ニュース・ワーカー2

組織ジャーナリズムに身を置き40年余

2023-01-01から1年間の記事一覧

「わが国」や「国益」から距離を保つ~新人記者の皆さんへ(その3)

新人記者の皆さんに読んでほしいと思い、前回と前々回の2回の記事を書きました。「社会の信頼」や「民意を知る」とのテーマは、記者の仕事に就いたばかりの皆さんには、ちょっと大きな、言葉を換えれば、例えば警察回りのような日々のルーチンの仕事からは…

民意を知り、市民の期待に応える~新人記者の皆さんへ(その2)

一つ前の記事の続きです。 通信社の組織ジャーナリズムの上でも、メディア界の労働組合運動の上でも大先輩であった故原寿雄さんからは、さまざまなことを教わりました。そのうちの一つに、絶望するな、悲観するな、ということがありました。わたしが新聞労連…

「表現の自由」「報道の自由」と「社会の信頼」~新人記者の皆さんへ

今年も新聞社や通信社に新人記者が加わりました。配属先も決まって研修を受け、そろそろ実務に入ろうか、という人もいるのではないでしょうか。わたし自身はこの春で、マスメディアでジャーナリズムの仕事をしてきて40年になりました。現役の時間はとうに…

新聞各紙の報道を比較することで分かること

首都圏の大学で非常勤講師として受け持っている「文章作法」の授業は2年目に入りました。1年目後期の最後の授業は1月末でした。それから2カ月余り。ことし最初の授業で久しぶりに訪ねたキャンパスは、イチョウ並木の新緑が目に鮮やかでした。ことしは桜…

朝日新聞は500円の値上げを公表~高齢読者層へのサービス強化が意味すること

朝日新聞は4月5日(水)付の1面に、新聞の購読料を5月1日から値上げするとの社告を掲載しました。朝刊、夕刊セットの月ぎめ購読料を、現在の4400円から500円値上げして4900円にします。1部売りは朝刊180円(現行160円)、夕刊70円…

没になった原稿の公表と著作者人格権~新聞記者の働き方と著作権 その2

前回の記事に続いて、新聞記者、企業内記者と著作権についてです。 朝日新聞社が厳重抗議を表明している元社員が出版した書籍を取り急ぎ、読んでみました。「悪党 潜入300日 ドバイ・ガーシー一味」(講談社+α新書、伊藤喜之氏著)です。この中に、著者が在職…

新聞記者の働き方と著作権~朝日新聞社の元自社特派員への抗議を契機に考える

朝日新聞社が3月28日、自社サイトに1通の広報文を掲載しました。自社の海外特派員だった元社員が出版した書籍に対して、元社員と出版元に厳重抗議し、相応の対応を求める書面を送付した、との内容です。「本社が著作権を有する原稿や退職者による在職中…

「値上げしません」読売新聞が異例の社告~組織ジャーナリズムと商業主義の限界

日がたってしまいましたが、少なからず驚く出来事であり、記録と備忘の意味も兼ねて書きとめておきます。 読売新聞は3月25日(土曜日)付の朝刊1面と2面に、新聞の購読料を値上げしないとの社告を掲載しました。少なくとも1年間とのことです。手元で確…

「政治的公平」は番組全体で判断と総務省が確認~高市氏への忖度みられず

一つ前の記事の続きです。メディアで明快な報道が見当たらなかったのですが、放送法の「政治的公平」の解釈を巡って、総務省が重要な答弁を行っていました。政治的に公平かどうか、単独の番組の内容だけで判断することもある、との総務相当時の高市早苗氏の…

放送法「政治的公平」の新解釈 民意も疑問視が多数~高市氏「捏造」主張に「納得できない」62%(朝日新聞調査)

3月18日~19日の週末に実施された世論調査の結果が報じられました。放送法の「政治的公平」の解釈を巡る総務省の行政文書についても、いくつかの設問が含まれています。国会の審議を通じて、この文書が捏造でないことが総務省によって明らかにされた一…

備忘メモ:用紙代の値上げによる新聞社の負担増の規模感

会員制の月刊誌「選択」の3月号に「新聞界が絶望する紙価格『暴騰』~読売新聞が狙う業界再編『焦土作戦』」というタイトルの記事が掲載されています。新聞社は「新聞」という印刷物の商品を製造、販売しているメーカーの側面があります。用紙を始め原料価…

追悼 大江健三郎さん~平和、護憲、反核、脱原発の視点、視線を共有する

ノーベル文学賞を受賞した作家の大江健三郎さんが3月3日、死去されていたことが報じられました。享年88歳。わたしにとって大江さんは、作品になじんだ作家と言うよりは、平和、護憲、反核、脱原発など、同じ方向を見ていた同時代の羅針盤のような存在で…

行政文書の「記録」と高市元総務相の「記憶」~放送法の解釈レク「あった可能性高い」と総務省局長

このブログの以前の記事でも触れた放送法の「政治的公平」の解釈を巡る総務省の行政文書について、3月13日の参院予算委員会で、興味深いやり取りがありました。この文書が明らかになって以来、文書作成当時に総務相だった高市早苗氏は文書に記録された解…

焦土を軍服の天皇が視察、終戦までさらに5カ月~東京大空襲から78年の教訓

第2次世界大戦末期の1945年3月10日未明、東京の下町地区は米軍B29爆撃機の大編隊による空襲を受けました。大量の焼夷弾の投下で木造家屋の密集地帯は焼き尽くされ、一夜で10万人以上が犠牲になったとされます。以後、米軍は日本中の主要都市の…

放送法「政治的公平」の新解釈は、特定番組を念頭に置いた「表現の自由」への攻撃~総務省行政文書が「捏造」なら責任を問われるのは高市元総務相自身

放送の表現の自由の根幹を巡る総務省の内部文書が明らかになりました。 2015年5月12日の参議院総務委員会で、当時の高市早苗総務相が自民党議員の質問に答える形で、放送法が定める放送の政治的公平性について、「一つの番組でも、極端な場合は政治的…

「オフレコ取材」と「オフレコ破り」自体の報道が少ない~「約束は守るべき」の原則論だけで理解を得られるか

一つ前の記事の関連です。 荒井勝喜元首相秘書官の同性婚を巡る差別発言は、発言自体のひどさとは別に、マスメディアの政治報道の観点からは「オフレコ取材」のありようを考えさせる出来事でした。「オフレコ」とは「オフ・ザ・レコード」のこと。「記録にと…

同性婚の法整備、世論は肯定が多数~民意から乖離しているのは秘書官だけか

少し前のことになりますが、荒井勝喜首相秘書官(当時)が2月3日、報道陣とのオフレコ懇談で、性的マイノリティや同性婚に関連して「秘書官室は全員反対で、私の身の回りも反対だ」「隣に住んでいたら嫌だ。見るのも嫌だ。人権は尊重しますけどね」(共同…

反戦の声を上げること、反戦の声を報じることの意味~ロシアのウクライナ侵攻1年、在京紙の報道の記録

ロシアがウクライナに侵攻してから2月24日で1年となりました。戦火はやまず、ウクライナ市民の犠牲も、両軍兵士の犠牲も増え続けています。どうしたら、この戦争を終わらせることができるのか。日本の国家として、あるいは市民として、何かできることは…

戦争に「絶対的な勝者」はいないことを問い続けた作品群~追悼 松本零士さん

漫画家の松本零士さんの訃報が2月20日、伝えられました。2月13日に急性心不全で死去されたとのことです。享年85歳。謹んで哀悼の意を表します。 「銀河鉄道999」に「宇宙戦艦ヤマト」、さらに挙げるなら「宇宙海賊キャプテンハーロック」。21日…

財源だけではない、岸田軍拡そのものに懐疑と否定的見方が広がっている~1月の世論調査の結果から

一つ前の記事の続きになります。岸田文雄政権が進めようとしている軍拡=大幅な軍事費増に対して、現在、民意がどう受け止めているかを、1月にマスメディア各社が実施した世論調査の結果から読み解いてみました。結論から言えば、軍拡を支持する人の割合も…

軍事費大幅増の賛否逆転、増税は反対が圧倒~岸田軍拡への民意の評価は変わり始めている

今年に入って実施されたNHKと読売新聞の2件の世論調査の結果が報じられています。岸田文雄政権が表明した軍事費の大幅増に対して、読売新聞の調査では賛成43%、反対49%と、反対が賛成を6ポイント上回りました。 ■読売新聞 1月13~15日実施・…

「地域」に立脚した確固とした視点~ブロック紙・地方紙39紙の年頭の社説、論説を読む

非常勤講師を務める大学で先日、今年最初の授業がありました。手元にあった東京発行の新聞各紙の元日付け紙面を教室に持ち込み、それぞれの特徴などを解説しました。ロシアのウクライナ侵攻が続く中での新年であり、各紙の紙面を通じたキーワードが「戦争」…

「戦争」「平和」「民主主義」~在京各紙の元日付紙面

近年、東京発行の新聞各紙の元日付朝刊1面トップには、その1年を展望する大きなテーマを取り上げた企画記事の初回を据える傾向が定着しています。ことしも各紙(朝日、毎日、読売、日経、産経、東京6紙)のうち、読売以外の5紙は企画記事でした。ロシアによ…

「ニュース離れ」と組織ジャーナリズムの持続可能性

新しい年、2023年になりました。 昨年、英国のロイタージャーナリズム研究所が公表した「デジタルニュースリポート2022」が、ニュースそのものに触れることを意図的に避けようとする人たちが世界的に増加しているとの分析を示し、メディア関係者の間…