識者談話2人
▽社会面
・トップ「志捨てた議員 派閥の罪/有権者の声よりカネ集め」※1面企画続き など関連記事3本
▽社説「派閥の解散 自民は政策本位で再建を」/「政治資金不正事件/ザル法の穴を放置するな」

【東京新聞】
▽1面
・トップ「安倍派幹部『裏金』不問/会計責任者ら8人立件/自民3派閥 解散へ」
解説「裏金1千万円 軽くない」
・「『検察は捜査尽くしたのか』刑事告発した上脇博之・神戸学院大教授」
▽2面(総合)
・核心「規正法の限界 浮き彫り/虚偽記入『共謀』証拠得られず/検察の慎重姿勢『国民の声で変わることも』」ほか関連記事4本
▽3面(総合)
・「派閥解消 遠のく解明/安倍・二階・岸田派 国民の疑問に答えず」ほか関連記事1本
▽20~21面(特報)
・「刑事責任 議員は過保護?/大山鳴動したけれど/『民間なら脱税 違いは』/『検察は中立・公正なのか』」「秘書ら身代わり 昔も今も/『桜を見る会』は略式起訴 『リクルート事件』は自殺/『番頭』『金庫番』一蓮托生 思い強く/派閥解散表明より政治資金制度の改革を」
▽社会面
・トップ「『なぜ裏金』見えぬまま/『今回を忘れず投票』『カネ絡みの政治家一掃を』」など関連記事5本
▽社説「自民の裏金事件 幹部の責任問えぬとは」

※参考過去記事

news-worker.hatenablog.com

news-worker.hatenablog.com

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「文章作法」と新聞

 東京近郊の大学で非常勤講師を務めている「文章作法」の年明け最初の授業が先日、ありました。「年明け最初」と言っても、次回が最終回。この大学での2年間の任期が間もなく終わります。
 授業では、履修生たちに冬休みの宿題として小論文を課していました。テーマは「ニュースを社会で共有することの意義」。この日の授業で講評を行う予定でしたが、元日に能登半島地震の発生があり、その報道に接した履修生たちもいろいろ思うところがあったようです。わたしが想定していなかった興味深い視点の文章を提出してきた履修生もいました。一人一人に納得がいく文章を書き上げてもらい、わたしもしっかり読みたいと思い、締め切りを延ばしました。それぞれ、時間が許す限り推敲を重ねたうえで再提出してもらい、講評は最終回の授業で行うことにしました。
 文章には読み手がいて、伝えたい内容があります。つまり、文章はコミュニケーションです。深いコミュニケーションを取るには、伝え手と読み手の間に、社会で何が起きているか、社会がどうなっているかについて、共通の知識、理解があることが役立ちます。授業では毎回、社会と向き合う視点を鍛える一助として、新聞紙面を元に、時々のニュースの読み解き方を解説してきました。新聞紙面を使っているのは、同じ出来事でも新聞によって取り上げ方が異なることが視覚的にも分かりやすいこと、その体験を通じて、多様な価値観が社会にあるとはどういうことかを理解してもらえるのではないかと考えるからです。この日は、1月3日付の東京発行の新聞6紙(朝日、毎日、読売、日経、産経、東京)を教室に持ち込みました。
 元日に能登半島地震があり、2日には羽田空港で日本航空の旅客機と海上保安庁の航空機の衝突・炎上事故がありました。新聞社は元日の新聞制作を休んでおり、2日付紙面は発行されていません。この二つの大ニュースはいずれも3日付紙面が初報でした。どちらを1面トップにするか。東京発行6紙は能登半島地震2紙(朝日、毎日)、羽田の事故4紙(読売、日経、産経、東京)に分かれました。
 新聞はニュースを重要度の順に格付けして伝えるメディアです。各紙が1面トップに据えるのは、その日の紙面に掲載する全ニュースの中で最重要と判断したニュースです。能登地震と羽田の事故と、それぞれにどのようなニュースバリューがあったか、履修生たちにも考えてもらいました。どちらの判断が正しいか、ということではありません。多様な判断が社会に併存していること自体が価値だと説明しました。ブランケット判と呼ばれる大きなスペースに、新聞ごとに異なる見出しや写真のレイアウトで視覚的にも訴求する新聞は、各紙の違いを見比べることによって、そうした価値観の多様さを体感することができるメディアです。
 わたし自身は、1月3日当日は、ニュースとしては新しい羽田事故がトップだろうと思っていました。しかし今は、被害の規模、報道すべきテーマ、検証すべき課題が多岐に、かつ長期にわたることなどから、やはり地震がトップだったかな、と、考えが変わっています。そんなことも率直に話しました。

 震災、地震報道と記者の取材についても少し話しました。折しも1月17日は阪神・淡路大震災から29年の日でした。履修生たちが生まれる前の出来事です。その後も、東日本大震災をはじめ各地で大きな地震があり、報道もさまざまな経験を積んできています。それまでの災害取材の経験から、能登半島地震で現地の初期の映像、特に家屋や建物の倒壊状況を見ただけで、大変な犠牲者が出ていることを見抜いていた記者やデスクもいる、という話もしました。
 わたし自身を振り返れば、災害取材を中心になって担当する社会部に長く所属しながら、実は災害の現場取材はほとんど経験がありません。1995年の神戸・淡路大震災の時は東京の社会部の中堅どころの記者でした。先輩や同僚が、神戸や大阪へ次々に応援に向かう中で、わたしは残留を命じられ、現場取材に行く機会はありませんでした(ちなみに、この年はオウム真理教をめぐる一連の捜査もありましたが、やはり山梨・上九一色村などの現場取材にも行っていません)。2011年3月11日の東日本大震災の時は、3月1日付で東京本社から大阪支社の管理職に異動したばかりでした。被災地で取材する同僚や東京本社のバックアップに努める日々でした。
 大規模な災害だからといっても、記者が全員、現場に行くわけではありません。危険な現場で記者や写真記者が安全を確保しながら取材を進めるためには、食事や休息の確保をはじめとして、後方をしっかり固めることも必要です。そのために必要な仕事もたくさんあります。災害のほかに報じるべき出来事も日々、起きています。現場と後方の役割分担といったことも含めて、組織ジャーナリズムだからできる取材と報道があります。授業では、そんな話もしました。

 冬休みを挟んで久しぶりのキャンパスは冬景色でした。次回は最後の授業になります。履修生たちの提出作をしっかり読み込んで、一人一人にフィードバックし、実のある学びを得たとの実感を持ってもらおうと思っています。

 能登半島地震は、時間が経つにつれ被害の実相がだんだんと明らかになり、検証の課題も浮かびつつあるように感じます。亡くなられた方々に改めて哀悼の意を表し、被災された方々にお見舞い申し上げます。それぞれの人が、今いる場所で、できることを続ける支援の形もあると考えています。

辺野古の工事強行 本質は「地域の自己決定権」~問題意識共有する地方紙の社説、論説

 沖縄の米軍普天間飛行場の移設計画をめぐり、米映画監督のオリバー・ストーン氏らが辺野古の新基地建設に反対し、建設の中止を求める声明を1月6日に発表したとのニュースが目にとまりました。琉球新報の報道によると、声明には「沖縄の自己決定権、民主主義、自治権」を支持するとの趣旨が盛り込まれているようです。民主主義と人権を重んじるのであれば、地域の自己決定権や自治権をも尊重するのは、国を問わず共通する価値観であり、沖縄の基地の過剰な集中の問題の本質も、その点にあるのだとあらためて感じます。
※琉球新報:「世界の識者『辺野古ノー』 ストーン監督ら400人声明」=2024年1月7日

ryukyushimpo.jp

 声明は「沖縄の自己決定権、民主主義、自治権を支持する」者として、「県民の大多数が反対しているにもかかわらず、辺野古埋め立てにこだわり続け、かけがえのない生態系を破壊している」として日米両政府を非難した。代執行について、本紙12月27日付社説が「他県に住む方々は、自らの地域にこのような事態が降りかかることを是認できるだろうか」と指摘したことにも言及。「植民地主義的無関心」と日米の市民に突きつけ、沖縄差別と軍事植民地化に終止符を打つよう呼びかけた。

 この声明からまもなく、日本政府は1月10日、辺野古沖の軟弱地盤地域で工事着手を強行しました。このことに対して、日本本土の新聞各紙がどのように論じているか、11日付け以降の社説、論説について、ネット上の各紙のサイトで確認できる限りで見てみました。
 政府が地域の自治をないがしろにしており、それに司法までもが加担したこと、このままでは同様のことが沖縄に限らず全国どこでも起きかねないこと、との認識が、特に地方紙の社説や論説から感じ取れます。「問われているのは地域の自己決定権」との問題の本質が日本本土でも広く共有されれば、新たな動きにつながる可能性も出てくるように思います。

 以下に、各紙のサイト上で確認できた社説、論説の見出しや内容の一部を書きとめておきます。全文が読めるものは、リンクを張っておきます。

■全国紙
▽朝日新聞 1月12日付「辺野古着工 疑問は膨らむばかりだ」
 https://digital.asahi.com/articles/DA3S15836113.html
▽毎日新聞 1月11日付「国が辺野古工事を強行 沖縄の声無視は禍根残す」
 https://mainichi.jp/articles/20240111/ddm/005/070/082000c

■地方紙

【1月16日付】
▽熊本日日新聞「辺野古着工 沖縄の声に応えぬ強行だ」

【1月14日付】
▽北海道新聞「辺野古着工 強行だけでは解決せぬ」
 https://www.hokkaido-np.co.jp/article/962882/

 岸田文雄首相は「丁寧な説明を続けていきたい」と述べたが、自身も担当閣僚も玉城デニー知事といまだ会うことさえしていない。
 知事は「丁寧な説明とは到底真逆の極めて乱暴で粗雑な対応だ」と非難した。全くその通りだ。
 司法判断を振りかざし、民意を容赦なく踏みにじるのは、極めて傲慢(ごうまん)な対応と言わざるを得ない。
 意に沿わぬからと言って県の権限を奪い取る代執行は、全国の自治体をも萎縮させかねない。

▽高知新聞「【辺野古工事】強行をやめ対話を重ねよ」
https://www.kochinews.co.jp/article/detail/713431

 政府は、普天間の危険性除去には「辺野古移設が唯一の解決策」との立場を堅持している。ただ軟弱地盤改良工事を伴う設計変更で、移設計画は当初とは「別物」になっている。さまざまな疑問が拭えないのは地元の沖縄県だけではあるまい。
 政府が当初、示していた工期は5年。普天間返還は「2022年度またはその後」と説明していた。このスピード感が「辺野古が唯一」とする主張を支えていた面もあった。
 (中略)
 故翁長雄志知事はかつて、安倍政権の強硬姿勢を米占領下の沖縄で強権を振るったポール・キャラウェイ高等弁務官に重ね、「問答無用という姿勢が感じられる」と批判した。
 「聞く力」「丁寧な説明」を掲げる岸田首相も、沖縄の基地問題でも言葉と裏腹の対応と言われても仕方があるまい。政府は工事の強行をやめ、県や米国との対話で抜本的な解決策を探るよう重ねて求める。

【1月13日付】
▽中国新聞「辺野古追加着工 沖縄と誠実に向き合え」
 https://www.chugoku-np.co.jp/articles/-/410427

 政府の方針に逆らえば知事の権限を剥脱する―。その上で工事が強行された。一つの県の問題ではない。国策の下に地方自治がないがしろにされたと受け止めるべきだ。
(中略)
 設計変更を巡る一連の訴訟で、司法は軟弱地盤のリスクに踏み込まず、手続き論を盾に政府の姿勢を追認した。あしき先例づくりに加担しているかのようだった。
地元の声を顧みず、県が求める対話にも応じないまま着工したことは、憲法が保障し、民主主義の基盤といわれる地方自治の理念に反する。
地元軽視の姿勢は、不意打ちのように着工した点からもうかがえる。

▽愛媛新聞「辺野古移設 拭えぬ新たな負担固定化の懸念」
▽南日本新聞「[辺野古着工] 公益の名を借りた強権 」

【1月12日付】
▽信濃毎日新聞「大浦湾工事着工 国民を欺く見切り発車だ」
 https://www.shinmai.co.jp/news/article/CNTS2024011200112

 普天間が世界で最も危険と認めるなら、即時返還を米国に要求するのが筋だ。最低でも、傍若無人な訓練を日常化させている日米地位協定の抜本改定を米側に持ちかけなくてはならない。
 福岡高裁那覇支部は12月20日の判決で、玉城デニー知事に大浦湾の埋め立てを承認するよう命じた。ただ、知事が不承認とした検討内容は審理せず、国の主張を形式的に追認したに過ぎない。
 政府は南西諸島で軍事訓練域を広げ頻度も高めている。「基地負担軽減」のかけ声とは裏腹に、沖縄の負担はむしろ増している。
 長射程ミサイル配備、部隊展開に備える空港・港湾の改修、自衛隊と米軍の基地共同使用…。自治や法律よりも米国の意向を優先した「防衛策」の無理押しは、どの地域にとってもよそ事でない。

【1月11日付】
▽中日新聞・東京新聞「辺野古工事再開 対話なき強行許されぬ」
 https://www.chunichi.co.jp/article/835581

 今後も工事の途中で新たな問題が生じ、政府が再び設計変更を余儀なくされれば、再び県との訴訟合戦になる可能性もある。長期間の工事の末、膨大な費用を投じて新基地を完成させても、地元住民の反対に包まれれば、米軍の安定的な駐留にはつながらない。
 米国では近年、多数のミサイルを有する中国と近接する沖縄に米軍が集中して駐留することへの疑問も浮上している。新基地の完成を見込む十数年後の日本周辺情勢は不透明であり、その時点で軍事的に有用かも疑わしい。
 辺野古への県内「移設」は沖縄県民にさらなる基地負担を強いる理不尽であり、日本政府が30年近く前の構想を「唯一の選択肢」と位置付けて固執するのは思考停止にほかならない。

▽徳島新聞「辺野古工事着手 民意無視の強行 許し難い」

※追記 2024年1月16日20時50分
 熊本日日新聞が1月16日付の社説で取り上げました。一覧に追記しました。