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組織ジャーナリズムに身を置き40年余

「不公平で矛盾した運営」(信濃毎日新聞)、「『中止』排除してはならない」(高知新聞)~開幕まで3週間、東京五輪の「今」 ※追記 熱海で土石流・20人不明

 東京五輪は7月23日の開幕まで3週間を切りました。なのに、観客数をどうするかも決められず、一方では東京の新型コロナウイルスの感染状況はリバウンドし、感染者は増加の一途です。この「東京五輪の今」の状況を、長野県を発行エリアにする信濃毎日新聞が7月3日付の社説で端的にまとめています。

※信濃毎日新聞「コロナ禍の五輪 安全安心は遠のくばかり」=2021年7月3日
 https://www.shinmai.co.jp/news/article/CNTS2021070300127

 感染抑止を優先するほど、選手や観客、報道関係者らにとり、不公平で矛盾した面をはらむ大会運営にならざるを得ない。
 (中略)
 観客を入れての開催にこだわる菅義偉政権や大会組織委員会の意向が、開幕まで3週間になっても方針が定まらない事態を招いている。相反するケースを想定して準備を急ぐ現場の労苦に、少しは思いを巡らしてはどうか。

 具体的に以下のような点を指摘しています。

 菅政権は、海外選手団の事前合宿を受け入れる自治体向けのコロナ対策の指針を、6月末になって慌ただしく改定した。

 事前合宿は中止が相次ぐ。海外の選手たちは時差や暑さに慣れる日数が限られ、十分な調整もできない。競技関係者から「不公平だらけだ」との声が漏れる。

 濃厚接触者と判定された選手の出場を認めるか否かは「調整中」という。仮に認めれば、無観客になっても、選手間の感染リスクは拭えなくなる。

 米国の有力紙など12社は、記者の行動制限に抗議する書簡を組織委と国際オリンピック委員会に送付した。「自由な報道を脅かす危険な前例となる」とのもっともな訴えも、感染抑止とは並び立たない。この状況で五輪を開く無理を端的に示している。

 米メディアの抗議は朝日新聞が詳しく報じています。
※朝日新聞デジタル「『取材規制は五輪憲章違反』 米メディアが組織委に抗議」=2021年7月2日
 https://www.asahi.com/articles/ASP7225L9P72UHBI003.html

 書簡は、組織委がGPSで記者の行動を追跡するとしているものの、データがどのように集められ、保管されるのかが明らかにされていないと指摘。インストールを求められているスマートフォンアプリについても「機微に触れる個人情報が多く集められるが、どのように使われ、管理されるのか不明」とした。
 また、観客への取材が禁止されることや、新型コロナウイルスのワクチン接種を受け、マスクを着けても外出について規制を受けることなども問題視。「多くは、海外の記者だけを対象とし、観客や地元の記者の移動が自由に認められているにもかかわらず、変更されていない」と訴えた。

 五輪の取材・報道とは、競技場の中だけのことではありません。東京五輪に対しては日本社会の世論の圧倒多数(8割~9割)が新型コロナウイルスの感染拡大に不安を感じています。その中で開催が強行されることに、日本社会に住む人たちはどんな思いでいるのか。それを世界に伝えるのもマスメディアの仕事です。日本メディアも、海外で開催された五輪ではそうしてきました。「開催ありき」のゆがみが、ここにも出ています。
 もともと、新型コロナウイルスの感染拡大以前から、酷暑の時期の五輪開催には疑問の声が強くあり、マラソンの開催地は東京から札幌に慌ただしく変更されました。
 またこの時期は近年、日本各地で大きな災害が起きており、ことしも3日、豪雨に見舞われた静岡県熱海市で土石流が発生し、約20人の方が安否不明と伝えられています。

 7月3日付の新聞各紙の社説では、高知新聞が「無観客をためらってはならない」とした上で、「コロナの状況次第では、中止という選択肢があることを排除してはならない」と主張しているのが目を引きました。同感です。

※高知新聞「【東京五輪】無観客で感染を抑えよ」=2021年7月3日
 https://www.kochinews.co.jp/article/468759/

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 開幕まで1カ月の6月23日付以降に新聞各紙が掲載した東京五輪関連の社説・論説のうち、各紙のサイトで読めるものを以下の記事にまとめています。 

news-worker.hatenablog.com

 

※追記 2021年7月4日16時

 7月4日付の東京発行各紙の1面です。一人でも多くの方が救出されることを願っています。

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